12 幼なじみの本心
夷隅ミオ
イツキの幼なじみで恋人。
家が隣同士で子供の頃から一緒。
そんな、ありきたりの昔なじみだった。
付き合うようになったのは小学校の頃。
といっても、恋人といえるのかどうか悩ましい。
何せ、いつも一緒だったから、
「ミオと結婚する!」
「私も!」
というような事を常に言い合っていたというだけだ。
それでも、何となく一緒にいて、何となく同じ行動をとっていた。
小学校の低学年くらいまでは。
だが、年齢が上がると共に男女の違いも出て来る。
小学校に通って交友範囲と共に見聞も拡がる。
そうでなくても情報化社会である。
外には否応なく目を向けるようになる。
子供の頃は同じ年頃の存在が他にいなかった。
少子化の影響で、隣近所で同年代はお互いに相手だけ。
イツキにはミオしかいなかったし。
ミオにもイツキしかいなかった
そんな状況だったから、他に目がいかなかった。
目を向ける、比べるような相手もいなかった。
だが、学校に通えば近隣の子供も集まってくる。
大勢の人間の中に入る。
当然、様々な人間がいる事を知るようになる。
嫌でも様々な人間比べてしまう。
そうなるとミオも悟っていく。
イツキはたった一人の男ではないと。
大勢の中では凡庸な一人でしかないと。
むしろ、凡庸すら下回る劣等生の類いなのではないかと。
そうなるとミオの中の熱は急速に下がっていった。
まして、子供が求めるものは分かりやすい力だ。
体力が優れてる者に目がいく。
足が速い者がもてはやされる。
それ以上に喧嘩が強い乱暴者が好かれる。
あとは顔が良い事。
ミオもこうしたものを求める、普通の女子だった。
そんなミオは、他より見た目が優れてるという利点があった。
少なくとも学年の中では一番を争えるくらいに。
場合によっては学校の中で上位に並ぶくらいに。
当然、回りは評価する。
女子の中の序列で上位に位置する。
男子ももてはやす。
となれば自然と考える。
上位にいる自分と、イツキが付き合ってる意味はあるのか?
小学校の低学年を終える頃にはこう考えるようになり。
だんだんと愚痴を振りまくようになる。
「イツキとは友達だから」
「ずっと一緒だったから」
「一緒にいてあげないと」
気を使ってるように聞こえるこれらの言葉。
しかし、相手に合わせてあげる、自分が妥協してあげてるという意味の言葉を連ねていくようになった。
ある程度意識して。
段々と遠ざけるように画策していく。
自分は悪くない、ただ仕方ないだけという位置を保ちながら。
そうしていれば、周りが勝手に意をくみ取って、勝手に動いてくれる。
何かあっても言い逃れる事が出来る。
「そんな事知らない!」と。
かくてミオは少しずつイツキとの距離をとり。
イツキは周りからの嫌悪を受けるようになっていった。
それは最終的に暴行にまで発展していく。
小学校も終わりに近付く頃には、なにがしかの暴行を受けるようになっていった。
袋だたきにされて血まみれになった事もある。
文房具などが隠されるのは当たり前。
連絡を回さないなども頻繁に起こった。
もちろん、教師がこの状況を修正する事もない。
むしろ、生徒達の言う事を真に受けて、イツキが問題だと考える始末。
調査もろくに行わなかった。
そんな手間をかけるのも面倒だったから。
そもそもとして教師の仕事ではない。
教師は学問を教えるのが仕事で、治安を保つものではないのだから。
そんなわけでイツキは周囲から孤立していき。
悲惨な状況で生きていく事になった。
そんな中でもミオはイツキとの付き合いを保っていった。
縁を切る事は簡単だった。
だが、下手をすると、「付き合ってる相手を簡単に捨てる薄情者」と言われかねない。
そうならないように、ミオは時期をうかがっていた。
イツキを捨てる絶好の機会を。
そうしてる間にも、イツキの知らない所で人生を楽しんでいった。
友達と遊びに行くという名目で、男子と絡んでいったり。
小学校の時点で中学や高校の先輩などの所に押しかける事もあった。
部活などの試合の応援などで年上の男子に近付く場所はいくらでもある。
友達の兄とか、習いごとの知り合い、塾で出会ったなど、良さそうな男子とのり合う場は多い。
これらの伝手をつたって、ミオは様々な所に出入りした。
そうして知り合った男子に、自分の身の上を話す事もあった
自ら語らなくても、周りの友達が口にする事もあった。
「でもねえ、ミオったら可哀相なんだよ」
そういって自動的にミオを悲劇のヒロインにしてくれる。
身の回りの話をされるのは腹が立ったが。
口にしてる女子は、「この娘、こんなダメ女なんだよ」と貶してるつもりなのだから手に負えない。
だが、そうして語ってる本人の思惑と裏腹に、男子は同情をしてくれる。
ついでに、口の軽い女への評価を下げていく。
一石二鳥なので、止める事はなかった。
「ええ、まあ」と曖昧な笑みを浮かべて、困った顔をしておき、更に同情を買うよう努めていくだけだ。
そうして更に中学高校と近隣の少年達の嫌悪感をイツキに向けさせて。
ミオは己が自由になる瞬間を狙い続けた。
そんな調子で中学校に進学し。
そこでミオは運命的な出会いを果たす。
あくまでミオからの一方的な感想だが。
しかし、彼女は制服で身を包む世界で、理想的な男子に出会った。
なにせ、顔が良くて、体型もスラッとしていて。
運動も勉強も高い水準でこなす事が出来て。
正確は朗らか、明るく元気。
といって体育会系の押しつけがましさもなく。
物腰柔らかというか紳士的。
理想的な優等生といったタイプの男子だ。
その男子と入学からイツキの居ないところで接触し。
関係を少しずつ深めていった。
イツキについては、分かれるには付き合いが長すぎると困った顔で伝えた。
実際、その通りなので嘘ではない。
だから信憑性が増していく。
そんなミオを相手の男子は哀れに思った。
同情から接触する機会を増やしていった。
もちろん、年頃の男子の持つ性欲もあったが。
そういった事はおくびにも出さず、出してもそれを恥じらうような態度を示していった。
決して下心だけではありませんよと見せるために。
そんな二人は学校外での付き合いを深め。
中学一年が終わる前にはキスも済ませた。
いずれより深い関係にもなれただろう。
そうなる事をミオも優等生の男子も望んでいた。
ただ、そんな機会が来る前に地球が目覚めた。
周りの人間が怪物になっていった。
平穏が続いていれば、そろそろ体すら重ねていただろう。
しかし二人は、その時期を幾らか遅らせる羽目になってしまった。
とはいえ、遅れただけで無くなったわけではない。
むしろ、この困難を通して二人はより深い関係に陥っていく。
そんな未来をイツキは見る事になった。
衝撃は大きかったが、それ以上に「なるほど」という思いの方が強かった。
少なくとも、知らない方が良いとは思わない。
知らなくて良い事など何もない。
知らねば適切な対応がとれない。
だから、どんな辛い事でも知っておくべきである。
知らなくて良い、知らない方が良い事もあるというのは、悪さを隠したい者の邪な思いから出てくる言葉だとも。
なのでイツキは真相が知れて良かったと心から思えた。
これでこれ以上騙される事もない。
喜んでミオを切り捨てる事が出来る。
その為の道も求めていく。
「さて、どうしたらいい?」
目覚めた己の能力に問いかける。
最適最善の結果へ至る道は何かと。
窓から見える明るい空。
オーロラの舞う夜空。
禍々しいその光りを横たわって見上げながら、イツキの頭に最適解が浮かびあがる。
それを頭の中で見つめながら夜は更けていった。
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