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木蓮の花咲く頃5

「千屋?」 

「……フットサル」

「は? お前、フットサルごときで俺を売ったのか」

「フットサルごときとはなんだよ! 大事な試合だったんだよ。だけど急に1人怪我でダメになって、そのときに薬井に助っ人お願いしただけだ!」


 人を売っておいて、お願いしただけはないだろう。そう思って軽く睨みつけると肩をすくめていた。

 こいつがサッカー馬鹿で休みの日にフットサルをしているのは知っている。でも、俺を紹介する対価がフットサルとは……。

 こいつに言ったところで言うだけ無駄なのはわかってはいるけれど、呆れる。

 まぁ、パーティーには出なくてはいけなかったからそれはいいにしても、知らない人と会うのは神経がすり減るというのに。

 宮瀬監督はまだいい。今後、仕事をすることになるのだから、神経がすり減ろうと会わなくてはいけなかった。

 でも、この件に関しては違うだろう。いくら今度表紙をお願いするにしても会う必要はあったのだろうか。これは後で何か見返りを要求しても罰はあたらないだろう。


「あの、千屋さんが悪いんじゃないですよ。俺がどうしても都谷先生にお会いしたかったから。俺、いつか先生の本にイラスト描けたらなって思ってて。で、今度描かせて貰えることになって。あ、俺の絵みたことない、あ、見て頂けたんでしたっけ?」

「見させて頂きましたよ、画集。それに長生先生の表紙も見させて頂きました。いいと思いましたよ」

 

 そう言うと、花が咲いたようにパーっと笑顔が顔中に広がる。誇張でもなく、ほんとに花が咲くように笑った。目尻に皺を作りながら笑うその姿がいいなと思う。魅力的な笑顔でつい魅入ってしまう。


「わぁ、めちゃ嬉しいです。どうですか? 描かせて貰ってもいいですか?」

「出版社側がいいのであれば、俺は構わないので」

「千屋さん、ほんとに描かせて貰ってもいいの?」

「都谷が良ければこっちはいいよ。最初からその気だし」

「ほんと? ありがとう、千屋さん」


 随分と軽く決められてるような気がしないでもないけれど、別に表紙絵に特に拘りがあるわけではないし、あの絵が描ける画家なら失敗はないような気はする。

 まぁ相手はそんな軽い気持ちでないのはわかってはいるけれど、世の中熱量が違うのなんてよくある話しだ。

 

「先生。いい表紙が描けるように頑張るのでよろしくお願いします」


 そう言うとぺこりと頭を下げる。そういった動きからもほんとに俺の表紙絵が描けることを喜んでいることがわかる。

 俺も千屋もそこまで難しく考えているわけでもないので、そこまで喜ばれるとなんだか逆に申し訳ない気がする。

 会ったら帰ろうと思っていたけれど、気がついたら俺のどの作品が好きか、どんなところが好きかという話しをずっと聞いてパーティーは終わりを迎えた。


 俺と薬井と出会ったのは、窓の外に満開の木蓮が咲いていた季節だった。


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