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はじまりの季節3

 一週間後。

 俺はまた同じ喫茶店で千屋と顔を合わせていた。書いていた原稿を渡す目的だが、打診を受けていたドラマ化の返事をするためでもある。


「ドラマ化、お願いするよ」

「その気になってくれたか! 監督は宮瀬監督にお願いしてある。宮瀬監督は知っているだろう?」

「面識はないけど、宮瀬監督のドラマは観させて貰ったことはあるよ」

「そうか。今度のパーティーにも招待しているから、そのときに挨拶でもしてくれ」

「わかった。ただ、ひとつ条件をつけてもいいか?」

「なんだ?」

「脚本を書かせて欲しい」

「お前自らが書くと言うのか」

「あぁ」

「そんな時間あるのか?」


 ありがたいことにコンスタントに本を出させて貰っているので、ひとつ締め切りが終わってもすぐに次の原稿に取りかかることもあるし、原稿以外にもゲラが来たりもする。なので、なかなかに忙しい。それなのに脚本を書くというのは大変だろうとは思う。思うけれど作品を壊されたくない、という思いが強かった。


「時間なんていつもないよ。ドラマは完全に原作の通りに作るわけじゃないのはわかっているけど、雰囲気を壊されたくないんだ」

「脚本家はまだ本決まりじゃないから大丈夫だと思うけど、お前脚本なんて書いたことないだろ」

「ないけど……」

「じゃあ、お前に書いて貰うけれど、こちらでチェックはさせて貰う。それでいいなら話しを通しておくけど」

「あぁ。チェックはしてくれ」

「わかった。そのうちチームでの打ち合わせがあるから、そのときは出席してくれ。人見知りなんて言うなよ」

「言わないよ」

「話しは変わるけど、この間の画集見たか?」


 そう話しを振られて、ドキリとする。それと同時にあの青い空と青い海の絵が脳裏に浮かぶ。あの絵は、あのあとも折に触れて開いている。心を鷲づかみにされた作品だ。


「見たよ。それに長生先生の本の表紙も見た」

「どうだ。なかなかいいだろ」

「本の表紙は画集のような絵とは違うけど、なかなか良かった。それに長生先生の本も見てイケると思ったよ」

「良かった。今、売れっ子の画家なんだぜ」


 売れっ子か。そう聞いても納得の絵だった。


「お前の本の表紙の他にも表紙を描いて貰うつもりでいる。でもその傍ら、作曲なんかもするんだよ。ほんとに才能の塊みたいな男だ」


 そう聞いて、そう言えば先日会ったときにマルチな才能を持っていると言っていたが、作曲までするのか。


「作曲は学生の頃から知り合いのバンドの曲を作ってたんだよ。それがまさか売れっ子の画家になるとは思わなかったよ。絵を描いているのは知ってたけどな」


 さすが大学時代からの知り合いだけあってよく知っている。

 そんな男と会うのは見知らぬ人間だから怖さもあるけれど、どんな男なのだろうかと少し楽しみにもなった。


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