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紫陽花の季節に5

――薔薇園

――ステーキハウス

――カフェ


 そして紫陽花デートへと続けて誘った。それも短期間に。最も紫陽花デートはカフェで約束を取り付けてから実際に行けるようになるには少し時間がかかった。それは雨のせい。

 いや、雨の中のデートも悪くはない。けれど、ある一点が俺の足を止めた。


 それは傘。


 カップルならば相合い傘ができる(相手が許してくれればだけど)。でも、今の俺たちは俺の一方的な片想いだ。相合い傘なんて提案さえできない。となると、傘で先生の顔が見られなくなる。せっかくのデートなのに顔が見られないなんて嬉しくもないし楽しくもない。だから晴れ間を待った。

 子供のようにてるてる坊主を作ってベランダに吊るして、信じてもいない神様に晴れ間を願った。そして週間予報で晴れのマークを見つけたときは速攻で先生に連絡して約束を取り付けた。

 約束をしたその日。俺が神様に半ば呪いにも近いことを言ったからか、雨が止むだけで泣くほんとに久々の快晴だった。


「突き抜けるような青空ですね」


 そう言って目をキラキラとさせる先生は、今にも走り出しそうな子供のようでいつもの綺麗さから一転、とても可愛かった。

 今日はきちんと持って来た一眼レフで、先生の後ろ姿にシャッターを切る。

 こんな先生の絵を描いてみたい。

 先生と花というのは相性がいいらしい。それはきっと先生が綺麗な顔立ちをしているからだと思う。

 そんなことをボーッと考えていると、先生が俺の顔を覗き込んでいた。


「ボーッとしてどうしたんですか?」

「え……あ、いや、綺麗だなと見蕩れてました」

「は? 俺、男ですよ? 男の俺が綺麗とかないでしょう」


 先生は自分が綺麗だとは認識していない。それどころか自分の容姿がいいことさえも気づいていないだろう。


「それより、薬井さんには今どんな色が見えてますか?」


 そういえば以前、見えている世界を絵にして欲しいと言われていたなと思い出す。


「あぁ。でも今日、色鉛筆もなにも持って来てないですね」


 俺がそう言うと先生はいたずらっ子のような笑みを浮かべてカバンの中から12色入りの色鉛筆とノートを取り出した。今日はカバンが大きめだなと思ったのはそれが入っていたかららしい。


「忘れているかと思って持って来ました」


 なんてドヤ顔でいう先生はほんとに子供のように可愛くて、景色なんかよりも俺に見えている先生を描きたいと思ってしまう。もっともそんなことを言ったって描かせてはくれないだろうけれど。


「ゆっくりと描く時間はないから、きちんとは描けませんよ?」

「ええ。どんな色の世界が見えているのかがわかればいいだけですから、それはかまいかせん」

「ほんとに適当ですからね」


 そして近くにあった岩のような石に座ってサラサラと描き始める。


「近くを見てきますね」


 きっと、じっとしていられないのだろう。子供のように、今にも走り出すんじゃないのかと思うほどに足取りも軽やかにどこかへと行った。今日の先生は目をキラキラとさせて、幼さを感じさせて可愛い。

 空の青の下、咲き誇る紫陽花と先生の後ろ姿。紫陽花まではいいけれど、先生を入れたらなにか言われそうだけど入れさせて欲しい。

 サラっとデッサン程度に留め、しっかりと描くことはやめて、色を乗せることに集中する。

 先生が見たいのは、しっかりとした絵ではなく俺の目にどんな色が見えているのかということだから色に集中してもいいはずだ。

 空の色。紫陽花の色。そして後ろ姿の先生。

 12色の色鉛筆では色がさすがに足りないけれど、色と色を重ねることで俺に見えている世界の色にかなり近いところまでは持っていった。


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