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花雨の中3

「でも偶然ですよね。あんなところで会うなんて。桜が咲いてたから会えたんですよね。桜の精が会わせてくれたのかなぁ。急に思い立って夜桜見に来たけど来て良かった」


 薬井さんがロマンティックなことを言う。でも、確かにすごい偶然だと思う。俺は原稿に詰まらなければこんな時間に桜を見に来ようなんて思わなかったし、薬井さんが隣の市からわざわざ来なければ会うことはなかった。それは思う。思うけれど、桜の精とは思わなかった。


「あ、そこのT字路の右側で」


 車が止まったところで俺は車を降りる。

 

「夜遅いのにありがとうございました」

「いいえ。じゃあ写真現像出来たら連絡しますね。原稿頑張って下さい。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 そう言って薬井さんの車が見えなくなるまで見送り俺はマンションに入った。

 気分転換に夜桜を見に行った公園で薬井さんに会うとは思わなかった。

 出版社のパーティーで千屋に紹介されたときはお互いどこに住んでいるかなんて知らなかった。まさか隣の市に住んでいるなんて思いもしなかった。隣の市と言っても、あの公園に夜行ったくらいだからここに近い方なのかもしれない。

 連絡先交換しちゃったななんて思う。交換したって俺からはメッセージを送ったり電話をしたりはできない。人見知りで打ち解けるまでに時間のかかる俺ではそれは難しいことだ。でも、あの人見知りを一切しなさそうな薬井さんからはあるかなと思う。

 ひとつ連絡先が増えたスマホをポケットから出し、一枚撮った桜の写真を見る。

 そこには暗闇の中に桜の花の薄ピンクだけがあって、お世辞にも綺麗とは言えない。そう言えば、元々写真が苦手なのを思い出した。それでも昼間ならまだなんとかなるが、さすがに夜は厳しかったか。薬井さんが現像してくれると言ってくれて良かった。

 金髪のツーブロック。薄い色の丸いレンズのサングラス。どう見たって怖く見えるけれど、話してみると優しい人なんだろうなと感じる。でなければ写真を現像してくれると言ったり、わざわざマンションまで送ってくれたりはしないだろう。それにしてもあの風貌で桜の精というのには驚いた。意外とロマンティックなんだなと思うと、つい口元が緩む。千屋は面白い男を紹介してくれたな。

 と、そんなことを考えている暇があったら原稿を書かなければ。夜桜を見に行ったのは気分転換であり、これで原稿が終わりということではない。

 スマホを机の上に置いて原稿に向かうが、先ほど見て来た夜桜がチラつく。綺麗に撮れていたのなら自分で撮った写真をパソコンに転送するけれど、とてもじゃないけど何回も見直したくなる写真ではない。薬井さんに現像を頼んで良かったけれど、データも欲しかったなと思う。それは少々甘えすぎだろうと自分にツッコミを入れる。現像、早くできないかな。原稿に向かいながらそんなことを考えた。


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