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花雨の中2

「都谷先生、ですよね?」


 声のする方へ顔を向けると、そこには金髪で薄いブルーのサングラスをした男がいた。誰だ? 夜にサングラス? それが怖くて後ずさると、そう思ったことに気づかれたのかサングラスを外す。そこで現れた顔はこの間パーティーで紹介された薬井さんだった。


「こんばんは。驚かせてしまってすいません。でも、こんなところで先生にお会いできるとは思いませんでした」


 それはこっちのセリフだ。なんでこんなところで会うのだろうか。


「先生はこの辺に住まわれているんですか?」

「ええ、まぁ」

「そうなんですね。僕は隣の市に住んでいるんですが、桜が綺麗だと言うのでそろそろ桜の時期も終わるから夜桜を見に来たんです。綺麗ですよね」

「ええ」


 ふと薬井さんの手元を見ると一眼レフを手に持っていた。


「写真ですか?」

「はい。写真は単純に後で見返すこともできるし、後から絵にするときに見ることもできるし。なので出かけるときはカメラを持っていることが多いんです。って、単に写真が好きなんですけどね」

「今日はもう撮ったんですか?」

「ええ。奥の方で数枚」

「絵を描く方だからスケッチをするのかと思ってました」

「スケッチもしますよ。でも、結構写真に撮って、それを見ながら思いだして絵にすることもします。スケッチって時間かかるし」


 言われてみれば確かにそうだ。スケッチには時間がかかるだろうし、こんな暗いところではスケッチはできない。

 しかし、絵を描く人は写真も好きなのだろうか。よくわからないけれど共通するところもあるのだろうか。


「先生は気分転換ですか?」

「ええ。締め切り近いのに全然進まなくて。だから気分転換に桜でも見ようかと思って。最近は家に籠もってたから桜を見ていなかったので」

「そうか。それでこんな風に会えるなんてラッキーだな。遠出してきて良かった。でも、先生が忙しいとなるとそれだけ読むものがあるってことですよね。早く読みたいな。今はなにを書いてるんですか?」

「今はアンソロジーです。ミステリーのアンソロジー」

「アンソロジーか。他にどんな先生が書くんですか?」

「長生先生も書かれますよ。千屋の勤めてる出版社から出ます」

「そうなんですね。楽しみがひとつ増えたな。ありがとうございます。頑張って下さい」

「ありがとうございます」


 薬井さんはにこにことこちらを見ているけれど、人見知りの俺は一度会っただけの人となにを話したらいいのかわからなくて黙ってしまう。

 人好きしそうなこの人にはそう言ったことはないのだろうか。この人は人見知りもしないみたいだし。


「先生、まだ見てますか?」


 ふいにそう声をかけられてスマホで時間を確認すると、結構ここにいたみたいだ。最後に桜でも撮ってから帰ろうか。最近のスマホは夜景も綺麗に撮れるらしいし。

 

「良かったら写真現像しましょうか?」

「え?」

「素人なんでそんなに上手く撮れてはいないと思うけど、一眼レフだからスマホよりは綺麗かなって」

「いいんですか?」

「はい」


 確かにいくらスマホのカメラ性能が良くなっても一眼レフには敵わない。


「じゃあ先生の連絡先教えて下さい。現像しておきます」


 そう言ってスマホを出してくるのでメッセージアプリで連絡先を交換する。


「現像が出来たら連絡しますね。先生がお忙しいなら住所を教えて頂ければ送りますし」

「ありがとうございます」

「もう帰るなら送りますよ」

「え、いや、迷惑だし。それに近いので」

「迷惑なんかじゃないです。ほら、もう夜も遅いし。行きましょう」


 薬井さんは急かすようにそう言うと、にっこりと笑ってから俺に背を向けて歩き出す。

 どうしたらいいのかわからなくて少しの間そこに突っ立っていると、薬井さんは俺を振り返る。


「ほら、行きましょう先生」


 念押しで言われると断ることもできずに薬井さんの後をついて歩きだした。


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