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後編

登場人物の名前ですが、

裂けるグミ&なが~い裂けるグミ ロング ロングマン のTVCMから取りました。

あのCM面白かった。

 征悦(ゆきよし)は思わぬ場所で自分の名前を呼ばれ、立ち止まったが、振り返れなかった。「征悦(ゆきよし)兄さん! 」と呼ぶのは、妹の知里子である。たまたま知り合いに声を掛けられた、などというのとは違う。

 家族と会社を捨てて逃げ出したのだ。会わせる顔がない。しかし、走って逃げてしまえば、もう二度と家族に会えなくなるだろう。どうしたものやら迷い、冷や汗が出て来た。


 征悦(ゆきよし)が固まっている間に知里子(ちりこ)が追い着いて、後ろから肩を叩かれた。(とおる)も荷物を持ちながらも走って征悦(ゆきよし)の前に回り込んだ。逃げられない。


征悦(ゆきよし)は「誰だろう? 」と(とおる)一瞥(いちべつ)し、引きつった顔で振り返る。征悦が言葉を発する前に知里子が腕を掴んだ。


「やっぱり! 兄さん。まさかこんな所で会うなんて! 今は広島に住んでるの? 今までどうしてたの? 」

「や、やあ。知里子。元気だったか? 」


征悦にはこう応えるのがせいいっぱいだった。顔は引きつったまま。


「元気だったか、じゃないわよ。どうして急にいなくなっちゃったのよ? あの後大変だったのよ。母さんや風間さんがどんなに苦労したか。」

「あ、いや、そんなに一遍に訊かれてもなあ。」


征悦はたじたじだ。徹が止めに入った。


「チーちゃん、ちょっと落ち着こう。喫茶店にでも行こう。落ち着いて話そうよ。」


知里子はしっかりと征悦の腕を掴んだまま、徹の後を歩き、征悦はリードを引っ張られた飼い犬のように大人しく着いていく。コーヒーショップに入り、徹は二人に着席させると荷物をテーブルの脇に置き、そそくさと店頭カウンターに行った。


「彼は、知里のお友達? 」

「うん、高校の同級生。」

「つきあってんのか? 」

「まあ、そうだけど。いいじゃない! そんなのは後よ。それより兄さんの話よ。」


征悦が、どう話せばよいかと考えているうちに徹はコーヒーを持って席に戻って来た。コーヒーは二つ。コーヒーが三つないと気付いた知里子は、すぐに徹に兄を紹介した。


「あ、知里子の兄の征悦です。妹がお世話になっております。」

「初めまして。古畑徹です。知里子さんとは高校1年と2年で同じクラスでした。お世話になっているのはこちらの方で。」


 千里子は徹の腕を引いて自分の隣の席に座らせようとするが、徹は立ったまま。


「あの、差し出がましいかもしれませんが、ご家族にいろいろあったことは、なんとなく察してます。僕はしばらく席を外しますので、お二人でじっくり話してください。」


徹はボストンバッグから折り畳んでいたソフトクーラーバッグを取り出し、あとは財布とスマートフォンと文庫本一冊を持った。時間を潰そうとしているのが見え見えだが、クーラーバッグは土産を買いに行くのだろうか?


「レンタカーとホテルのフロントには連絡を入れるから、荷物番だけ宜しく。二、三時間ブラブラしてくるよ。何かあればメッセージ送って。」


 実は徹は、この旅行中に知里子にプロポーズするつもりでいた。広島で千里子の兄に会うとは全くの予想外、予定外。彼なりに計画してきた予定が狂ってしまう。それでもやっと会えた兄妹だ。割って入るわけにもいくまい。ここで邪魔しては一生恨まれそうだ。プロポーズできなくなっても、またチャンスはあるだろう。

徹は駅の券売機へ向かった。なにを考えたか、上り方面の列車に乗ろうとしている。



 千里子と征悦は心中複雑なまま話し合った。徹が仲介に入ることを期待した部分と、二人だけで他人に踏み込まれたくない部分。その両方をお互いが納得いくまで。


 失踪する直前、コロナ禍で仕事がなくなり苛烈なストレスと戦っていた征悦は、その頃パニック障害にかかっていた。日常生活や仕事に支障をきたす不安障害のひとつ。些細なことにでも不安や恐怖を感じ、リラックスすることがない。冷や汗に動悸、呼吸が荒くなるなど。


 失踪当日、朝から眩暈に悩まされた征悦は、それまで躊躇っていた心療内科にかかろうと家を出たが、最寄り駅まで歩く途中に何もかもが嫌になった。なまじ、保険証にマイナンバーカード、免許証といった身分証明書に薬手帳まで持っていたので、そのまま何処かへ行っても困らなかった。

 東神奈川駅からJR横浜線に乗った征悦は、新横浜駅から新幹線に乗った。征悦にも父が元気な頃の良い思い出として広島への家族旅行の記憶が残っており、そちらに足が向いたのだった。パニック障害の症状は新幹線の中でもでていたため気分が悪く、その当時にはまだあった車内のワゴン販売で買ったコーヒーさえも飲む気にならなかった。


 広島に着いた征悦は呼吸が整い、気が晴れていくのを実感。家族旅行で来た時と同じコースで思い出に浸るとパニック障害の症状も治まり、もう横浜へ帰る気がしなくなった。広島で精神科医に診察を受け、快方に向かったため、そのまま広島で仕事を探し住み始めた。


 横浜に、会社に戻ればまたパニック障害がぶり返すかもしれず、千里子もあまり無理は言えなくなった。だが、征悦に一時的な里帰りをし、母と現在の会社の雇われ社長の立場にある古参の役員だった風間に挨拶と謝罪をするという約束を取り付けた。


 延々と話すうちに三時間ほどの時間が経ち、千里子は慌てて徹に電話を掛ける。すると、徹は近くにいたようで、すぐにコーヒーショップに入って来た。クーラーバッグには何かが入って膨れている。千里子は、やはり土産でも買いに行ったのだと思った。


「余計な事かもしれないけど。」


徹は、今日の予定は無しにして明日からにできるようにレンタカーと今日一泊分のホテルをキャンセルしてきた。そして、この近くのビジネスホテルにシングル三部屋で一泊おさえてきたので、そちらへ移動し、話しの続きはビジネスホテルのロビーか会議室にしないかと提言した。


「えーと、古畑徹くん、妹から僕の事は聞いてるね? だったら。君も一緒に話そう。」


 征悦は、苦労させてしまった妹の千里子の交際相手であること、それから、千里子が怒り出したときに諫めてくれるかもしれないことから、二人の話に加わって欲しいと思ったのだ。徹は、征悦が思っている以上によくできた男だった。


 三人がビジネスホテルにチェックインし、千里子が夕食はどうしようかと言ったとき、徹が、それも心配ないと。それぞれの部屋に荷物だけおいてロビーに集まると、徹はクーラーバッグから虎がデザインされた包みの弁当を三つ出した。征悦は驚いた。


「あ、それは! 」

「はい。シウマイ弁当です。十四年前、新幹線の中で、ご家族で召し上がったんですよね? 」


崎陽軒のシウマイ弁当のようだが、見馴れた龍の絵の黄色の包みではなく、虎に赤。


「徹君、これ、どうしたの? 」

「関西シウマイ弁当だよ。のぞみで姫路に行って買ってきたんだ。横浜のとは、ちょっと違いはあるけど、シウマイは崎陽軒のモノが入ってるから。」

「お昼がシウマイ弁当だったのにね。」

「いいじゃないか。関東と関西のシウマイ弁当を食べ比べだよ。」


征悦は涙ぐんだ。十四年前に家族四人で食べたシウマイ弁当。今日は新しく家族になるかもしれない三人で食べるのだ。

 実は、千里子は、今回の広島旅行で徹がプロポーズしてくるであろうと気付いている。勿論OKするつもりだ。兄も反対はしないだろう。


残念ながら関西シウマイ弁当は食べたことないんです。横浜のシウマイ弁当と食べ比べてみたい。


それから、先月に完結した長編です。

こちらも宜しくお願いします。

「撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~」 ://ncode.syosetu.com/n8944hs/

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