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「……女王様?」


僕は思わず、口に出してしまっていた。


「そうそう、女王様です」

「水瀬先輩も知ってますよね? 椿嬢のこと」


柚月が言っていた通り、彼女は学内で有名人のようだ。学年が下の久保寺兄弟ですら、まるで知り合いのように口にする。

僕の知らない彼女について、二人はどこまで知っているのだろう。大事な後輩であるというのに、僕の心に嫉妬がよぎる。


「留学が終わって帰ってきてるらしいじゃないですか? 壇上から見つけられるかなーと」

「中等部と高等部じゃ今まで以上に関わる機会減っちゃうんで、こんな時くらいしか見られないんですよ」

「久々にあのお顔を見られたらいいなあ。森園では一番レベル高くないですか?」

「まあ、性格のきつさも森園一だけ」


くふふ、と二人は笑い合っている。

彼女が森園で飛び抜けて美しいというのは、もちろん僕も同感である。彼女の姿を壇上から見たいというのも、激しく同意だ。


しかし。問題は、その後の発言だ。


「……性格がきつい? ……それは彼女を、褒めてるのか?」

「くふふ、褒めてますよ。あの顔面ならあの性格も、女王様らしいってことでアリだと思います。でも一般人を階段から突き飛ばすのはやりすぎだな」

「女王様にとっては、他の生徒イコール下々なんだよ。きついって言うか高飛車?」

「高慢ちきとも言う」


駄目だ、許せない。

ふつふつと頭に血が上るのが、自分でもよくわかった。彼女を愚弄するなどと、断じて断じて許せない。


――だが。その怒りが二人に向かう前に、観山先輩が僕の前へすっと出た。

部活動説明会用の原稿を丸く筒状にして、二人の頭をぽんぽん叩いていく。


「はいはい、高慢チキな君らが何言ってんの。てゆーか、下々が女王様のとこをアレコレ言うもんじゃありません」

「……高慢ちき? 僕らが?」

「どこが?」


久保寺兄弟は、さっぱりわからないという顔でお互いを見ている。


「あかりんにでも聞いてみたらど? ほら、そんなことよりもうすぐうちらの番だから、袖に移動するよ!」


観山先輩は丸めた原稿で、二人の背中をぐいぐい押していく。二人はぶつぶつ言いながらも、慌てて置いてあったプランターを抱えて体育館裏から袖へ向かった。


「あ、てゆーか階段から突き落とした云々、あれデマだからね」

「ええ?!」

「デマ?!」

「そうだよ。ほら、きりきり歩く!」


当の観山先輩がきりきり歩いているところなど見たことがないので、なんだかおかしくなってしまう。

だが先に観山先輩が動いてくれたことで、僕の怒りはうまくしぼんで鎮まった。


「ほら、水瀬くんも行くよ」

「はい、観山先輩……いや、観山部長。ありがとうございました」

「――……部長って言うなっ」


こつん、と、今度は僕が丸めた原稿で叩かれてしまった。

しかし改めて、観山先輩は部長にふさわしい人だと思う。


「――……あ、ちょっと待ってください。袖口のボタン、留めてから行きましょう。さすがにだらしがないですよ」

「ええー……別によくない? めんどくさいし」


そう、こういうところ以外は。

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