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「好きだよ。君を愛してる。ずっと、深く、心から。だから僕を選んで欲しい。きっと君を幸せにする」
僕は彼女に、いつものようにそう伝えた。
「あなたって本当そればっかり。毎日毎日飽きないの?」
彼女は相変わらず、笑いながら僕の思いを受け流す。
どれだけ思いのたけを伝えても、彼女は僕を受け入れてはくれない。それでも僕は、どうしたって彼女を諦められなかった。
「飽きないよ。だって君が大好きなんだ。毎日伝えないとこの気持ちが溢れでて、抱えきれなくなってしまうくらいに。何度でも伝えるけど、僕は心から、どうしようもなく君を愛してる」
「……ねえ、あなたは私のどこが好きなの?」
その日の彼女は、どことなく真剣味を帯びていた。常であればふわふわと僕を受け流して、そのままどこかへ行ってしまうのに。
「見た目? 中身? それとも……ーーあなたは何をもって、私を愛してくれてるの?」
初めて投げかけられた、彼女からの疑問。
僕は喜びを噛みしめると同時に、真剣にこの問いについて考えた。
僕は彼女のどこを好きか?
もちろん、彼女の美しい見目はとても魅力的だ。美しいという形容詞は、彼女のために生まれたのだろう。
初めて会った時、彼女を見た瞬間、僕はすっかり恋に落ちた。これはいわゆる一目惚れというやつだから、僕は彼女の見た目が好きなのだろうか?
いやしかし、もし彼女が今の見た目でなかったとしても、僕は彼女をきっと好きになっただろう。
今だってそうだ。この瞬間に彼女の見目がどんな風に変わったとしても、彼女に対する気持ちは変わらない。
では僕は、彼女の中身が好きなのだろうか?
捉えどころのないけれどどこか真のある、彼女の性格には惹かれてやまない。日々彼女と触れ合う度に、僕には彼女しかいないのだと思わせられる。
いやしかし、もし何らかの事情があって彼女の心に闇ができ、お世辞にも好ましい性格であると言えなくなったとしても、僕は変わらず彼女を愛するだろう。
彼女が抱える闇すらも、抱きかかえられる自信がある。
そうだ、つまるところ僕はーー。
「……僕は、君の魂を愛してる。君の全てを、君そのものを」
僕は、彼女を見つめてそう答えた。
その答えを受けて、彼女もしばらく僕を見つめた。
「――……今の私は、偶然でしかない。偶然この世界に、この見た目で生まれて、こんな風に育っただけ。あなたは……あなたは、私じゃない私でも、愛してくれるの?」
先ほどの問いと比べるならば、なんて簡単なんだろう。
そんなこと、考えるまでもない。
「当然だ。君が君じゃなくなっても、君が君である限り、僕はどんな君でも愛するよ」
矛盾しているだろうか。でもこれが、僕の偽らざる気持ちなのだ。
この先彼女がどんな風に変わろうとも、彼女が彼女てある限り、僕は彼女を愛し続ける。
「どんな私でも、か……――」
僕は彼女の思いの一端を知ることができて、とても嬉しかった。しかし同時に、悲しみをも覚えた。
彼女はどれだけ好意を寄せられても、それが本物の、間違いのないものなのか、信じることができないでいるのではないだろうか。
そしてそれはおそらく、彼女の自信のなさに起因する。彼女は自らの魅力を認めておらず、何をもって愛を捧げられているのか、理解できずにいるのだろう。
彼女はこんなにも魅力的なのに。彼女がいかに変わろうとも、僕の愛は変わらないのに。
彼女にうまく伝えきれていない己が、とても不甲斐ない。
「……あなたは私が今の私じゃなくても、私だってわかってくれる? そして今と同じように、その私を好きになってくれる? 違う世界で育ち、この見た目や性格でなくても――?」
「当然だ。僕は君の全てに、その魂に惹かれているんだから。僕はきっと、証明してみせるよ。君の不安がなくなるまで、ずっと」
そう伝えた時、彼女は僕の前で初めて、心から笑ってくれたような気がした。
「そんなにはっきり言ってくれるの……――もしも本当に、あなたが証を示してくれると言うなら……ーー」
ああ、当然だったら。
僕はきっと証明するよ、君のその不安がなくなるまで、君が愛してくれるまで。
僕は君が今とどんなに変わろうとも、どんな世界でだって君と出会い、どんな君だってきっと好きになるーー……。
……ーーこの僕の思いは、彼女に伝わったかどうか定かではない。
なぜなら僕の意識は、一旦ここで途切れてしまうからだ。
途切れた意識が戻った時には、僕は全く知らない世界にいて、新たな生を受けていた。
生まれも育ちも、身体も名前も違う僕。
変わらず持っているものは、彼女への思いだけだった。
僕は死んで生まれ変わってしまったのだろうか?
いや、違う。
これはきっと、彼女が僕に与えた試練なのだ。
この世界にいる違う彼女に会ったとしても、僕が彼女を愛するかどうか。
彼女は僕に、それを示して欲しいのだ。
ああ、当然だったら。
彼女にそう伝えたのだから、彼女にそう誓ったのだから、僕は必ず証明してみせる。
この世界にいる君じゃない君と、元の世界にいる君が、僕の愛を信じてくれるまで。