夜を進む少年
赤い風車のような花が
どこまでもどこまでも咲いていた。
無限に咲いて、風に揺れている。
その花には猛毒があって、
触れた者は 即死んだ。
そんな艶めかしい花の匂いが風に乗って、
一人 歩く 少年の元に届いた。
少年はボロボロのはぎれの姿だ。
まるで遠い旅をしてきたあとのような
ツギハギのマントの服を身に纏って
もう今にも倒れそうなクマを目元に抱えて
風に乗ってきた 花の匂いを嗅いでいた。
もう、みんな
この無限に咲き続ける 赤い花に覆われて
死んでしまった。
たくさんの生き物の命は
その花に奪われた。
枯れてもすぐに咲いて
燃やされてもすぐに咲いて
その花はあっという間に人口を超えて
世界中を埋め尽くした。
少年だけが一人
まだ生き残っていた。
その少年には毒の耐性がある。
しかし、彼の目は
死人よりも ほの暗かった。
咲いて 咲いて
美しく 咲いて
夜の星のように キレイだった。
少年は 花に触れる。
しかし、死ななかった。
彼に毒は効かない。
大事な人は もういない。
大事じゃない人も もういない。
カラリ カラリ かざぐるま
甘くて 妖艶な 死の匂い。
誘うように 夜を進んで 咲き誇る。
少年の旅路は続く。
どんなに歩いても 花しかない世界
誘われるように 夜を進む。