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その桃のようなおしりを愛してはおりませんので。ーフィリーの受難ー

作者: 桜月

わちゃわちゃしてまとまりませんでした。

 


 目の前にぷるんと揺れる、野郎の割にはキレイな尻を見たフィリーは、思わず呟いた。


「あら、蒙古斑」(ぷぷっ)


 この日、異世界初のライブ映像配信と銘打った王国最大のイベントの幕開けは、王国第一王子の真っ裸であった。ぽそりと呟いたはずのフィリーの声もしっかり配信された。これのせいで第一王子のあだ名が蒙古斑王子になるのだが、フィリーのせいではない、多分。



 チラリと女の姿が見えたようだが、これは後ほど。






 ほんの少し前。


 フィリーは緊張した表情のまま、周りにひとつ頷いて扉に手をかけた。


 ここは王宮内部、王族のみ立ち入りが許されるスペースである。

 フィリー他数人は許可を得てここにいた。


 今日はこの国の第一王子の誕生日である。その善き日に王国からの発表を、と言い出したのは第一王子の母である側妃であった。


 異世界からの渡り人、異界の賢者が完成させた、かめらとてれび、なるもののお披露目を、第一王子主導で大々的に国内外に披露したいと。


 国王におねだりしてねだり倒して勝ち取ったそれを、しかし第一王子には内緒でとなんて無茶ぶりをフィリーに丸投げした側妃は、今頃国王の隣でご満悦だろう。てか、そのおねだり王妃の目の前でやったらしいがマジか、マジなのか。つーか、膝の上に横座りとかふたりの時だけにしとけよと。


 フィリーにしたらいい迷惑でしかないんだが。王妃が黙認したのがマジで死ぬ三秒前なんじゃないかとかそんなこと思わない。おそらく。


 王妃が却下しなかったので、フィリーには従う他選択肢がない。

 ため息もつけない案件だらけである。


 かめらを抱えてフィリーの横にいる賢者の弟子は、緊張というより、どきどきわくわくの方が強いのだろう。瞳がキラキラ輝いている。


 今は早朝、というよりもう昼前だが、未だ部屋からでてこない第一王子に寝起きドッキリを仕掛ける予定である。


 この映像はてれびを通して、謁見の間にいる国王達に配信されるし、この日のために国中に設置したすくりーんに映し出される予定である。


 国民が見るのなら、それは王族であるべき、まず第一王子で様子を見てそれから国王が姿を見せたら、国民の感激もひとしおであろうとの側妃のお言葉によって。


 大方これで第一王子の知名度を上げて、王太子にと考えているのだろうことがスッケスケである。


 巻き込まれるフィリー達の身にもなってほしいが、無駄な願いだろう。



「では」


 カチリと小さな音を立てて、扉を開く。開いた隙間から、スルリとかめらを抱えた男が入って行った。


 閉め切ったカーテンを、フィリーが魔法で一気に開いていくと明るくなった部屋の中、ベッドの上に視線が向く。


 かめらも当然そこに。寝起きの顔をとばかりのズームはしかし、王子の麗しい寝顔を撮ることはできなかった。


「あら、蒙古斑」(ぷぷっ)


「ねぇ、デリカのことすきぃ?」

「あ、ああっ、好きだ!」

「ふふぅ! じゃぁデリカのことおうひにしてくれるぅ?」

「あ、ああっ、いいぞ!」

「うふふぅ! やったぁ、だいすきぃ」

「あ、ああっ」



 お互いに夢中のあまり、フィリーたちに気づいていないらしい。てか昼間から(さか)るとは若いのぅ。そして相手の素性が判明。デリカと言うらしい。


 ぷりんぷるんと揺れる尻とその他から目をそらすと、賢者の弟子たちからの同情の視線がいたたまれない。


「どうしましょう、この場合の指示を頂いていないのですが」

「あ! そそそうですね! とととりあえず止めましょう!」


 小声での問いに、やたらでかい声が返る。そら動揺もするだろう。王子の情事を生放送、しかも相手は婚約者ではない。


 だって、フィリーが婚約者だもの。一応候補がつくけども。


「デリカが相手なら、そんなに騒がずに婚約者の変更はできそうだけれど」


 はい、そこであんあん鳴いてる女性、フィリーの義理の妹である。血の繋がりはない。フィリーの父の再婚相手の子だから。


 しかしフィリーと同じ侯爵家の籍に入ってる以上、赤の他人とは言えないとこが辛いなぁと、フィリーはのんびり思う。


「とりあえず、かめらを止めないとね」


 配信を止めた所で、すでに楽しい部分……ゲフンゲフン、王子のプリテー(笑)なお尻は全国民が堪能済、しかも婚約者候補ですらない、婚約者候補の妹とお楽しみ中ときたもんだ。


 かめらを止めるためにアタフタしている弟子たちは、結局王子が華麗なるフィニッシュを決めるまで配信を止めることは出来なかった。







 その後、王子の部屋に駆け込んで来た国王夫妻や側妃たちの騒がしさに、ようやく王子たちが気づいてパニックが倍増したが、フィリーは弟子たちと部屋を抜け出しており、フィリーの父親が血相変えて飛び込んで来たところには遭遇せずにすんだ。


 ちなみにデリカの実母でフィリーの義母は侯爵夫人ではあるが、マナーのマの字も習得出来ていないので、王宮出禁である。


 彼女は実の娘の声を聞くなり卒倒したという。誰にも介抱されなかったらしいが。


 配信をゴリ押しした側妃は、王妃からキツイ嫌味を浴び国王から愛妾落ちを宣告され、自身の子が王太子になる未来は閉ざされた。立太子する王子は側妃の子までと決まっているためである。


 第一王子は、自分のお尻他大事な部分が丸見えで配信されたことにショックを受け、さらに前部分もポロリしたことで引きこもり、母親相手に八つ当たりの日々と聞く。


 もうすぐふたり揃って王宮から消えるだろうと、ひっそりこっそり噂されている。


 おかげで、フィリーは淡々と婚約者候補辞退を申し入れ受理されることに成功し、おまけに慰謝料までもらってウハウハである。


 元々、好き合っていたわけもなく、第一王子の単なる政略結婚予定者との顔合わせまでの繋ぎだったフィリーは、ようやく本来の相手との婚約発表まで漕ぎ着けた。


 フィリーの義妹、デリカは顔こそ配信されなかったものの、王子との醜聞はマッハで知れ渡り、社交界で時の人となった。どこへ行ってもなにをしても「あら、()()デリカ嬢」と含みを持った微笑みが待っている。


 針のむしろとはこのことか。と両親に泣きついたが、義父には侯爵家から籍を抜かれ、一緒に離縁された母からは酷く殴られた上に娼館に売られた。


 ふたりのその後は知られていない。







「王妃殿下」


 ぼんやりと庭園を眺めている王妃に、フィリーは声をかけた。


「あら、もう王宮に用はないのではなくて?」

「代替わりのご挨拶に参りました」

「そう、侯爵は隠居されたの」

「正確には逃げました」


 フィリーの父は、自分の後妻とその娘のやらかしに耐えられなかった。恥ずかしさで死にそうだと、領地に引きこもったのだ。なんともメンタル弱々な男である。


「計算通りなのではなくて?」

「予定通りに行かないのが世の常ですよ」


 フィリーは、テンプレよろしく実の娘に無関心な父が嫌いだった。ただ、それ以上の気持ちを向けるのが面倒だっただけだ。


「王妃殿下こそ、予定通りなのでは?」

「ふふ。わたくしにそのような物言いをするのは貴女くらいね」

「母の親友である王妃殿下は、私の第二の母同然の方ですので」

「そんなところもあの子そっくりね」


 フィリーは側妃がかめらに食いついたところから、王妃の計画は始まっていたのだと思っている。むしろその前からかもしれないが。


「わたくしたちは、自分の意思で嫁ぐ相手を選べなかった。あの子は、娘にはそんな思いはさせたくないとわたくしに言ったわ」


 国王は第一王子のやらかしを尻ぬぐいさせるために、フィリーを仮の婚約者候補にした。やらかしすぎて政略結婚に使えなかったら、そのままフィリーと婚姻も考えていたはずだ。ふざけんな、ってやつだな。


「陛下のやらかしのせいで、こんなことになった。あの方は側妃たちを切ったからいいだろうと思っているようだけど、そもそもあの尻軽に簡単に落ちたのが問題だというのに」

「第一王子は甘やかされるだけで、王族には相応しくない方でしたからね」

「側妃は陛下と同時進行で関係していた男がいたのよ。あの王子そっくりのね」

「あちゃー」


 国王やっちまったなー。


「陛下は病に倒れる予定です。第二王子が王太子になって早々に」

「無難ですね」


 この国は王妃が回しているので、国王がいようがいまいが変わらない。王妃がいたから、国王は国王でいられたのに、その王妃を裏切った罪は重い。


「わたくしも疲れました」

「第二王子をお支えくださいませ、まだあの方には貴女が必要です」

「分かっていますよ。……フィリー」

「はい」

「幸せにおなりなさい」

「……はい、必ず」





「王妃殿下はお元気だった?」

「ええ、少し疲れていらしたけど」

「しょうがないね、王族の醜聞だから」

「……そうね」


 自分を労わってくれる最愛の婚約者の笑顔を見て、王妃の話は墓まで持って行くしかないな、とフィリーは思った。



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