7、特訓!
「倉橋さんのこと可愛いなって思ってて、話してみたら優しくて好きになりました」
「ごめんなさい。好きとかまだ分からないので」
頭を下げると男子生徒は走って行った。なんか、悪いな。
「増えたね~、告白」
「侑希!聞いてたの?」
「たまたま通りかかっただけよ。」
ホントだ。ゴミ箱持ってる。片方を持ってゴミ捨て場に一緒に向かった。
「それにしても、あっという間にモテ期だね」
「あはは、そう、だね。でも正直、あんまり告白してほしくないんだよね。断って悲しそうな顔をされると罪悪感があるっていうか」
「モテる人にしか分からない悩みね」
「そうかも。あんまり話したことのない人ってやっぱりまだ怖くてさ。趣味が合ったりしたらすぐに仲良くなれるんだけど」
というか、新学期に入ってまだ2週間だよ。それだけの付き合いで好きになる?ただ、珍しいからってだけじゃないの?と内心疑りまくっているため彼氏ができるのは当分先になるだろう。
「そういえば、レンレンってなんの競技だっけ?」
「私はパン食い競争とリレーだよ。」
「そうだったね」
「うん。……リレー!?」
「自分で言って驚く人初めて見た。そういえばレンレン、運動苦手だったね。」
「うん」
「でもこればっかりは仕方ないよ。皆出たがらないからくじ引きになったんだし。まあ、じんじんもいるから大丈夫だと思うけどね」
侑希はそう言ってゴミ袋をくくって捨てた。確かに仁くんがいれば前までは学年1位だったと思うけどリョウちゃんって噂だとめっちゃ足が速いらしいし私がチームの足引っ張ることになるんだろうな。
「せっかく可愛いんだからそんな顔しないの。練習なら付き合うよ。私、陸上の短距離専門だし」
「ありがとう、侑希。」
「レンレンはまずは体力つけないとね。100mを全力疾走できないでしょ?」
「……はい」
ということで、今日から朝と夕方にランニングをします。体育祭まであと2週間と2日。少しでもチームの力になれるように頑張ります!
「蓮、どこ行くんだ?」
「ランニングしてくる。言っておくけどリオ兄、秘密の特訓なんだから仁くんに余計なこと言わないでね」
「はいはい。気を付けろよ」
「うん!行ってきます」
玄関を出て少し準備体操をして深呼吸をした。すると、隣の家のドアが開いた。せっかく仁くんを驚かせようと思ったのにバレちゃう!?そう思って顔を隠すと何かを落とした音が聞こえた。目を開けると唯と大福が並んでいた。
※大福とは蒼井家のペットの柴犬
「蓮、なにしてんの?」
「ランニングしようとしてたところ」
「頭、打ったのか?」
「失礼だなぁ。体育祭の練習だよ。仁くんには内緒にしてね。100mを10秒で走って驚かせたいから」
「いいけど。てか、無理だろ」
「夢は大きい方がいいの。唯は大福の散歩でしょ?一緒に行ってもいい?」
「いいよ」
私は唯と大福と一緒にランニングをして少し休憩をしていた。
「大丈夫か?」
「うん。ハァ、唯、よく普通に話せるね、ハァ」
「バレー部の元エースなめんなよ」
「そうだったね。てか、お腹空いた。おばさん、みかん大福1つください」
「は~い。蓮ちゃんだけ?唯くんは?」
「唯もいる?2つだとお得だから奢ってあげるよ」
「いる!」
「じゃあみかんとキウイね。はい、どうぞ」
「ありがとう」
私達は大福屋さんの隣のベンチに座ってフルーツ大福を食べた。
「ここに来ると大福と会ったときのこと思い出すな~」
「ここで拾ったのか?」
「え、知らなかったの?大福屋さんの前で拾ったから大福なんだよ。仁くんから聞いてないの?」
「聞いてない。蓮と兄貴が拾って名前は大福ってこと以外。というか、安直すぎない?大福屋の前で捨てられてたから大福って」
「いいじゃん。大福みたいに雪被ってたんだし。ね、大福」
私が大福の頭を撫でると大福はワンッとしっぽを振って鳴いた。ちなみに蒼井家に引き取られたのはその当時、リオ兄が犬を怖がっていたからだ。
「ごちそうさま。そろそろ帰ろうぜ」
「だね。またね、おばさん」
「またね」
家に着いてすぐにシャワーを浴びて早めに夜ご飯を食べて寝た。
翌朝、唯と一緒に走ってシャワーを浴びて学校に向かった。
「おっはよう!レンレン!今日の放課後さ、」
「おはよう侑希。あのさ、練習のことは内緒にしてね。仁くんを驚かせたいから」
「オッケー!」
それから2週間後、走るときにつまずくことはなくなった。そして、2日後は体育祭当日だ。
「蓮、帰ろうぜ」
「ごめん、今日もちょっと用事があるから先に帰ってて」
『最近そればっかだな。』
「ごめん、聞こえなかった。なんて?」
「何でもねえ。じゃあな」
蓮くんは少し不機嫌そうに言うと教室を出ていった。なんか、いつも1人で帰らせて悪いな。
「レンレン、今日用事ができちゃったから悪いんだけど1人で練習してくれない?コツとかは大体教えたから」
「うん。ありがとう。侑希、また明日」
「うん、バイバイ」
侑希と別れてグラウンドの端で、1人で走り続けていた。30分ほど走って帰ることにした。
体操服から着替えて昇降口に行って靴を履き替えてグラウンドに出ると後ろから肩を叩かれて驚いて転びそうになってしまった。
「おっと。大丈夫?」
「颯真先輩!」
「先に声を掛ければ良かったね」
「そんなこと。先輩も今から帰るんですか?」
「うん。沙理から聞いたけど最寄り駅一緒なんだってね。一緒に帰らない?」
「はい」
「蓮ちゃん、俺ちょっと沙理に小説頼まれてるから待っててくれない?」
「私も着いていきますよ。ヒロ恋ですよね?この間、新刊発売されてたし」
「そうそう。場所分かる?」
「はい。昨日買ったばかりなので案内します」
無事、新刊を買ってホームに行った。
「助かったよ。ここの本屋広いから探すのに時間かかるところだったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
私が笑顔で答えると颯真先輩も優しく微笑んだ。やっぱりイケメンの笑顔は眩しい!漫画だと背景にお花が咲き誇ってるんだろうな。
「電車きたよ。早く乗ろ」
「そうですね」
電車内はいつもよりも人が多かったのでドアの側で立っているとスーツを着たおじさんが徐々に近づいてきた。すると、颯真先輩はガードをするように前に立った。
「蓮ちゃん、近いけどごめんね」
「いえ、ありがとうございます」
仁くんも何度かこうやってガードしてくれたな。……ってなんで仁くんのこと考えてるんだろ?やっぱり一緒に帰れてない罪悪感かな?
駅に着いて改札を出て改めてお礼をした。
「先輩、本当にありがとうございました」
「蓮ちゃんに何もされなくて良かったよ」
「仁くんもそう言ってくれた」
「仁くん?」
「あ、私の幼馴染みで。1学期のころは地味な格好をしてたせいかよく痴漢に狙われてガードしてくれたんです。それで私がお礼をするとなにもなくて良かったって言ってくれて」
「蓮ちゃん、その子のこと好きなんでしょ?」
「はい!好きですよ。すごく優しいんです。最高の幼馴染みです!」
「う~ん。そういう好きじゃなくて恋の好きなんじゃないの?」
恋……?私が……?てか、恋ってなに?リョウちゃんが私を好きって言ってくれるのと一緒?
「先輩、恋ってなんですか?」
「相手を独り占めしたいとか、会えないときについつい考えちゃうみたいな。とりあえず誰かを特別に想うってことじゃないかな?」
「幼馴染みって特別じゃないんですか?」
「それはそうだと思うけどね。でも、蓮ちゃんの話すとにの表情がアニメとか漫画の好きなキャラについて話してたさっきとは全然違うからさ。好きなのかなって思っちゃった。余計なこと言ってごめんね」
「いや、大丈夫です」
恋、か。でも、もし私が恋をしてたとしても自分じゃ気付けないんだろうな。少女漫画には鈍感なキャラ多いもんな~。
「先輩は好きな人とかいたことありますか?」
「いまも好きな人いるよ」
「それって親友みたいな感じの好きとは違うんですか?」
「うん。だって、親友と話すときに緊張する?」
「しない」
「でしょ?俺の好きな人は副会長なんだけど分かる?」
「確か3年生の柳瀬先輩ですよね。いつもハーフアップの」
「そう。中学からの付き合いで先輩後輩よりは友達って感じなんだけど先輩と話すだけで緊張したり生徒会の買い出しを2人で行くことになって喜んだり慌てたりね」
「なんか、想像できない」
「俺も。自分が恋してる姿を想像できなかった」
先輩は少し恥ずかしそうに笑った。その表情は他にも何度か見たことがあった。ヒナ、ジュン兄、リョウちゃん。恋してる人と同じだ。
「なんか、長く話しちゃったね。もう暗くなってきたし家まで送るよ」
「え、でも」
「送らせて。暗い中1人で帰らせたのが沙理にバレたら何て言われるか」
「確かに。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
それから家の側の公園辺りで別れて家に帰ってジャージに着替えて外に出ると仁くんが大福と一緒に家の前で待っていた。
「え、なんで仁くんがいるの?唯は?」
「委員会で居残りだってよ。春雪が代わりにって頼まれたらしいけど被服部の作品作り終わってねえからって俺が頼まれた」
「もしかして、きいた?」
「毎日朝夕、唯と2人で散歩をしてたことぐらいしか。それよりも、今日一緒に帰ってた奴誰?」
「先輩だよ。ほら、生徒会のメンバーの颯真先輩。知らない?」
「知らねえ。蓮はそいつのこと……好きなのか?」
「尊敬はしてるけど好きなわけじゃない」
「じゃあ唯?毎日、一緒に散歩してたんだろ?」
「それはそうだけど。散歩っていうか。その、体育祭の練習?」
「れん、しゅう?」
仁くんは思いがけない言葉に驚いて開いた口が塞がらないようだった。
「そうだよ。私じゃリレーのときに足引っ張るだろうから。だから練習しようと思って。言うの恥ずかしいし、ついでに仁くんを驚かせようと思ってたのに。」
「蓮が、自分から走ろうとしたのか?熱、あるのか?」
「ほんっと兄弟そろって失礼。私だって自分から運動するし。」
「わ、悪い。驚いて」
「ま、いいけど。バレたんだし練習、付き合ってよね」
「ああ。大福も行くぞ」
バレちゃったけど私がつまずかずに走ったことに相当驚いてたみたいだしいっか。
帰る途中、遠くで手を振ってるのが見えた。
「蓮!」
「唯!委員会は終わったの?」
「ああ。って兄貴!?なんで?春雪は?」
「部活の作品を作り終えてないってよ。」
「マジか。悪い、蓮」
「いいよ。仁くん、すごい驚いてて面白かったから」
「良かった」
唯はホッと胸を撫で下ろして笑うと仁くんに何か耳打ちをすると仁くんはあっという間に顔が真っ赤になった。
「なんて言ったの?」
「別に、何でも。じゃ、俺先に帰るから」
行っちゃった。めっちゃ気になるんだけど。多分仁くんにきいても教えてくれないんだろうな。仁くんの顔を見上げると仁くんは慌てて顔をそらした。
家に着いて仁くんに手を振って帰った。
翌日、明日は体育祭というのに今日は雨が降った。まあ、本降りではない程度だけど。でも、グラウンドは使えないので練習をするのは諦めた。
「蓮ちゃん!仁!一緒に帰ろ!」
「いいよ」
「蓮ちゃんと帰るの久しぶり!帰りにハンバーガー食べて帰ろ」
「いいよ」
駅のフードコートのバーガー店にて。
「6限目、体育でめっちゃお腹空いた」
「俺も5限目でめっちゃ走ったからお腹空いた」
「俺も。」
3人でバーガーを買ってフードコートの3人席に座った。
「蓮ちゃんと仁には言っておくけど俺、引っ越すのが早くなった」
「え!いつ!?」
「11月半ば。父さんのプロジェクトの進みが良かったらしくて。元々、引っ越す準備はしてたから」
「11月半ばってあと1ヶ月しかないじゃん!」
「うん。文化祭はギリギリ出られるんだけどその直後に引っ越すんだって」
「せっかくまた会えたのに」
「凌平、引っ越すならその前に俺と勝負しろ。お前も借りもの競争出るんだろ?」
「そのつもりだったよ」
リョウちゃんは笑うと仁くんを見た。すごい、なんか青春もののアニメに出てきそうな絵面だな。火花が散ってる。でも、2人してなんでライバル意識なんて持ってるんだろ?