6.5、ヤンキーのきっかけ
バンッ!ボコッ!ガシャン!擬音で表すとこうなるだろう。10人前後の男がバッドを持って襲いかかってくる。
「ってえな!」
バッドが思いきり腕にぶつかって激痛が走った。
しばらくして、そいつらのリーダーらしい奴が降参をして走り去った。
「もうこいつに手出すんじゃねえよ!」
「おい、お前大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
眼鏡を掛けたいかにもガリ勉なひょろっちい男は立ち上がって眼鏡を掛け直した。
「もし、また絡んできたらしてきたら連絡しろ。連絡先は渡しておく」
「ありがとうございます。」
「じゃあな」
ガリ勉男は頭を下げて顔をあげると小さく手を振った。あんないい奴に手を出すとかどうかしてるな。
「仁くん!」
「蓮、見てたのか」
「うん。怪我してるよ。手当てするからうちにきて」
蓮は俺の手を引いて家に入っていった。てか、普通に手を繋ぐとか、少しは俺のことを意識しろよ。なんて思ったってどうせ伝わっていないんだろうな。
「仁くん、腕腫れてるよ」
「バッドで殴られたからな」
「仁くんの喧嘩の相手って皆大人数で武器使うよね。卑怯じゃん」
「俺は卑怯な奴ら以外と喧嘩しねえからな。他の奴らは決闘を申し込まれたり絡まれない限りスルーするから」
「今日は絡まれてた中学生助けてたもんね。相変わらずの現役ヒーローだね」
蓮は湿布を貼ると微笑んで俺を見上げた。ヒーローか。昔も言ってくれたな。確か、小学5年生の頃……
* * *
学校からの帰り道、みゃーみゃーと高い声で吠えるのが聞こえた。蓮と一緒に神社の裏側に行くと近所の中学の制服を着た奴らが猫の子供を蹴ったり脅かしたりしていた。
「おい、やめろよ!」
「んだよ、てめえ」
「見てわかんねえのか?小学生だけど」
「ガキは黙ってろ」
「自分より弱い奴をいじめる奴の指示なんて聞かねえ。通報してやる」
「ふうん。こいつらがどうなってもいいのか?」
1人がそういうと蓮の口を押さえた奴と子猫を掴んだ奴が俺の前に来た。
「蓮と猫を離せ!」
「え~、どうしようかな~」
そう言うと男は蓮の顔を覗き込んだ。
「レンちゃんだっけ?変な色の目だね。って言っても外国人には伝わらないか。」
蓮の両目から涙が溢れてこぼれ落ちた。
「……まれ」
「はあ?」
「蓮に謝れ!蓮は日本人だ!それに変な色じゃねえよ!」
キレながら俺はその中学生達を殴っていた。気付いたときにはそいつらはボロボロになって走り去った。
「仁くん!私のことなんか無視して誰か大人の人を呼びに行けば良かったのに。私のせいで仁くん怪我だらけじゃん」
「蓮と猫は怪我してないか?」
「うん。仁くんが守ってくれたから。この子も大丈夫」
「良かった。お前は早く安全なところに帰れよ」
「みゃ~」
俺は体中の痛みでその場から動けなくなった。蓮は急いで救急車を呼びに行ってくれた。
それから、生まれて初めて救急車に乗って病院に運ばれた。
「蓮、怖くなかったか?俺、殴っちまった。」
「仁くんは怖くなかったよ。守ってくれたし。それに、暴力は悪いことだけど人を守るために力をふるうのはヒーローと一緒じゃん!猫ちゃんと私を守ってくれたときの仁くん、カッコ良かったよ。」
「本当か?」
「うん。ジュン兄がよく言ってるんだ。いいヤンキーは人を守るための暴力をするって。アクションヒーローと同じことを現実で行ってるからヒーローだなって」
「そっか」
そういえばさっきから蓮と一度も目が合ってないな。
「蓮、なんで目を合わせないんだ?」
「あの中学生達も言ってたでしょ?私の目の色は変なんだって」
「そんなことない!蓮の目は綺麗だ」
「き、れい?」
「ああ。」
「ありがとう。mein Held(私のヒーロー)」
「ん?なんて?」
「私のヒーローって意味」
蓮は笑って俺に抱きついた。痛い、けど蓮が嬉しそうだからしばらく動かないでおこう。
その後、病院に来た母ちゃんから相手に怪我をさせずらい蹴りなどを教わる約束をした。母ちゃんは昔ヤンキーで相手に怪我をさせ続けると決着をつけられないからと怪我をさせずらい蹴りや殴りを練習したそうだ。
それから、蓮の好きな漫画に出てくるヤンキーに似せて髪を銀に染め、ピアスを開けてみた。蓮は俺を見ると何枚も写真を撮った。そして、さすがヒーローカッコいいねと言って笑った。
* * *
「……くん」
「仁くん!」
「仁くんってば!」
「ああ。悪い。なんだ?」
「他に痛いところない?」
「ああ、大丈夫だ」
蓮はホッとしたように溜め息をつくと救急箱を元の位置に戻して俺の隣に座った。そして、蓮は俺の腕にそっと手を置いたと思うと急に泣きだした。
「仁くんさ、守るときに相手にはできるだけ怪我をさせないようにしてるけど、仁くん自身はいつもボロボロになってるよね?人を守るのもカッコいいけどもう少し自分を守ってほしいな」
「蓮、分かった。心配掛けて悪いな。」
「ううん」
蓮は大きく首を振って俺の腕に額を当てた。なんか、距離近くね?まさか、蓮も俺のことを……。
「仁くん。私にとって仁くんはヒーローなの」
「あ、ありがとう」
「でもね、漫画のヒーローってヒロインとある約束をするの」
「約束?」
「うん。ずっと守り続けるからずっと側にいさせてほしいって」
「え、」
「私も仁くんの側にいたい」
蓮はそう言うと俺の顔を見上げた。え、本当に蓮も俺のことを好きなのか?
「好きだよ。仁くん」
「俺も好きだ。蓮。俺、蓮を一生守るからずっと一緒にいたい」
「本当!?やったぁ!じゃあこれからは変身するために合体しないとね」
「は?」
すると蓮は『合体!』と言って俺に抱きついた。え、ヤバ。可愛すぎるんだけど。天使か?
そんなことを思っていると電子音が頭に響いた。んだよ、今いいところなんだから邪魔すんじゃねえよ。
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「仁!早く起きろ!今何時だと思ってんだ!?」
「え、お袋?蓮は?」
「なんで朝から蓮がいると思ってんだ?」
溜め息をつくとお袋は部屋を出て階段を降りていった。朝?ってことはさっきのは夢か!?なんだこの夢。キモっ!でも、まあ、可愛かったからいいか。ってなるか!今日蓮と会ったらどんな顔すればいいんだよ!あ~もう!なんなんだよこの夢!期待させんじゃねえよ!
蒼井仁。高校1年生。小学3年生からの初恋、片想いを拗らせて早8年。幼馴染みだからと告白をできずに、かといって鈍感な蓮が気付くこともなく長い年月が過ぎ去った。あと少しの勇気が出そうで出ない思春期真っ只中。とりあえず今後の展開に期待ですね。