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6、Wデート


 今日はリョウちゃん、そしてヒナとジュン兄と遊園地に行く。服は黒の短パンにパステルブルーの五分丈のTシャツというシンプルな組み合わせにした。

 リュックを背負ってリビングに降りるとリオ兄が出掛ける用意をしていた。


「リオ兄もどこか行くの?」

「生徒会。体育祭についての話し合いがあるから」

「そっか。行ってらっしゃい」

「行ってきます」


リオ兄は手を振るとドアを開けて出ていった。あ、そうだ!日焼け止め塗らないと!赤くなって痛いんだよね。

日焼け止めを塗って少しテレビを見ているとジュン兄が肩をポンッと叩いた。


「そろそろ出掛けるぞ」

「わかった」


 ジュン兄の車に乗り込んでヒナも車に乗った。ヒナが助手席ってことはリョウちゃんが隣に座るんだよね?気まずいな。


 それから、駅前でリョウちゃんと合流して遊園地に向かった。


 フリーパスを買って中に入ると美しい顔がたくさんあった。


「え、天国?」

「ホントそれ。見てるだけで幸せだわ。これ生み出したのがうちのパパとレンパパとレンママとか3人とも神なんだけど」

「分かる!ちょっと拝も」

「そうだね」


私とヒナの熱量に少し驚いていたリョウちゃんをスルーして私達ははしゃぎながら写真を撮りまくっていた。


「3人に後で送らないとね。あ、それかコラボ中にもう一回来るか」

「そうだね。じゃあ推し様達の写真はこの辺で一旦休み。4人で撮ろ」


ヒナが写真を撮って見せてくれた。なんかデートみたい。……ってデートか!今、ダブルデートしてるんだった!


「ヒナ、デートだってこと忘れてたらダメだよ」

「あはは、さすがにレンじゃないんだし忘れないよ」

「わ、私だって忘れてないし(今は)」

「ふ~ん。へえ~」

「もう早くアトラクション乗ろ」

「じゃあやっぱり」


「「キャー」」という楽しそうな叫び声の中に、ちらほら「「ギャー」」が混じっているのがおもしろい。ちなみに私はキャーの方だ。うちの兄妹の長男はうんともすんとも言わずに無言でヒナを見つめていた。

ジュン兄、ジェットコースターを真顔で乗るって端から見たらめっちゃ恐怖だよ。


「蓮ちゃん、楽しかったね」

「あ、うん。そうだね」

「次はどのアトラクション乗る?」

「じゃあコーヒーカップ」

「じゃあ私とジュン、レンと凌平で分かれて乗ろ」


やっぱりそうだよね。嫌じゃないけどなんか複雑なんだよね。なんでだろう。他に好きな人がいるわけじゃないのに誰かに見られたら嫌だな。てか、誰かって誰?


「蓮ちゃん、次順番だよ」

「あ、ホントだ。考え事してたから気付かなかった。早く乗ろ」

「そうだね」


私は胃の中のモヤモヤを全部押し付けるようにハンドルを回した。私は珍しく酔ってしまったけど幸い、リョウちゃんは酔いにくいらしく楽しんでくれて良かった。

 それから、別のアトラクションに乗って昼食を食べてパレードを見た。推しに扮した有名コスプレイヤーさんが手を振ってくれたときは嬉しすぎてヒナと一緒に抱き合った。


 コスプレイヤーさんに会ったからかな?興奮しすぎて心臓がドキドキしてるしなんか体が熱い。涼しい所行きたいな。


「リョウちゃん、次はあそこ入ろう」

「え、あそこって、」


私が指を指した建物には大きく『お化け屋敷』とかかれていた。


「私、ホラー映画とか苦手なのに何故かお化け屋敷だけは楽しく感じるんだよね。なんでだろうね」

「さ、さあ?偽物って分かってるからとかじゃない?」

「あ~確かに。とりあえず入ろう」

「うん」


お化け屋敷の中は真っ暗ではなく薄暗い夜道といった感じの暗さだった。すると急に抱きしめられた。


「え、リョウちゃん?」

「ごめん、俺」


リョウちゃんの鼓動がこっちまで聞こえてくる。あれ?もしかしてリョウちゃん、震えてる?


「俺さ、実はお化け屋敷苦手なんだよね」

「え、そうなの?無理やり連れてきてごめん。手を繋いでたら少しはマシかな?」

「うん」

「じゃあ一緒に外に出よう」


お化け屋敷の中なのに体が熱いのはリョウちゃんと手を繋いでるせいだよね?


少し早歩きで外に出てベンチに座るとリョウちゃんは私の肩にもたれ掛かった。


「入ったくせに怖くて早歩きで出てくるとか、俺カッコ悪いね。蓮ちゃん、呆れちゃうよね?」

「そんなことない。私がリョウちゃんに訊かずに入ったのが悪かったんだから。ごめんね」

「ううん。でも、蓮ちゃんにはカッコ悪いところ見られたくなかったな」

「別にカッコ悪いなんて思わないけどな。なんかちょっと可愛いって思った」

「弟みたいってこと?」

「や、そんなつもりで言ったんじゃ。なんかこう、守ってあげたいみたいな?」


弟みたいの方がまだマシかな?えっと、なんて言ったらいいんだろう。


「もし、仮にカッコ悪いとしてそれをずっと隠すことはできないでしょ?でもさ、少しカッコ悪いところがある方がいいと思うんだ。アニメキャラってさ、顔はずっとカッコいいんだけど普段はクズだけど仲間想いとか陰キャだけど実はイケメンとかが多いんだよね。だからギャップがある方がいいって言うか。」

「えっと、つまり?」

「つまり、完璧な人よりもどこかカッコ悪いところがある人の方がいいと思うってこと。ほら、自分だけにカッコ悪いところを見せてくれると特別扱いされてるな、みたいな?」

「蓮ちゃんは優しいね。そういうところ好きだよ」

「あ、ありがとう」


立ち上がろうとするとリョウちゃんが私の腕を掴んだ。振り向くとリョウちゃんは真剣な目で私を見つめた。


「蓮ちゃん」

「なに?」

「俺、本気で蓮ちゃんが好きだよ。こうやってカッコ悪いところも受け入れてくれる優しい蓮ちゃんが大好きだよ」

「へ!あ、あり、がとう」


大好きとか言われ慣れてないからヤバい。熱い。なんか、クラクラしてきた。あれ?足に力が入らない。


「蓮ちゃん!」

「蓮!」


あれ?リョウちゃんといるはずなのになんで仁くんの声が聞こえるんだろ。




 * * *




 目を覚ますと、見覚えのない天井が見えてベッドに横になっていた。どこ?ここ。私の腕には点滴が打ってあった。あれ?もしかして私倒れた?途中から記憶がないけど多分倒れたよね?隣を見るとリョウちゃんと仁くんと春雪(はゆき)とヒナとジュン兄がいた。2人ぐらい増えてない?


「おはよう。こんばんはかな?」

「蓮ちゃん!起きて良かった」

「泣かないでよ」

「何回も、声掛けたのに起きなかったから不安で」

「心配掛けてごめんね。」


私が笑い掛けると皆ホッとした顔になった。


「なんとなく倒れた記憶はあるんだけどここどこ?」

「病院だ。蓮、熱中症になって意識失ってたから」

「そうなんだ。というかなんで仁くんと春雪もいるの?」

「春雪がここの遊園地でコラボイベントしてるから連れてけって。それでたまたま蓮が倒れる所に遭遇したから病院に着いてきたんだ」


やっぱり仁くんの声だったんだ。でもせっかくのお出掛けで迷惑掛けるなんて最低だな、私。


「せっかくお出掛けしてたのに倒れてごめんね」

「謝ることじゃない。俺も蓮の異変に気付かなくてごめん」


それは仕方ないな。私は体が熱いのをレイヤーさんとかリョウちゃんのせいにしてたから。


「てか、喉渇いた。春雪、リュックからペットボトル取ってくれない?」

「いいよ。……って、なんで新品なの!?」

「あ、遊園地にはしゃぎすぎて水分採るの忘れてた」


すると、ヒナ、ジュン兄、仁くんがすごく怖い顔をして私の周りに立った。


「レン、あんたバカなの!?日中30℃を余裕で越えてたんだよ!?しかも遊園地ってコンクリートの地面で人口密度が高いんだから余計に熱いんだよ!?」

「というか、リュック何度も開けてただろ!?そのときにペットボトル見えるだろ!?飲めよ!?なんのために持ってきたんだよ!?」

「蓮、ポスターとかあったよな?お前の推しも水分補給しろって言ってたよな?推しの言葉を無視して写真ばっか撮ってたのか!?なんのために言わせてるかわかんねえだろ!」


すごく心配してくれるのは伝わってくるけど恐怖が強すぎて泣きそう。


「ご、ごめんなさい。これからは気をつけます」

「俺達も気をつける。蓮が水分補給をしてるかちゃんと確認するから。蓮、たかが熱中症じゃないんだ。応急処置をちゃんとしなかったら死んでたんだ。」

「Ja Vielen Dank für die Sorge.」

(うん。心配してくれてありがとう)


私はお兄ちゃんにハグをした。お兄ちゃんはドイツ語で『目が覚めて良かった』と言った。ちなみに、私達兄妹は祖父母とはドイツ語で会話をするので家族間で気持ちを伝え合うときにドイツ語を使うことがある。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと話すときは会いたかったなど思っていたことをたくさん伝えるからだ。


 それからお医者さんが来て私は数日間、入院することになった。


『蓮、ヒナに告白したいからちょっと場所借りるね』

『分かった』


こういうときってドイツ語は便利だよね。


「ヒナ、今日言おうと思ってたから今言ってもいうね。黄雛、俺は黄雛のことが好きだ。もう付き合ってるのに今さらだけど今度は本当の恋人になりたい。俺の恋人になってくれますか?」

「うん。ジュンの中で一番の恋人になる」

「mein Engel!」

「ヒナ、ジュン兄が〝俺の天使〟だって」

「ばっ!蓮!そういうのはわざわざ訳さなくていい!」

「ええ~、だったら声に出さないでよ。意味の分かる私には聴くだけとか恥ずかしいんだから」


私が頬を膨らませるとジュン兄は何も言い返せずに黙り込んだ。すると、リョウちゃんが戸惑ったように訊いてきた。


「黄雛ちゃんと潤くんは付き合ってたんだよね!?なんで今、告白してるの?」

「あ~、そっか。凌平には言ってなかったんだっけ?俺と黄雛は付き合ってたけど好き同士で付き合い始めたわけじゃないんだ。だからまだ両想いにはなってなかったんだよ」


ジュン兄がそれから少し具体的に説明するとリョウちゃんは納得したようだ。

 夕方になると皆帰ってしまった。暇だったのでスマホでアニメを見ていると電話がかかってきた。


「もしもし、リオ兄?」

『うん。母さんと兄貴が今から着替え持っていくけど何かいるものあるか?だって』

「モバイルバッテリー。あと、ラノベ。一冊でいいよ」

『元気そうで良かったよ。明後日には退院するんだろ?』

「うん。回復が早いねって驚かれた」

『だろうな』

「あ、そういえばリオ兄はヒナとジュン兄のこと聞いた?」

『聞いてないけど兄貴の態度で分かった』

「そっか。あ、アニメの録画ちゃんとできてるかだけ確認しといて」

『了解』


 翌日、リハビリがてら少し病院内を散歩する許可をもらったのでコミュニティスペースに行ってみた。

 すると、小学生くらいの女の子が私の好きなラノベを読んでいた。

 私は勇気を出して話し掛けてみた。


「今読んでるのってヒロ恋?」

「お姉ちゃん、知ってるの?」

女の子は顔をあげてパアッと笑顔になった。くっ、可愛い。

「うん。知ってる。大ファン。読んでるといつも好きな人ほしいなって思っちゃう」

「あたしは好きな人いるからその人のことを思い出しちゃう」

「そうなんだ。あ、名前言ってなかったね。私は倉橋蓮。高校1年生だよ。」

「あたしは篠田(しのだ)沙理(さり)。中1。盲腸になっちゃって入院してたけど明日退院なんだ」

「私は熱中症で。私も明日退院なんだよ」


それからヒロ恋の話をした。沙理が思っていたよりも限界オタクすぎて驚いたのは内緒だ。


「蓮ちゃんって魔法少女ルビーのエメラルドに似てるよね」

「そうかな?」

「うん!金髪だし青緑っぽい目だし」

「お母さんがオーストリアと日本のクォーターなの。だからお祖父ちゃんは純血オーストリア人でお祖母ちゃんがオーストリアと日本のハーフなんだよ。まあ、生まれたときらオーストリアに住んでるらしいから日本語はあまり得意じゃないけど」

「そうなんだ。じゃあ話すときはオーストリア語?」

「ううん。オーストリアはドイツ語」

「2ヶ国語話せるとかカッコいいね」

「ありがとう」


なんて話していると沙理は大きく手を振った。後ろを向くと同じように手を振っている男子がいた。


「沙理、友達?」

「うん!さっき仲良くなった蓮ちゃん」

「沙理の兄の篠田(しのだ)颯真(そうま)です。城崎高校2年です」

「知ってます。私も城崎なので。1年の倉橋蓮です」

「倉橋?会長の妹?」

「はい。篠田さんは生徒会メンバーですよね?」

「そうだよ。会長にはいつもお世話になってます。あと、名前で呼んで。沙理も同じ苗字だし。それに沙理の友達なんだから無理に敬語を使わなくてもなくていいよ。」

「良かった。私、昔から先輩とかいなくて敬語が下手なので。たまに自然と敬語になるんですけど……」


心を開いちゃうと敬語って使えなくなるんだよね。颯真先輩、いい人だな。モテる理由が分かるよ。


「じゃあ颯真先輩って呼んでもいいですか?」

「いいよ。俺はなんて呼んだらいい?」

「名前で呼んでくれれば好きに呼んでくれていいですよ」

「じゃあ蓮ちゃんって呼ぶね」

「はい」


それからしばらく話して連絡先を交換して颯真先輩は帰っていった。


「まさかお兄ちゃんと同校だったなんてね。実は近所に住んでたり?」

「私浜中町だよ」

「一緒だ!第一中だよ。被服部なの」

「え!ホント!?じゃあ蒼井春雪知ってる?」

「はゆっち?同クラで親友だよ」

「私の幼馴染みなんだ。隣に住んでるの」

「そうなの!?すごい偶然。今度、予定が合ったら遊ぼ」

「うん!」


そしてまた翌日。沙理と別れて家に帰った。もうすぐ体育祭が始まるし熱中症には気を付けないとな。

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