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俺が春雪に初めて告白されたのは、俺が高3で春雪が中1のときだった。
そのとき、好きだって気持ちよりも世間の目を気にした。
春雪の気持ちに向き合うよりも自分の体面を気にした。
けれど、結局春雪への気持ちを諦めきれずに大和さんに許可をもらって許嫁という関係になった。
そんな俺と春雪も28歳と23歳になった。
一昨年から同棲を始めた。
春雪はファッションデザイナーを目指してデザイン事務所に就職し、去年のデザインコンテストでグランプリを受賞して今や若手ファッションデザイナーとして活躍している。
俺としても、春雪の頑張りを見てくれる人が増えたのは嬉しいけれど、すぐに無理をするから心配でもある。
今はウエディングドレスのオーダーのデザインを考えているようで、お客さんの中にある理想と春雪のイメージが噛み合わないようでここ一週間ずっとデザイン案とお客さんの要望メモと向き合っている。
コーヒーを淹れて砂糖とミルクを多めにいれて春雪の作業部屋に持って行った。
ドアをノックしても気付く様子はなく入るよと声をかけてドアを開けた。
「春雪、そろそろ休憩取れ」
「大丈夫」
「春雪の大丈夫は大丈夫じゃないだろ」
「………私、期待されてるの。だから、その期待を裏切らないように頑張らないといけないの」
「じゃあ、尚更休憩した方がいい。15分くらい仮眠取ったら頭がスッキリするし集中力も上がるみたいだから」
春雪の手を引いてリビングに連れて行ってソファに座らせた。
コーヒーは飲んだら寝れないと思いテーブルに置いて春雪にソファのクッションを渡した。
春雪はムッとした顔で寝れないと言ってソファの背もたれに頭を乗せていた。
そして、俺の方を見て両手を広げた。
俺は春雪の隣に座って抱きしめた。
すると、すぐにすぅーと寝息をたてはじめた。
相当疲れていたのだろう。
春雪の髪にキスをして背中を軽く叩いた。
そして、15分が経ってコーヒーを温め直している間に春雪を起こした。
「おはよう」
「………おはよう」
「コーヒー温めたけど飲む?」
「飲む」
春雪はふー、と息をかけてコーヒーを冷ましていっきに飲んだ。
それから俺の隣に来て唇にキスをして作業部屋に戻っていった。
口の中に少しコーヒーの香りが広がった。
春雪、あんなのどこで………って、少女漫画か。
なんでいつも少女漫画のシーンを自分でやろうって思うんだろう。
そのせいでいつも落とされて落とされてこんなに好きになってる。
いや、俺がチョロいだけか。
翌朝、起きてリビングに行くと春雪がキッチンで朝食を準備してくれていた。
きっと、いいデザインができたのだろう。
今日もお客さんと話し合いって言ってたから、春雪のデザイン、気に入ってもらえるといいな。
「おはよう、春雪。早いね」
「莉央くん、おはよ。今日はもう大丈夫な気がする」
「そっか。あ、手伝うよ。何したらいい?」
「手伝いはいいよ。いつも莉央くんが準備してくれてたから今日は私に準備させて」
「分かった。顔洗ってくる」
「うん」
春雪は笑って頷いて、大根を切っていた。
そして、朝食ができてご飯やお味噌汁を運んで春雪は卵焼きと鯖の塩焼きを持ってきた。
「豪華だな」
「ヘヘ。久しぶりに作るから頑張った」
「いただきます」
味噌汁に口をつけると、やっぱり俺が作るのと比じゃないくらい美味しい。
使ってる材料に違いはないはずなのに、春雪の作るご飯の方が美味しく感じる。
「美味い。ありがとうな」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
「なんで敬語?」
「なんでだろ」
笑って朝食を終えて、食洗機に食器を入れた。
それからスーツに着替えて髪をセットして鞄を持ってリビングに戻ると春雪ははい、と弁当を俺に渡した。
「ついでに作ったから」
「マジで?ありがとう。これで午後のミーティング頑張れるわ」
「あ、ミーティングあるの?頑張って」
「ああ。じゃあ、行ってきます」
「待って待って」
そう言って俺の手を握って顔を見上げて目を閉じた。
「………兄貴たちの真似?」
「病気のリスク下がって寿命が伸びるらしいよ。テレビでやってた」
春雪を抱き抱えてそのままキスをした。
春雪の身長は高校で少し伸びて162cmになったけど、俺の身長は185cmだから身長差が23cmあることになる。
だから、このスタイルでのキスが一番いい。
「莉央くん、そろそろ行かないとじゃないの?」
「引き止めたの誰だよ」
「え〜、誰〜?」
春雪をおろして、笑って頬を引っ張った。
「世界一愛してる誰かさんかな。んじゃ、行ってきます」
「い、行ってらっしゃい!」
春雪は少し赤くなった顔で俺を見送ってくれた。
照れてる顔も可愛い。
まだ家出たばっかだけど、もう帰りたい。
けど、弁当作ってもらったし仕事頑張ろ。
昼休み、同僚にランチに誘われたけど今日は弁当があるからと断ると同僚もビルの前のキッチンカーで弁当を買ってきて休憩室にやって来た。
すると、2歳下の後輩も休憩室に来た。
「倉橋さん、山口さん、お昼一緒にいいですか?」
「いいよ。昼川も弁当だっけ?」
「あ、はい」
「自分で作ってるの?」
「いえ、弟と一緒に住んでて弟に作ってもらってます」
「兄弟仲良いんだな」
「はい。まあ、歳が離れてるので」
それから早めに昼休憩を切り上げてデスクに戻って資料やら必要な物をもって会議室に向かった。
やっと終わった。
仕事を終えてそのまま家に向かった。
途中で春雪の好きなケーキ屋に寄ってティラミスとチョコムースにフランボワーズのソースが入っているスイーツを買って家に帰った。
鍵は開いていたのに、リビングに電気はついていない。
作業部屋にいるのかと思ってケーキを冷蔵庫に入れて作業部屋にしている寝室の隣の部屋に行くと春雪が倒れていた。
「春雪!どうしたんだ!?」
声をかけても返事がない。
額に手を当てると熱が出ていた。
無理して体調崩したんだな。
とりあえず寝室に運んで額に濡れタオルを乗せた。
冷却シートが冷蔵庫で冷やされていなくてぬるいから、それが冷えるまでは濡れタオルで我慢して貰うしかない。
数時間後、春雪が目を覚ました。
むくり、と体を起こすと熱を出して倒れてたというのに作り笑いを浮かべて大丈夫だなんて言っている。
俺の気も知らないで。
「春雪、とりあえず熱が下がるまで作業部屋には入るな」
「莉央くんには関係ないでしょ!私の仕事なんだから口出ししないでよ!」
関係ない、か。
少し怒りが湧いてきたけど、熱が出ている春雪に怒鳴るわけにはいかないからなるべく気持ちを落ち着かせた。
「確かに、春雪の仕事だ。けど、俺は春雪の彼氏だろ。関係ないなんて言うなよ。春雪だって俺が仕事で無理して倒れたら仕事するなって止めるだろ。」
「当たり前じゃん!」
「じゃあ、俺の気持ち分かるだろ。帰ってきたら春雪が倒れて熱出しててどれだけ心配したと思ってるんだよ。なのに起きたら関け、」
ダメだ。関係ないって言われたことを2回も言ったら責めてるみたいになる。
責めたいわけじゃなく、ただ、悲しかっただけだ。
悲しいと怒りを一緒にしたらダメだ。
はぁ、とため息を吐いて春雪の隣に座った。
そして、春雪を強く抱きしめた。
春雪は俺に怒っているんじゃない。
倒れた自分を責めている。
それで俺に当たっただけだ。
何も言わないまま春雪を抱きしめると、春雪はそのまま泣き出した。
「ごめん。ごめん、莉央くん。八つ当たりして。関係ないとか言ってごめん」
「いいよ。俺もごめん。春雪のことを責めたいんじゃなくて、心配だっただけなのに」
「私、今日持って行ったデザイン案、自信作で。お客さんも気に入ってくれると思ってたけど、やっぱり雰囲気変えたいって言われて。私の努力、全部なかったみたいに、話、始めて。担当、外されたの」
春雪は泣きじゃくって俺の胸に顔を埋めた。
そんな客こっちから願い下げだ、なんて言っても春雪は嬉しくも何ともないだろう。
基本的に悪口を嫌うから、相手を下げて励ますのは自分のせいで相手を悪く言われたと逆に落ち込んでしまう。
まあ、今回の場合は100%相手が悪いし落ち込む必要もないと思うけどな!
俺までイライラしてどうする。
落ち着け。
「認めて貰えないのは、辛いな。けど、頑張ったんだろ。俺は春雪が頑張ってたこと知ってるから。担当は外されたとしても、その分色んなデザインを考えたから経験値が上がったって思うことにしない?」
「………うん。ありがとう、莉央くん」
春雪は俺に抱きついたまま、また寝てしまった。
しばらくそのままでいて、春雪が完全に寝てからそっとベッドに寝かせて布団をかけた。
さてと、ミルクリゾットでも作ろうかな。
あの調子だと、多分食欲は結構ありそうだし。
〜〜〜〜〜
それから3ヶ月後。
今日は仕事が休みで花屋にやって来た。
春雪は仕事中だから俺一人だ。
予約していた33本の赤いバラの花束を受け取った。
花言葉は❝生まれ変わってもあなたを愛します❞だ。
花束を車に乗せて春雪の働いているデザイン事務所に向かった。
もちろん予約はしてあるが、他のデザイナーさんと事務の人に事情を話して春雪には名前を伏せてもらっている。
もう8月。
スーツのジャケットは暑いなと思いながらも花束を抱えて事務所に入ると、電話に出てくれたであろう事務の人が部屋に案内してくれた。
「蒼井さん、お客様です」
「へ、え!」
春雪は驚いたように目を白黒させていた。
俺は春雪に花束を渡して微笑んだ。
「春雪が一番作りたいウエディングドレスと俺に一番着てほしいタキシードを作ってくれる?」
「え、それって、」
「春雪、結婚しよう」
「っ、うん!」
春雪は右手に花束を持ったまま涙を流して、俺に抱きついた。
抱き返すと春雪は顔をあげてキスをしろと言わんばかりの表情を浮かべていたけど、ここには他のデザイナーさんたちもいるから額にそっと唇を触れるだけにした。
「ねえ、莉央くん」
「ん?」
「この花束の花言葉何?」
「………ん?」
「バラだよね?えっと、33本?」
春雪はスマホを取り出して調べようとした。
慌ててスマホを取り上げて画面を消した。
「調べなくていいから」
重いって、思われたらショックだし。
予約したときはこれしかないって思ってたけど、よくよく考えたら花言葉恥ずかしすぎる。
「じゃあ、帰るから」
「うん」
「帰り、迎えに来るから連絡して」
「ありがとう」
春雪に手を振ってデザイン事務所をあとにした。
〜〜〜〜〜
2月、結婚式当日。
籍は既に入れているため春雪は倉橋春雪として式に出る。
俺が春雪のドレス姿を見るのは今日が初めてだ。
緊張しながらも、新婦控え室に行ってドアをノックすると、プランナーさんがドアを開けてくれた。
ふわっとしたドレスを身にまとった春雪が少し照れたように微笑んでいた。
兄貴が、黃雛との結婚式の後に言っていた。
自分の奥さんのウエディングドレス姿は世界で一番美しくてまた恋に落ちるって。
大袈裟だと思っていた。
けど、確かにこれは恋に落ちる。
一目惚れと言って正しいかは分からないけど、本当に綺麗なんて言葉じゃなく美しいという言葉の方が似合うくらいでこれまで以上に春雪を愛しく感じた。
「莉央くん、緊張してる?」
「ま、まあ」
「あ、もしかして見惚れてた?」
「え、」
図星を突かれて、顔に熱が上るのを感じた。
すると、春雪も耳が赤くなっていて俺から目を逸らした。
「冗談だったんだけど、そんなマジな反応されるとは」
ボソッと呟いて、春雪は少しニヤけたような顔になった。
「莉央くん、私にメロメロ?」
「………そーですよ」
「私もだよ。莉央くん、タキシードカッコ良すぎて惚れ直した」
「春雪が作ったからな」
「似合ってるよ」
「ありがとう。春雪も似合ってる。世界一の花嫁だよ」
「世界一なんて照れるなぁ」
春雪はニシシと笑って俺の手を握った。
そして、結婚してくれてありがとうと笑った。
それから人前式を終えて、披露宴が始まった。
披露宴は順調に進んで母さんと結愛さん手作りの俺と春雪のムービーが流れた。
小さい頃の写真からだんだんと大きくなっていって、いたずらをした春雪を怒っている俺の写真や、春雪が俺の背中飛びついている写真や、高校の入学式の写真や、俺の誕生日会の写真など幼馴染みならではのムービーだった。
それから、お色直しで一度退場して控え室に向かう途中に春雪が俺の手を握って立ち止まった。
振り返ると、春雪は俺にキスをして微笑んだ。
「生まれ変わってもあなたを愛してる」
「っ!あはは、」
驚いて思わず笑ってしまった。
そして、春雪を強く抱きしめた。
「俺も、生まれ変わっても君を愛してるよ」
「………今日ぐらいじゃないと恥ずかしくて言えないから言ってみた」
「俺は、これからも時々言葉にするよ」
「じゃあ、私も恥ずかしいけど時々は伝えるようにする」
それから楽しく式は終わった。
本当に、春雪と出会えて幸せだ。




