47、好きのきっかけ
結構時間が飛びます。
本編は最終回です。
大学4年になって、もう夏休みが終わった。
無事に就職先が決まって、第一志望だった家具メーカーに内定をもらえた。
リオ兄は一昨年に広告代理店に就職し、今は一人暮らしをしている。
唯は変わらず大学生、3年生だから就活を始めているようで忙しそうだ。
春雪は、去年高校を卒業して進学ではなくデザイン事務所に就職した。
いつか独立できるように、今は技術を磨くって言っていた。
ジュン兄とヒナの娘のエマは1歳半になって、私の名前を覚えて呼んでくれるようになった。
そして仁くんは、アクセサリーデザイン部のリーダーを任されて忙しそうだけどやり甲斐があるのかこれまで以上にいきいき出勤している。
今日は私の誕生日だけど、1週間前にバイトを代わることが決まって元々予定していたデートがなくなってしまった。
「ごめんね、仁くん」
「気にするな。それよりバイト終わるの何時?」
「えっと、14時」
「分かった」
「行ってきます」
「行ってら」
仁くんに手を振って家を出て駅に向かって、電車でバイト先に向かった。
私のバイト先は駅のビルの中にあるから行きやすい。
バイト先の本屋に到着してエプロンをつけた。
スタッフルームには後輩の水本くんがいた。
「おはようございます」
「倉橋さん、おはようございます」
「あれ?今日、高校休み?」
「はい。創立記念日なんで」
「そうなんだ」
「あ、そういえば倉橋さんって今日誕生日なんですよね?おめでとうございます」
「ありがとう」
それからバイトが始まって、レジやら棚整理をして昼休みを挟んで午後も2時までバイトをした。
侑希も同じバイト先だけど、今日は夕方かららしく入れ違いだ。
私のロッカーに誕生日プレゼントを入れてくれてたから、お礼として侑希のロッカーに侑希が好きなお菓子を入れてメッセージを送っておいた。
「お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
バイトが終わったと仁くんに連絡をしてホームに向かう途中、仁くんが腕を組んで電子看板の横に立っていた。
周りを睨んでるから一瞬、どこのヤンキーかと思った。
「仁くん、迎えに来てくれてたんだ」
「迎えに来てたっていうか、行きたいところあって」
「付き合うよ」
「ありがとう」
仁くんの手を握って一緒にホームに向かった。
家に帰る方向の電車ではなく、逆方向の電車に乗るようだ。
「実家帰るの?」
「帰るけど、その前に行きたいところあるから」
「へ~」
実家の最寄り駅で降りて、町内にある少し大きい公園にやってきた。
小学生のころに何度か課外学習で来たことがあった。
どうしてここに来たんだろうと思っていると、仁くんが木陰のベンチに座った。
公園で遊んでいる子たちがこっちを見ていた気がするけど、すぐに遊びに戻った。
「むかし、課外学習でここに来たこと覚えてるか?」
「うん。懐かしいね」
「蓮が小3のときの課外学習で同級生と喧嘩になったことは?」
「………覚えてるけど」
まあ、原因が原因だし。
まさか仁くんが覚えてるなんて思ってなかったけど。
きっと仁くんからしたらなんで急に喧嘩が始まったんだろうって感じだっただろうし。
「恥ずかしいから忘れて」
「嫌だ」
「なんで?」
「喧嘩のあと、莉央から原因教えてもらった」
「………え、」
「俺のことを悪く言ってたやつに言い返して喧嘩になったって。ありがとう、蓮」
「そうだよ!どういたしまして!けど、恥ずかしいからホント忘れて」
「無理」
仁くんはそう言い切るといたずらっぽく笑った。
やっと笑ったことが嬉しいのと、さっきまでの仏頂面からのギャップとで何も言えなくなっていると、仁くんは私の顔を覗き込んだ。
「俺が蓮を好きになったきっかけだから、忘れない」
あ~、あつい。
誰かさんのせいか、気温のせいかわからないけど。
ていうか、そんなに前から好きでいてくれたんだ。
それを知れたのは嬉しいな。
「そういうことなら、忘れなくていい」
「ああ」
仁くんは笑って頷いた。
すると、足元にボールが転がってきた。
仁くんがそれを拾うと男の子がこっちに走ってきた。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
男の子の背中を見送ると、仁くんは私の顔を見た。
「蓮が大学卒業したら結婚しよう」
「え……」
「あ~、緊張した」
仁くんが笑って息を吐いているのを見て思わず笑ってしまった。
「仁くんも緊張とかするんだ」
「蓮に告白したときも緊張してたけど」
「そうなんだ。てか、緊張してたから今日あんまり笑ってなかったの?」
「そうだったか?」
気づいてなかったんだ。
てか、フラれると思って身構える必要なかったじゃん。
「仁くんはさ、なんで結婚したいと思ってくれたの?」
「なんでって、逆に、好きだから以外に何があるんだよ」
「何もない」
震えた声で言ってしまった。
そういう真っ直ぐな仁くんが大好き。
いつか、仁くんが私でいいなら結婚してほしいって思ってた。
仁くんもそう思ってくれてたんだ。
涙が止まらない。
「返事、聞いてもいいか?」
私は小さく頷いて、涙交じりの震えた声のまま仁くんに言った。
「はいに決まってるじゃん、」
「マジで?俺でいいのか?」
「仁くんがいいの」
私の言葉を聞いた小さい子たちのお母さん方が拍手をした。
すると、遊んでいた子供と小学生の子たちも拍手で祝福してくれた。
嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。けど、やっぱ嬉しい。
近くに座っていたおばあさんも拍手をしながらこっちに歩いてきた。
「ばあさんからの上から目線なアドバイスだけど、お兄ちゃん、こんなに喜んでくれるくらい自分を好きでいてくれる子なんてそういないから大切にしてあげてね」
「はい」
「おめでとうね、二人とも」
おばあさんは微笑んで歩いて行ってしまった。
それから実家に帰ると、春雪と唯と愛理がサプライズで誕生日パーティーの準備をしてくれていたようでリビングが飾り付けてあった。
誕生日パーティーも嬉しかったけど、なんかもう夢を見ているみたいな不思議な感覚だった。
「蓮ちゃん、どうしたの?」
「心ここに在らずって感じだけど」
「どうせ兄貴となんかあったんだろ?あんなんだし」
唯は結愛さんとお母さんと一緒にケーキの用意をしてくれている仁くんの方を見た。
仁くんは、顔が緩まないようにと仏頂面でいる。
お父さんと大和さんが帰ってきてから話すってことになったけど、もう先に言ってもいいかな?と思っているとお父さんたちが帰ってきた。
リビングのドアが開いた瞬間、仁くんはお父さんと大和さんの前まで行った。
そして、報告というよりも自慢に近い感じで二人に話した。
「蓮が大学卒業したら、結婚するから」
その瞬間、春雪は嬉しそうに笑って愛理は私の肩を揺らして唯は少し涙ぐんでいた。
けど、一番驚いていたのは意外にもお父さんたちではなくお母さんと結愛さんだった。
「蓮と仁が?」
「やだ、どうしよう。」
「なに泣いてるのよ、ユリア」
「結愛こそ、」
まさかの二人の動揺に私たちの方も動揺を隠しきれない。
「お、お母さん?大丈夫?」
「大丈夫なわけがないでしょ。あの、ヘタレ仁と鈍感蓮が結婚とか」
結愛さん、酷い。
春雪も頷くところじゃない。
「結愛の言う通りよ。けど、仁なら蓮のことを任せられる」
「「おめでとう」」
結愛さんとお母さんは涙を拭いて微笑んだ。
続くようにお父さんたちも祝福の言葉を贈ってくれる。
それから半年後、無事に大学を卒業し入籍、そして友達と親族だけの小さい結婚式を開いた。
指輪は仁くんと一緒にデザインを考えて、仁くんの会社で買った。
披露宴は、お父さんの弟で叔父の岬さんの紹介してくれたレストランで行った。
そして、お祖母ちゃんとお祖父ちゃん以外にも二人、海外から来てくれたゲストがいる。
リョウちゃんこと、小谷凌平
私のもう一人の幼馴染で、今はドイツに住んでいる。
仁くんと付き合ったことを伝えたとき、結婚式には絶対に呼んでねと言われて、思っていたよりも早くその約束を果たすことになった。
そして、もう一人のゲストは従妹のエレナ。
「凌平って呼んでいい?」
「いいよ」
エレナはリョウちゃんに一目ぼれしたようで積極的にアタックにいってる。
リョウちゃんはリョウちゃんでエレナの行為に気付かず普通に接している。
それにしても、もう6年半近くドイツにいるだけあってドイツ語ぺらぺらだな。
私よりも上手いかも。
「俺、春から日本の部署に移動なんだ」
「え⁉私も春から日本の大学に行くの!こっち来たら日本語教えて!」
「教えるのはあんまり得意じゃないけど、それでもいいなら」
「ありがとう!凌平!」
リョウちゃんとエレナ、意外といい感じかも。
二人に来てくれたお礼を言って、侑希たちのところに行くと仁くんが何故か真っ赤になっていた。
「どうしたの?」
「従妹ちゃんと小谷くんにレンレン取られてやきもち焼いてたんだよ」
「え~、かわいい。そうなの?仁くん」
「違う」
侑希と詩音は嘘だ~と言ってニヤニヤしていた。
タクミンと翔弥はそこまでにしてやれよと仁くんを庇っていた。
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それから、一カ月もしないうちに入社式があり、社会人となった。
少し慣れてきて、同じ部署の同期だけで飲み会をしようということになった。
会社から二駅ほど離れたところにある話題の創作居酒屋だ。
そんなに人数が多くないから、個室ではない。
「私、ずっと気になってたんですけど、蒼井さんってご結婚されてます?」
「あ、はい。今年の三月に入籍したばかりで」
「だから、最初の方は名前呼んでも反応遅かったんですか?」
「まだ、慣れていなかったので」
「いいな。私は結婚どころか彼氏すらいないです。いい人いたら紹介してくださいよ」
「私の周りの人は大体相手がいるので」
それから、いろいろ話しているうちに8時を過ぎた。
明日も仕事だし、響くといけないので早めにお開きになった。
少し前に仁くんに帰ると連絡したら、ちょうど近くまで来ているからと車で迎えに来てくれることになった。
居酒屋から出ると、私服姿の仁くんが立っていた。
「車の中で待っててくれてよかったのに」
「いや、同期の人たちにあいさつした方がいいと思って」
「あ、そっか」
仁くんは同期のみんなの方を向いた。
「いつも妻がお世話になってます。蓮の旦那の蒼井仁です」
それ言いたかっただけじゃん、絶対。
「じゃあ、お疲れさまでした」
家に帰ってすぐにお風呂に入って、仁くんと一緒にアイスを食べながらためていたアニメを見る。
最高に幸せ。
アニメを見終わるころには仁くんは私の肩に寄りかかって寝ていた。
運べないんだけど。
薄めの毛布を持ってきて仁くんにかけた。
最後まで見ていただきありがとうございました。




