43、大学生
俺も愛理も高校を卒業して無事に大学に合格した。
そして、今は春休み期間だ。
俺も愛理も春から大学生になるし、バイトを始めることにした。
同じバイト先は周りが気を遣うと思って近くではあるもののバイト先は別だ。
暇だな~と思って部屋に寝転がって天井を眺めていると、ノックも無しに妹の春雪が部屋に入ってきた。
目線だけ向けると、俺に適当に服を投げつけた。
「唯兄!着替えて!」
「は?」
「いいとこ見つけたんだ!パンケーキ食べに行こ!」
まあ、暇だしいいか。
甘党な方だし、免許取ったばっかだからその練習ってことで。
服を着替えて母さんに車を借りてスマホのナビを開いてパンケーキが美味しいらしいカフェに向かった。
家から約30分の距離で、店に着いて中に入ると女子ばっかだった。
春雪は気にせず席に着いてメニュー表を見ていた。
てか、周りの人たち全員パンケーキだな。
あ、オムライスの人もいる。
「ハニースフレパンケーキする。唯兄は?」
「俺は、そのスフレパンケーキにバニラアイスと苺ソーストッピング」
「え、いいな。一口ちょうだい」
「春雪のもな」
タッチパネルで注文をして約15分後、甘い香りを漂わせてパンケーキが運ばれてきた。
写真を撮って、先に一口大で切ってパンケーキを交換して、自分のパンケーキを食べた。
「美味っ!」
「美味しい~」
「やっぱり春といえば苺だな」
「だね~」
パンケーキはすぐに食べ終わってしまって、パフェも頼んだ。
さすがに大きかったから、春雪と半分こにしたけど。
最後にコーヒーを頼んで甘くなりすぎた口を戻した。
「そういえば、誕生日なんか欲しいのあるか?」
「リュック!通学用のやつ!」
「じゃあ、このまま買いに行くか」
「やった!」
それから、近くの店に行ってリュックを見てみた。
春雪が気に入ったやつがあったらしく、それを買って家に帰った。
家に帰ってから、散歩に行くことにして桜が綺麗な川沿いを散歩することにした。
川沿いを真っ直ぐ歩いているとだんだん駅が近付いてきた。
すると、駅のすぐ側のカラオケに愛理が立っていて男2人に話し掛けられていた。
走って愛理の手を引いて抱き寄せた。
「俺の彼女になんか用?」
「唯!ビックリした!」
愛理は驚いた顔で俺の顔を見上げた。
「蒼井?」
ナンパ男は俺の方を見てそう言った。
すると、後ろから同じ中学だったやつが何人かやって来た。
「蒼井じゃん!なんでいんの!?」
「え、」
状況が理解できなくてナンパじゃなかったのか?と愛理に慌てて訊いた。
すると、中学3年で同じクラスだったメンバーで遊んでいて男子2人も同じクラスだったらしい。
言われてみれば片方は1回同じクラスなったことあった気がするわ。
「てか、唯に言ったじゃん。中3のときの友達とカラオケ行くって」
「今日だっけ?」
「そうだよ」
忘れてた。
元同級生たちの視線が痛い。
いや、けど彼女がナンパされてるって思ったら相手の顔とか見てる暇ないし、予定とかも思い出してる余裕ねえだろ普通。
けど、一応ナンパって勘違いしてしまったことを謝っといた方がいいよな。
「ナンパと勘違いしてごめん」
「いいよ。驚いたけど」
「それより唯、いつまでこうしてるつもり?」
「え?」
愛理に言われてさっきからずっと愛理を抱きしめていたことに気付いた。
元同級生の視線が痛かったのはこのせいか。
愛理を離して目を逸らした。
「蒼井と愛理、今さらだけど付き合ってんだ」
「うん」
「どれぐらい?」
「2年と3ヶ月くらい」
「長っ」
それから皆で中学に行くらしく一緒について行かせてもらうことにした。
手を繋がないの?なんて言われるのは無視して中学校に行った。
久しぶりに中学の先生に会ってそれぞれの進路を報告して帰ることになった。
「じゃあね」
「またな」
それぞれ別れて俺は愛理を家まで送っていくことにした。
にしても、結婚式が楽しみとか。
まだ大学入ったばっかだってのに、皆気が早いな。
「唯?聞いてる?」
「あ、悪い。なに?」
「あ~あ。今、告白っぽいこと言ってたのに」
「え!ごめん!もっかい言って!」
「やだ」
「マジでお願い!」
愛理は少し考えてやっぱりやだと言って俺の腕に抱きついた。
ちゃんと聞いておけば良かった。
ため息をつくと、愛理は俺の肩に手を置いて耳元で呟いた。
「勘違いだったけど、守ろうとしてくれて嬉しかったよ」
そう言うと、愛理ははにかむように笑った。
やっぱり、愛理ってずるいな。
「じゃあ、またね」
「ああ」
愛理に手を振って家に帰った。
それから約2週間後、俺たちの大学の入学式がやって来た。
「母さん、父さんのことどうにかしてくれ」
「無理に決まってんでしょ」
「父さん!いい加減写真撮るのやめろ!」
「安心しろ、唯。これは動画だ」
マジでこの親バカジジイ。
もう、空気だと思ってよう。
家を出て駅まで車で行って愛理と愛理の両親と合流して一緒に大学に向かった。
大学の入学式と書かれた看板の前で母さんたちと写真を撮って、愛理と俺の2人でも撮ってもらうことになった。
「2人とも表情固いわよ」
「唯も愛理ももっと寄って」
「ハート作ったらどう?」
「柚希ちゃん、ナイス」
「「普通に撮って!」」
俺と愛理が慌てて言うと、母さんも柚希さんも笑ってシャッターボタンを押した。
なんとなく、柚希さんが母さんと仲良くなった理由が分かるわ。
入学式を終えて母さんたちは先に帰って俺も愛理も総合学部でそのオリエンテーションに参加してから昼ごはんを食べて帰った。
入学して2週間ほどが経った。
同じ授業ばかりってわけじゃないから昼ごはんのタイミングが合わなくて同じ授業を取ってた人と食べてばかりだったけど、今日初めて時間が被って食堂にいると聞いていたから友達と食堂に向かった。
「ここ、いいですか?」
「どうぞ、って唯!」
「愛理の友達もお邪魔してもいいですか?」
「はい!」
「どうぞ!」
愛理たちの座ってたテーブルの空いていた席に座らせてもらった。
今日の午後からは同じ授業だから、一緒に講義室に行ける。
「恭平!柴田!ここいいって」
学食でカレーと定食を買っていた友人に手を振って居場所を教えるとトレイを持ってこっちにやって来た。
「唯、彼女いるからっていつも相席したいって言われても拒否じゃん」
「なに?唯、タイプの子いんの?」
「タイプっていうか、彼女」
愛理の方に視線を向けると、愛理が2人の方を見て小さく頭を下げて微笑んだ。
「え、この人あいりんの彼氏なの?」
「うん」
愛理の友達も驚いた顔をして俺の方を見ていた。
「なるほど。クソ!」
「急にどうした?」
「いや、イケメンの彼女はやっぱり可愛いんだなって」
「まず俺らじゃ可愛い子と知り合うのがムズいし」
「愛理ちゃんだっけ?誰か可愛い子紹介して」
恭平も柴田も愛理の方に言って手を握ろうとした。
2人とも俺が睨んでるのに気付いて愛理の手を握るのをやめた。
てか、愛理が困ってんの見て分かるだろ。
「早く食べねえと講義遅れんぞ」
「あ、そうだった」
昼ごはんを食べて俺と愛理は同じ授業だけど他は違う授業だから別れて講義室に向かった。
部屋の前の方の席しか空いてなくてそこに並んで座った。
授業を終えて、そのまま家からの最寄り駅の側にあるバイト先に向かった。
ちなみに、俺はラーメン屋で愛理は向かいにあるパン屋でバイトをしている。
俺も愛理も食べることが好きだから絶対飲食系でバイトしようって決めていた。
「すみません、注文いいですか?」
「はい!お伺いします」
~~~~~
「疲れた~」
「お疲れ、蒼井くん」
「今日、忙しすぎませんか?」
「そうだね。週末って言ってもお客さん多かったね。しかも、女性のお客さん」
「あ~、言われてみれば」
着替えていると、スマホの着信音が鳴った。
ヤバ、切ってなかった。
スマホを開くと、愛理からバイト終わったよとメッセージが着ていて急いで着替えて先輩に挨拶をして店を出た。
「お疲れ、唯」
「愛理もお疲れ」
「今日、すごい忙しかったんだ。いつもの倍くらいお客さん来て」
「マジで?こっちも」
「しかも、男性のお客さんが多かった。いつもはお母さん世代の女性ばっかなのに」
「こっちは女性が多かった」
近くでイベントでもやってたのかもしれない。
ここの駅、乗り換えとか多いから。
まあ、お客さんが多いと忙しいけど店としては儲かるからいいのか。
翌日、朝、結構雨が降っていた。
傘を差して愛理の家まで迎えに行った。
愛理も傘は持ってくるけど、俺の傘が大きいのと2人とも傘を差すと話しにくいので俺の傘に入ってバイト先に向かう。
「雨だし、今日は人少なそうだな」
「そうだね」
「俺、今日上がるのちょっと早いから帰りにそっちで明日の朝ごはん用のパン買ってこいって母さんに頼まれてんだよな」
「そのときに、おすすめ教えるよ」
「頼むわ」
笑ってそれぞれの店に行った。
てか、雨だと普段はお客さんが減るのに、お客さんが増えてるのはなんでだ?
今日もなんかのイベントあんのか?
17時半まで働いて、私服に着替えて向かいのパン屋に行った。
それにしも、混んでるな。
少し並んでやっと店に入れると愛理がやって来た。
「いらっしゃい!唯!ごめん、忙しくておすすめ紹介してる時間ないからメモ送っといた。それ見て」
「ああ」
スマホを開くと、確かに愛理からメモが送られてきていた。
愛理はレジの担当していた人と変わって忙しそうにしていた。
時々、連絡先か何かを渡している人が見えるのは俺の気のせいだと思っておこう。
愛理おすすめのパンを持ってレジに行くともう6時だったから愛理もバイトが終わりだったらしく俺のパンをレジに通してすぐに上がった。
まだ、雨が降っていたからリュックに紙袋ごとパンを入れて傘を持って店の前で愛理が出てくるのを待った。
それにしても、俺と同じように店の前で待ってる人多くね?
他のバイトの人の彼氏とか?
いや、けど愛理以外に2人しかいなかったよな?
疑問に思っていると私服に着替えた愛理が出てきた。
すると、店の前で待っていた人たちが愛理を囲もうとしたからその前に愛理の手を引いて抱き寄せて傘に入れた。
「お疲れ、愛理」
「う、うん。唯も、お疲れ」
「家まで送る」
「ありがとう」
他の奴らを睨んでそのまま愛理ん家に向かった。
愛理はさっき急に抱き寄せたことにまだ驚いているというか、照れているようで可愛かった。
雨、いいな。相合傘できるし。
あっという間に愛理の家に着いてしまって、少し寂しいなと思っていると、愛理が俺の手を握って頬にキスをした。
驚いて愛理の顔を見ると真っ赤になっていた。
俺は愛理を抱きしめるように顔を近付けて唇にキスをした。
「じゃあ、またな」
「またね」
俺も愛理も真っ赤な顔で見合って少し恥ずかしくて笑って手を振った。
やっぱ、愛理は可愛すぎる。
てか、パン屋が混んでたのは絶対愛理目当てのお客さんが来てたんだろうな。
まあ、今日ので牽制はできたと思うけど。




