42、結婚
1月に入ってしばらくが経った。
今度の休みにするデートの終わりにジュンに逆プロポーズをする予定だ。
指輪はジュンから貰ったものがあるから渡すつもりはない。
今日は私の方が早く起きたから余り物を使ってお弁当を作って朝食の準備をしていると、ジュンがあくびをしながらリビングにやって来た。
「はよ、ヒナ」
「おはよう」
ジュンはキッチンに来ると、トーストを乗せたお皿と目玉焼きの乗っているお皿をダイニングテーブルまで運んでくれた。
そして、インスタントスープの置いてある箱を覗いて私の方に視線を向けた。
「スープどうする?」
「コンポタ」
「オッケー。俺もそうしよ」
ウォーターサーバーのお湯を使ってコーンポタージュを用意してダイニングテーブルに朝食が並んだ。
私もジュンも朝ごはんは結構しっかり食べる派でスープもなるべく飲むようにしている。
「ヒナ、今日は遅いんだっけ?」
「職場の人とご飯行くけどいつもより遅いぐらいでそんなに遅くならないよ」
「迎えは?」
「来てくれたら助かります」
「じゃあ後でお店の住所送っといて」
「うん」
やっぱジュンって、私にはもったいないくらいいい彼氏だな。
てか、ジュンがなんでこんなに私のこと好きなのかいまいち分かんないんだよね。
自分で言うのもあれだけど、見た目はいい方だとは思う。
けど、ジュンならもっと美人とも付き合えるし私って性格は難ありだからな~。
弟をこき使ったり、口悪かったり。
それはジュンも一緒か。
まあ、いつか聞ければいいかな。
朝食を食べ終えて食洗機に食器を詰め込んで仕事に向かう支度をした。
「じゃあ、行ってき」
「あ、待って」
ジュンは私にキスをして抱きついた。
「今日もお互い仕事頑張ろう」
「うん」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ジュンに手を振って家を出た。
行ってきますの儀式も、ちょっと恥ずいけど仕事頑張れる。
それに、嫌なことあってもジュンも頑張ってるって思ったら忘れられるし。
それから数日後。
朝食を終えてからいつもより気合いを入れてメイクをとヘアアレンジをしてジュンが買ってくれた新しい服を着た。
準備を終えてリビングに戻ると、ジュンも準備を終えていたらしくいつもより少し大人っぽい服装をしていた。
「カッコいい」
「そうか?」
ヤバ、心の中で言ったつもりだった。
熱くなった顔に手を当てて冷ますとジュンがニッと笑って私の顔を覗き込んだ。
「久しぶりにヒナが褒めてくれたと思ったら、もしかして照れてる?」
「ち、………そうだよ。ジュンが大人っぽい格好すんの珍しいから慣れてない」
「………ヒナ、今日なんか素直じゃない?」
「なんでジュンが照れてんの?」
「照れてねえよ」
ジュンは顔を背けて手で扇いでいた。
とりあえず準備も出来たから早速デートに出発だ。
まずはシネマで新作の映画を観る。
レンに泣けると聞いた恋愛映画だけど、私、あんまり感動して泣いたりはないんだよね。
映画が始まってスクリーンを観ていると、隣の影が小さくなった。
ジュンの方を見ると背中を丸めて涙を堪えていた。
そうなんだよね。ジュンの方が私より断然涙もろいんだよね。
上映が終わってシアターから出るとジュンは少し恥ずかしそうに私の方をチラチラ見ていた。
こういうとこ、可愛くて好きなんだよね。
「おもしろかった」
「そうだね」
「次どうする?お昼食べに行く?」
「うん。俺はパスタ食べたい気分だな。ヒナは?」
「私も!」
ということで、お昼はパスタを食べに行くことにした。
近くでちょっと気になっていたパスタ屋さんがあったから今から車でそこに行く。
パスタ屋さんで食事をして、そのまま近くのショッピングモールに向かった。
マグカップがこの前欠けてヒビが入ったせいで飲み物が飲めなくなったから新しいのを買うことにした。
ついでにゲームセンターに寄ってクレーンゲームをした。
「あ、もう5時か。この後どうする?」
「イルミネーション見に行かない?ちょっと遠いとこだけど、明日休みだし」
「うん」
「私、行ったことあるから運転するよ」
「いいの?ありがとう、ヒナ」
ジュンは私の手を握って笑った。
クレーンゲームで取ったクマのぬいぐるみキーホルダーをそれぞれ鞄につけた。
てか、なんか高校生の付き合いたてのカップルみたいなことしてない?
気付くとちょっと恥ずかしいかも。
車に移動してイルミネーションをしている公園に向かった。
車で40分くらいの距離だけど、プロポーズするならやっぱり景色のいいところがいいと思うし。
公園に着いて車から降りると、ジュンは私にマフラーを巻いて手を握った。
「ありがとう」
「どういたしまして。風邪引かないようにな」
「うん」
イルミネーションでできたハートのオブジェの前で写真を撮ってからイルミネーションをゆっくり見ることにした。
それにしても、今日は人が多いな。
なるべく、人の少ない方向に行ってイルミネーションを見ていた。
「綺麗だな」
「うん。綺麗」
微笑むとジュンは少し照れたように笑っていた。
今の照れる要素あった?
少し歩いて広場に行くと、屋台が出ていてそこでおでんやホットドッグを買って食べた。
どうしよう。プロポーズってどのタイミングでしたらいいんだろ。
緊張しすぎてあんまり食べれないし。
「ヒナ、体調悪いのか?」
「え、なんで?」
「あんまり食べないし」
「大丈夫」
ジュンがゴミを捨てに行ってくれるのを待っていると急に人だかりがやって来た。
そのときに誰かにぶつかって、今日ジュンが取ってくれたキーホルダーがその誰かの鞄の中に入ってしまった。
その人に声を掛けようとしたけど、その人は気付かずに人だかりに紛れていった。
私は慌てて人だかりの中でその人を探した。
なんとか、キーホルダーを返してもらって辺りを見るとどこか分からなくなっていた。
「すみません。俳優の沙樹くんが来てるって聞いて追いかけてたら夢中で気付きませんでした」
「え、沙樹?」
「あなたもファンなんですか?」
「ファンってほどでは」
ただ、最近デビューしたばっかの22歳なのに持ち前のルックスと演技力や表現力で主演ドラマや映画は全部ヒットしてるって、この前バラエティー番組で言ってた。
とりあえず、キーホルダーも見つかったしジュンに連絡してさっきの場所に戻ろうかなと思ってスマホを開いた瞬間、眩しく光っていたイルミネーションのライトが消えた。
しかも、スマホも使えなくなった。
そのせいで周囲はパニックになって騒がしくなっていた。
広場内に放送が流れて原因を調べるため、明かりがつくまで動かないようにと言われた。
プロポーズ、今日するのやめようかな。
ため息をついて空を見上げると綺麗な星空が広がっていた。
ジュンに見せたい。
そう思って、ジュンのいるであろう方に走った。
すると、向こうから小さな明かりが見えてきた。
走って近付くとジュンがスマホのライトで照らしてこっちに来ていた。
ジュン!と呼ぶ前に私の前に来て抱きついた。
「ヒナ、どっか怪我してない!?」
「してないよ。ジュンは?」
「大丈夫。ヒナいなくなってたから驚いた」
「ごめん」
「怪我がないならいいよ」
ジュンはさらに強く私を抱きしめた。
「星が綺麗だよ」
「あ、ホントだ」
「停電も悪いことばっかじゃないね」
「そうだな」
一緒に夜空を見上げていると周りのイルミネーションが急に灯った。
すると、原因が分かって修理が終わったと放送で流れた。
スマホも使えるようになっていた。
もう、今しかないよね。
「潤」
「ん?」
すぅ~、はぁ~、と深呼吸をして潤の顔を見上げた。
「これから先、ずっと一緒にいたい。だから、私と結婚してください」
「………へ」
ジュンは驚いた様子で何度も瞬きをしていた。
しばらく動かないままだったけど、私が肩を叩くと急に照れたのか口元に手を当てていた。
イルミネーションの明かりのせいか分からないけどジュンの耳が真っ赤に染まっていた。
「ヒナ、今の俺の聞き間違いじゃないよな?」
「うん」
「ヒナからプロポーズされるなんて思ってもなかった。ありがとう、黄雛。俺でよければよろしくお願いします」
「潤がいいんだよ」
笑ってジュンの顔を両手で挟むとジュンは私の手に自分の手を重ねて泣きそうな顔で私の顔を見下ろしていた。
「俺も黄雛とずっと一緒にいたい」
「うん」
「夢みたい」
「夢じゃないよ」
「人生で一番幸せ」
「ジュンの一番幸せはよく更新するよね」
「いいだろ」
ジュンは笑って私の額にキスをして笑った。
なんだかんだあったけど、プロポーズできて良かった。
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それから約2週間後、無事に入籍を果たした。
親に挨拶も婚約期間も十分だねって話してたし、ジュンはなるべく早く入籍をしたかったらしい。
婚約指輪は元々ネックレスのチェーンに通してたけど入籍してからは指につけるようになった。
ジュンは左手の薬指を見ては顔の筋肉を緩ませている。
「ヒナが俺の妻か。妻って響きいいな」
「それ言うの何回目?」
「嬉しいから仕方ないだろ。てか、倉橋黄雛もいいな」
そう言うと、ジュンは笑って私に抱きついた。
「ヒナ、俺と結婚してくれてありがとう」
「こっちの台詞だよ。プロポーズされる嬉しさをジュンにも味わってほしかったの」
「うん。めちゃくちゃ嬉しかった」
結婚式はまだ式場は決めていないものの、親族と少しの友人だけで行う予定だ。
ちなみに、オーストリアに住んでいるジュンのお祖父さんお祖母さんにも可能であれば出席してもらうつもりだ。
私は21歳でジュンは22歳。
結婚するには少し若い年齢だけど、もうこの人しかいないって思うから家族になりたいって思った。
まあ、元々幼馴染みっていうのもあるからか、入籍後も特別変わることはない。
いつも通りジュンの隣は落ち着くだけ。




