38、同窓会
ジュンと同棲を始めて2ヶ月と少しが経った。
同じ家にジュンがいるって最初はちょっと違和感だったけどなんか落ち着くからすぐに慣れた。
部屋はそれぞれの部屋があるけど、毎日一緒に寝てる。
なんか、一緒に寝てる方が疲れが取れる気がする。
ジュン本人に言ったらからかってきそうだから絶対に言わないけど。
今は8月の2週目。今日は小学校の同窓会に行く。
担任の先生だった東川先生が今年の夏で定年だったからそのお祝いも兼ねての同窓会だ。
それに合わせて他のクラスも合同で同窓会をすることになった。
ジュンが前に買ってくれたワンピースを着てヘアアレンジをしてメイクを終わらせた。
「ヒナ、可愛すぎる!やっぱ黒髪いいね。最高」
ジュンはパシャパシャ写真を撮っていた。
実は高校に上がってからずっと明るい色で黒髪に戻したのは5年ぶりだ。
結構ガラリと印象が変わったと思うけど、ジュンは黒髪をめちゃくちゃ気に入ってるっぽい。
私も気に入ってるけど。
「そろそろ莉央が来る頃か」
「あ、そうだね」
腕時計を見るとちょうどインターホンが鳴ってリオが来ていた。
ジュンと一緒に1階まで降りるとリオが腕時計を見てこっちに歩いてきた。
「黄雛、早く行こうぜ」
「ヒナ、莉央、帰り連絡しろよ。車で迎えに行くから」
「「ありがと」」
ジュンに手を振ってマンションを出て駅に向かった。
駅に着いて同窓会会場に向かう電車に乗った。
会場は県内にある有名なホテルだ。
ヤバい、めちゃくちゃ楽しみ!
駅に着いてホテルまで歩いて会場の前で受付をして中に入った。
「黄雛!」
「莉央くん!」
「久しぶり~!」
元同級生たちがこっちにやって来た。
皆変わったな。
成人式で会った子もいるけど、中学の同窓会に行ったから小学校の頃の同級生はちゃんと会うのはめっちゃ久しぶりかも。
「2人とも今なにしてんの?」
「私はアパレルショップの販売員」
「俺は大学3年生」
「2人ともめっちゃ想像できる」
これは、褒め言葉?
まあ、いっか。
とりあえず先生に挨拶をして、涼華を探した。
今日来るって言ってたし。
辺りを見渡していると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「黄雛!ホントに髪戻ってる!」
「どう?」
「めっちゃいい!というか、なんで急に戻したの?」
「好きな人に飽きられないため、かな」
同棲始めて毎日顔会わすから、ドキドキとか無くなりそうだし。
「黄雛、相変わらず潤先輩のこと大好きだね」
「ノーコメント」
「無言の承認ってことね」
ふんっと鼻を鳴らして涼華から顔を背けた。
そして、涼華の方を見て顔を見合わせて笑った。
このやり取り、つい2週間前にしたばっかだな。
涼華と話した後、それぞれ料理を食べるために分かれた。
やっぱいいホテルに来るなら料理はしっかり堪能しないと。
けど、これまで食べた中で一番美味しかったのは風邪引いたときにママが作ってくれたお粥なんだよね。
どんな料理もあの味には勝てない。
しかも、滅多に風邪を引かないから元気なときに作ってもらったことはあるけど全然味が違った。
もう一生食べられないならあのときおかわりでもしておけば良かったな。
そんなことを考えながら料理を食べてワインを飲んでいると、元同級生の男子が数人やって来た。
「蒼井、久しぶりだな」
「あ~、だね。成人式いた?」
「行ってない。てか、変わらないな」
ホントはピンクから黒髪になったから結構変わってるんだけどね。
「そっちは、変わったね。身長伸びてるし、髪型もおしゃれじゃん」
「おしゃれ番長の蒼井に言われたら自信つくわ」
「おしゃれ番長って」
まさかそんなあだ名があったとは思わず笑ってしまった。
小学校は私服だったから、いつもテーマ決めてコーデ組んでたな。
それで、今日のコーデなんだと思う?って友達皆にクイズ出してたな。
「みんな、今何してるの?」
「俺らは普通に大学生。こいつだけ医学部」
「マジ!?大変そう」
「まあな。蒼井は?」
「私は去年までファッションの専門行ってて今はアパレルショップの販売員。よかったら買いに着てね」
一応お店の名前が書いてある名刺を渡しておいた。
店の宣伝頼まれちゃったし、ほどほどに宣伝しとこ。
大学生だから、私服とか毎日着る人も多いだろうし。
それから他の友達と話しては抜けてご飯を食べたりスイーツを食べたりしてお酒を飲んでいると、リオがやって来た。
「やっと解放された」
「お疲れ。飲む?」
「ああ」
リオにワインが入ったグラスを渡して、空いているテーブルに移動した。
モテる男は疲れそうだなと思いながらリオに哀れみの目線を向けた。
リオは少し疲れた様子でワインを飲んでいる。
こういうときの表情はジュンにそっくりなんだよな。
それからリオと少し喋って他の友達のところに行くと女子の騒ぐ声が聞こえてきた。
「あ!飛鷹くんだ!」
「ヤバ!スーツカッコいい!」
飛鷹と言う名前が聞こえて心臓が一瞬ドクンと跳ねた。
飛鷹七緒、小学6年生のときに隣の小学校から転校してきて、私の元カレで初恋の人だった。
けど、高3の夏に、七緒の浮気が原因で別れた。
別に今さら掘り返そうとは思わないし、今は感謝もしている。
七緒と別れたお陰でジュンと付き合えたって言ったら嫌味になるかも。
「飛鷹くん!一緒に話そ~!」
近くにいた友達が七緒の方を向いて手を振った。
私と七緒が付き合ってたこと知らないから仕方ないか。
七緒は私に気付いてなかったのかこっちにやって来た。
そして、目が合った瞬間、驚いたような顔をした。
「黄雛、髪色戻したんだな」
「うん」
「大人っぽいな」
「そう?ありがと」
笑って答えると、友達がニヤニヤした笑みを浮かべながらその場から離れて行った。
絶対に変な勘違いしてるな。
まあ、別に後で訂正すればいっか。
「そういえばさ、あの幼馴染みの子とどうなったの?」
「別に何も。俺はもう誰とも恋愛する資格はないから」
「………」
話題、間違えたな。
少し申し訳なく思っていると、七緒が近くにあったお酒を飲んで私の顔を見た。
「俺、黄雛が初恋だった。その初恋の相手に最低な行動して、もう恋愛が怖い。自分が悪いって思わずに相手を悪者にして、また好きな人を泣かせそうな気がするんだ」
七緒はそう言うとお酒を飲み干した。
「………そっか。私もね、七緒が初恋だったよ。まあ、今はジュンが好きだけど。今でも、七緒は最低なことしたって思う」
「ああ」
「けどさ、そんなに反省してるならもう同じことはしないんじゃない?無理に恋愛しろってわけじゃなくて、いつか、好きな人ができて付き合うことがあったら、そのときは思う存分大切にすればいいんだよ」
七緒は少し明るくなった表情で小さく頷いた。
てか、ホント根が真面目すぎるというか。
浮気した罪悪感を何年も引きずるところが七緒らしいな。
けど、この様子ならもう好きな人を傷付けることはないだろう。
「俺に好きになられて喜ぶ子なんて」
「いるよ。赤い糸で繋がった運命の人とか」
「………付き合ってるときも思ってたけど、黄雛って結構ロマンチストだよな」
「誰だって少女漫画のヒロインに憧れてもいいでしょ?」
「っ!そうだな、」
もし、本当に運命の人が2人いるなら1人目の恋とその恋を失う辛さを教えてくれる人は七緒なんだろうな。
そして、2人目が永遠の愛を教えてくれる人。
それをジュンで考えるとか重いな。
でも、なんか、受け入れてくれそうっていうか、ジュンも言ってるし。
七緒が他の友達のところに行くと、さっき散らばっていった友達が戻ってきた。
「黄雛!なに?あの微妙な雰囲気」
「あ~、高1から高3まで、七緒と付き合ってたから」
「え!ごめん!知らなかった」
「いいよ。言いたいこと言えてスッキリしたし」
それからしばらく1人で飲んでいるとだんだん眠くなってきた。
あ、ヤバい。
とりあえず、ベンチに座ることにした。
* * *
なんか騒がしいなと思って人が集まってる方に行くと、黄雛がベンチに座って壁にもたれかかって寝ていた。
そろそろ同窓会終わるし連絡したから兄貴、もう来てるかな?
メッセージを送って、なんとか黄雛を起こそうと頑張った。
「黄雛、起きろ」
「………」
起きねえな。
スマホをもう一度確認すると、兄貴から返信が来ていた。
あ、着いたか。
涼華に黄雛を見てもらっている間に、会場を出て兄貴を呼びに行って会場に戻った。
「なに?あの人だかりは」
「黄雛」
「見てんじゃねえよ」
兄貴と一緒に黄雛のところに行くと、周りにいた同級生たちが道を開けた。
兄貴がガチギレしてるのにビビったんだろうな。
「ヒナ、迎えに来たぞ」
「………ジュン?」
「寝てていいよ。莉央、車の鍵開けてこい」
「どこに停めてるんだ?」
「ホテル出てすぐの横」
兄貴は車の鍵を投げて黄雛を抱き抱えた。
涼華は面白がって写真を撮って笑っていた。
他の同級生たちは驚いた様子で兄貴と黄雛を交互に見ていた。
それに気付いた兄貴が笑って同級生たちの方を見た。
「ヒナ、黄雛の婚約者で莉央の兄の潤です。これからも俺の婚約者と友人として親しくしてくれたら幸いです。失礼します」
うわ、めちゃくちゃ牽制してる。
まあ黄雛のこと狙ってそうなやつ多かったからな。
兄貴は車の後部座席に黄雛を座らせてシートベルトを着けて運転席に座った。
俺は助手席に座ってシートベルトをつけると車が動き出した。
「莉央」
「ん?」
「春雪と莉央と俺とヒナでダブルデートするらしいけど知ってたか?」
「え、聞いてない」
「だよな。俺も春雪から連絡くるまで知らなかった」
まあ、春雪と黄雛が勝手に盛り上がって計画してても大して驚かないけど。
「で、どこ行くんだ?」
「縁結びの神社とかパワースポットとかだって」
「もう付き合ってるのにか?」
「行ってみたかったんだと。日帰りで行ける距離だし、どうする?俺は全然いいけど」
「まあ、俺もいいよ。春雪から言い出したんだろうし」
それから家まで送ってもらって兄貴と黄雛は帰っていった。
* * *
目が覚めると、なぜか家に帰ってきていた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや、大丈夫。こっちこそごめん。飲み過ぎた」
「いいよ。あ、メイクは落としておいたから。お風呂入っておいで」
「ジュンってマジで最高の彼氏だよね」
「ありがと」
水を飲んでシャワーを浴びて髪を乾かしてスキンケアをしてリビングに戻ってきた。
なんか、目が覚めた。
スマホを見ると、涼華から写真が送られてきていた。
「何これ!え、私、同窓会の会場で寝落ちしてたの!?」
「うん。」
ヤバい。恥ずかしすぎる。
自分でもめちゃくちゃ飲んだなとは思ってたし途中から記憶ないなって思ってたけど、ジュンが迎えに来た記憶はなんとなくあったから車で寝落ちしたのかと思ってた。
「マジでごめん。迷惑かけて」
「キスしてくれたら許す」
ジュンは笑って私に顔を近づけた。
少し背伸びをして、ジュンにキスをした。
まだ、酔いが覚めてないのか少し熱い。
「ヒナ、顔真っ赤だよ」
「ジュンもね」
ジュンはお揃いだね、なんて笑ってソファに座った。
まだ8時だしテレビでバラエティー番組をつけた。
「あ、そういえばさ、七緒も来てたよ」
「あいつ、同じ小学校だったのか?」
「転校生だけどね。半年ぐらいしか過ごしてないけど」
ジュンは少しムッとして私を抱き寄せた。
「なんか、話した?」
「私が意外にロマンチストだって」
「まあな。ヒナ、映画のキャッチコピーで真実の愛とか出てきたら目キラキラしてるもんな」
「だって、憧れてたし、」
「過去形なんだ。俺がいるから?」
「そうだよ。悪い?」
「全然。むしろ嬉しい」
ジュンは笑って、私にキスをすると優しく抱きしめた。
運命の人とか真実の愛とかにずっと憧れてた。
高校生になってもずっと。
小学生のときはからかわれたこともあった。(言い負かせたけど)
けど、ジュンは笑うどころか与えてくれた。
ホントに運命の人っているんじゃないかって思うくらい。
ジュンはよく、自分のことを重いって言うけど私の方が比べ物にならないくらい重いと思う。
永遠の愛があるならジュンとがいいなんて思ってるから。
「私、ジュンが思ってる100倍、ジュンのこと好きだと思うよ」
「俺も、ヒナが思ってる1000倍はヒナのこと好きだぞ」
「1000はヤバい。桁違いじゃん」
「引く?」
「別に」
「やっぱ俺の彼女はヒナしかいないな」
ジュンは溺愛彼氏なんて可愛いものじゃないけど、世界一愛してる最高の彼氏だ。




