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37、恋愛相談


 高校に入学して3ヶ月が経ち、もう7月になった。

そして私は、バレー部の前で唯兄(ゆいにい)の妹だと言ったことを今さら後悔している。

なぜなら、移動教室で3年生の教室の前を通る度に知らない先輩たちに『唯の妹じゃん!次移動?』と、声を掛けられるようになったからだ。


「はゆっち大変だね~」


中学の頃からの親友の篠田(しのだ)沙理(さり)は陽気に笑っていた。

私はあえて大きくため息を着いて、体育館に向かった。

体育館に入ると小学校からの友達でクラスメートの伊崎(いさき)虹叶(にか)糸瀬(いとせ)(るい)が女子に囲まれていた。

ちなみに、2人とも唯兄と同じ男子バレー部だ。


「あ、春雪(はゆき)篠田(しのだ)!」


虹叶がこっちを見て手を振ると、周りにいた女子は私と沙理を睨んだ。

けれど、私も沙理ももう慣れた。

気にせず体育館の舞台に行って水筒を置いて座った。


「はゆっち、今回の作品めっちゃカッコいい系だよね!?私、あのデザインめっちゃ好き!」

「私も、沙理の今作ってるの好き。雲モチーフいいね!全体的にふわふわでめちゃくちゃ可愛い!」

「フアッションショー楽しみだね!」

「うん!」


うちは被服部と言っても部員が少なく、作っているのは毛糸のセーターとか、ワンピースとかだったけど私と沙理と中学で同じ被服部だっためぐが入って本格的な服作りを始めた。

そして、それを見た顧問の先生が文化祭でファッションショーをしようと提案してくれた。


「早く部活行きたい」

「分かる」


沙理は私の言葉に何度も頷いた。

すると、女子からやっと解放されたっぽい虹叶と類がこっちにやって来た。


「篠田も春雪も助けてよ」

「いや、あこで入っていったら喧嘩になる気がしたし」

「助けてって言われてないし」


虹叶は何度も沙理の方に視線を送っていた。

沙理は全く気付いてないけど虹叶は、沙理のこと気になってるんだと思う。

沙理は正直、虹叶に興味なさそうだけど。

むしろ沙理は類のことを気になってそうな感じがするけど。



放課後、虹叶と沙理と類と隣のクラスにいる親友のめぐと5人で帰ることになった。

虹叶は明らかに沙理を意識していて沙理は類の方に視線を向けていた。

何これ。三角関係?

私とめぐは一歩下がって3人の会話の様子を外から見た。


「伊崎、沙理のこと好きそうだね」

「だよね。けど、沙理は」

「絶対に糸瀬」

「類は、巻き込まれてることに気付いてなさそうだね」

「そだね」


とりあえず、当面は静かに見守ることにした。


だけど、終業式が近付いたある日。

いつもより早く学校に行くと、教室には類と沙理が2人きりだった。

沙理、今日は用事あるから先に行くって言ってたけどもしかして告白!?

邪魔しないようにその場を去ろうとすると、虹叶に会ってしまった。

虹叶は教室の様子を見るとドアの後ろに隠れた。

全然話してる内容聞こえないのに何してるんだろうと思っていると、教室の中から急に沙理と類の大きい声が聞こえてきた。


「それでも、好きなの!」

「ごめん」


虹叶はそこまで聞くと私の手を引いて空き教室まで歩いてきた。

好きな人が親友のことを好きで、しかも、親友は好きな人のことを振る現場に居合わせるのって結構キツそうだよね。体験したことないから分かんないけど。


「虹叶、」

「………春雪、俺、失恋した」

「けど、沙理にアピールしたら好きになってもらえるかも」

「無理だよ。類には敵わない。類は見た目も中身も俺の何倍もカッコいいし。それに俺は、あんなに優しくなれない」


そう言って虹叶はその場に座り込んだ。

失恋する辛さは分かる。

私も1回だけ、莉央くんに失恋してるし。

好きな人がいるって言われたとき、そうだと思ってた筈なのに莉央くんの口から言われたときのショックは全然違った。

まあ、今はその好きな人が私だったって知ってるからいいけど。

って、そんなことより。


「虹叶は、諦めれるんだ。」

「だって、」

「じゃあ、もし、インハイの初戦が強豪校だったらどうせ負けるからってその試合ではスパイク打たないの?ボール拾わないの?」

「諦めない。好きなバレーで手を抜いたりしない」

「沙理のことはそこまで好きじゃないから諦めるの?」

「違う。篠田のことも諦めない」

「うん。頑張れ、虹叶」


虹叶は深く頷いて笑った。

まあ、沙理が類を諦めないとも言い切れないけど、虹叶も悔いがないように自分の気持ちをしっかり伝えてほしいな。

それでダメだったら、私とめぐで励ますし。


そして、その日から虹叶のアピールは始まった。


「篠田」

「どうしたの?」

「可愛い」

「え、」

「このペン」

「あ~、でしょ?はゆっちが中2のときに誕プレでくれたんだ」


あ、そういえばそうだ。私があげたやつ。

まだ使ってくれてたんだ。

てか、虹叶は今までどうやって沙理と会話してたの?ってくらい不自然すぎる。

よし、昼休みは作戦会議だ。


お昼になってお弁当を急いで食べて空き教室に集合した。


「結構前から篠田のこと好きだったと思うけど気付いたのは最近だから」


なるほど。

じゃあ、今日の帰りはなるべく私が話題を振ればいいかな。

けど、もし、沙理が迷惑に思ってたらどうしよう。

沙理なら迷惑に思ってたらちゃんと言ってくれるか。


「今日、部活終わったら昇降口前で待ってて」

「ありがとう」


虹叶は少し照れたように微笑んだ。

ホントに沙理のことが好きなんだな。

沙理は全然気付いてないみたいだけど、虹叶が沙理を好きだと知ったらどう思うんだろう。

嫌、かな。好きな人の親友に告白されたら。


空き教室から出て教室に戻った。


放課後、部活を終えてめぐと沙理と昇降口に向かうと虹叶と類が女子に囲まれて待っていた。


「あ!春雪!篠田と永野(ながの)も!」

「相変わらず伊崎も糸瀬もモテてるね」

「だね」


靴を履き替えて2人と一緒に学校を出た。

虹叶と沙理、私がちょっと話題振れば全然普通に会話が盛り上がってる。

しかも、沙理は本当に類に告白したのか疑いたいくらいいつも通りだ。



終業式前日、いつも通り虹叶と空き教室で作戦会議をしていた。

明日で1学期が終わるから、虹叶は沙理に告白したいらしい。

まあ、夏休みあるもんね。

だから、今日の部活終わり、一緒に帰って途中で2人きりになれるように協力するつもりだ。

めぐにも頼んでOKをもらった。

類は私とめぐでコンビニかどこかに誘導するつもりだ。


「もし、断られても友達でいられるかな?」

「うん」

「春雪と親友で良かった」

「私もだよ。虹叶と親友で良かった。お陰で毎日楽しいよ」

「俺も」


虹叶が笑顔で頷いた。

それから空き教室を出ると、先生がちょうど目の前を通った。

ヤバ、と思っていると案の定怒られてしまった。しかも、なんか疑いまでかけられて。


「蒼井、伊崎、そこは空き教室で使われてないだろ」

「すみません」

「それに、2人で何してたんだ?変なことしてないだろうな」

「変なこと?」

「とりあえず、生徒指導室来い」


ごめん、虹叶。

目の前で手を合わせると虹叶は気にしないでと言って笑った。

大人しく生徒指導室についていくと、ちょうど隣の職員室に用があったらしい唯兄(ゆいにい)に会った。


「虹叶、春雪、なんかしたのか?」

「蒼井の兄か。空き教室を勝手に使って2人でなんかイチャイチャしてたんだよ」

「マジか。春雪のくせに浮気とか莉央に言ったろ」

「してない!私はずっと莉央くん一筋!」

「空き教室は?」

「………入ったけど」

「じゃあ、ちゃんと怒られてこい」

「うん」


生徒指導室に入って先生から視線を逸らして壁を見た。

多分、先生は莉央くんのこと知ってると思うけどから気まずい。


「空き教室を勝手に使って」

「「すみませんでした」」

「これからは気を付けます」

「私も!気を付けます!」

「あ、ああ。けど、なんで空き教室使ってたんだ?」


虹叶の方を見ると、先生の顔をしっかり見ていた。


「俺が春雪の友達が好きで、相談にのってもらってたんです。空き教室じゃないと、本人に聞こえるから勝手に使いました。すみません」

「………そうか。これからは、違う場所を使うように。あと、まあ、青春楽しめよ」

「はい!」


お説教は結構短く済んだ。

お昼休みが終わるギリギリに教室に着いて教科書を開いた。

怒られるかと思ったけど唯兄のお陰で誤解は解けた。はぁ、良かった。私のせいで虹叶まで怒られるところだった。

けど、作戦会議は多分今日が最後だしもう空き教室を使うことはないはず。



授業を終えて部活に行く途中、先輩っぽい女子生徒に声を掛けられた。

沙理とめぐには先に被服室に行ってもらってその女子生徒についていった。


「あの、この空き教室はもう勝手に入らないって先生に誓ったんですけど」

「チッ」


あ、舌打ちされた。

まあ場所変えてもらえるならいいや。

私のことビビらせるのは結構難しいと思うな。

元ヤンの兄と笑顔の鬼(莉央くん)が近くにいるから大抵のことにはビビらないんだよね。


屋上について行くと日差しがギラギラしてた。

日焼けしそう。やだな。


「それで、呼び出した理由は何ですか?唯兄絡み?」

「違う。あんた、蒼井先輩の妹だからって虹叶くんにちょっかいかけてんじゃねえよ」

「ちょっかい?余計なお世話ってことですか?」

「手出すなって意味だよ!」

「あんたが虹叶くんを空き教室に連れ込んだの見たって人いっぱいいんだよ!」


あ、そういうことか。

虹叶の恋愛相談にのるのが余計なお世話って言ってるのかと思った。

てか、別に連れ込んでないよ。

背中押して入ったわけでもないし。誰、そんな噂流したの。

はぁ、とため息を着くとスマホが振動した。

スマホを見ると唯兄から電話が掛かってきていた。


「兄からの電話に出てもいいですか?」

「兄って、蒼井仁?」


あ、仁兄のこと知ってるんだ。

そっか。1年被るもんね。

私がニッと笑うと先輩たちは慌てて帰っていった。


「唯兄なのに」


通話に切り替えてスマホを耳に当てた。


「もしもーし」

『春雪、なんか女子に呼ばれたってきいたけど大丈夫か?』

「誰から聞いたの?」

『永野さんと篠田さん』


唯兄がそう言うと2人の声がスマホ越しに聞こえてきた。


『はゆ!何もされてない!?』

『はゆっち無事?』


「無事だよ。唯兄からの電話を仁兄から風に装ったらどっか行っちゃった」

『だろうな。怪我ないなら早く部活行けよ。』

「分かってるよ。後でね」


通話を切って屋上を出た。

言われた通り早く部活に行こうと階段の手すりを滑っていると、生徒会の人に怒られちゃった。

ごめんなさい、と謝って早歩きで被服室に向かった。


沙理とめぐはもう来ていて作品作りを開始していた。


「あ、はゆ!やっときた」

「はゆっち遅い」

「ごめんごめん」


それから部活を終えて昇降口で虹叶と類と待ち合わせて駅に向かった。

今日はなんかいっぱい怒られたな。

まあ、私が悪いのばっかだけどさ。


電車に乗って最寄り駅で降りて虹叶と沙理と別れて類とめぐと私の3人になった。

コンビニでアイスを買って前にあるベンチに並んで座って食べていると類が急に私の顔を見下ろした。


「春雪、なんで虹叶と空き教室にいたの?」

「えっと、相談受けてたから」

「相談?なんで春雪に?」

「恋愛相談。虹叶の好きな人が類に告白して振られた現場に一緒に遭遇したの」

「え、」


アイスキャンディーの最後の一口を食べてゴミ箱に捨てた。

めぐは用事があるからと、アイスを食べ終えてすぐに帰ってしまった。

類も無言でアイスを食べ終えてゴミ箱に捨てると私の前に来た。


「いつの、話?俺、1番最近告白されたの5月なんだけど」

「え、ウソ。だって、沙理に教室で告白されてたじゃん」

「やっぱり聞いてたんだ。永野さんに帰ってもらって良かった」


用事じゃなくて類に頼まれたんだ。

そりゃそうだよね。用事あったらアイスなんて食べてかない。


「あのとき、誰かいたなって思ってたけど春雪と虹叶だったんだね」

「うん」

「告白っていうのは誤解だよ。俺もずっと篠田さんに恋愛相談されてたから」


え、好きなの!って沙理言ってたけど。

納得できずにいると、類があのときのことを話し始めた。



 * * *



篠田さんと時々話すようになってから恋愛相談をされることが増えてきた。

篠田さんの好きな人は虹叶らしい。


「虹叶と付き合って嫌がらせとかされても、虹叶も、さすがに全部は守れないと思うよ」

「それでも、好きなの!」

「ごめん」


俺がそう言った瞬間、廊下から物音が聞こえてきて気まずい沈黙が訪れた。


「大声出してごめん」

「いや、こっちこそ。無神経だった」

「ううん」



 * * *



「篠田さんが好きなのは虹叶だよ。」

「そうだったんだ」

「俺は、篠田さんが好きだったけど」

「え、」

「冗談だよ。俺の好きな人は永野さん、」

「え!」

「にしか言ってない」


ビックリした。めぐが好きなのかと思った。

もしめぐなら両想いになれる可能性結構低かったよ。

めぐ、今のところ女の子しか好きになったことないって言ってたし。

まあ、1つ願うなら、めぐと類の好きな人が被ってないことかな。


「類、タイミングがあれば私にも好きな人教えてくれる?」

「気が向いたらね」

「うん」



翌朝、すごく機嫌のいい沙理がめぐと一緒に私の家まで迎えに来た。

機嫌のいい理由は訊くまでもなく分かった。

虹叶が沙理に告白したんだ。

昨日、家に帰ってからありがとうとだけメッセージが着たときは少し心配にはなったけど沙理の様子を見て安心した。


「はゆっち」

「何?」

「ありがとう。大好きだよ」

「私も!はゆのこと大好き」


沙理とめぐは笑って私に抱きついた。

すると、ちょうど隣の家から莉央くんが出てきて私と沙理とめぐの顔を見た。


「………浮気現場?」

「違うよ。けど、私も2人とも大好き」

「俺は?」

「好き、だけど」

「ありがとう。じゃあ、気を付けて学校行けよ」


莉央くんは手を振って歩いていった。

莉央くんにも好きって言ってほしかったな。

沙理とめぐと一緒に駅に向かうと、虹叶と類に会った。


「あ、伊崎、糸瀬。おはよう」

「おはよう、篠田さん。永野さんと春雪もおはよう」


虹叶、絶対私とめぐのこと一瞬見えてなかった。

まあ、2人が付き合えて幸せそうなら別にいいんだけどさ。

電車に乗って最寄り駅で降りると同じ高校の女子生徒が虹叶と類の元にやって来た。

女子が苦手な類は完全無視で虹叶はいつも通り困った顔をしていた。


「虹叶くん、一緒に学校行こ」


1人の女子生徒が虹叶の腕に抱きついた。

沙理は笑顔を作ってるけど、めちゃくちゃムカついてる顔だ。

すると、虹叶が女子生徒の手を払って沙理の手を握った。


「い、伊崎?」

「行こ、篠田さん」

「え、ちょっと」


虹叶は少し緊張した様子で沙理の手を握って学校に向かって歩いていった。

私とめぐと類もその後に続いた。

女子生徒たちは不満気だったけど、沙理は可愛いから文句があっても言えないのだろう。


「伊崎、ありがとう」

「俺は手を繋ぎたかっただけだよ」

「そ、なの?」

「うん。」


何この甘い空気は。

見せつけてるのかな?

じーっと2人を見ているとめぐが耳打ちをした。


「朝の春雪と莉央さんみたい」


私も人のことは言えないようだ。

まあ、仕方ないよね。付き合うまで2年ちょっと我慢したんだし。

教室に着くと、虹叶と沙理はクラスメートに囲まれていた。

虹叶がフル無視したお陰で他のみんなは質問攻めをやめた。


嫌がらせとか心配だったけど、夏休みに入るし虹叶がいれば大丈夫そうだな。

2人が付き合ってくれてホントに嬉しい。

それに、やっと恋バナ聞けるし。

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