34、新、高校1年生
無事、城崎高校に合格して仁兄と蓮ちゃんと入れ替わりで高校生になる。
もう1人の兄、唯兄は高校3年生になった。
私は今日が入学式だ。真新しい制服に身を包んでお父さんとお母さんと一緒に駅に向かった。
ちなみに、伊達メガネにおさげはもう卒業だ。あれはセーラー服に合わせなきゃ意味がないからね。
駅から電車に乗って、高校の最寄り駅で降りた。
お父さんもお母さんも城崎高校出身で、出会いもここらしい。
お姉ちゃんも兄2人も幼馴染みの蓮ちゃんと潤くんと莉央くんの母校でもある。
だから、高校は真っ先に城崎に決めた。
最初は学力がギリギリだったけど、莉央くんとお姉ちゃんと仁兄に勉強を見てもらって無事合格できた。
ホント、皆には感謝しかないよ。
お母さんとお父さんと分かれてクラス発表を見てからワクワクして教室に向かった。
教室には中学からの親友の沙理がいた。
「沙理~!同じクラスだね!」
「はゆっち!今年も1年よろしくね!」
めぐも同じ高校だけどクラスは離れてしまった。だけど、同じ被服部に入る予定なのでそこまで気にしていない。
黒板に貼ってある紙で席を確認して座った。
てか、伊崎虹叶と糸瀬類ってあったけどあの2人も同じクラスなんだ。
荷物を鞄から取り出してまた沙理の席の前に行った。
沙理と話していると、クラスがざわざわとして振り返ると虹叶と類が教室に入ってきた。
手を振ると2人は気付いてこっちにやって来た。
「春雪、今年も同じクラスだな。よろしく」
「よろしく、虹叶。類も」
「よろしくな」
「篠田もよろしくな」
「よろしく、伊崎アンド糸瀬」
沙理が笑うと類は小さく頷いて席に座った。
しばらくすると、先生がやって来て皆で体育館に移動した。
入学式が始まって、新入生代表の挨拶は虹叶が行った。
それから入学式を終えて教室に戻ってホームルームをしてから校舎を出てお母さんとお父さんを探した。
「春雪」
大好きな声が聞こえて振り返ると莉央くんが立っていた。
莉央くんはゆっくりこっちに歩いてきて私の前で立ち止まった。
「春雪、入学おめでとう」
「ありがとう!莉央くんも進級おめでとう!」
「ありがとう。結愛さんが探してたから早く行こう」
「うん。って待って!なんでいるの!?」
「さっきドライブがてら近くに来たから」
ドライブがてらで城崎高校の近くまで来ることある?
まあ、桜が結構咲いてる道はあるけど私は行き帰りで通らないんだよね。
莉央くんとお母さんとお父さんのところに行って莉央くんも一緒に写真を撮った。
「春雪、ドライブ付き合ってくれる?」
「うん」
お父さんとお母さんは電車で帰って、私は莉央くんの車に乗った。
莉央くんはさっき私の心を読んだのかもしれない。
桜並木の横を車で通り過ぎてくれた。
それから、家の近くの信号で止まっていると莉央くんがグローブボックスを指して『開けて』と言った。
開けてみると封筒が1つ入っていた。
「開けていいの?」
「いいよ」
封筒を開けてみると、カードが1枚入っていて綺麗な文字でこう書かれていた。
“春雪が好きです。俺との恋人になってください”
驚きすぎて何回瞬きをしたか分からない。
車を運転している莉央くんの横顔はいつもより少し緊張気味で耳が赤くなっていた。
元の肌が白いから赤くなったら分かりやすいんだよね。
家に着くまで何度もカードに書いてあるメッセージを読み返した。
そして、家に着いて車から降りて莉央くんの手を握った。
「莉央くん、大好き。これからよろしく」
「うん」
晴れて、莉央くんと付き合うことになった。
夜、お姉ちゃんが帰ってきて唯兄とお姉ちゃんにすぐに知らせた。
お姉ちゃんは驚いた顔をしてすぐに私を抱きしめた。
唯兄も良かったなと笑った。
1番に知らせたのは仁兄だったけど、仁兄からはそうか、おめでとうとしか返ってこなかった。
翌朝、駅で沙理と待ち合わせて一緒に学校に行った。
一限目はホームルームで1人ずつ自己紹介をすることになった。
私は出席番号1番なので自己紹介も1番最初だ。
「蒼井春雪です。アニメと漫画が好きなのでおすすめがあれば是非教えてください。中学で被服部だったので高校でも続けようと思っています。1年間よろしくお願いします」
それから四限目、数学があって昼休みに入った。
数学の先生である鷲尾先生はお母さんたちの元担任でお姉ちゃん、仁兄、唯兄と家族勢揃いでお世話になってきた。
私は小さい頃から何度か会っていて顔見知りだけど、強面だからか他の生徒には怖がられている。
鷲尾先生は顔が怖いのを気にしてるから笑顔を練習したらさらに怖がられたという面白いエピソードがある。
けれど、お父さんとお母さんの結婚記念日には毎年家にプレゼントを持ってきてくれる優しい先生だ。
私はアルバムで見た昔のお母さんみたいにポニーテールにしていた髪を下ろして廊下に出ていった鷲尾先生を追いかけた。
「鷲尾、相変わらず怖がられてんな」
「怖がられてない。って、え、」
鷲尾先生は驚いた顔で振り返った。すると、周りの人たちが注目した。
そう、これはお母さんが考えたイタズラだ。
私が普通に呼び捨てで話し掛けても鷲尾先生は怒らない。注意する程度だ。そうしたら顔が怖くても怖がられないだろうとお母さんが提案した。
けど、面白そうだからイタズラも仕掛けてみてと頼まれた。
私は高校生の頃のお母さんと見た目と声がそっくりで身長も伸びたから髪を下ろしていればお父さん曰くパッと見は昔のお母さんに見えるらしい。
だから、お母さんが高校に紛れ込んでるドッキリを仕掛けることになった。
「春雪、母親に似すぎだろ」
「よく言われます」
鷲尾先生は、家に来るときは兄弟みんな下の名前で呼んでいるけど学校では苗字で呼んでいたらしい。
お姉ちゃんは急に苗字で呼ばれ出してなんかキモいとか言ってたけど私はまだ入学して2日目だから慣れてなくて間違えて名前で呼んだのかな?
「あ、そうだ。別に呼び捨てでもいいけど、他の先生のことはちゃんと呼べよ」
「分かりました!」
「ちゃんと敬語を使うところは父親似か」
鷲尾先生は笑って歩いていってしまった。
まあ、鷲尾先生のことはずっと親戚のおじさんだと思い込んでたから、呼び捨てで呼んだりはしないけど。
間違えておじさんって呼ばないようにだけしておこう。
髪を結んで、沙理とめぐと中庭でお弁当を食べた。
放課後、唯兄に用事があって沙理とめぐには先に帰ってもらった。
バレー部の練習が終わるのを待っていると、類と虹叶がやって来た。
「2人とも何してんの?」
「その台詞返すわ」
「私は唯兄待ち」
「俺らは練習の見学。まだ体験入部できないから」
「じゃあ、中で待たせてもらえば?顧問の鷲尾先生に頼もうか?」
「自分で行く」
虹叶と類は靴を脱いで体育館に入っていった。
2人は鷲尾先生と話して許可を貰ったのか体育館の端で練習を見学していた。
そして、手招きをされて首をかしげると虹叶がやって来た。
「春雪も入ってこいだって」
「分かった」
靴を並べて体育館に入って端の方から練習を見学していた。
唯兄たちは、紅白に分かれて試合をしていて私たちが入ってきたことには気付いていないようだ。
試合が終わって、マネージャーさんたちがスクイズを渡していると唯兄がやっと気付いた。
笑って小さく手を振ると、唯兄は驚いた顔をして小さく手を振りえした。
すると、マネージャーっぽい女子に睨まれた。
妹だからって練習の邪魔するなってことかな。すみませんね。
バレー部の練習が終わると、バレー部の部員の人たちがこっちにやって来た。
「マネージャー希望?」
「キャプテンの知り合い?」
「彼氏いる?」
虹叶と類はマネージャー2人に質問責めにあっていて唯兄に助けられていた。
こっちも助けてよ!と思いながら視線を送っても唯兄は久しぶりに再会した虹叶と類と話で盛り上がってしまっていた。
むくれて、唯兄の方を見ているとまたマネージャーさんに睨まれてしまった。
え、私初対面で嫌われた?
唯兄の方に行って睨まれる視線を遮った。
「私、マネージャーさんたちに嫌われてるかも。なんか睨まれたし。唯兄、なんか私の悪口言った?」
「言ってねえよ。」
「それならいいんだけどさ」
唯兄の背中に頭を打ち付けた。
高校入ってすぐに先輩っぽい人から睨まれるのはちょっと怖いな。
それに、唯兄の知り合いだから突っ掛かるわけにもいかないし。
「春雪、背中痛いからそれやめろ」
「うん、」
私の額痛いなと思いながら自分の額をさすった。
あ、てか、唯兄に用事あったの忘れてた。
「今日さ、お母さんがお祖父ちゃんたちのところ行ってるらしくて、私、家に鍵忘れちゃったから待ってたの」
「もっと早く言えよ」
「だから、マネージャーさんたちに練習の邪魔するなみたいな目で睨まれたから言えなかったんだって」
唯兄は溜め息をついてカバンの部室の方に向かった。
「あ、着替えてからでいいよ!」
「おう」
まあ、唯兄がいつも愛理ちゃんと帰ってるのは知ってるし、愛理ちゃんと帰りたいって気持ちもまあ半分以上ある。
ホント、愛理ちゃんって可愛いんだよね。
最近は会ってなかったけど、メッセージのやり取りはするし。
唯兄のことを聞くといつも返信が遅くなるか、時々たくさん話すかのどっちかで面白いし。
「春雪」
「なに?虹叶」
「マネージャーさんに睨まれたって、多分だけど唯くんと春雪が仲良さそうに喋ってたからじゃない?」
「え、唯兄と喋ってたら睨まれるの?」
「だって、ここの人たち春雪が唯くんの妹だって知らないし」
あ、そっか。
じゃあ唯兄と知らない女が仲良くしてたから嫉妬されてたのか。
唯兄、天然たらしだからな。
愛理ちゃんと付き合ってるって知ってても好きになられちゃうんだ。
てか、どうしよう。
今大声で私は唯兄の妹ですって言うべき?
そう考えていると唯兄が制服に着替えて戻ってきた。
他の部員さんたちは着替えなくていいのかな?
「春雪、帰るぞ」
「あ、待って」
唯兄の腕を掴んでヒソヒソ話していた部員さんたちの前に行った。
部員さんはえ、と驚いた顔をして私を見た。
「帰らないの?」
「帰りますよ。けど、変な誤解されてるっぽいんで。兄がお世話になってます。妹の蒼井春雪です。挨拶が遅くなってすみません」
そう言うと部員たちは驚いたように声をあげた。
質問責めにあいながら唯兄に愛理ちゃん待たせていいの?と訊くと今日は部活なくて先に帰ってると返答があった。
「家で唯ってどんな感じ?」
「料理とかしてる?」
「お風呂上がり、どんなパジャマ?」
「テレビとか観てる?」
「もう、本人に訊いてください!」
それだけ言い残して、体育館を後にした。
それにしても、愛理ちゃんいないんなら早く家帰って莉央くんのバイト先行ったら良かった。
あ、てか、火曜日はバイトないんだっけ?
じゃあ、ワンチャン電車乗ってるかも。
莉央くんにメッセージを送ると、すぐに帰ってきた。
今、電車の中って行ってたしこの駅よりも後ろの駅だから同じ電車に乗れる。
何号車か訊いて、電車が着いて3号車に乗った。
唯兄たちは空いていた席に座って、私は莉央くんを探した。
「莉央くん」
「春雪、学校お疲れ。初日の感想は?」
「なんか、色々疲れた」
「そっか」
座席に座って窓側を見た。
莉央くんを正面から直接見るよりも、窓に反射した莉央くんの横顔を見る方がドキドキしないで済むと思ったのに。むしろ悪化したかも。
チラッと莉央くんの方に視線を送ると莉央くんはうすい茶髪の柔らかそうな髪を揺らしながら小さく首をかしげた。
すると、近くにいた女子大生らしい人たちが莉央くんを何度も見て和んでいた。
うんうん。分かる。癒されるよね。
莉央くんの顔を見上げて微笑むと莉央くんは少し驚いたような照れたような顔になった。
「俺の顔、なんかついてる?」
「ううん。ついてないよ」
「それなら、いいんだけど」
駅に着いて、唯兄たちは駅内にあるお店に寄るらしく、鍵だけもらって莉央くんと家に帰った。
帰ってすぐ、莉央くんと一緒に大福のお散歩に出掛けた。
「この辺の桜はみんな散っちゃったね」
「そうだな」
「なんか、寂しいね。仁兄も一人暮らし始めちゃったし潤くんとか蓮ちゃんとかお姉ちゃんも仕事とかバイトで休みの日が合わなくなっちゃったし」
気付かないうちに本音が溢れていた。
心配かけないように慌てて笑ってみせると莉央くんは私の手を握って微笑んだ。
すると、大福も私に飛び付いてきた。
「やっぱ、寂しくないかも」
笑って莉央くんの手を握ったまま前後に振った。
幼馴染みみんな、私よりも年上だから先に大人になって置いていかれる気がした。
けど、莉央くんがいれば大人になるのもそこまで怖くないかな。
「大人になってさ、お姉ちゃんとか蓮ちゃんとか結婚して子供が生まれても時々でいいから皆で集まりたい」
「うん。楽しそう」
「だよね!」
「そのときは、春雪も俺と結婚してるかもしれないし」
「さすが、潤くんの弟だね」
「嬉しくないな」
莉央くんは笑って大福の頭を撫でていた。
大福がうちに来た当初、莉央くんは犬が苦手だったから大福のことも怖がってたけど今はすっかり大福の虜になってる。
それにしても、大福と莉央くんのツーショット可愛いな。
カレンダーとか出したら売れそう。