31、ベストカップル
新学期に入って体育祭が終わった数日後、俺は1人で愛理の通っている学校にやって来た。
今日、愛理の学校では学園祭をやっているらしい。
愛理からは言われなかったけど、愛理の友達の岸羽奈から聞いてサプライズというほどでもないけど愛理には内緒でやって来た。
「あ、愛理が何組か訊くの忘れてた」
ま、とりあえず2年の教室まわればいいか。
てか、さすが私立だな。一般の店も来てる。
中学と合同って言ってたし規模が違うわ。
2年1組に来てみると黒板アートをしていた。
このクラスの人でバレー部の人いれば愛理のクラス訊くけど、どんな人がいたかとか覚えてねえんだよな。
あ、でも、愛理なら学年で有名だよな?
近くで話していた女子生徒に声を掛けた。
「あの、すみません」
「写真撮りますか?」
「あ、そうじゃなくて。天宮愛理のクラス知ってますか?」
「天宮さんの知り合いですか?」
「彼氏、です………」
勝手に言いふらしたこと、後で愛理に怒られないかな心配だな。
けど、何人かの男子が反応してるから牽制しといて良かった。
「天宮さんのクラスって6組だよね?」
「うん」
「だそうです」
「ありがとうございます」
小さく頭を下げて6組に向かった。
その途中で中学時代の友達にあってそのクラスの前でしばらく話してから6組に行った。
すると、制服にネコ耳とエプロンを着けた岸が立っていた。
「あ!蒼井じゃん!」
「おう、岸」
「そういえばさ、愛理の彼氏が来てるってウワサになってるよ」
「さっき1組で愛理のクラス訊かれたときに言ったからな」
教室を見渡していると岸が吹き出した。
「愛理は今さっきカーテンの後ろ戻ったとこ。お席にご案内しま~す」
どうやら愛理を探していたのがバレたようだ。
だからって笑う必要はねえと思うんだけど。
とりあえず、コーヒーとカップケーキを頼んで届くのを待った。
1分後、隣の席に愛理が犬の耳を着けて飲み物を運んできた。
「可愛い」
「っ!」
思わず出た声はすぐ隣に立っていた愛理にも聞こえていたようで、愛理は(本物の)耳まで真っ赤になっていた。
そして、ゆっくり振り返って俺の顔を見下ろした。
「なんで、いるの?」
「岸に文化祭今日って聞いたから」
「………あと20分だから待ってて」
「うん」
愛理は他のテーブルに注文を取りに行った。
入れ替わりで岸がコーヒーとカップケーキを持ってきてくれた。
「頬緩んでるけど」
「仕方ないだろ。なあ、俺の彼女可愛すぎねえ?」
「うん。可愛い」
「だよな?」
カップケーキを食べ終わってゆっくりコーヒーを飲んでいると向かい側の席に制服を着た女子生徒が座った。
めっちゃ笑ってこっち見てくるんだけど。なんか怖っ。
「誰ですか?」
「天宮さんと同じクラスの佐藤寧々」
「はあ、」
「ちょっと話し相手になってくれない?暇でしょ?」
佐藤さんはフッと笑って制服の第2ボタンを開けた。
暑いのか?まあ、10月の中盤で最高気温は29℃だから暑いと思う人は暑いのか。
俺はあんまり暑がりじゃないから思わないけど。
そんなことを考えていると、佐藤さんは第3ボタンまで外してなぜか俺の顔を見てきた。
「暑いなら水飲んだ方がいいですよ。」
「別に、暑くないけど」
「じゃあ、ボタン閉めたらどうですか?正直に言うとみっともないのでせめて第2ボタンまでは閉めたらどうですか?」
時計を見つつ、コーヒーを飲むと佐藤さんは涙を堪えていた。
焦ってなんて声を掛けようか考えていると佐藤さんは泣き出してしまった。
「“みっともない”っていうのは言い過ぎました」
「………好き」
「はあ!?」
佐藤さんは俺の手を握って目を見つめてきた。
バッと手を振り払っても佐藤さんは変わらず見つめてきた。
「寧々、初めてなの。皆、寧々のお祖父ちゃんが学園長だから表向きは仲良くしてくれるけど、本音で話してくれないの。だから、本音で言ってくれて嬉しかった。天宮さんも可愛いけど、寧々の方がスタイルいいし、寧々の彼氏にならない?」
「見た目だけで愛理を好きになったんじゃねえよ。中身も含めて愛理が好きだから付き合ってんだよ。悪いけど他に興味ないから」
コーヒーを飲み干して席を立った。
代金を払って2年6組の教室の前で愛理を待つことにした。
あ~、ヤベえ。めちゃくちゃ恥ずかしいこと言った。
愛理がいなくて良かった。
聞かれてたら恥ずかしすぎて死ぬ。
頭を抱えて屈んでいると頭上から心配そうな声が聞こえてきた。
「唯、頭痛い?」
「いや、大丈夫」
立ち上がって心配そうな愛理の顔を見下ろした。
顔色が悪くないことを確認したからか、愛理はホッとしたように笑った。
「唯、行きたいところあるんだけどいい?」
「うん」
愛理の手を握って笑った。
そういえば、デートとか久しぶりだな。
1ヶ月半ぶりくらいか?まあ、同じ路線の電車だし、最寄り駅も同じだから登下校でほぼ毎日会ってるけど。
愛理が立ち止まったのは調理室の横に迷路と書かれた看板のが掛かっているところだった。
調理室のドアを開けて、中に入ってみるとお化け屋敷に似た雰囲気を漂わせていた。
「愛理って怖いの平気なのか?」
「まあね。急に来たらビックリするけど、幽霊とかは大丈夫。見えたことないし」
「確かに。俺も見たことない」
カーテンの前にTシャツを着た生徒が立っていて説明を受けた。
「この脱出ゲームは2人1組となっています。ペアで1つ手錠を掛けて、ゴールに向かってください。制限時間は10分です。頑張ってください」
笑顔で手錠をかけられてカーテンの裏に連れていかれた。
薄暗いな。けど、愛理は目を輝かせてるのが分かる。
もしかしたら苦手どころか、怖いの好きなんじゃねえのか?
今度、ホラー映画でも誘ってみようかな。
「唯、早くしないと時間過ぎるよ」
「そうだな」
早速分かれ道があった。
愛理の勘で右に進んだ。今度は俺の勘で左に。その繰り返しで行き止まりに当たらないまま、恐らく最後の分かれ道にやって来た。
最後の分かれ道は3つあった。
「どうする?」
「唯の勘に任せるよ。」
「分かった」
真ん中のカーテンを抜けると拍手で包まれた。
つまり、真ん中がゴールだってことだ。
「おめでとうございます」
手錠を外してもらって調理室の外に出ると愛理の双子の兄である海里がいた、のかと思った。
海里にしては大人っぽすぎる。
『パパはうちの学校の教員なんだよ』
もしかして、と思って愛理の方を見ると男性が愛理に話しかけた。
「愛理、隣にいるのが唯くん?」
「うん。唯、紹介するね。この人は私のパパ」
ですよね~。見てすぐに分かったわ。顔似すぎだわ。
「初めまして。愛理の父親の天宮亮介です。」
「あ、初めまして。蒼井唯です。愛理さんとお付き合いさせてもらっています」
「唯くんの話は愛理から聞いてるよ」
家でも俺のこと話してくれてんだ。
ヤバ、嬉しすぎる。
「今度、よかったら家に来て。妻も会いたがってたから」
「はい」
「じゃあね。愛理、唯くん。文化祭楽しんで」
「はい」
お父さんは小さく手を振って調理室に入っていった。
てか、今のめっちゃ愛理に似てた。
さすが親子だな。
「そろそろお昼だね。ご飯食べない?って、唯はさっきカップケーキ食べたんだっけ?」
「いや、あんな量じゃ足りない」
「じゃあグラウンド行こっか」
愛理に手を引かれて階段を下りて校舎の外に出た。
そういえばグラウンドに食べ物の屋台並んでるんだっけ?
まず初めに食べたのは唐揚げだ。それから、ポテト、かき氷、ハンバーガー、チュロス、クレープと食べて今はアメリカンドッグを美味しそうに頬張っている。
食べてる姿が可愛くて見つめていると視線に気付いたのか、愛理は最後の1口を食べてゴミ箱に捨てに行って戻って来た。
「食べ過ぎ、たよね?クラスの子にも言われるんだよね。食べる量多すぎとか、食べるとき口開けすぎて可愛くないとか。」
はあ?何そいつ。可愛すぎるの間違いだろ。可愛くないとか眼科行けよ。いや、脳がおかしいのかも。
「唯、全部声と顔に出てる」
「え!マジで!?」
慌てて口を押さえると愛理は目を細めて俺の頬を引っ張った。
「口悪いなぁ。けど、怒ってくれてありがとう」
愛理は少し照れたように笑って、頬から手を離した。
………あー、ヤバー、可愛いー。
可愛すぎて一瞬頭が真っ白になったわ。
顔を手で覆っていると愛理が急に腕にしがみついた。
「どうした?」
「む、虫!」
「虫?」
手をよけて足元を見ると、バッタがいた。
愛理、虫苦手なのか?
バッタを掴んでグラウンドの雑草が生えているところに行って離して近くの水道で手を洗った。
俺は中学の初めの頃までは割りと虫好きだったけど、春雪と一緒に虫を捕まえて家に連れて帰ったら俺のみ姉貴にボコられるからやめたんだよな。懐かしい~。
「唯は、虫平気なの?」
「まあな。逆に愛理が苦手なの驚いた」
「……昔は、平気だったんだけど。私の育てたミニトマトが大量の虫に食べられてて、その虫が顔に飛んできてそれ以来トラウマっていうか怖くなった。まあ、トマト嫌いだったけど」
昔の愛理、絶対可愛かっただろうな。
てか、嫌いなのにミニトマト育ててたんだ。
「嫌いな野菜、他にある?」
「今は何でも食べれる。けど、昔はピーマンとナスとグリンピースととうもろこしとあと、しいたけ!苦手だったな~。唯は?」
「俺は昔から何でも食べれた。ゴーヤとかも」
「すご!」
まあ、食べれたっていうか、最初は刻んで分からないように入れられて、だんだん入ってる野菜が大きくなって気付いたら普通に食べてたってだけだけど。
「私はゴーヤは食べれるけど、こんな顔になる」
愛理はべーっと舌を出した。
その表情が面白いのと可愛いのとで笑いを堪えていると急に眼鏡を掛けた女子に話しかけられた。
「あの、おふたりはカップルですか?」
「え、まあ、」
急に何訊いて来るんだ?と思っていると、その人はステージの方に手を向けた。
「カップルコンテストを開催してるんですけど、よかったら出場しませんか?1組棄権しちゃって」
「カップルコンテストってなんですか?」
「お題に合わせて台詞を言ってもらったりして、一番キュンキュンしたカップルに投票するんです」
俺と愛理は顔を見合わせた。
俺的には、愛理を好きなやつに牽制できる絶好の機会だけど、愛理はからかわれたりするかもしれないから参加するかは愛理次第だ。
「どうする?」
「唯がいいなら」
「うん」
「ありがとうございます!13時半からなので控え室まで案内します!」
控え室に行くと他のペアらしい人たちがいた。
その中に、愛理の知り合いなのかめちゃくちゃこっちを見てくる女子がいた。
その女子は彼氏っぽいやつと一緒にこっちに歩いてきた。
とりあえず、手は出されないようにさりげなく愛理の前に出た。
「愛理、この人知り合いか?」
「うん。同じ委員会の御園さん。委員会でいつも助けてもらってるの」
「そんなことないわよ。私の方が助けられてるわ」
御園さんは愛理から俺に視線を移した?
あれ?もしかして睨まれてたの俺?
「天宮さんの彼氏さん?お名前は?」
「蒼井唯です」
「蒼井さんね。申し訳ないけど、天宮さんを少し借りるわね」
愛理は御園さんに手を引かれて控え室からどこかに行ってしまった。
追いかけようにも彼氏みたいなやつに肩を掴まれたせいで追いかけられなかった。
「すみません。けど、麗美が天宮さんに危害を加えるつもりはないから安心して」
「なら、いいんですけど」
「あ、ちなみに俺は麗美の許嫁の如月流也です」
「許嫁?親同士が決めるやつ?」
「そうそう。うちはじいちゃんが決めたんだけど、今は俺が麗美ちゃんに片想いしてんの。」
片想いとかしなさそう。見た感じモテそうだし。
てか、今どき許嫁がいることに驚いたわ。
「唯くんさ、許嫁とか古って思っただろ?」
「あ、悪い」
「いや、いいよ。俺も思ってるから。けど、許嫁がないと麗美は俺なんか相手にしてくれないよ。俺は顔はいい方って自負してるけど、他は平均のちょっと上ぐらいなんだよな。突出してるところがないんだよ」
御園さんの許嫁改め流也はモデルにでもなれそうなスタイルで片想いをしているらしい。
「対して麗美は、全国模試は必ず1桁でピアノのコンクールで何度も賞を取ってて皆から一目置かれてる。真逆なんだよな」
「なんでそれなのにカップルコンテスト出るんだ?」
「それは俺も思ったけど、麗美が出たいって言うから」
それって、両想いじゃねえの?
けど、人の恋愛に下手に口出していいことか分かんねえからな。
しばらくすると、御園さんと愛理が戻ってきた。
愛理と御園さんも何か話してたみたいで何故か名前呼びに変わっていた。
そして、2人が戻ってきてすぐにステージに移動した。
『さあ!始まりました!カップルコンテスト!出場ペアはこちらの10組です!まずは、各々自己紹介をしてもらいます!』
一番左に立っていた2人がマイクを受け取って自己紹介をしたら右のペアにマイクを渡して行く。
俺たちは一番最後だ。
「2年6組の天宮愛理です」
「蒼井唯です。高2です」
『最初のゲームは思い出の場所を当てるゲームです!彼女さんに、2人に関係のある思い出の場所を聞いて私が代筆します!彼女さんにはこのカーテンの裏に行ってもらって彼氏さんは思い出の場所を頼りに彼女さんがどこか当ててください!』
愛理たちは係の人についていって用意されたカーテンの裏に入っていった。
思い出の場所ね~。あそこしかないだろ。隣にすげえ不安そうな人がいるんだけど。
「流也、大丈夫か?」
「俺たちに思い出の場所とかねえんだけど。お互いの家か、親同伴の食事しか行ったことねえよ。当てられなかったらどうしよう。」
「まあ、大丈夫だって。2人のって言ってんだからお前も行ったことあるとこだから」
まあ、俺的には愛理との思い出の場所っていったら何ヵ所か思い付くけど、愛理が選びそうなのは1ヶ所しか思い付かない。
『それでは、準備が整いました!よ~い、スタート!』
自分の記憶をたどりにそれぞれ紙の前に移動する。
ただ、2組彼氏が被ってるから少なくともどっちかは間違ってるんだろうな。
流也はその点は大丈夫そうだけど、めちゃくちゃ不安そう。
ちなみに、俺は『休憩所のベンチ』、流也は『桜並木』と書かれた紙の前に立っている。
『それでは、カーテンをオープン!』
司会の人の声に合わせてカーテンがバサッとめくられる。
目の前を見ると、愛理が満面の笑みで立っていた。
まあ、カーテン越しだから声は聞こえるもんな。
隣では流也と御園さんがお互いに向かい合って安堵の溜め息をついていた。
あれだけ不安がってたけど正解してんじゃん。
俺と流也とあと2人以外は不正解だった。
「簡単だった?」
「簡単だった」
「だよね」
愛理はそう言いつつも嬉しそうに笑った。
それから次々とゲームをしていき、最後のゲーム。
これが終われば投票で結果が決まるらしい。
最後のゲームは愛の告白、らしい。
くじ引きで、彼女からの告白になった。
1組ずつステージに出て告白をするので彼氏組は今は左の舞台袖にいて、彼女組が右の舞台袖にいる。
『次は、エントリーNo.9。御園さん、如月さんペアです』
流也は手と足を同時に出してステージに出ていった。
『流也、許嫁としてじゃなくて、1人の女子としての言葉を聞いてほしいの』
『分かった』
『私、ピアノの練習ばかりでなかなか遊べないから昔はお友達なんていなかった。クリスマスもお誕生日もハロウィンも流也はお友達のところに行ったあと、必ずうちに来てくれた。コンクールだって、いつも見に来てくれ花束をくれる。許嫁だからしてる行動なのかもしれないけど、私は全部が嬉しかった。流也、私はあなたが好き。あなたは?』
御園さんが微笑むと、言うまでもなく流也は涙を流して頷いた。
そして、『もう、このペア優勝でいいだろ』という空気の中で告白するのは愛理だ。
まあ、愛理は空気とか気にしないか。
『最後は、エントリーNo.10!天宮さん、蒼井さんペアです!』
深く呼吸をしてステージに出た。
愛理は少し赤くなった顔で俺を見上げた。
「唯」
そう呼ぶと、愛理は俺の腕を引いて背伸びをして耳に口を近付けた。
そして、マイクも置いたから俺以外誰にも聞こえないだろう。
そんな中、愛理が発した言葉はこれだ。
「なんか、パパが来てるんだけど!だから、このまま聞いて」
そういうことか。俺は小さく頷いて、軽く愛理の方に頭を傾けた。
「唯、世界一大好きだよ」
愛理は俺の腕を離して赤くなった顔を手で冷やしていた。
俺は愛理の比じゃないくらい赤くなっているだろう。
耳元はヤバい。心臓がもたない。
けど、告白にはちゃんと返事しないとだよな?
俺は、もう一度深く呼吸をして愛理の方を向いた。
「愛理、大好きだ」
愛理は赤くなった顔で慌てて舞台袖を見て俺の口を手で塞いだ。
もう言い終わったから意味ないけど。でも、やっぱ可愛い。
そして、全ペアがステージに出てきて投票が行われた。
どうやって数えるのか少し気になってたけど、同じ重さのボールが配られて、その重さを量るらしい。
『それでは集計が終わったので投票結果を発表します!ベストカップルに選ばれたのは―――天宮さん、蒼井さんペアです!おめでとうございます!』
そう言ってメダルをかけられた。
「え、」
「流也たちだと思ってた」
「ホント。」
『それではベストカップルに選ばれた天宮さんと蒼井さんから一言お願いします』
「バカップルだなって実感しました」
「途中から父に見られてて恥ずかしかったです」
『本当だ。天宮先生いらっしゃいますね。天宮先生かも一言もらいますか?』
「いらないです!」
『では、これにてカップルコンテストを終了します!ご参加ありがとうございました!』
拍手で見送られて控え室に戻った。
愛理ははぁ~、と溜め息を漏らしていた。
まあ、俺も父さんとか母さんに見られてたら恥ずいわ。
恥ずいよりもからかわれてウザいの方が勝つと思うけど。
「私が言うのも変だけど、パパってちょっと親バカっていうか。唯に会ったらいい彼氏か見極めるとかママに言ってたらしいし」
「え、マジで!?もっとカッコつければ良かったか!?」「自然体でいいと思うよ。『唯くんが愛理の彼氏で良かった』って言ってたし」
俺のどこが良かったか分からないけど、気に入られたなら別にいいか。
「愛理、後夜祭出ないのか?」
「出ていいなら出るけど。フォークダンスだよ。嫌じゃない?」
「………嫌。あ、けど、愛理が出たいなら」
「唯と一緒に帰りたいんだけど。ダメ?」
愛理は首を傾げて俺の顔を見上げた。可愛すぎんだけど。
「ダメなわけねえじゃん。むしろ、一緒に帰りたい」
「よかった」
愛理の手を握って学校を出て駅に向かった。
もう夕日が見える時間帯で、カラスが鳴いていた。
なんか、こういう祭りの後って寂しいよな。
と、思っていると通知音が鳴った。俺の、ではないよな。
「あ、羽奈ちゃんからだ」
愛理はスマホを操作して、メッセージを読んでいるのかと思ったら何か動画を再生していた。
え、この背景、見覚えあるんだけど。
愛理の教室じゃない、よな?
『見た目だけで愛理を好きになったんじゃねえよ。中身も含めて愛理が好きだから付き合ってんだよ。悪いけど他に興味な………』
慌てて愛理のスマホ画面をタップした。
いや、まあ、ここまで再生されてたら今さらなのは分かってんだけど。
「愛理、あんま顔見ないで」
「え、やだ」
愛理は笑って俺の顔を見上げた。
今は顔赤くてダサいからマジで見ないでほしいんだよな。
とりあえず、岸に電話を掛けた。
『もしもし~?』
「愛理に何送ってんだよ!てか、何撮ってんだよ!!」
『いやさ~、愛理いないのに面白いこと言ってるから後で愛理に見せようと思ってさ~』
「思ってさ~、じゃねえよ!あと、愛理はもう一回再生しなくていい!」
愛理のスマホの音量を消すと愛理は俺のスマホを奪って岸に『羽奈ちゃん、ありがとう!』なんて言いながら楽しそうに喋ってる。
まあ、愛理がめちゃくちゃ喜んでるみたいだから許すけど。
それにしても、愛理はブレザー着てないのに寒くないのか?と思っているとくしゅんっと小さい声が聞こえた。
え、かっわ。じゃなくて、
「これ、着て」
上着として着ていたジージャンを愛理に掛けた。
「あ、ありがと。唯は寒くない?」
「うん」
駅に着くまで愛理は岸と話していた。
ちなみに、俺は潤が姉貴の電話中にベタベタする気持ちがすげえ分かったけど、姉貴に散々ウザがられてるのを見てきたからなんとか耐えてみせた。
いや、けどウザがられてもフラれないから耐える必要はなかったのか?
いや、でも、愛理にウザいって思われたくはないから耐えてよかったよな。うん。
「唯、今日1日楽しかった。来てくれてありがとう」
「どういたしまして。俺も楽しかった」
やっぱり愛理の笑顔はマジで可愛い。




