僕は大福
「大福~!今日は私も一緒にお散歩行くね!」
「蓮、大福寝てんぞ」
「ホントだ。どんな夢見てるんだろ」
「犬も夢見るのか?」
「………さあ?」
~~~~~
僕は子犬の頃、ケージに入っていた。ある日、僕の初めの飼い主の慧くんが僕を家に連れて帰った。その飼い主の家にはキツイ香水をつけた女の人、ののちゃんが住んでいた。
僕がこの家に来た頃、外は暑かった。寒くなる頃に慧くんが家に帰って来ないことがあった。次の日も、慧くんは帰ってこなくてその次の日の朝、ののちゃんが香水もつけずに真っ黒な服を着て泣いていた。僕がののちゃんを励ますためにののちゃんに近付いてもののちゃんはずっと泣いていた。夜になってもののちゃんは泣いていた。
朝になるとののちゃんは僕を抱っこして散歩のときに通る大福屋さんの隣に連れてきた。まだ会って少ししか経ってないけど僕はののちゃんと慧くんが好きだった。香水がキツイののちゃんだけどいつもお風呂上がりに撫でてくれたし、お散歩にも連れていってくれた。慧くんは僕と遊んでくれた。ケージの中の生活よりも楽しかった。だから、暗い顔をしたののちゃんも、全然帰って来ない慧くんも心配だ。
「タロー、ごめんね。寒いよね、ごめんね。私のマフラーは匂いがキツイからやだよね。慧くんのだから大丈夫だよね」
ののちゃんは泣きながら段ボールにマフラーを置いてその上に僕を座らせて頭を撫でた。ののちゃん、悲しいの?慧くんはどこにいるの?ののちゃん、お腹空いたよと鳴くと、ののちゃんは「最後に」と美味しいジャーキーをくれた。
「ごめんね、タロー。私、慧くんのところ行ってくるね。タローはまた新しい家族と幸せになってね。」
慧くん!?僕も慧くんのところ行きたい!ののちゃんは知ってたんだ!
「タローも慧くんに会いたいの?」
うん!会いたい!遊んでほしい!抱っこしてほしい!
「私も、会いたいよ。けど、私は会えないかも。タローのこと捨てちゃったし。慧くんに怒られちゃうかな?」
慧くんは怒らないよ!優しいもん!ののちゃんがお皿割っちゃっても、お風呂めんどくさくがっても、お料理失敗しても全部笑って許してくれるもん!
「タロー、私のこと恨むよね。ごめん。慧くんがいなくなって辛いの。寂しくて、胸が苦しいの。だから、楽になってもいいよね?慧くん、また笑っていいよって言ってくれるかな?それとも、ダメだよって怒ってくれるかな?」
ののちゃん、泣かないで。寂しい顔しないで。慧くんが心配しちゃうよ。早く暖かいおうちに帰ろう。慧くんのところ行くなら僕もついていくから。だから、泣かないでののちゃん。
「じゃあね、タロー。ごめんね。幸せになってね」
ののちゃん!待って!慧くんもののちゃんも僕が嫌いになったの?ちゃんといい子でお留守番するよ。クッションボロボロにしないよ。ののちゃん、慧くん、寂しいよ。会いたいよ。
僕が最後に見たののちゃんは初めて会った頃と違って香水の匂いもなくてキラキラした目をしてなくて髪もボサボサでただひたすらに泣いて苦しそうだった。僕はなんでののちゃんが泣いているのかも、慧くんが急に帰ってこなくなったのかも分からないけど、2人と離れ離れになることだけは分かった。
いつの間にか、雪が降りだした。
僕が寒くて寝てしまいそうになっていると子供の声が聞こえてきた。なんだ。ののちゃんと慧くんじゃないんだ。
「仁くん、見て。大福屋さんの隣にワンちゃんいる。雪かかってて大福みたい」
「………お前、寒くないのか」
こいつ、目が怖い。ののちゃん、慧くん、助けて。タローのピンチだよ。威嚇をすると、銀髪の目つきの悪い方が僕の上に上着を掛けて僕を段ボールごと持ち上げた。
「仁くん、勝手に連れて帰っていいの?この子、綺麗だから飼い犬かも」
「紙に拾ってくださいって書いてある」
「ホントだ。私もこの子飼いたいな」
「けど、莉央って犬苦手じゃなかったか?」
「そうだった」
僕はののちゃんと慧くんの家族だよ!怖い方の家も金髪の方の家も行かないよ!僕はののちゃんと慧くんのいる家に帰りたいよ!
「仁くん、この子寒いのかな?」
「なんで?」
「泣きそうな顔してる」
「そうか?」
「うん」
金髪の方が僕の体に上着を巻いてを抱きしめた。
「寒くないよ。大丈夫だよ。おうちすぐそこだから早く暖まろうね」
「蓮、寒くないか?俺の上着着るか?」
「大丈夫だよ。私よりこの子に貸してあげて」
「分かった」
怖いと思ってたけど、この人間、優しいのかも。慧くんとののちゃんみたいに僕を優しく撫でてくれるかな?一緒に遊んでくれるかな?
「着いたよ。結愛さ~ん!ただいま~!」
「蓮!おかえり~って、びしょ濡れじゃん!お風呂沸かすから着替え持ってきな」
「うん。あ、この子寒そうだったから連れて帰って来ちゃった」
「え、この子って?犬!?てか、本当に捨て犬?こいつめっちゃ綺麗だけど」
「段ボールに拾ってくださいって書いてた」
「そっか。まあ、一応警察にきいてくるわ」
僕はタオルにくるまれて同じ服を着た人間がたくさんいるところに連れていかれてやっと寝られると思ったらなんか嫌な匂いがするところに連れていかれて針を刺されて体を洗われた。
慧くんとののちゃんの方が上手だよ~!
外が暗くなってきていた。
車を降りて怖いやつの家に入ると人間の子供が3人も増えていた。
「ホントに犬だ!」
「可愛い~!」
「小さい」
子供たちに囲まれていると金髪の方が僕を抱っこして優しく撫でてくれた。
「私は蓮だよ。大福、これからよろしくね」
その夜、蓮はどこかに行った。蓮から怖い方の名前も聞いた。仁っていうらしい。そんなことどうでもいい。
ののちゃん、慧くん。会いたいよ。僕を置いていかないで。
『タロー!ただいま~!いっぱい遊ぼうな!』
『タロー、これどう?可愛くね?あ、慧くんにはまだ秘密ね』
「大福」
僕の名前はタローだよ!
「お前、飼い主に会いたいのか?」
仁は驚いたような顔で僕を見下ろした。仁は、僕の言葉が分かるのかもしれない。
「寂しいよな。俺の部屋で寝ろよ。寒いだろ?」
仁は僕を抱っこして階段を上がった。
なぜか、仁の匂いもこの家の匂いも居心地が良かった。
~~~6年後~~~
ののちゃん、慧くん。僕、今幸せだよ。僕、もう7歳になったよ。少なくてもあと10年はこの家族と過ごすよ。僕がそっちに行くまで待っててね。
***
「あ、起きた」
「おはよう、大福。お散歩行こ」
「人の部屋で爆睡しやがって」
「可愛いからいいじゃん」
***
蓮と仁は今は僕の親友。唯と春雪と黄雛と結愛も。僕は大福。蒼井大福




