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30、夏休み


 今日から仁くんが隣の県にある仁くんの叔父さんの会社のお手伝いというかアルバイト?に行く。電車で40分ぐらいの距離だけどその会社の近くに叔父さんの家があるから寝泊まりはそこでするらしい。なので大和さんの車に荷物を積めている仁くんのお見送りにやって来た。


「日曜は帰ってくるからな」


仁くんは私を抱きしめた。私、めっちゃ子供扱いされてない?あ、そうだ。私仁くんに言わなきゃいけないことあるんだった。


「仁くん。私、明後日から夏休み終わるまで北海道行くことになったから来月まで帰ってこないんだよね」

「は?なんて?」

「北海道で1ヶ月間下宿するの。勉強しつつ観光もしてくる」

「意味分かんね」

「勉強集中するために田舎の方に行くんだって」


仁くんは不機嫌そうに車のドアを開けて座った。なんでこんなに怒ってるの?仁くんの誕生日があるのに北海道行くから?一応、サプライズでプレゼントとか用意してるんだけど、今言ったらサプライズじゃなくなるし。


「蓮のバカ」


仁くんは私にキスをして車のドアを閉めた。待って、ホント意味分かんない。なんでバカなんて言われなきゃいけないの?確かに仁くんよりはバカだけど、結構成績も上がっててこの前の通知表見て先生が「このままいけば推薦も狙えるかも」って言ってたぐらいなのに!


「あ~あ、仁キレちゃった」

「ヒナ!仁くんの誕生日のサプライズ、やっぱ無しでいいよ。プレゼントも渡さなくていいから。“バカ”からサプライズされても“天才”は嬉しくないだろうから!」

「も~、蓮まで」



その2日後、私は飛行機で北海道に行った。




 * * *




マジで意味分かんねえ。なんだよ北海道行くって。別にそこまでして勉強しないとまずいぐらいバカでもないだろ。

8月になったら付き合って1年記念日(1回別れてるけど)でどっか出掛けたりすると思って事前に休み取れるか確認してとプレゼントも買ったっていうのに全部意味なくなったじゃねえか。

そもそも、付き合った日覚えてないんだろうな。俺も春雪に言われるまで忘れてたけど。



「仁、着いたぞ」

「分かってるっての」

「あんまり態度悪いと大雅にクビにされるぞ」

「ああ」


荷物を持ってビルに入った。エレベーターに乗って3階に着くと親父の弟の大雅が立っていた。


「兄さん!仁!久しぶりだな~。って、仁。どうしたんだよ。そんな不機嫌そうな顔して」

「別に」


大雅が俺の肩を叩くと親父が思い出したように笑った。


「ここ来る前に蓮と、あ、仁の彼女な。言い争いして拗ねてるんだよ」

「喧嘩?なんで?」

「蓮が、北海道に1ヶ月間下宿しながら受験勉強するって言って会えないのが寂しいから拗ねてるんだよ」


親父が笑って肩に腕をまわしてきた。すぐに腕を振り払って荷物を持った。


「別に寂しくねえし。」



~~~~~ 2週間後。




あ~、蓮に会いたい。

抱きしめたい。キスしたい。せめて声だけでも聴きてえな。向こうで変な奴に目付けられてねえよな。てか、俺から離れねえって言ってたくせにすぐに離れるじゃねえか。蓮のバカ。


「仁兄!私の部屋でくつろがないで!勉強の邪魔!」

「蓮は寂しがってねえかな?てか、なんで1回も連絡してこねえんだよ」

「蓮ちゃん?私、普通に連絡来るけど。毎日夜に通話繋ぎながら勉強してるし」

「は?」


なんで俺じゃなくて春雪に通話かけんだよ。蓮、俺のこと好きなんじゃねえのかよ。今日連絡来なかったらもう好きじゃないの確定だな。俺の誕生日だし。


「あ、蓮ちゃんから写真送られてきた」

「っ!」

「見たい?じゃあ、宿題手伝ってね」

「ああ」


春雪は笑って画像を俺に送った。開いて見てみたら蓮と明らか年上で蓮の好きなキャラのコスプレをした男が写っていた。アイコンの背景もこの写真にしてる。俺への当て付けか?マジで最悪の誕生日だ。


春雪の部屋を出て自分の部屋に戻ってお袋の妹の優乃に通話を掛けた。


『はいは~い、じーくん?』

「今から家来るんだろ?」

『そうだよ~。まあ、プレゼント渡したら帰るけどね~』

「着いたら2ショット撮って」

『いいけど。なに?元モデルの叔母を自慢したくなったの?』

「じゃあよろしく」


通話を切って数十分後、家のチャイムが鳴って玄関に出た。プレゼントを受けとる前に優乃と写真を撮って蓮に送りつけた。


「蓮って誰?友達?」

「彼女。何日も連絡してなかったくせに春雪に北海道の知らない男と2人で撮った写真送ってきたからこっちからも送ってやる」

「電話すればいいじゃん」

「蓮にバカって言ってもう嫌われてるから無理」


プレゼントを受け取って家に入った。既読ついてるんだからもう写真は見たんだろうな。ソファに寝転がってメッセージの画面を開いていると唯が俺の目の前にスマホを置いた。


「電話」

「誰から?」

「出たら分かる」


「もしもし」

『この浮気野郎』

「あ?」

『じゃあね』

「勝手に切るなよ」


唯にスマホを返して部屋に戻ろうとリビングを出ると玄関のドアが開いて目が赤くなった蓮が入ってきた。




 * * *




靴を脱いで仁くんの前に立った。


「仁くん、浮気とかサイテー」

「は?待て、なんでいるんだよ。てか、浮気なんてしてねえよ。そっちこそ浮気すんなよ」

「私は仁くん以外興味ないし!写真に写ってるのも女の子だし!」

「俺も蓮しか興味ねえよ!隣に写ってんのは叔母だ!」


私と仁くんが睨み合っているとヒナが2階からおりてきて私のことを抱きしめた。


「レン、さっきまで仁と仲直りしたいって泣いてたくせに喧嘩口調とかいつからツンデレになったの?可愛いな~、も~!」

「ヒナ!余計なこと言わないでよ!」

「目が真っ赤だぞ~!保冷剤いる?」

「……いる」


私が頷くとヒナは髪をくしゃくしゃっと混ぜてリビングの方へ歩いていった。仁くんは私の顔を覗き込んできたから慌てて手で目を隠した。ヒナが泣いたことバラすから気まずくなっちゃったじゃん!


「蓮、泣いたのか?」

「泣いてない」

「じゃあ顔見せろ」

「無理」

「仲直り、するか?」


仁くんはコツンと私の頭を当てた。手をよけると仁くんと目が合った。仁くんは笑って私の頬に手を当てた。私は仁くんの額の傷を指で撫でると仁くんはさらに顔を近付けた。すると、後ろから声が聞こえてきて2人で振り返るとリビングのドアが少し開いていてヒナと春雪と唯が目だけ出して覗いていた。

仁くんから離れてドアを開けた。


「覗いても何も面白いことないから」

「え~、今キスしようとしてたくせに」

「いやいや、してないよ。ね?仁くん」

「俺はキスする気だったけど」

「え、そうだったの?」


仁くんは頷いて指を絡めた。甘えてる仁くん可愛い。あ、てか誕生日プレゼント準備してたんだった。仁くんの手首に腕時計をつけた。


「ラッピングの箱は大福にボロボロにされちゃったから捨てちゃった」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「レンってタイミングが面白いよね」


ヒナと唯はお腹を抱えて笑っていた。


それから2日後、付き合って1年記念日。仁くんとデートに行く。


「リオ兄、服装変じゃない?」

「うん。似合ってるよ。可愛い」

「ありがとう。そういえばジュン兄は?」

「部屋で製図してる」

「もうすぐコンペだもんね」


ジュン兄は7月の1級建築士の試験で合格して4年の実務経験を積んだら無事に1級建築士になる。試験までは大変だった。勉強中はヒナが邪魔にならないようにとバイトを入れまくって会えなくてジュン兄は感情のないロボットみたいになっててさすがにヤバいってなってヒナが会いに来たらすぐに元通りになった。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」


家を出るとちょうど仁くんも家から出てきた。


「おはよう」

「ああ」

「映画楽しみだね。仁くんと2人は初めてだし」

「そうだな」

「13時からのだよね?」

「うん」


バスでショッピングモールに行ってシアターに行った。


やっぱ夏休みだから人多いな。まあ、チケット予約済みだから別にいいけど。


そして、映画が始まった。ヒナがおすすめしてたやつだ。めちゃくちゃ恋愛映画なんだけど、仁くんってあんまり実写の恋愛映画観ないんだよね。アニメのは絵が好きだったら観るけど実写だとこんなの現実であるわけねえとか言って寝ちゃうんだよね。今も私の肩に寄りかかって寝てるし。


映画が終わってシアター内が明るくなるとお客さんはどんどん帰って行く。仁くんを起こして私たちも周りに続いて外に出た。


トイレに行ってる仁くんをベンチで待っていると20代くらいの男性が隣に座って話し掛けてきた。


「君、さっき映画観てたよね?俺も観てたんだけど」

「……」

「面白かったよね」

「……」


怖い。仁くん、早く帰ってきて。初対面の人と話すの苦手だから早くどっか行ってくれないかな?

仁くんがまだ帰って来ないかとトイレの方を見るとちょうど来てくれた。やった、ナイスタイミングだよ。仁くん。仁くんはこっちに歩いてきて私の腕を引っ張って立たせた。


「ちょっ、待てよ。俺が先に目付けてた」

「は?俺が先だ。何年前からだと思ってんだよ。てか、人の彼女にナンパしてんじゃねえよオッサン」

「彼氏いるなんて聞いてねえよ。それに俺はまだ24だ!」


男の人は怒った様子でどこかに歩いていった。てか、仁くん分かっててオッサンって言ったのに真に受ける必要ないと思うんだけど。


「仁くん、ありがとね。めちゃくちゃ話し掛けてくるから怖かった」

「彼氏いますって書いたTシャツとか売ってねえかな?」

「ないでしょ。あったらジュン兄がヒナに買ってるし」

「それもそうだな」


仁くんは私の指を絡めて笑った。それからブラブラと歩きながらウィンドウショッピングをしていると、男の子がキョロキョロ周りを見渡しながら歩いていた。


「仁くん、ちょっと待ってて」


仁くんから離れて男の子の側に行った。男の子は泣くのを一生懸命我慢していた。私はしゃがんで男の子の目線を合わせた。


「お母さんは?」

「ママ、どこか行っちゃった」

「そうなんだ。私は蓮。名前教えてくれる?」

「そうた」

「そうたくん、お母さん探してもらうためにサービスカウンター行こうね」


そうたくんは私の手を握って頷いた。けど、すぐに泣き出してしまった。私がそうたくんを抱っこしてどうしたのか訊いていると、仁くんがやって来た。


「あのお兄ちゃん怖い!」

「仁くん?仁くんは優しいよ。怖くないから安心して」


そうたくんの背中をポンポンと叩くと泣き止んで私に抱きついた。仁くんのこと、怖がられるのは嫌だけど私も仁くん以外の人は怖がっちゃうし、子供なら仕方ないよね。


「仁くん、ちょっとサービスカウンター行っていい?」

「ああ」


サービスカウンターってここから結構遠いんだよね。そもそもここ3階でサービスカウンターが1階だし。とりあえずエスカレーターに乗って2階におりた。


「ごめん。ちょっとトイレ行ってきていい?」

「ああ」

「そうたくん、仁くんと2人で待っててね」

「いや~!蓮どこも行かないで~!」


そうたくんを下ろそうとすると抱きつかれた。


「じゃあ、一緒に行く?」

「行く」

「は?いいわけないだろ」


仁くんがそうたくんを私から引き剥がすと、そうたくんは泣き出してしまった。トイレ行かない方がいいかな?


「蓮、今のうちに行けよ」

「わ、分かった」


急いでトイレに行ったけど少し混んでて帰ってくるのが遅くなった。急いで仁くんたちのところに戻ると警備員さんに声を掛けられていた。


「えっと、仁くんに何か?」

「蓮」

「蓮!」


そうたくんは私に抱きついた。警備員さんは驚いたように私とそうたくんを見比べた。まあ、そうだよね。金髪で緑の目の女子と黒髪の男の子が知り合いでも姉弟には見えないからね。


「どういったご関係ですか?」

「この子、迷子みたいでサービスカウンターに連れて行く途中なんです」

「ああ、そうでしたか。勘違いしてしまいすみません。よければ私がサービスカウンターまで連れていきます」


そうたくんの方を見ると全力で首を横に振っていた。そこまで嫌がらなくても。


「私と仁くんで連れていきます」

「分かりました。失礼します」

「はい」


警備員さんと分かれて1階にあるサービスカウンターに行った。放送もしてもらったので帰ろうとすると、そうたくんに腕を掴まれた。


「ママが来るまで待ってて」

「えっと、いい?」

「まあ」


10分ほど経つとそうたくんのお母さんがやって来た。そうたくんは私の手を引いてお母さんの前まで連れてきた。お母さんは私と仁くんにお礼を行ってそうたくんと帰ろうとしたけど、そうたくんが私の手を離さなかった。


「蓮も一緒に帰るの。大人になったらそうたと結婚するの」


ねっ、と笑ってそうたくんは私の顔を見上げた。仁くんは眉間に皺を寄せて私の顔を見た。私が首を横に振ると仁くんは私の手からそうたくんの手を離して私にキスをした。


「蓮と結婚すんのは俺だ。諦めろ。」


すると、そうたくんはギャーッと泣き出してしまった。てかなんで私こんなに好かれてるんだろ。少し苦笑いを浮かべてそうたくんの頭を撫でた。


「お母さんに会えたんだからもう泣かないで」

「蓮も、一緒に買い物して帰る」

「ごめんね。今日は1年記念日だから仁くんと2人がいいかな。けど、またどこかで会ったらお喋りしようね」

「………うん」


そうたくんは小さく頷いて手を振って帰っていった。そして、私は後から羞恥が襲ってきた。


「蓮、どうしたんだ?熱中症か?水飲むか?」

「熱中症じゃないけど、水は飲む」


仁くんは高1の頃に私が熱中症で倒れて以来いつも水を持ち歩いてくれている。ホント、そういう優しいところ大好き。


それから雑貨屋さんで面白いキーホルダーを見つけて私がヒナと愛理に買って、仁くんはジュン兄と唯に買って家に帰った。


「ヒナ~!来て~!」

「どうしたの?レン」

「これ、プレゼント」

「え、なに?」


ヒナは袋を開けてキーホルダーを見て笑った。ちなみにどんなキーホルダーかというと、『恋人います』と彫られたプレートの隣に写真を入れることができる物だ。ちなみに、写真を入れるところは取り外し可能だ。


「ジュン兄にもあげる予定」

「貰ったときの様子想像できるわ」


ヒナは笑ってありがとうと言って2階に行った。次に仁くんと一緒に唯の部屋に行って唯にも渡した。もちろん愛理の分も。


「愛理には私から連絡しておいたから。唯から受け取ってって」

「いや、待て待て。愛理にも渡すのか?」

「ナンパ防止だよ。便利でしょ?」

「……確かに」


唯は納得したように素直に受け取った。それがなんだか可笑しくて笑ってしまった。

それから仁くんの部屋に行って一緒にアニメを見た。なんか、こうして過ごすのも久しぶりだな。


「あ、そうだ。仁くんにプレゼントあるんだよね」

「俺も」

「せーの」


一緒に渡すと色違いの水筒だった。すごっ。色違いなんて。驚いて固まっていると仁くんが笑い出してつられて笑った。


「「ありがとう」」

「仁くん。もしかして、ジュン兄に訊いた?」

「ああ」

「私も。けど、ジュン兄が“俺がヒナから貰って一番嬉しいのはヒナからのキス”って言われて何あげたらいいか分かんなくてリオ兄に訊いたんだよね」

「俺も」


まあ、ジュン兄からまともな返事がかえってくるとは思わなかったけど。だけど、一応こっちも。と思って仁くんの首に手をまわしてキスをした。

仁くんは驚いたように目を見開いたけど私にキスをして抱きしめた。


「蓮、この1年、ずっと蓮が好きだった。1回別れたけど、それでもずっと蓮のことが好きだ。これからも、蓮のこと好きでいてもいいか?」

「うん。いいよ。私もずっと仁くんのこと好きでいるから」


それから外が暗くなってきて家に帰った。帰ると、達成感に満ちた顔のジュン兄がいた。


「コンペの作品終わった!」

「おめでとう」

「ありがとう、蓮」

「あ、そうだ。これ」


ジュン兄にも恋人いますキーホルダーを渡した。まあ、お金を払ったのは仁くんだけど。ジュン兄は嬉しそうに笑って私を抱きしめた。


「ありがとう、蓮!こういうのめちゃくちゃ探してたんだよ!結婚祝いはこれの“結婚してます”バージョンのちょうだい」

「あったかな?嫁います、と旦那いますならあったけど」

「じゃあそれで」


ジュン兄は笑ってさっそくヒナと撮ったプリクラを入れていた。ちなみに、ジュン兄はプリクラはヒナの可愛さが機械の加工に勝つせいで加工が邪魔で好きじゃないらしく全部ヒナが持っているらしい。けど、盛らないプリクラは逆にジュン兄が全て持ってるんだって。

ジュン兄が写真を入れて満足気に笑っていると、リオ兄がスマホを構えていた。


「兄貴ってさ、マジで黄雛好きだな」

「ああ。めっちゃ好き。なんたって初恋だし」

「え!?なにそれ!初耳!」

「ヒナには内緒な」

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