26、クリスマスデート
あと1週間でクリスマスだ。もちろん、高校生だから彼氏彼女がいるやつは浮わついている。まあ、俺も人のことを言えないくらいには浮わついているけど。
部屋のカレンダーに丸を付けているとドアが開いた。
「唯兄~」
「なんだ?」
「イブにさ、虹叶と類と一緒に遊園地行くんだけど、唯兄も行く?」
「イブか。わり、その日は無理だ」
「そっか。じゃあ3人で行くってあとで連絡しないと。ところで、イブの用事って愛理ちゃん?」
こいつ、昨日電話してたのを聞いてたのか?いや、それはないよな。部屋のドアも閉まってたし。じゃあなんで知ってるんだ?
「そっか。愛理ちゃんか。で、いつから付き合ってたの?」
「付き合ってねえよ」
「え!まだ!?誰かに取られる前に早く付き合わなきゃ、狙ってる人とかいっぱいいるでしょ!」
「分かってるけど、告白とか経験ねえし。イブはプロのバレーの試合見に行くだけだし」
「仕方ないな~。私の持ってる少女漫画貸してあげるから勉強して。私服もね。ジャージとかトレーナーとかダメだよ。そのあとご飯食べに行くかもなんだから」
春雪は隣の自室から漫画を何冊か持ってきて俺の机に置いた。こいつ、愛理と話したことないくせにめちゃくちゃ愛理のこと気に入ってるな。
風呂に入って夕飯を食べて、テレビを見て部屋に戻った。それから、ベッドに横になって渡された少女漫画を読んでいると、案外面白くて熱中してしまった。気が付くともう1時を回っていた。
「ヤバ、早く寝ないと明日遅刻する」
慌てて電気を消して寝た。
それから約1週間後。今日は12月22日、終業式。体育館で長い話を聞いて教室に戻ってきた。
「唯くん、うちらイブにクリパするんだけどよかったら来ない?」
「あ、悪い。バレーの試合観に行くから無理だ」
「ホント、バレーのことしか考えてないな」
「うるせえ、坂口。お前は彼女のことしか考えてないくせに」
「バレたか」
「ウゼエ」
笑って荷物を持って教室を出た。蓮は潤が車で今日の夕方に空港からオーストリアに行くそうだ。お土産をたくさん買ってくると宣言してた。
「兄貴、早く帰ろうぜ」
「5日間、蓮に会えねえ」
「潤みたいなこと言ってんじゃねえよ。めんどくせえな」
兄貴の服を引っ張って昇降口に向かっていると蓮からメッセージが届いた。
『クリスマス当日に仁くんに唯の下駄箱に入れておいた手紙渡してね。クリスマス当日までに仁くんにバラしたら許さないからね♡』
なんだよ、ハートって。蓮がハート使うとか怖っ。
下駄箱を開けみるとマジで手紙入ってたし、ハートのシール付いてるし。このハート、俺のメッセージのとは真逆の意味なんだろうな。
「告白か?」
「え!あ~、いや、友達がイタズラで入れただけだと思う」
「そうか。帰るぞ」
「あ、おお」
ヤベ、不自然すぎたか?まあバラしたわけじゃねえしいいよな?
駅に向かっていつもと同じ電車に乗った。
「唯~、仁~。おつ~」
「姉貴」
「今帰り?」
「そそ。今年も校長の話長かった?」
「めちゃくちゃ」
「だろうね。あ、そうだ唯。愛理に謝っといて。恥ずかしいところ見せちゃったし」
「いいけど」
愛理には世話になってばっかだな。なんか、申し訳ないな。お礼も兼ねてクリスマスプレゼントとか渡したいけど、ウザくねえかな?
「愛理とデートするんでしょ?私が服選んであげるよ」
「俺の服も貸してやる」
「デートじゃないけど。てか、なんだよ急に」
「ほら、唯にも世話になったし」
「俺も、まあ、色々世話になったから」
姉貴と兄貴が素直に礼言うとか逆に怖いんだけど。春雪じゃねえんだから口に出して言わないけどさ。
「まあ、頼む。春雪にジャージで行くなって言われたけどトレーナーとかジャージしか持ってねえから困ってたんだよ」
「愛理に告るの?」
「さあ?」
「まあ、頑張りなよ」
姉貴も兄貴も俺が愛理を好きだって気付いてるんだな。そんなに分かりやすいのか?じゃあ、愛理にもバレてたりすんのかな?じゃあさっさと告った方がいいか?
色々考えていると気付いたときには24日になっていた。
「じゃあ行ってきま~す」
「遊園地だっけ?」
「うん!」
「行ってら~」
春雪に手を振って自分の部屋に行って着替えた。
「じゃあ、俺も行ってくるわ」
「愛理によろしく」
「うん」
家を出て駅に向かった。やっぱ駅はカップルが多いな。やっぱり、今日、愛理に告白しよう。俺も愛理と付き合いたい。
「唯!」
声のした方を向くと、愛理が小さく手を振っていた。ヤバい、可愛すぎる。
「え、あ、愛理。おはよう」
「おはよう」
「私服、意外とおしゃれだね。何回か私服みたことあるけどジャージとかスポーツウェアだった気がして、今日もそうなのかも思った。」
「いや、合ってる。姉貴が選んでくれたし、ジャージとかトレーナーしかないから兄貴に借りたし」
「やっぱり?でも、似合ってるよ。そういう服も買ってみたら?」
「そうする」
愛理に似合うって言ってもらうためならもう少しおしゃれを頑張ってみよう。
それから、ホームに行くとちょうどいいタイミングで電車が来たので待たずに乗れた。
「座れなさそうだな」
「そうだね」
「あ、でも1人分席空いてる。座ったら?」
「大丈夫だよ」
目的の駅に着いてそこから徒歩数分の場所にあるスポーツ施設に向かった。
「懐かし~。小学校の頃よく来てたわ」
「……」
「どうしたんだ?」
「え、あ、私も小学生の頃よく来たなって思って」
中学にあがってからは別の体育館で試合することが増えたからな。
「私、浜中町に引っ越すまではこの市に住んでたんだ」
「そうだったんだ。じゃあ結構近かったんだな」
「うん」
それからチケットを持って会場に入った。
「あ!もしかして愛理!?」
「翔太?」
「そうそう!久しぶりだな~。2年ぶりくらい?」
「そうだね」
……誰?なんか愛理と結構仲良さそうだけど。
「こいつだろ?浜中第一の蒼井。近くで見るとマジでイケメンだな」
「なんで俺のこと知ってるんだ?」
「なんでって、」
翔太が言おうとした瞬間、愛理が慌てて翔太の口を手で押さえた。
「言わなくていいから!ホント、やめて」
「愛理?」
「い、今のこと忘れて」
愛理は真っ赤になった顔を手で隠した。え、かわっ。めちゃくちゃ可愛い。
「うん」
「じゃあまたね、翔太」
「おう」
翔太と分かれて引き換えたチケットに書かれた席に向かった。
「ドキドキする」
「そうだな」
それから試合が始まって約1時間半で試合が終わった。
「橋本選手カッコよかった!」
「サービスエースめちゃくちゃ決めてたな!」
「うん!」
俺たちの席は最前列ではないのでサインは頼めないけど好きな選手のいるチームが勝ってよかった。
「唯、ちょっと行きたいところあるんだけどいい?」
「いいよ」
愛理についていくとスポーツ施設の休憩所にやって来た。愛理は休憩所のベンチに座って俺にも座るように促した。
「私ね、小学校の頃のチームが結構強くて4年生のときの大会で準決勝まで行ったことがあったの」
「すげえな」
「でもね、私、相手がマッチポイントのときにサーブだったんだけど外しちゃって。皆、慰めてくれたけど私は自分のせいだって思ってここに来て泣いてたんだ。」
* * *
どうしよう。私がサーブを決めてたら勝てたかもしれないのに。こんなことならお母さんとお父さんに応援来てもらえばよかった。お仕事休んでって頼んだらよかった。
「うっ、くっ、」
隣からも泣き声が聞こえてきて顔をあげると同い年くらいの男の子が泣いていた。この子も試合に負けたのかな?
私は涙を堪えてその子の方を向いた。
「試合、負けちゃったの?」
「……うん」
「私も、負けたの。」
「お母さん、今日来てないから絶対に勝ってくるって言ったのに負けた」
「私も。お父さんとお母さんが来てなくて、試合負けちゃった」
男の子はしばらく泣くと涙を拭いて顔をあげた。
「君はあんまり泣かないんだね。強いね」
「だって、来てくれなかったのは寂しいけど、泣いたら迷惑掛けちゃうから」
私が笑って見せると男の子は私の頭にタオルを掛けた。
「泣いてもいいんだよ。これまで寂しかった分、たくさん泣いていいんだ」
男の子に頭を撫でられて私が我慢していた涙は溢れだした。お母さんとお父さんに来てほしかった。皆、お父さんとかお母さんが応援に来てるけど私だけ来ないから寂しかった。いつもお仕事で忙しいから誘えなかったけど、今度の試合は絶対に誘う。そう心に誓って私は涙を拭いた。
「あ、あの、タオル濡らしちゃってごめん。洗って返すから」
「いいよ。しばらく貸す。また泣きたくなったら使えよ。それで、次会ったときに返して。それと、そのタオル貸すから俺が泣いてたことは誰にも言うなよ。カッコ悪いから」
「う、うん!私が泣いてたことも内緒だよ」
指切りを交わしてその子と分かれてチームのところに戻った。指切りを交わしたときは、私もその子も笑顔だった。
* * *
「そのときの男の子がね、私の初恋なんだ」
愛理は笑って俺の顔を見上げた。待てよ?俺の記憶とリンクしてるのは気のせいだよな?
「ねえ、まだ気付かない?」
「え、あ、いや」
「変なこと言っちゃってホントごめん。ちょっと風当たってくるね」
愛理は走っていって慌てて追い掛けたけど、ちょうど選手たちが移動していたらしく、人混みに紛れていった。
人多くてメッセージ送信できないし、電話も繋がらない。
「愛理!どこだ!?」
見渡しても愛理の姿が見えない。マジでどこに行ったんだ?
もう一度、電話を掛けてみると繋がった。
「愛理!今どこだ!?」
『それが……』
救護室のドアを開けて慌てて中に入った。
「愛理!大丈夫か!?」
「大丈夫!全然平気!」
愛理は笑ってピースサインをした。愛理はさっきの人混みで誰かの足を踏みそうになって避けたらそのまま足を挫いてしまったそうだ。
「お友達来たみたいだしもう大丈夫そうだね」
「橋本選手!?え、なんで!?」
「この子が急にしゃがみこんだから心配で救護室に連れてきたんだよ」
橋本選手、やっぱり噂通りめちゃくちゃ優しい人だな。
「骨は大丈夫そうだけど、痛みが引かなかったら病院行ってね」
「はい。ありがとうございます」
愛理は荷物を持って立ち上がって救護室を出た。けれど、愛理は一瞬顔をしかめてすぐに笑って俺の顔を見た。
「今日はもう帰るか」
「え……。足首なら全然大丈夫だよ。もう少し、遊んでから帰ろうよ」
「怪我人は安静にしないとだろ。」
愛理は少し不服そうな顔をしたかも思うとすぐにいつも通りの笑顔に戻った。
「そうだね」
「なあ、愛理。俺、思い出したぞ」
「え、」
「話聴いてて、なんか俺もそんなこと合ったなって。でも、今の顔見て確信したわ。思い出すのが遅くなって悪い」
愛理の荷物を持ってお姫様抱っこをした。愛理は顔を両手で押さえていた。
「ホント、遅いよ。」
「悪い」
「あ、そうだ。タオル、その紙袋の中に入ってるから返すの遅くなってごめんね。ありがとう」
「どういたしまして」
笑って施設の出口に向かった。施設のすぐ前にあるタクシー乗り場にちょうどタクシーが来たので乗ることができた。
「どこまでですか?」
「とりあえず浜中駅まで」
「分かりました」
タクシーに乗っている間、ずっと無言だった。愛理はなぜか分からないけど俺は今さら『私の初恋』というワードに照れて何も話せなくなっていた。というか、初恋ってことは今は違う可能性もあるのか?
それから、タクシーで愛理の家まで行って俺も一緒に降りた。
「愛理、あのさ、俺……」
俺が口を開くと同時に玄関のドアが開いた。
「お姉ちゃん!おかえり!」
「彩里、ただいま。あ、唯、私の妹」
「天宮彩里!小学2年!」
「俺は蒼井唯」
海里とめっちゃ似てるな。さすが兄妹。
「彩里、先に部屋に入ってて」
「は~い」
愛理の言葉に頷いて彩里は玄関に入って行った。俺に気を遣ってくれたんだろうな。
俺は深呼吸をして愛理の目を見た。
「好きだよ、愛理。初恋って言ってくれて嬉しかった。俺と、付き合ってください」
すると、愛理は驚いた顔をした後、嬉しそうに笑って俺に抱きついた。
「うん、うん!」
「足、大丈夫か?」
「うん!もう平気!」
「じゃあ、夕方になったら駅前のイルミネーション観に行かないか?」
「絶対行く!」
ハァ~、マジで可愛い。反応がいちいち可愛い。というか、抱きついてるせいで心臓の音が愛理に聴こえてたりしないよな?
「じゃあ、また迎えに来るから」
「うん!またね、唯」
愛理は少し寂しそうに離れて手を振った。ヤバ、かわ。夕方に迎えに来たときはめっちゃ喜んでくれるのかな?楽しみだな。
鼻歌を歌いながら家に帰った。
「ただいま」
「おかえり~」
「昼ごはん何?」
「サンドイッチ」
「やった!腹減ったから早く食いたい」
俺は手を洗ってイスに座った。すると、母さんも父さんも姉貴も兄貴も驚いたような顔をして俺を見た。
「サンドイッチだよ?“そんなんじゃ足りない。他になんかない?”がいつもの唯の反応じゃん」
「頭、打ったのか?」
「もっかい殴ったら元に戻りそうか?私が殴ろうか?」
「唯、何かいいことがあったのか?」
父さん以外ウザい。いや、まあ、姉貴が言ってんのも間違いじゃないけど。
「あ!愛理と付き合ったんだ!」
「まあな」
「よかったじゃん」
サンドイッチに手を伸ばすと母さんは皿をよけた。
「詳しく教えなさいよ」
「食べてからでいいだろ?」
「じゃあ早く食べて」
誰が食べる邪魔したと思ってんだよ。
サンドイッチを食べて皿を片付けると母さんと姉貴は伊達メガネを掛けて会見ごっこを始めた。
「愛理になんて告白しましたか!?」
「普通に、好きだよって」
「唯、顔赤すぎ!」
「うるせえ。もう答えないぞ」
「ごめんごめん。」
「愛理の好きなとこは?」
「ダセえところを何回も見せたのに受け入れてくれたところとか、笑った顔がめちゃくちゃ可愛いところとか。まあ、普通にしててもめちゃくちゃ可愛いけど。あと、反応が可愛い」
ヤバ、話しすぎた。と思って顔をあげると案の定母さんと姉貴はニヤニヤ笑ってスマホを俺に向けていた。
「手が滑って愛理に動画送っちゃった」
「おい!送信取り消せよ!」
「あ、既読付いた」
めちゃくちゃ間抜けな顔で話してた気がする。そんな顔見たらさすがに愛理も引くよな。溜め息をついて姉貴を睨んだ。すると、姉貴はスマホのトーク画面を俺に見せた。
「愛理、めちゃくちゃ喜んでるみたいだし許してよ」
「……喜んでるのか?めっちゃ誤字ってるけど」
「喜び過ぎてだよ」
まあ、それならいいけど。でも、変な顔してるところを見られたってことだよな?俺、愛理にダサいところばっか見せてる気がする。もっとカッコいいところを見せたいのに、なんでカッコ悪いとこばっか見られんだろ。
それから5時半をまわって愛理の家に行ってチャイムを鳴らした。
「さっきぶり」
「だな」
「……」
「……」
「こういうときって何話せばいいんだ?なんで俺は経験値がねえんだよ。潤、助けてくれ。」
空を見上げて心の中で手を合わせていると愛理がふっと笑い声を漏らした。
「唯、焦りすぎ。全部声に出てたよ」
「え、マジで?」
「うん」
「うわぁ~、俺めちゃくちゃダセえな」
「そんなことないよ。それより早くイルミネーション行きませんか?」
「行きます!」
愛理につられて敬語になってしまい笑ってしまった。
それから駅前のイルミネーションにやって来た。
「そういえば去年も一緒にまわったね」
「そうだな」
「……あのさ、その、」
「ん?」
「やっぱなんでもない」
「気になるんだけど」
「忘れちゃった」
愛理は俺の顔を見上げて笑った。それからすぐにイルミネーションの方に視線を戻した。本当にどうしたんだ?忘れたなんて絶対ウソだろうし。愛理のいいかけていたことを何か考えながら愛理を観察していると通りすがりのカップルに羨ましそうな目線を向けていた。
彼氏が愛理の好みなのかなと思っていると全然違うタイプのカップルにも同じ目線を向けていた。あ、なんだ、そういうことか。
俺は愛理の手を握った。
「手を繋いでもいいですか?」
「順番が逆だよ。あと、離して」
え、手を繋ぎたいのかと思ったけど違ったのか?ヤバ、俺だけとか恥ずかしい。と思っていると愛理は俺の手に指を絡めた。
「恋人繋ぎしてもいいですか?」
「愛理も順番逆だ。まあ、嬉しいからいいけど」
「よかった。じゃあ、これからは訊かずにするね」
「うん。というか訊かれるのはそれはそれで恥ずい」
愛理もそうだねと笑って頷いた。それからツリーの前で写真を撮ろうと言う話になって撮ってくれる人を探していると中学の同級生に会った。
「蒼井と愛理じゃん。蒼井は久しぶりだね」
「羽奈ちゃん!」
「久しぶり、岸。よかったらさ、写真撮ってほしいんだけど頼めるか?」
「いいよ~」
スマホを渡して写真を撮って貰った。
「ありがとう」
「全然いいんだけどさ、愛理、付き合ってるなら早く言ってよ~。危うく友達に紹介するところだったよ。ごめんね、蒼井」
「いや、今日付き合い始めたから」
「え!そうなの!?おめでと~!」
「ありがとう」
ホントこの2人は仲いいな。同じ高校なんだっけ?愛理がスパイカーで岸がセッターだったよな。今もそうらしいし。俺よりも仲良さそうだな。
「蒼井、愛理を泣かせたら許さないからね」
「うす」
岸と分かれてそろそろ帰ることにした。愛理の家に向かっている途中で俺は足を止めた。
「あ、そうだ。愛理、これ姉貴から。この前迷惑掛けたお詫びを兼ねてのクリスマスプレゼントだって」
「え!ホント!?嬉しい。私からもこれ、黄雛さんに渡しておいて。婚約祝いを兼ねてのクリスマスプレゼント」
「分かった。あと愛理、ちょっと目閉じてて」
「うん」
俺は紙袋からマフラーを取り出して愛理の首に巻いた。愛理は目を開けて俺を見上げた。
「やっぱ似合うな」
「ありがとう、唯。私、こんなちゃんとプレゼント用意してくれてるって思ってなかったからあんまりちゃんと用意できてないんだけど……」
愛理は鞄から小さな包みを取り出して俺の手に置いた。
「開けていい?」
「うん」
開けてみると最近話題の犬のキャラクターのぬいぐるみキーホルダーが入っていた。
「唯、犬飼ってるし好きなのかなって思って」
「ありがとう。」
「あとさ、唯が嫌じゃなければお揃いでつけてもいいかな?」
「嫌なわけねえじゃん。むしろ嬉しい」
「それは嬉しいけど、その子をこっちに向けて言われたら一緒に言ってるみたいに見える」
愛理は可笑しそうにお腹を抱えて笑った。キーホルダーのキャラに“その子”って、マジで可愛すぎんだけど。マジで癒しだわ。
それから、愛理の家についた。
「足、また痛くなったりしてないか?」
「全然」
「ならよかった」
「唯、またね」
「ああ」
それから愛理と分かれて俺も家に帰った。
翌朝、蓮に頼まれていた通り兄貴に手紙を渡した。
「なんだ唯。俺にラブレターか?」
「違えよ!蓮に渡せって頼まれてたんだよ」
* * *
蓮がわざわざ手紙書くなんて珍しいな。そもそも手紙なんてなくても直接話せるからな。
自分の部屋のベッドに横になって手紙の封を開けた。一番上には太字で『秘密厳守!』と書かれていた。
~~~~~
『仁くん!メリークリスマス!私、仁くんに手紙書くの初めてかも。緊張する!
あのね!あ、誰にも内緒だよ。特にヒナと春雪には。
私ね、せっかく仁くんと付き合って初めてのクリスマスだから一緒に過ごしたいの。ヨーロッパだとね、家族で過ごすことも多いみたいだけど、私は好きな人と一緒に過ごしたいなって思ったの。
お兄ちゃんたちも同じ考えみたいで、お母さんとお祖父ちゃんお祖母ちゃんに話して、25日の12時半着の便で帰ることにしたの。
私、少しでも早く仁くんに会いたいから空港まで来てほしいの。けど、お兄ちゃんたちはサプライズがしたいらしいからヒナと春雪だけにはバレないようにしてね』
~~~~~
……マジか!今は10時半過ぎだからそろそろ行った方がいいよな?
俺は服を着替えて急いで家を出て駅に走って電車に乗った。座席に座っていると向かいのドアから夫婦っぽいじいさんとばあさんが乗ってきた。俺の隣の席ともう少し離れた席が空いていた。けど、離れて座んのは嫌だよな。
「あの、ここ座りますか?」
「あら、いいの?向こうの席も空いてるのに」
「でも、離れんのは寂しくないっすか?」
「そうだね。じゃあお言葉に甘えるよ」
じいさんとばあさんは笑って座った。
「お兄ちゃんは今からどこに行くんだ?」
「俺は、好きなやつのとこ向かってるとこです。オーストリアに行ってて本当は明後日帰国だったんすけど俺に早く会いたくて帰国を早めたらしいです」
「その子、お兄ちゃんの彼女なの?」
「彼女です。マジで可愛い。早く会いたいです」
それから3駅ほど話してじいさんとばあさんは電車を降りて行った。それからさらに2駅乗って乗り換えてさらに3駅乗って空港にやっとたどり着いた。
「もう11時57分か。そろそろ着く頃か?」
それから案内放送があって12時着の便が着いたそうだ。到着ロビーで蓮を探しているとすぐに見つかった。蓮はまだ気付いて無さそうだな。すると莉央が俺を見つけて蓮の肩を叩いた。蓮はすぐに振り返って荷物を置いて俺の方に走ってきた。
「仁くん!」
「走ったら危なっ、」
蓮は俺の目の前でつまづいて俺の胸に額をぶつけた。
「おい、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。仁くんは?痛くなかった?」
「慣れてるからな」
蓮は俺から離れた。俺が蓮の額を撫でても特に痛そうな反応はなくてよかった。
「仁、駐車場に車あるからのって乗って帰るか?」
「ああ」
* * *
家に帰って荷物を置いて俺と莉央と蓮は蒼井家に来た。春雪も唯もめちゃくちゃ驚いてたな。
「結愛さん、ヒナは?」
「コンビニ行ってる。そろそろ帰ってくると思うけど」
すると、ちょうどヒナが帰ってきたようで俺は急いで玄関に行った。
「ヒナ~!ただいま~!会いたかったぞ~!」
ヒナを抱きしめてキスをするとヒナは照れと驚きが混じったような顔をした。可愛いな。
「なんでいんの?」
「元々クリスマスにプロポーズしようと思ってたから今日帰る予定だったんだよ。レストラン予約してるからさ、一緒に来てほしい。KISARAGIってとこだけど知ってる?」
「うん。てか、あれ予約1年待ちとかじゃなかった?」
「そうそう。だから去年のクリスマス前に予約した。プロポーズはしちゃったけどせっかくだしヒナと行きたいなって。いいか?」
ヒナの顔を見下ろすと、ヒナは少し苦笑いをして頬をかいた。
「いいけど、私、一昨年のパパの会社のパーティーで着たドレスしか持ってないんだけど」
「俺が買ったやつあるから安心して」
「サイズ合うか分かんないし」
「俺が把握してないと思うか?」
「……あ!今月の始めに春雪が衣装作るからって採寸したのジュンの仕業!?」
仕業って。まあ、俺が頼んだからそうなんだけどさ。
「まあ、とりあえずヒナの予定が空いてれば行けるんだけど大丈夫そうか?」
「うん!余裕!それよりジュン、テーブルマナー大丈夫?教えようか?」
「大丈夫だ。佳代さんに教えてもらったからな。」
「いつの間に」
「結構前から」
まあ、結構いいお店だからちゃんとしたマナーはある程度身につけておかないとな。それに、ヒナは和食も洋食もちゃんとしたマナーを身に付けてるのに俺だけ全然分かんなかったらダサすぎてヒナの彼氏でいられなくなるからな。
~~~~~
レストランで食事を終えて俺はワインを飲んでいるのでホテルに向かった。
「美味しかった」
「よかった。それにしてもヒナ、マジでそのドレス似合うな。綺麗すぎ。」
「それ、10回以上聞いた」
「ホントのことだからな」
ヒナの方を見ると目を逸らして前を見ていた。照れてる。可愛いな、ホント。
「あ、ジュン!見てた!?今雪降ったよ!」
「ごめん、ヒナの顔しか見てなかったわ。」
「……もう。ほら、降ってるでしょ?」
「あ、ホントだ。」
「綺麗……」
ヒナはチラチラ降る雪を見上げて微笑んだ。確かに綺麗だ。ヒナの今の表情がめちゃくちゃ大人っぽくて綺麗で驚いた。
それからホテルに着いて風呂に入ってヒナが風呂に入っている間に少しだけ飾り付けた。
それからヒナが風呂からあがってきて驚いたように固まった。俺はヒナの前まで行って膝ま付いて花束を渡した。
「黄雛、愛してる。一生守らせてください」
「え、」
「って、プロポーズしようと思ってた」
「そう、なんだ。てか、花束どうしたの?持ってなかったよね?」
「あ~、さっき荷物を置きに来たときに隠しておいたんだよ。枯れなくてよかった」
ヒナは花束を受け取って笑った。
「ジュンが守ってくれるなら、私がジュンを幸せにするよ。」
「ヒナといるだけで幸せだから、絶対に長生きしろよ。100年後もヒナと一緒にいたいから」
「ジュンもね。煙草なんて絶対しないでね」
「分かってる。ヒナに臭いなんて思われたくないからな」
笑ってヒナにキスをした。
「おやすみ、ヒナ。愛してる」
「おやすみ、ジュン。私も愛してるよ」




