2、高校最初のお友達
この間、近藤くんと話したように私は髪の毛の色を少しずつ明るくする努力をした。
今は少し濃いめの茶髪だ。私は学校でお兄ちゃん(リオ兄)と兄妹であることは隠している。一緒に登校はしているものの、友達もいないので誰も何も訊いてこない。
理科の授業の終わり、クラスメートの山口さんに話し掛けられた。山口さんは大人しい感じの生徒だけど人見知りの私は急に話し掛けられて完全に防御体制に入った。
「なんですか?」
「体育館裏に来てほしいって4組の子が、」
「体育館裏……」
嫌な響きだな。アニメだと100%いじめられるやつじゃん。怖っ。まあ、行かなかったらさらにいじめられるだろうから行くけどさ。
それから、体育館に向かうとヒナのような格好をした女子達が集まっていた。この人達はヒナと違ってネイルもアクセサリーも余裕で校則範囲外だなぁ。なんてことを思っているとその人達は1歩1歩私に近付いて来た。私がゆっくり後退りをすると壁に当たった。
「1組の倉橋さん、だよね?」
リーダーらしき人が言った。
「は、はい」
「莉央先輩とどういう関係?」
「や、それは、」
兄妹何て言ったらバレるよね。もう少し慣れてからじゃないとしんどくなりそうだしな。
「親族、ですね」
「ホントに?」
「はい。同じ苗字ですし」
「似てないからてっきり義理の兄妹かと思ったわ。」
義理の兄妹か。少女漫画でよくあるね。まあうちは両親共に実の親だから有り得ないけど。それに、前髪をあげると近所ではそっくりって言われるけどね。
「えと。それだけ、ですか?」
「莉央先輩って彼女いる?」
「知る限りいないですけど」
「そう。呼び出して悪かったわね。来てくれてありがと。またね!」
その子は少し照れくさそうに笑った。え、なにこの子可愛い。ちょっと怖いとか思ってたけどちゃんとお礼言ってくれたし。お礼言うとき照れてるし。
教室に戻ろうと振り向くと仁くんが影で立っていた。
「仁くん!なんでいるの?」
「漫画とかだと体育館裏っていじめられる現場だろうが。そんな堂々と行くなよ」
「心配、してくれたの?」
「当たり前だろ。」
「ありがと」
私が笑って言うと仁くんは曖昧に頷いた。まあ、1番のギャップ萌は仁くんだよね。ヤンキーのくせして心配性のお兄ちゃん気質。
それから1週間後。今日は臨海学校だ。
「蓮、寂しくなったら電話掛けてこいよ。すぐに迎えに行くから」
「仁くんいるし寂しくないよ」
『まあ、コテージではボッチだろうけど』
ちなみに、髪は1週間もつ、カラートリートメントを使っている。
今日は、仁くんと2人で学校に行く。
「仁くん、おはよう」
「はよ。荷物重いだろ?貸せよ」
「へ、あ、ありがと」
仁くん、中学の頃は少し冷たかったのに。てか、ヤンキーでこんなに優しいとか反則でしょ。
学校に着いてバスに座った。皆が楽しそうに会話をしているのを見ると少し寂しく感じる。
「蓮、俺と隣は嫌か?やっぱり他の奴と仲良くなれる口実だもんな」
「ち、違うよ。仁くんの隣が嫌な訳ない。友達がたくさんいるのも楽しそうだなって思っただけ」
「そうか。コテージで同じ班の奴と仲良くなれたらいいな。」
「うん。友達できたら1番に紹介するね」
「ああ」
仁くんが笑った。珍しい、頬をパンパンと叩いた。
「おい、どうしたんだ?顔腫れるぞ」
「いや、仁くんが笑ったから驚いて」
「俺だって笑うときもある」
そう言って仁くんが窓の外に顔を向けた。幼馴染みの私でさえ驚くぐらい仁くんは笑わない。きっと、クラスの皆は仁くんの笑顔を見たことはないだろう。皆可哀想だなぁ。仁くん、笑うと子供みたいで可愛いから。
それから、海の側のコテージに着いてクラス別にコテージに荷物を置きに行って各自でお弁当を食べた。私の泊まる部屋は周りを見渡せば陽キャ、陽キャ!陽キャ!!だ。夜、うるさくて寝られなさそう。
「仁くんのところは誰か話せそうな人いた?」
「いや、俺、すぐに寝るし。基本眠いから話さねえ」
「そうだね。しかも海水浴の後だし皆疲れてすぐに寝ちゃうよね」
うん。大丈夫だ。海で遊んでカッター訓練をした後に肝試しもするんだし疲れるよね。
お弁当も食べ終わってカッター訓練をした。皆教えてくれたお兄さんをカッコいいと言っていた。え、めっちゃ分かる。雰囲気と声が推しに似てるし。
それからカッター訓練を終えて、各自ビーチで遊んだり水着に着替えて海に入ったりの自由時間があった。私は、せっかく水着も買ったので海に入って浮き輪に乗ってプカプカと流れていた。
そろそろ戻ろうかな。そう思って足を伸ばすと爪先しかつかなかった。顔まで海に入ったら足がつくかな。でも溺れたらどうしよう。私、泳げないのに。そんなことを考えているうちにどんどん流されていく。仁くん!助けて!大声で呼びたいけど怖くて声が出ない。
そう思っていると浮き輪が波の流れと逆の方向に引っ張られた。
目を開けると目の前に仁くんがいた。助かった。
「仁、くん……?ありがとう。死ぬかと思った」
「俺が死なせるわけねえだろ。蓮を守るために今日来たんだから」
「仁くんはヒーローだね」
私は仁くんに笑い掛けると仁くんは照れたように顔を背けた。仁くんの銀色の髪が太陽に反射してキラキラ輝いて綺麗でつい見惚れてしまっていた。その間に足のつく場所まで来ていた。
「仁くん、せっかくだから一緒に砂のお城作らない?」
「ああ。できたら写真撮って姉貴と莉央達にも送ってやるか」
お城の元の山ができてきたとき誰かの影がかかった。
上を見上げると近藤くんが興味深そうな顔をしてお城を見つめていた。
「何のようだ?」
仁くんが睨んで言うと近藤くんは全く気にせず笑って答えた。
「なんか楽しそうなことしてるなって思ってさ。俺も昔、城作った。めっちゃ下手だったけど」
「じゃあ私達と勝負する?近藤くんは1人でつくってもらうけど。それか他の人を呼ぶか」
「あ、じゃあ。たくっち!城作ろうぜ!」
近藤くんが大声で呼んで手を振ると1人の男子生徒が走ってきた。クラスメートの飛鷹拓海くんだ。私は話したことはないけどこの前仁くんと話してたような。
「よ!蒼井!」
飛鷹くんはそう言って仁くんの肩を組んだ。
「ああ、お前、こいつと仲良かったんだな」
「翔弥のことか?従兄弟だからな」
「ふ~ん」
あ、仁くんの新しい友達か。……、え!仁くんに新しい友達!?いつの間に!
「仁くん、友達ができたなら教えてくれればいいのに」
「友達っていうか、姉貴の彼氏の弟で」
「なるほど。ヒナの彼氏さんの弟か。でも、距離的に仁くんの友達ですよね?仁くん、嫌いな人に触られたらキレるし」
「そうだよ。蒼井の友達。で、城作るんだっけ?」
飛鷹くんはそう言うと近藤くんの方を向いた。
「そうだ。倉橋さんと蒼井ペアと勝負するから。俺、美術が絶望的だからたくっち頼む」
それから約30分後。それぞれお城が完成した。判定は近藤くんが近くにいた先生を呼んできて判定をしてもらった。
「まあ、どう見ても倉橋と蒼井だな。それにしても倉橋も蒼井も再現度高いな」
「ありがとうございます」
まあ、お祖父ちゃんの家の近くにお城があるから夏休みと冬休みはよく見てるし。仁くんにも写真をたくさん見せてるから頭の中で思い出せるんだろうな。しかも仁くん、器用だし。
夕ごはんは皆でカレーライスを作るらしい。私は時々料理をするので包丁の使い方は一応分かっていたんだけど……。先生!班分け間違ってます!仁くんと私以外でまともに料理したことある人いないんですけど!なんで出席番号なんですか!?他の女子、1人もいない!どうせ話せないけどさ。
お鍋などの洗い物は皆で分担して行った。
「仁くんがいてくれてよかったよ。いなかったらこの班だけご飯食べられなかった」
「俺は説明見て作っただけだ。カレー作ったのは初めてだし」
「初めてであんな上手く作れるもんなんだな。すげえ。蒼井って結構器用なんだな」
近藤くんがお鍋を拭きながら仁くんに言った。
「うるせえ」
そう言うと仁くんは近藤くんが拭き終えたボールとかを持って歩いていってしまった。
「俺、褒めたのになんでキレてんだ?」
「誰が?」
「蒼井」
「仁くん!?あれ、キレてないよ。照れてその顔を見られるのが恥ずかしいから歩いてっただけだよ。仁くん、照れ屋だからすぐに顔赤くなっちゃうの」
「あれ、照れてたのか。幼馴染みすげえな」
「6歳の頃からずっと隣の家に住んでるからね」
「ずっと気になってたんだけど倉橋さんってさ、蒼井と付き合ってるの?」
「ただの幼馴染みだけど。というか、私なんかじゃ仁くんに釣り合わないよ。」
「そうか?美男美女だと思うけどな。じゃあ、蒼井を好きか?」
「好きだよ」
「恋愛的な意味で」
「分かんないんだよね。初恋まだだし」
「そうなんだ。」
「うん。だから好きな人ほしいなっていつも思うんだ。まあ、陰キャの私に好かれて喜ぶ人なんてそういないと思うけど」
「そんなことない。俺だったらすげえ嬉しいよ。」
近藤くんが急に変なことを言うので驚いて目をパチパチさせてしまった。
「あはは、ありがとう」
「うん」
それからお風呂に入ってから肝試しをすることになった。怖いの苦手なんだけどな。クラス内でペアを組むらしい。そして、このクラスは男女共に奇数なので私は自然と男子と組むことになった。相手は仁くんだ。
「仁くんで良かった」
「なんで?」
「だって仁くんじゃなかったらお化けもだけど2人とか怖いし。仁くん、飛鷹くんと仲良くなってたから他の人だったらどうしようかと思った」
「あいつは他の奴とペア組むって」
「そっか」
仁くん、分かって余ってくれたんだろうな。さっき飛鷹くんが仁くんとペアになるつもりって言ってたし。それにしても、仁くん。お風呂上がりだと雰囲気違うな。視線が痛い。
1組から順に肝試しを行うので私達は3番目だった。大丈夫。お化けなんていないよ。仁くんがいるし。
「次、倉橋と蒼井」
「は、はい」
ライトで照らして林の中を入っていった。風が木を撫でる音がした。なんて、綺麗な表現をしているものの薄暗い林道はざわざわした音や小枝を踏んだ音だけでも十分雰囲気が出る。
「蓮、手かせ」
仁くんの手のひらの上に手を置いた。暖かくて落ち着く。
「どうだ?マシになったか?」
「うん。ありがとう。仁くんがいいなら出口近くまでこうしててもいい?」
「ああ」
仁くんの手をギュッと握ってゴール近くまで歩いていった。もちろんゴールに出るときは手を離したけどね。でも、仁くんは手を離すとすぐにどこかに行ってしまった。
それから部屋に戻って私の願いとは裏腹に皆元気にお喋りをしていた。仁くんはうるさくても気にせず寝れるみたいだけど私は無理なんだよね。てか、なんでそんなに体力残ってんの?JK怖っ!
「そういえば倉橋さん、髪の毛染めたんだね?イメチェン?」
綺麗な茶髪を耳下でまとめた里中さんが訊いてきた。イメチェンっていうか染めるのがめんどいから染めなくてもいいように慣れさせるためなんだけど。
「まあ、そんな感じ、です」
「いいね!似合ってる!」
「あ、ありがとうございます」
私がペコッと頭を下げると里中さんは笑った。
「なんで敬語?マジウケんだけど」
どこにウケるの?
「あんまり話したことなくて緊張するので」
「へ~、ねえ、倉橋さんも恋バナない?」
「ないですよ。初恋まだなので」
「マジで!?蒼井くんと付き合ってるのかと思ってた」
「まさか。幼馴染みで親友です」
「残念。私、蒼井&倉橋カプ、推してるんだけどな」
そう言うと里中さんは笑った。なんか、人見知りの私でも話しやすいな。質問で話し掛けてくれるからかな?
「てか、いつも思ってたんだけど、倉橋さんって前髪で顔隠してるよね?なんで?」
里中さんとよく一緒にいる浜名さんが訊いた。この人達は思っていたより全然いい人そうだし広めたりされなさそうだから言おうかな。どうせいつかバレるだろうし。
私は意を決して前髪を上げた。
「私、母親が日本とオーストリアのハーフとオーストリア人の子供で私にもオーストリアの血が入ってるから目が黒じゃないから。昔、目の色が変って言われて人に目を見られるのが怖くなって」
そう言うと部屋にいた7人は全員私の方を向いた。あれ、なんか静かになった。言わなかった方が良かったかな?
「誰?」
里中さんが少し怒った口調で言った。
「え、」
「変って言ってきた奴誰?張っ倒してやりたい」
「あ、それはもう大丈夫です。仁くんが先生に怒られるぐらいその子に怒ってたので」
そう言うと浜名さんや他の子達が私の周りに集まった。
「めっちゃ綺麗な目だよ。変って言った奴は嫉妬しただけだと思う」
「絶対そう!こんなに綺麗な目を変って言うなんてそっちの方がよっぽど変だよ」
「それな!変な奴ほど人に変って言うよね」
この人達は変って思わないんだ。髪の毛ももう染めるのやめても大丈夫かな?
「あの、こんな性格で髪が金色だったらどう思いますか?」
「可愛いと思うよ。それに、蒼井くんが銀髪だからめっちゃ合う」
正直それはどうでもいいんですけど。
「金髪ってもしかして地毛?」
里中さんがキャーキャー騒いでる隣で浜名さんが訊いた。
「あ、はい」
「写真ない?見てみたい」
「ありますよ。私、美容院に行かないでOnedayとか1週間だけの奴で染めてるので。休日はめんどくさくてそのままにしてるので」
そう言って、この前、映画に行ったときに皆で撮った写真を見せた。
「会長いる!黄雛センパイも!」
「ほんとだ。てか、この子誰?ガチイケメンじゃん」
「こっちの女の子もおさげで眼鏡なのにマジで美少女」
「その2人は仁くんの妹と弟で、会長は私の兄です」
そう言うとえ!と声が上がった。
「倉橋さん、会長と兄妹だったの!?」
「まあ。近所ではよく似てるって言われるんですけど」
「レンレンの顔見たの初めてだし」
「確かに、……レンレン!?」
「あれ?ダメだった?」
「別にいいですけど、」
「あたしのことは侑希でいいよ」
里中さんがそう言うと浜名さんが私の肩を掴んだ。
「え、侑希ずるっ!レンレン、私のことも詩音って呼んで」
「分かった」
「私も!」
と部屋にいた子全員を名前で呼ぶことになった。明日、仁くんに教えてあげよ。友達できたよって。
それから、消灯時間を30分程過ぎてそれぞれのベッドで寝た。
翌日、朝食は施設の中にある食堂で済ませてシーグラスを使った工作体験をするのでそのためのシーグラスや貝殻を探しに行った。
「仁くん、私の新しい友達」
「どうも」
「どうもどうも~。レンレンは蒼井くんと拾うんだよね?私達はあっちで拾ってくるからレンレンと蒼井くんはおふたりでどうぞ。」
侑希はそう言って手を振っていった。
「約束してたからって気を遣わなくていいぞ」
「今さら仁くんに気を遣ったりしないよ」
私はその場にしゃがんでシーグラスを探した。見つけて顔をあげる度に仁くんと目があった。
「えっと、なに?私の顔になにかついてる?」
「この髪色で前髪よけてるのが珍しいなって」
「風で分かれてるだけだよ」
「そうだな」
その後のシーグラス工作体験は、イヤリング、ブレスレット、ヘアアクセ、ネックレス、コースター、ランプシェードなど自分の好きな物を作ることができた。私はブレスレットにした。時間が余ったので仁くんにも作った。
それから、昼食を食べてバスで学校まで戻った。
「疲れた~。ジュン兄が迎えに来てくれるらしいから仁くんも一緒に帰ろう」
「ああ。蓮、ちょっと髪いじってもいいか?」
「うん」
「前髪よけてもいいか?」
「うん」
私が頷くと仁くんはささっと髪を結ってピンを留めた。私はスマホをinカメにして自分の頭を見た。
「蓮の目と同じ色だろ?」
「ホントだ。可愛い。くれるの?」
「いらねえなら姉貴か春雪にやるけど」
「いる。お礼と言ってはなんだけど。仁くん、腕出して」
私は今日作ったブレスレットを仁くんの腕につけた。
「お揃い」
「パーツが余って作ったのか?」
「違うよ。仁くんのために作ったの。仁くんには日頃から感謝してもしきれないし」
「ありがとう」
「どういたしまして」
私が笑うと仁くんがなにかを言うと口を開いた。
「れん、俺」
「蓮!仁!お帰り!」
「ジュン兄、ただいま。ごめん、仁くん。何か言い掛けた?」
「何でもない」
「そっか。ジュン兄、録画確認してくれた?」
「リオがしてくれてたぞ」
「じゃあ早く帰ってリオ兄にお礼しないと。仁くん、早く帰ろう」
「ああ」
家に着いてすぐに録画してもらったアニメを見た。丸1日、アニメを見ていなかったからかいつもよりも面白く感じた。やっぱりアニメのヒロインは可愛くて癒されるな。でも、このアニメのヒーローはギャップに萌えない。なんなら仁くんの方が見た目と中身のギャップに萌える。
「蓮、そんなヘアピン持ってた?」
「あ、リオ兄気付いた?シーグラスの工作体験で仁くんが作ったらしくてもらったの。私の瞳と同じ色だって言って」
「ホントだ。さすが仁だな。売り物みたい」
「でしょ?もうお気に入りになっちゃった」
私はヘアピンを外して手のひらに置いてじっくり見てみた。大切にしないとな。仁くんはブレスレット気に入ってくれたかな?そもそもブレスレットとかつけてるの見たことないけど。返したら私が悲しむと思って無理にもらってたりしないかな?
* * *
リビングのドアを開けるとテレビを見ながらアイスを食べていた姉貴が後ろを振り返った。
「あ、お帰り」
「ただいま。」
「腕に着けてんのなに?」
「ブレスレット」
「あんたそういうの着けるっけ?」
「あんまり。でも、蓮がくれたから」
あ、やべ。もう言ってしまったからには取り返せない。アニメを見ていた春雪と唯も振り返って俺の顔に視線を集めた。
「仁兄、ちょっと貸して!」
「嫌だ」
「その前に私に貸して。レンの手作りとか着けてみたい」
「無理」
「俺も。ちょっと見せて」
「疲れたから寝てくる」
俺は急いで自分の部屋に行ってベッドに飛び込んだ。
「俺のために作ってくれたやつを貸すわけねえだろ」
ブレスレットについたシーグラスを見つめた。お揃い、か。蓮はただの幼馴染みとか親友とかそういう意味だろうけど。やっぱり嬉しいもんだな。俺が蓮にあげたヘアピン作るときに蓮の喜んだ顔を思い浮かべて作ったように蓮もそう思って作ってくれてたりはしないだろうか。
「ないな。7年片想いしてるのにも全く気付いてないような奴だからな」
なあ、蓮。ホントは今日、潤が来なかったら俺はお前に告白してた。もし、告ってたら蓮はなんて答えたんだ?幼馴染み、親友、オタ友としてしか見れない?それとも他に好きな奴がいる?推しの方が好き?
「そんなん言われたら立ち直れねえ~。初恋ってガチでやっかいだな」
1人、静かな部屋で今も好きな子のことばかり考えている。