25、黄雛と潤、別れの危機!?
今朝、なぜか不機嫌な姉貴に叩かれていつも通りの時間に目を覚ました。
「ってえ」
「起こしてやったんだから文句言うな」
「潤となんかあったのか?」
「別に!」
姉貴はバンッ!とドアを閉めて俺の部屋から出ていった。絶対なんかあっただろ。姉貴ってウザいぐらいに分かりやすいくせに変な我慢するんだよな。
リビングに降りると姉貴はもう家を出ていた。
「唯兄、お姉ちゃんどうしたの?昨日、帰ってからずっと部屋に篭ってたけど潤くんがなんかしたの?」
「知らねえよ。まあ、俺が蓮から知ってること聞いてみるから安心しろ」
「別れたりしないよね?」
「大丈夫だろ。あれだけのバカップルがそう簡単に別れねえよ」
朝食のトーストを食べて春雪の皿にウインナーを一本乗せた。
朝食を食べ終えて制服に着替えて兄貴と家を出ると、ちょうど蓮も家を出たところだった。
「ねえ、ジュン兄とヒナに何があったの?」
「俺も知りてえよ」
「俺、朝から姉貴に叩き起こされた」
「兄貴も?俺も叩かれた」
「あはは、ドンマイ」
蓮は苦笑いを浮かべて俺と兄貴の肩に手を置いた。それにしても、蓮も知らないなら他で知ってるのは莉央ぐらいか?知ってたとしても口止めされてたら言わないだろうな。
学校に行って授業を終えて部活も終えて、駅に向かった。しかし、いつもと同じ電車には乗らない。
家とは逆方向の電車に乗って2駅目で降りて、潤の大学に向かった。
「遅えよ」
「イケメンいるってお前のことかよ」
「さみいから早く車乗らせろ」
「いつからそんな生意気になったんだ?」
潤の車に乗ってしばらくするとカラオケに着いた。連れて店内に入ってマイクを借りて部屋に移動した。
「姉貴と別れんのか?」
「さあな。でも、振られるかもな」
「なんで?」
「嫌いって言われてビンタされた」
わ~、マジか~。言われてみれば右の頬だけ腫れてるかも。他人なら、勝手に別れてくれていいけど身内だと気まずいからな。それに、春雪が悲しむだろうし。
「なんで嫌われたんだ?」
「これに関しては、ちょっと、マジでほんのちょっとだけ俺のせいかもだけど。」
「ああ」
「俺、正直元カノ多すぎてあんま覚えてねえんだけど、ヒナの大学の友達に元カノがいたみたいで。昔の写真をストーリーに載せたりしてたらしくて。この前、向こうからキスされたとこをたまたまヒナに見られて」
友達の彼氏にキスするとか怖っ。というか、元カノ覚えてないとか言ってたけど、それだったら付き合った人数30人とかいうレベルじゃねえんだろうな。
「悪くないのに謝れねえし、どうしたらいい?」
「誤解解けば?」
「話を聞こうともしねえから無理」
めんどくせえな、こいつら。愛理に会って癒されたい。そんなことを思っていると、ちょうど愛理からメッセージが届いた。
『さっき駅で会って黄雛さんとカラオケ来てるんだけど何かあったの?浮気した彼氏を殺すとか呪うみたいな歌ばっか歌ってるんだけど!』
『まあ、色々な……』
愛理たちもカラオケ来てんだ。同じとこだったりして。
『俺も潤とカラオケ来てるんだけど、愛理たちはどこのカラオケ?』
『駅前のカラオケ・レッド』
『え、マジで?一緒。迷惑掛けて悪いけど駐車場まで誘導してほしい』
『分かった。やってみる』
俺はスマホを閉じて潤の肩を掴んでマイクの入ったカゴを持ってレジに返しにいった。それから、駐車場にある潤の車の前で愛理から連絡を来るのを待った。
「帰らねえの?」
「誰のせいで帰れねえと思ってんだよ」
愛理からミッション成功!とスタンプが送られてきて前を見ると愛理が姉貴の手を引いて走ってきていた。
「……ヒナ、」
「どちら様ですか?私はひなという名前ではありません。人違いです」
「え、ちょっ、」
「潤が家まで送ってくれるんだってよ。愛理と姉貴も乗って帰ろうぜ」
「弟からの頼みなら断らない。あなたが言わせてるなら乗りません」
「俺からのお願いだって。早く乗れよ」
とりあえず、場所を移動しねえと。この居心地悪い車で帰るのは愛理に悪いけど、なんか潤が可哀想に思えてきたからもう少し耐えてくれ。
「じゃあな、愛理」
「うん。またね、唯。あと潤さん、送ってくれてありがとうございます」
「いいよ、」
目が死んでる。ヤバいな。
「じゃ、じゃあそろそろ帰らねえと」
潤を促して家の前まで着いた。家についてすぐ、姉貴は丁寧にお礼を言って車から降りていった。
「もう無理だ、」
「こんなことで諦められる程度なのか?」
「いや、諦めない」
家に入ってリビングに向かうと姉貴が睨んでこっちを見たかと思うと、すぐに穏やかに笑った。怖っ。
「なんですか?なにか用ですか?」
「ヒナ、」
「ひなじゃないです。あ、比奈ちゃんと間違えてるんですね。私は比奈ちゃんじゃないですよ。この前キスしてた子が比奈ちゃんですよ」
「それは、浅見さんがっ、」
「私には関係なかったですね。口出ししてすみません」
「俺の話を、」
「いい加減分かんないの!?聴きたくないの!浮気してました。それならそれで終わって!キスしたとかそれ以上とか、知りたくないの!だから、話そうとしないで!」
姉貴は目に涙を浮かべて走ってリビングから出ていった。
* * *
ジュンのバカ!ストーリーとか写真だけでも結構我慢してたのに、キスはもうダメでしょ。もう、恋愛やだ。結局最後は辛いんだ。
私が生まれたときからあるぬいぐるみを抱きしめて泣いていると部屋のドアを叩く音がした。
「ヒ、黄雛、落ち着いてからでいいから俺の話を聞いてほしい。頼む。俺、黄雛が落ち着くまでずっと待つから。ゆっくりでいいから、話を聞く気になったら中からドアを叩いて教えて。」
ジュンの声、震えてる。なんで?ジュンでも怖いと思うの?それとも、他人行儀な話し方で傷付けた?いや、そんなことで傷付かないよね。好きでもないのに。
~~~~~~
もう、3時間は経ったけどまだいるのかな?
部屋の中からドアを叩くとジュンの驚いたような声が聴こえてきた。
「なんで、まだいるの?」
「ずっと待つって言ったろ?」
「ご飯は?」
「こんな状況なのに飯食ってる暇はない」
ホント、なんなの?どうせ私のこと好きじゃないくせに、なんでそんなに待てんの?
「黄雛、話を聞いてくれるか?」
「……いいよ」
「ありがとう。……俺、結構前から浅見さんからDMで付き合いたいって着てて、黄雛に隠して無視してた。それで、その事にムカついたらしくて浅見さんが、キスしてきた。でも、避けられなかった俺も悪い。ごめん。俺も、黄雛が誰かとキスしてたら嫌な気持ちになるし、疑うと思う。不安にさせて悪い、黄雛」
ドア越しでも分かる。ジュンは泣いてるんだ。声が悲しい。私、1人で勘違いして、ジュンを傷付けてたんだ。私が一番最低じゃん。
部屋のドアをそっと開けるとジュンは目を擦って私に頭を下げた。
「黄雛、不安にさせて本当に悪かった」
「ジュンは、悪くない。私、が、勝手に勘違いして、傷付けて。ジュンの話を聞こうともしないで、最低なことした。ごめん」
ジュンの涙を指で拭った。でも、溢れてすぐに塗り替えられる。私、最低だな。ジュンがこんなに泣くとこなんて初めて見たよ。それだけジュンは強いから。だから、心の奥底ではどうせ傷付いても酷いな~とか言うくらいだと思ってた。
「ジュン、ごめん。私、ジュンのこと信じたくても信じられなくて。冷静になれなくて、ジュンも結局七緒と同じなんだって決めつけてた」
「いいよ」
「良くない!……やっぱ、ジュンに私はもったいない。このまま付き合ってたら、また、ジュンのこと疑って傷付けるかもしんない。」
「ヒナ……?」
「ジュン、私たち別れた方がいいよ」
私は涙を拭いて頑張って笑ってみせた。私は、気付かないうちに前より人を信用しなくなってるんだ。そのせいでジュンを傷付けた。だから、別れるべきなんだよ。ジュンにはもっといい人がいるはずだし、私はその人と会うまでの経験値でいいんだよ。
「ダメ!」
急に声が聴こえて振り返ると春雪が部屋から出てきていた。そして、春雪はこっちへ歩いてきた。
「お姉ちゃんは潤くんが嫌いになったの?」
「いや、嫌いじゃないよ。むしろ好きだよ。でも、またジュンを傷付けるかもしれないし」
「ここで別れた方が潤くんは傷付くよ。お姉ちゃん、潤くんがどれだけお姉ちゃんのこと好きか分かってないかもだけど、ちょっと引くぐらいにはお姉ちゃんのこと好きなんだよ!」
春雪、言い方。
「潤くん、お姉ちゃんに軽くプロポーズとかぽいこと言ってるけどあれ、本気なんだよ?ね、潤くん」
「まあ。ホントはクリスマスイブに言おうと思ってたけど……」
「ウソ……」
ジュンは私を抱き抱えてリビングまで下りるとお母さんたちが揃っているか確認をして私を下ろして、少し恥ずかしそうに鞄から小さな箱を取り出した。
「蒼井黄雛さん。世界で一番愛してます。1年後、あなたが大学を卒業したら、俺と、結婚してください」
「え、待って、え、な、なんで?私、めちゃくちゃ酷いこと言ったのに、ちょっ、え、待って。」
「うん。待つよ。ゆっくり考えていいよ。それに、断ってもいいんだよ。俺、黄雛が結婚したいって思ってくれるまでいつまでも待つから」
ジュンは笑って私の顔を見下ろした。本当に私を好きでいてくれてるんだ。
「私で、いいの?」
「黄雛以外は嫌だな」
「私、ジュンと結婚したい。けど、もう少し後がいい」
「これから時間を掛けてゆっくり話そうか」
「うん。ジュン、私も愛してる」
「あ、ありがとう」
「照れるの?」
「当たり前だろ」
ジュンは真っ赤になった顔をすぐに逸らしてしまった。ホント、攻められるのは免疫ないんだな。
それから翌日。
* * *
俺は大学が終わってすぐ、ヒナの通う大学に行ってヒナを通して浅見さんを呼び出してもらった。
「黄雛、すぐ終わるからここで待ってて。浅見さん、ちょっとこっちに来てくれるか?」
俺はヒナたちの短大のすぐ側にあるカフェとの間で立ち止まった。
「黄雛ちゃんから私に乗り換えんの?」
「んなわけねえだろ。お前、何してくれてんの?俺と黄雛が別れてたらどう責任取れんの?」
「はぁ?」
「ストーリーとか写真とか全部消せよ。そもそも浅見さんって付き合ったことないよな?俺、浅見さんのお姉さんと付き合ってたから。あの写真、偽装だろ?本物の写真、浅見さんのお姉さんから貰った」
「……は、なんで」
「それとも、同じ学部の皆にバラしちゃおっか?」
スマホで送ってもらった写真を開いて浅見さんに見せてあげた。
「お前、飛鷹七緒の幼馴染みであいつが好きなんだろ?で、あいつがまだヒナを好きで告白断られたんだろ?お前の姉からきいた。そんで、俺を落とそうと頑張ったわけね。あんな浮気男の何がいいか分かんねえな」
「七緒くんの悪口言わないで!」
へ~、ガチなんだ。ま、どうでもいいけど。
「とりあえず写真消さなかったらこの写真ばらまいちゃうよ。七緒くんにも見せないとな~」
「消すから!」
浅見さんが叫ぶと足音が聴こえてヒナと飛鷹が走ってきた。
「浅見さん、今度ヒナになんかしたら、どうなるか分かるよね?」
俺が笑って首をかしげると浅見さんは大好きな七緒くんの後ろに隠れた。
「潤さん、俺の幼馴染みがすみません!黄雛も、悪かった」
「いや、別に、七緒が謝んなくても」
「そうそう。それに俺とヒナは無事婚約できて幸せの絶頂だから飛鷹くんは安心して。ね、ヒナ」
「……まあね」
「良かった。俺が言われても嬉しくないと思いますけど、黄雛、潤さん。おめでとうございます」
「「ありがとう」」
飛鷹にお礼を言って浅見さんに笑い掛けてから車に向かった。
「ジュン、比奈ちゃんに何したの?なんかめっちゃ怯えてたけど。」
「俺の婚約者を自慢してただけだよ。やっぱり重くて引かれたかも」
「まあ、そういうことにしておくよ。未来の旦那さんの言葉は信じなきゃね」
「ヒナ、それもう一回言ってくれない?」
「……。あ~、疲れた~。早く帰ろ~」
ヒナは伸びをして俺の腕に抱きついた。未来の旦那か。ヤバい、最高の響きだ。
もう2週間後にはクリスマスがやってくる。俺は、家族でオーストリアにいる祖父ちゃんと祖母ちゃんに会いに行くけどいつか、ヒナとも一緒行けたらいいな。そしたら、祖父ちゃんと祖母ちゃんに自慢する。




