24、もうすぐクリスマス
期末テストが終わった翌週。もうすぐ冬休み。冬休みに入った直後はクリスマス。蓮ちゃんと莉央くんと潤くんはお祖父ちゃんお祖母ちゃんの家に行くらしい。そして、大晦日の前には日本に戻ってくるそうだ。
中休みに入ると皆、クリスマスの予定を嬉しそうに話している。せっかくのクリスマスだし、私も莉央くんと過ごしたかったけど仕方ないよね。
次は体育なので体操服と体育館シューズを持って教室を出た。すると、後ろからめぐと沙理が走ってきた。
「はゆ~、待ってよ~。」
「ごめんごめん。考え事してたせいで2人のこと忘れてたよ」
「ひどっ!」
「冗談だよ」
笑って2人の背中を軽く押した。
「良かった~。それより、はゆも25日に皆で遊園地行かない?」
「皆って被服部の?」
「ううん。クラスの子達だよ」
「誰いるの?」
「それがね、糸瀬と伊崎も来るんだって!あの2人が来るから結構な人数が来るみたいだよ。10人ちょっととか」
「類と虹叶が?意外な2人だね」
糸瀬類と伊崎虹叶は同じ小学校出身のイケメン2人組だ。それに、類も虹叶も登校するときの部団が一緒だったし、唯兄と同じバレークラブだったから結構仲はいい方。そして、バレー部のセッターとスパイカーというモテないわけがないポジション。
ブラコンじゃないけどそう思われたら嫌だから公言はしないけど、2人より唯兄の方が強いよ。だって、中1で試合に出てたしエースナンバー背負ってたし。って自慢はこの辺で。
とにかく、2人はすごくモテる。けれど、2人とも小学校の頃から女子と話すことが少ないんだよね。だから、ファンの子達は暗黙のルールで普段は見守るだけなんだって。
「まあ、25日は暇だし行く」
「やった!」
「楽しみだね~」
「お揃いの髪型してこ」
クリスマスの予定について盛り上がりながら更衣室に行って、体操服に着替えて外に出た。今日は持久走なんだよね。
「寒~!」
「ホント。こんな中持久走とか無理!」
「はゆっちはいいな。足が早くて」
「まあ、いつも兄と姉を追いかけ回してたからね」
昔っから構ってほしくて寝てる仁兄を叩き起こして雪だるま作ったり、受験生だったお姉ちゃんの部屋でトランプしたり、唯兄と大福の散歩中に驚かしたくてめちゃくちゃ走って先回りしたりしてたからね。今思うとめんどくさい妹だよね。まあ、私って唯兄と違って甘えるのが上手だから皆なんだかんだ付き合ってくれたけどね。
グラウンドに並んで準備体操をして前半と後半に分かれて走り始めた。私は前半だ。
それから10分走り終えて水を飲んで休憩していると隣に類が座った。しかも、無言で水飲んでる。相変わらず無口だな。
「なに?」
「来るのか?遊園地」
「うん。楽しみだね」
「……唯くん、元気か?」
「急に話変わったね。まあ、元気だけど。それで?本題は?」
「今から断るにはなんて言えばいい?」
「そんなことだろうと思った」
このイケメン、実は女子が苦手なのだ。小学校の頃、少しと年上の女の子達に髪の毛をみつあみにされて男子にからかわれて以来ずっとこの調子で女子を避けている。私にだけ話し掛けるのは私を女子として見てないんだろうな。
「用事入ったって言えば?」
「嘘苦手」
「じゃあなんで誘いにのったの?」
「男子だけだと思ってた。」
「じゃあ、女子が苦手だから行けないって素直に言いなよ」
「でも、遊園地、行きたかった」
「じゃあ24日に行く?唯兄も誘って。」
「行く」
類は目を輝かせて頷いた。すると、類の後ろから虹叶が歩いてきた。
「類、抜け駆けはズリいよ。俺もクラスの女子いるなら断るから一緒に行ってもいいか?」
「じゃあドンマイ。クラスの女子いるから無理だね」
「春雪は特別だから」
虹叶が笑って私と類の肩に腕を回すと類もコクコクと頷いた。さりげなく体重かけてこないでほしい。重いんだけど。仲いいからって男子と同じ扱いしないでほしい。
「あ~!蒼井と伊崎がイチャついてる~!」
類のこと見えてないのかな?そうじゃないと類ともイチャついてる~!とか言われそうなのに。
「笠原、誰と誰がイチャついてるって?」
「伊崎と蒼井だろ」
「隣に類いるの見えないの?」
「いや、まあ、そうだけど」
「じゃあ3人でイチャついてるんだよ。邪魔しないでよ」
「変なこと言うな」
虹叶の腕を振り払ってスタートラインに並んだ。2回目走らないとなの忘れてた。さっき先生と目があったから思い出せたけど。
また、10分走って休憩した。類は同じ前半なので一緒に休憩して沙理とめぐを応援していた。
それから体育が終わって更衣室に向かった。
「はゆ~。もしかして、2人のどっちかのかと好きなの?」
「はゆっち、そうなの?」
「違うよ。私、他に好きな人いるから」
莉央くんっていう王子様がね!でも、時々思っちゃうんだよね。莉央くんにとって私は小さい女の子じゃないかな?ホントに私の好きと同じ好きなのかな?って。莉央くんと5歳差なんて気にならないって思ってたけど、莉央くんがあんなに気にしてた理由が最近になって分かったよ。
「はゆ?どうしたの?」
「顔暗いよ」
「ううん。大丈夫。なんでもない」
ホントは2人にも相談したいけど、話したら許嫁じゃなくなっちゃうし、そしたら莉央くんがただの幼馴染みに戻っちゃう。なんか、片想いよりも辛い。
着替えて教室に戻って給食を食べてお昼休みになった。すると、女子数人に屋上に呼び出された。
「えっと、なに?」
「いつも思ってたけどさ、春雪ちゃんって虹叶くんと類くんのどっちと付き合ってんの?」
「いや、どっちも付き合ってないんだけど。」
「じゃあなんでいつも一緒にいるの?」
「いつもはめぐと沙理といるんだけどな」
「今日、体育のとき一緒にいたじゃん」
「友達と一緒にいたらダメなの?」
「は?」
また嫉妬のパターンか。なんでそれで私が怒られないといけないの?私、悪いことしてないのにな。ホント分かんない。
「友達に性別関係あるの?虹叶と類は男子だから友達になっちゃダメなの?」
「でも、2人はみんなの物だよ!誰かが抜け駆けしたらダメなの!暗黙の了解じゃん!」
「物?2人は誰の所有物でもないよ。人間だよ。なに?暗黙の了解って。2人に許可得てからルールブック作って見せてよ。そしたら守るよ。そうじゃないなら友達と仲良くしてる私は何も悪くないよね?」
「うるさい!仲いいからって生意気なこと言ってんじゃねえよ!」
女の子たちの内の1人が私の頬を思いっきりぶった。いった!
「生意気言ってどうもすみませんでした~」
屋上から出てすぐの階段には2人が待っていた。すると、虹叶も類も私に抱きついてきた。
「無理すんなバカ。類と助けに行こうとしてたとこだったのに」
「類が?女子苦手なのに?」
「春雪が酷いことされてたから」
「気持ちだけで嬉しいよ。2人ともありがとう」
「友達だからな」
「違う。親友」
「あはは、そうだね」
なぜか私の知ってる中学生は異性の友情の存在を知らないようだ。だからって人に自分の考えを押し付けないでよね。女子同士のスキンシップを異性でしてたらそれだけで付き合ってることになるの?モテてる男子と友達になったらいけないの?そんなことないよね。
「あ、俺、春雪が好きな人と上手くいくように手伝ってやるよ。嫉妬させようぜ」
「俺も手伝う」
まさか好きな人が5歳も年上だなんて思ってないんだろうな。まあ、せっかくだし、莉央くんの嫉妬した顔も見てみたいし手伝ってもらおうかな。
「じゃあ、今日の放課後、2人と大福の散歩行ってるとこ見せつけようかな」
「散歩!?楽しみ!」
「俺、リード持ちたい」
「ズリいよ類!俺もリード持つ!」
「じゃあ、行きと帰りね」
それから放課後になって2人は部活に行った。今日はミーティングだけで終わるらしく教室でマフラーを編んで待っていた。
「お待たせ~」
「じゃ、そろそろ帰ろっか」
「だな」
類と虹叶の家は私の家に帰る途中にあるので、荷物だけ置いて一緒に家まで帰った。私も、玄関に荷物を置いて少し暑かったのでマフラーもとって大福と一緒に家を出た。
「マフラーで気付かなかったけど、叩かれたところちょっと赤いな」
「そう?まあ確かにちょっと痛いかも」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。大丈夫。ほら、類がリード持つんでしょ?」
「うん」
今日はいつもより少し距離を伸ばして駅の近くまで行く。きっと、莉央くんが帰る時間と被ってるから会うと思う。嫉妬作戦が成功するなんて思ってないけど莉央くんと一緒に帰れるなら会いたいな。
「2人はさ、好きな人とかいないの?」
「俺はバレーが恋人!」
「類は?」
「俺は……分からない。」
「そういや春雪ってこれまで何人に告られたんだ?」
「さあ?月1ペースだし中学に入ってからは20人くらいかな」
「モテるな」
「顔がいいんでね。皆顔なんだよ。嫌だね~」
私は莉央くんの顔も声も性格も言葉も行動も全部好きだけどね。そもそも私は喋ったこともない人ばっかりに告白されるんだよね。しかも友達の好きな人とか。ああいうの、すごい気まずいよね。
それから駅の側の公園で休んでいると同じクラスの笠原がやって来た。
「あ、蒼井」
「笠原じゃん。こんなとこで何してんの?」
「買い物。そっちは?」
「見て分かんない?大福の散歩だよ。ね~、大福~」
「可愛い。触っていいか?」
「笠原ってそんなこと言うタイプだっけ?」
笑いすぎて少し涙が出た。私は涙を拭ってはぁ~と息を吐いた。すると、見覚えのある薄い茶髪の髪が見えた。その明るい色はだんだんと近付いてきた。
「春雪?こんなところで何してるんだ?」
「あ、莉央くん!おかえり~。友達と大福の散歩してたの」
「友達、ね。」
おやおや?まさかの莉央くんが嫉妬?いや、ないか。莉央くんのことだから妹が取られたみたいで寂しいとかだよね。
「それより、頬赤いけど大丈夫か?」
莉央くんは私の頬に触れて心配そうな顔を近付けた。莉央くんのせいでもっと赤くなったんだろうな。
「お~い、春雪?聞こえてるか?」
「聞こえてる。大丈夫だよ。全然大丈夫」
「ちょっと待ってて。あと、風邪引かないように俺のマフラー巻いて」
莉央くんは私にマフラーを渡すと走って行ってしまった。私も虹叶も類も笠原もぽかんとして莉央くんの背中を目で追っていた。
そして数分後、莉央くんが走って戻ってきた。
「マフラー巻いてって言ったのに。あと、水。氷だと冷たすぎるだろうからこれをタオルで巻いて冷やしてろ。マシになると思う」
「ありがと。でも、なんで分かったの?私、痛いなんて言ってないけど」
「春雪は無理するときに大丈夫って繰り返すことが多いから。多分、今も無理してるんだろうなって」
「莉央くん!好き!」
私が抱きつくと莉央くんは知ってると言って私から離れて私の首にマフラーを巻いた。
「じゃあ、帰るか。もう暗いし3人はそのまま家に帰った方がいいよ。春雪は家が隣だから俺が送って帰るから安心して。3人とも気を付けて帰れよ」
「「は、はい」」
「バイバ~イ!また明日~!」
3人に手を振って莉央くんは大福を抱っこして家に向かった。私はペットボトルで頬を冷やしながら。
「で、何があったんだ?転けて腫れてるわけじゃないだろ?」
「女の子には色々あるんだよ。莉央くんは女の子の闇を知らない方がいいよ。」
「なんだよ闇って。逆に気になる」
「莉央くんのことだから嫌でもいつか知ることになるよ」
私が笑ってみせると莉央くんは怖いな~と言って笑った。この笑顔みたいに普段ももう少し子供っぽければ年の差なんて気にならないのに。
「あ、そうだ。イブにね、さっきの3人のうち2人と唯兄誘って遊園地行こうかなって話してたの。お土産にお揃いのキーホルダーとか買ったら着けてくれる?」
「うん」
「やった!とびきり可愛いの選ぶね」
「じゃあ俺は美味しいお菓子でも買ってくるわ」
「うん!」
莉央くんの腕に抱きつくと莉央くんはやれやれと笑ってそのまま歩いた。暖かいな。マフラーからも莉央くんの匂いがするし隣にも莉央くんがいる。落ち着く。
「じゃあな」
「うん」
「明日、講義終わるの早いから車で迎えに行こうか?」
「いいの!?ラッキー。じゃあ教科書一気に持って帰れる」
「そうだな」
そして、翌日。朝、早めに学校に行ってマフラーを完成させた。最近はいつも早く出てたけど明日からはゆっくり出れるな。莉央くんへのクリスマスプレゼント、早いけど今日渡そうかな。喜んでくれるといいな。
「あの、蒼井先輩ですよね?」
「そうだけど」
「1年の木南織です。あ、あの、ちょっとお話いいですか?」
「……うん。」
木南さんについていって音楽室辺りまで来た。2年3組の教室からは結構遠いんだよね。木南さんは音楽室の時計をチラチラ見て何も話さない。なんだか様子が変だ。緊張してるのかな?
「木南さん、私、ピアノ弾くの好きなんだけど弾いてもいい?」
「は、はい」
音楽室のグランドピアノの椅子を引いて座って少し前に流行った冬の切ないラブソングを弾いた。やっぱいい曲だな。弾き終わって木南さんの方を見ると木南さんはすごい勢いで頭を下げた。
「すみません!」
「え、急に?なんで?」
「私、陸上部で。先輩たちに蒼井先輩を教室から離れたところに誘導してって言われて。怖くて断れなくて。本当にすみません!」
「……いいよ」
私は急いで教室に戻った。すると、他の生徒も来ていたようで私の机に注目していた。そこには驚きの光景が広がっていた。私が一生懸命編んだマフラーがボロボロになって置いてあったのだ。
「な、んで……。頑張って作ったのに……」
「はゆっち!このマフラーどうしたの!?」
「昨日はもう少しで完成しそうだったのに!」
「分かんない。これじゃクリスマスに間に合わないかも。同じ毛糸買うお小遣いないし、どうしよう。莉央くんにあげたかった……」
「私、犯人見つける!」
「私も!はゆにこんな顔させたやつは許さない!」
「めぐ、沙理。」
私は涙を堪えてボロボロのマフラーを袋に戻した。そうだよね。
「私の手編みのマフラー、ボロボロにしたの誰?今名乗り出てくれたら先生には言わないであげるから早く出て来いよ。600円の毛糸を5個使ったから3000円は返してもらうけど」
さすがにこれじゃ名乗り出ないか。でも、先生に言う前に私に手を出したことを後悔させないとな。
「朝からなんの騒ぎだ?」
「あ、虹叶、類。笠原も。おはよう」
「そういえば、春雪の好きなやつって昨日のあの人だよな?何個上?」
「虹叶、その話はあとでいい?今、めっちゃ機嫌悪いから。全てのことにキレそう」
「物騒だな。で、俺の親友傷付けたの誰?」
「分かったらその人に怒りをぶつけてる」
ギュウッと握った拳で体操服の入った袋を思い切り殴り付けた。
「ちょっとスッキリした。よし、これで人は殴らない。……多分」
「多分かよ」
それから先生が入ってきて一応席に着いたものの、私やみんなの様子がおかしいことに気付いた先生が1時間目の社会を学活に変えた。
「先生がいると話しづらいです。」
「じゃあ、30分、席を外そう。その代わり、原田先生に入ってもらうがかまわないか?」
「はい。ありがとうございます」
それから先生が教室から出ていって私は昨日ビンタをしてきた子と一緒にいた子の席の前に行った。このクラスの陸上部はこの子ともう1人男の子しかいないん。
「なに?私のこと疑ってるの?」
「うん。木南さんが陸上部の先輩に言われたって言ってたし、このクラスの陸上部は阪本さんと琉太しかいないから。なんでこんなことしたの?って聞かなくても大体分かるんだけど」
阪本さんの前の席がちょうど開いていたのでそこに座って向かい合った。
「あのマフラーね、別に虹叶にあげるためでも類にあげるためでもないから。私が世界で一番大好きな人にあげようと思って作ってたの」
「え、」
「私のその人のために何ヵ月も前から練習して、寝る間も惜しんでやっと完成させたの。その人の喜んだ顔が見たかったから眠くても頑張れた。なのに、あんなにボロボロにされて……。今の私の気持ち分かる?分かるわけないか。お小遣い貯めて、いい毛糸も買って一生懸命作ったのがあんなになるなんて。」
私は泣きそうになった声を閉じ込めるために大きく息を吐いて顔をあげた。
「私が全然泣かないから何しても傷付かないと思った?」
「……」
「私もすごい傷付くよ。でも、自分で言うのもあれだけど、昔から我慢強いの。だから、泣きそうになっても我慢できる。でも、ホントはすごく傷付くし、悲しい。阪本さんには私の今の笑顔が心の底から笑ってるように見える?」
私はあえて精一杯の笑顔を向けた。阪本さんは私の表情を見てか、言葉を聞いてか、泣き出してしまった。泣きたいのはこっちなんだけどな。
「ごめん、なさい。私、蒼井さんみたいに、器用じゃないから、そんなすごいマフラー渡されたら勝ち目がないと思って……。それに、蒼井さんならすぐに他のマフラー編めるだろうなって決めつけて。本当にごめんなさい」
「……もう、過ぎたことだから仕方ないけどさ。毛糸は弁償してね。それと、他の子に同じことは絶対しないで」
それから先生が戻ってきて、マフラーをボロボロにされたことだけを報告した。お母さんと阪本さんのお母さんにも電話でお話をしてお金は返してもらえることになった。まあ、お金よりも時間を返せって思うけど。あの毛糸高かったからな~。
それから最後の授業が終わってホームルームまでの休み時間。めぐと沙理が私の席にやって来た。
「はゆっち、目赤いよ」
「泣いたの?」
「泣かないよ。赤いのは痒かったから」
「そっか。でも、いつでも頼っていいからね」
「私のこともね」
「ありがとう」
大丈夫。大丈夫だから、私は泣かない。昔はすぐに泣いていたせいで泣き虫なんてあだ名が付けられてたけど、今は我慢できる。私は強いから。
それからホームルームが終わってまだ書けてなかった明日の連絡を書いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「春雪、迎えに来た」
「莉央くん!あ、ごめん。すぐに連絡帳書くね」
急いで連絡を書いていると莉央くんはスマホでパシャッと写真を撮った。
「家帰ったら写真送る」
「ありがとう」
それから荷物を持って教室を出た。廊下にはまだ生徒が残っていて莉央くんはすごく注目を浴びている。そんなことは気にせず、莉央くんは私の持っている紙袋を指さした。
「それ何?教科書入ってるの?俺が持とうか?」
「あ、それ」
莉央くんは首を傾げてマフラーの入った紙袋を持ち上げた。そして、思っていたよりも軽かったのか、驚いたように紙袋の中身を覗いた。
「誰かにあげるのか?」
「莉央くんに、あげたかったけど。でも、また作り直すね」
「いや、このまま貰う。母さんが前に穴が空いたニットのマフラー直してたから教えてもらう。毛糸残ってる?」
「残ってるけど」
「それ、貰ってもいいか?」
「うん」
補修なんてどうやってするんだろう。編み物はまだあんまりしたことなかったから補修できるなんて初めて知った。
それから、家に帰って荷物を置いて莉央くんたちの家に行った。すると、仕事がお休みのユリアさんがリビングで補修の仕方を教えていた。
「春雪ちゃんにも教えようか?」
「うん!教えて!」
ユリアさんに教わって自分のマフラーに飾りを付けたりしてみた。ユリアさんにどうしてそんなに編み物が上手なのか訊いてみると“結婚当初は若くてお金がなかったからマフラーも手袋もセーターも手作りしてたのよ”と教えてくれた。叶多さんが嬉しそうに身に付けてるのが目に浮かぶな。
それからしばらくして時計を見てみると6時をまわっていた。莉央くんは集中モードでマフラーの補修を続けていた。
「できた」
莉央くんは嬉しそうにマフラーを首に巻いて笑った。
「暖かい」
「……莉央くんはやっぱすごいね。私、やっぱ莉央くんとは一生釣り合わないかも。クリスマスプレゼントすらちゃんと渡せなくてごめんね」
「マフラーに穴が空いてたのって春雪のせいじゃないんだろ?」
「そう、だけど」
「じゃあ気にしなくていいだろ」
莉央くんは私の頭を撫でて微笑んだ。そうだよね。私は別に悪いことしてないんだからめんどくさいこと考えなくていいよね。
「うん!私らしくないこと言ってごめん!莉央くん、そのマフラー今度貰ってもいい?やっぱりもっと上手にできたのを渡したい」
「じゃあ、予約ってことで。できたら交換してくれるか?」
「うん!」
私が莉央くんに抱きつくとユリアさんがすかさずスマホのシャッターを切った。
「2人の結婚式にムービーで流してあげる」
「結婚式……。」
「春雪さん、テレるところはそこで合ってますか?」
「なんで敬語?」
「莉央は照れてるのよ。ほら、顔見てみて」
私が顔をあげようとすると莉央くんはギュウッと強く抱きしめた。お陰で顔が見えないし私の顔まで真っ赤だよ。
莉央くんはハァ~と息を吐いてくるっと背を向けた。
「じゃあな」
「う、うん」
莉央くんはそのまま部屋まで行ってしまった。隣を見るとユリアさんが微笑ましそうに笑っていた。
「莉央があんな顔するなんてね。本当に春雪ちゃんが大好きなのね」
「そう、なのかな?」
「うん」
「じゃ、じゃあ、私もそろそろ帰るね。ユリアさん、また編み物教えてくれる?」
「もちろんよ」
「ありがとう」
それから家に戻って編み物の本を開いた。今度はもう少し難しいマフラーを編んで、バレンタインまでに莉央くんに渡すんだ!




