23、倉橋家
今日は兄と妹と出掛けている。うちは兄妹仲がいい方で少なくても月に一度は一緒に出掛けることがある。これは兄が中学にあがってからずっとだ。両親共働きで妹に寂しい思いをさせないように兄が考えた。
最初は近くの公園とか、両親に年パスを買ってもらって遊園地や水族館に行ったりしていた。最近は、ドライブか電車での移動が多くなってきて大人になったなと感じたりすることもある。そして、今日は兄の運転で隣の県にある有名な高級ホテルに来た。
「今日はここのホテルでアフタヌーンティーを予約しといた。景色も超綺麗だし、この前ヒナと行って蓮も好きそうだなって思って」
「楽しみ!」
「だからパーカー来ていこうとしたら止めたのか」
「そういうこと。まあ、早く行こうぜ」
「だね」
ホテルに入って25階までエレベーターに乗って上った。兄貴が予約を確認して席に案内された。それにしてもマジで景色綺麗だな。
それからスイーツと紅茶が運ばれてきた。兄貴は写真を撮って母さんたちに送っていた。写真を撮り終わると妹の蓮はこれでもかというほど幸せそうにスイーツを食べている。
「美味しい~!リオ兄とジュン兄も早く食べなよ」
「そうだな。ほい、莉央。スプーン」
「サンキュー。……あ、確かに美味しい。」
「でしょ?」
なぜか蓮は得意気に笑って紅茶を飲んだ。予約したのは兄貴の筈だけど、可愛いから別にどうでもいいか。
~~~~~
「はぁ~!美味しかった~!」
「よかった」
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「俺も半分持つ」
「いいって。たまには兄にカッコつけさせろよ」
「俺も蓮の兄貴なんだけど」
「でも、莉央も俺の弟だろ?」
兄貴は俺の肩に手を置いて首を横に振った。まあ、こう言ってるしとりあえず甘えてもいいか。
兄貴と蓮と一緒にレジに行ってエレベーターに乗った。それからホテルのロビーに着いて出口に向かう途中、蓮が20代くらいの高そうなスーツを着た男性にぶつかった。
「すみません」
「いや、こっちも前を見てなかった。悪い。怪我はないか……」
男性は蓮の顔をジロジロと見た。すかさず兄貴が間に割って入った。それにしてもこの人、なんか見覚えがあるな。でも、こんな美形な人に会ってたら多分忘れないだろうし。
「あ、あの、怪我はないので大丈夫です。」
「そうか。良かった」
「じゃあ、俺らはそろそろ」
「……君たちは、倉橋叶多とユリア·メンツェルさんの子供か?」
「ヤベえよ、この人。莉央、蓮と離れろ!」
「待ってくれ。俺は倉橋岬だ。倉橋叶多の弟だ」
父さんの弟で顔が似てるから会ったこともないのに見覚えがある気がしたのか。
それからロビー内のカフェに場所を移した。岬さんは俺たちの父さんの弟で、26歳ながらこのホテルの支配人だそうだ。
父さんは四人兄妹の2番目で岬さんとは13歳差のため6歳までしか一緒に暮らしていなくてあまり覚えていないから会いたいそうだ。父さんと母さんはいわゆる駆け落ちで、父さんの親族に会ったのは今日が初めてだ。
「お父さんに会わせてあげようよ」
「いや、でも勝手に会わせるのも」
「別に縁を切ってるわけじゃないならいいじゃん」
「それもそうだけど……」
「それに、今日はちょうど早く帰ってくる日だし」
「そうだな。岬さん、予定は大丈夫ですか?」
「ああ。今日は休みだ」
「よかったです」
兄貴の車に乗って家に向かった。車内は、全員無言という非常に気まずい空気が漂っていた。
~~~~~
そらから、家に着いて岬さんを家にあげた。父さんたちはまだ帰ってきてなかったようでとりあえずお茶を出して帰りを待った。
「もしもし。オレオレ。って詐欺じゃねえよ。今、父さんに客が来てるから早く帰ってきて。ああ。分かった。じゃ、」
「父さん、なんて?」
「夕飯の食材買ってたとこだから会計済ませたら母さんとすぐ帰るって」
「分かった」
俺の返事とほぼ同時にチャイムが鳴った。出てみると春雪と唯がいた。
「どうした?」
「もうすぐテストだろ?」
「だから勉強教えてほしくて」
「黄雛は?」
「バイト」
確かにこの時期はどこの学校もテスト前だから家庭教師は忙しいよな。
「莉央くん、後のお兄さん誰?生き別れの兄弟?」
春雪に言われて振り返ると岬さんが立っていた。
「あ、岬さん。この2人は隣に住んでる俺らの幼馴染みです」
「そうか。勉強を見てほしいと聞こえたが俺が教えようか?」
「いいんですか?」
「ああ。」
「じゃあ2人ともあがって」
2人をリビングにあげて父さんの知り合いとだけ紹介して早速勉強を始めた。もちろん、蓮も一緒に。俺と兄貴は教える側にまわって3対3で勉強を教えた。
「叶多さんの知り合いすごいね!解説がすごく分かりやすい!」
「春雪さんの要領がいいからだ」
「え~、そうかな~?」
「蓮さんと唯さんも呑み込みが早いから教え甲斐がある」
「私、天才なのかな?」
「いや、俺の方が天才だ」
褒められて伸びるタイプの3人をすぐに見極めて褒めつつ改善点を言ってる。この人、教育者に向いてそう。
「ただいま~」
「お母さん、おかえり!」
「おい、蓮。俺は?」
「お父さんもおかえり」
「じゃあ春雪、そろそろ帰るぞ。勉強教えてくれてありがとうございました。潤と莉央も助かった」
唯は一礼して春雪を連れて隣にある自分の家に帰った。父さんは唯が岬さんにお礼を言ったのを聞いて初めて存在に気が付いたようだった。
「お前は誰だ?」
「倉橋岬だ。兄さん、覚えているか?」
「岬!?なんでお前がここにいるんだ?そもそも俺のことを覚えてるのか?」
「少しなら。写真もあったので。そして今日、偶然にも潤さんたちに会ってあまりにも写真の中の兄さんに似ていて一目で分かった」
「そうか。それで、あの人たちには話してないんだろうな」
「ああ。姉さんと兄さん、いや、伊吹兄さんにも話していない」
岬さんの言葉に父さんは安堵の溜め息をついた。父さんはそんなに祖父母に会いたくないのか。逆に会ってみたくなるな。
「もっと、遠いところに住んでると思っていた」
「俺はオーストリアにあるユリアの実家で住もうと思ってた。まあ、あのときの予算だと無理だったけどな」
「兄さん、一度実家に帰ってこないか?」
「岬は何があったか知らないからそんなことを言えるんだ。あんな人たちには二度と会いたくないし、ユリアや潤たちにも近付けたくない」
珍しく本気でキレている父さんを見た。父さんがこんなにキレるなんて俺らの祖父母は本当に何をしでかしたのだろう。
「お父さん、私、会ってみたい」
「絶対にダメだ!俺は蓮の傷付いた姿を見たくない。蓮、俺の気持ちも分かってくれ」
「何があったか知らないから、分かんないよ。それに、縁を切ってないってことは何か理由があるんでしょ?」
「ない。あの人たちとは縁を切りたい」
「え、じゃあなんで?」
「お母さんが止めたのよ。確かに、叶多のご両親からは猛反対されたけど、私のせいで家族の仲を引き裂きたくなかったのよ。」
母さんは少し悲しそうに微笑んで蓮の頭を撫でた。
「それに、あのときは冷静さを欠いていたせいで思ってもいない酷い言葉が出てきてしまったと思うの。まあ、叶多もご両親も頑固すぎてまだ家族の縁が繋がってるのに話したりしないけれど。岬さんに偶然会ったのも縁だし、私は会いに行ってもいいと思うわ」
蓮は『ホント!?』と言ってパアッと明るく笑った。父さんは蓮の頭に手を置いて、心配そうな表情を浮かべた。
「じゃあ、俺も一緒に行く。蓮1人じゃないなら父さんも少しは安心だろ?」
「そうそう。蓮には俺らがついてるんだからさ」
「莉央、潤。分かった。だけど、俺とユリアは一緒に行けない。岬、弟のお前に息子たちを任せてもいいか?」
「ああ」
「それと、今日は泊まっていけ。一緒にワインでも飲んで話そう」
「それ賛成!俺も飲む!」
「え!あ、潤さんはもう二十歳なのか。」
「まあな。てか、さん付けじゃなくていい。なんかむず痒いし」
兄貴がわざとらしく肩を震わせると蓮も何度も頷いた。岬さんは蓮から俺に視線を移したので俺も頷いた。すると岬さんも少し驚いたような顔をして頷いた。
それから夜、父さんと母さんと兄貴と岬さんで楽しそうに晩酌をしていた。俺は蓮の勉強に付き合っていた。
「私、テストでめっちゃいい点取るかも」
「じゃあ、1教科80点取るごとになんかお菓子とかアイスとか文房具とか買ってあげる」
「頑張れる気がしてきた」
約、2週間後。蓮のテストも終わり、全て返ってきた。結果は英語と数学が80点を越えていた。他は凡ミスなどでギリギリ80手前の点数の教科もあった。
そして今日は、岬さんの側近の人の車で父さんの実家に向かっている。
「あと、5分もすれば着く。父さんと母さんには会わせたい人たちがいるとしか伝えていない。多分、その方がいいから。それと、蓮と同い年の甥もいる」
「そうなんだ。でも、初対面の人と喋れる自信ないな」
蓮は苦笑いを浮かべてバックミラーに映った岬さんの顔を見た。
それからすごい豪邸に着いて門が開いて、お手伝いさんに部屋まで案内された。それにしても、廊下広っ!天井高っ!岬さんの職業を聞いて薄々勘づいてたけれどまさかここまでの金持ちとは思わなかった。
「岬だ。失礼する」
岬さんが部屋に入っていったのを見て兄貴、蓮、俺の順番で並んで部屋に入った。部屋には高そうなスーツを着た祖父らしい人とブランド物の洋服を身に付けた祖母らしい人と目が合った。その人たちだけでなく、その場にいた全員が俺たちを見て驚いた顔をしていた。
「君たちは……」
「初めまして、お祖父さん。俺は倉橋潤です。倉橋叶多の息子です。隣にいるのが妹の蓮でその隣にいるのは弟の莉央です」
作った笑顔で兄貴が挨拶をするとその場にいた人たちはさらに驚いたようだ。
「岬、叶多に会ったのか?」
「ああ。この間偶然、潤たちに会って。写真に写っていた兄さんにそっくりで子供たちだってすぐに分かった」
「なぜ言わない。」
「口止めされていたからだ。」
「お祖父さん、父さんはあなたたちのことをすごく恨んでいます。何があったんですか?」
「それを話すと君たちまで傷付けてしまうかもしれない」
「それでも知りたいです。滅多に怒らない父さんがあそこまで怒る理由が気になるので」
* * *
私がユリアさんと初めて会ったのは、2人が結婚を誓っていてユリアさんのお腹に子供がいると報告されたときだった。
ユリアさんは美人な人で、息子と並ぶとすごく画になった。だが、ユリアさんの妊娠と結婚の報告をされたとき、息子はユリアさんのせいで若くして自由を失うと思ってしまった。
「結婚には反対だ!どうせ、そんなに早く結婚してもいつかは離婚するはめになる!」
「そんなの言いきれねえだろ!」
「そもそも、なんでメンツェルさんなんだ!」
「は?それ、どういう意味だよ!」
「せめて、日本人であってほしかった」
言ってしまった直後、後悔の波が押し寄せてきた。ユリアさんの顔を見ると悲しそうに微笑んでいた。ユリアさんは、全く怒鳴らなかったのだ。私は、それほどまでに傷付けてしまった。そう気付いた頃には叶多に胸ぐらを掴まれていた。
「おい、クソジジイ!ユリアがどこの国の出身かなんてお前には全く関係ねえだろ!19年一緒に暮らしてきたけどまさか、こんなクソ野郎だとは思わなかったわ。今後一切、ユリアには近付けない。俺も会わない。ユリア、俺たちの家に帰ろう」
叶多はユリアさんの肩に腕をまわしてこの部屋から出ていった。それからもう21年、叶多には会っていない。私たちはそれだけのことを叶多とユリアさんに言ってしまったのだ。
* * *
「そうか。それで、父さんはあんなに怒ってたのか」
「お祖父さんは、お母さんのことが嫌いなんですか?」
「違う。ただあのときは結婚を考え直してほしかった。それで思ってもないあんな酷いことを言ってしまった。君たちのお母さんを傷付けてしまって本当に申し訳なかった」
「すみません。私から許すなんて言うとお父さんの怒りがどこに向けばいいか分からなくなると思うので」
「そう、だな」
お祖父さんは体を起こして苦笑いを浮かべた。
「とりあえずお茶でも飲みましょう。私は叶多の姉の桜子です。私はユリアさんと時々連絡を取っているからある程度のことは知っているわ。蓮さんと同い年の息子と6歳の娘がいるの。よかったら仲良くしてあげて」
「それって私たちの従兄弟?ですか?」
「タメ口で大丈夫よ」
桜子さんはやわらかい雰囲気をしていて少し母さんに似ている気がした。いや、違うな。母さんはあの表情のまま怒ってくるから母さんよりも怖くなさそう。
「その息子さんは来てないの?」
「ゲーム部屋で旦那とゲームでもしてると思うわ。田中さん、呼びに行ってくれないかしら」
「承知しました。お坊ちゃんだけでよろしいですか?」
「ええ。ゲームしていても引っ張って連れてきて」
「承知しました。少々お待ちください」
それから数分後、田中さんが息子さんを連れて戻ってきた。
「息子の翔弥よ。蓮さんとは同じ高校よね?」
「同じ高校というか、同じクラス……」
「え!そうだったの!?」
蓮は桜子さんの反応を無視して翔弥の前まで歩いた。
「驚かないんだ。いつから知ってたの?」
「入学したときから」
「だから、金髪だったのに私だって気付いたの?」
「うん」
「そうだったんだ。じゃあ、従兄弟だから仲良くしてくれたの?」
「それは違う!蓮って面白いから一緒にいて楽しいんだよ。だから一緒にいた」
「そっか。じゃあこれからもよろしくね」
「うん」
蓮は翔弥の手をとって握手をしていた。それにしても、母さんが桜子さんと連絡を取り合ってたなんて全く知らなかった。まあ、そもそも父さんが4人兄弟だって知ったのも最近だけど。
蓮のスマホから着信音が鳴った。
「仁から?」
「うん。桜子さん、電話に出てきてもいい?」
「ええ」
蓮は頭を下げて部屋から出ていった。
「翔弥、蓮さんの電話の相手って彼氏なの?」
「そのくらい蓮の顔見て分かったでしょ?」
「会ってみたいわ」
「じゃあ、うち来ますか?仁の家、隣なんで」
「あら、いいの?あ、それと、叶多はいる?」
「はい」
「じゃあ、帰るついでに寄らせてもらうわ。翔弥、桃花と晃くん呼んできて」
「りょーかい」
それから、蓮と翔弥が一緒に戻ってきた。後ろには眼鏡をかけた穏やかそうな男性と保育園ぐらいの女の子が手を繋いで立っていた。
「桜子さん、そろそろ帰る?」
「うん。叶多の家に寄って帰るけど」
「じゃあ車の準備するね。お義父さん、お義母さん、失礼します」
晃さんは娘さんを抱き上げて部屋から出ていった。
「じゃあ、俺らもそろそろ車戻るか」
「だな」
「お昼ハンバーグ食べに行きたい!」
「桜子さんたちはお昼の予定ありますか?」
「どこかでお昼食べようと思ってたのよ。一緒にいい?」
「はい」
それから家に向かう途中でお昼を食べて家に帰ってきた。車を置いて、俺たちが先にいえにはいった家に入った。
「ただいま~」
「おかえり。大丈夫だったか!?」
「お父さん、心配しすぎ。」
「父さん、またお客さんなんだけど」
俺は廊下に桜子さんたちを呼びに行って一緒にリビングに来た。父さんは桜子さんを見た瞬間、驚いたように固まった。
「叶多、久しぶり。20年ぶりくらいかしら?」
「……姉さん。と、誰?」
「私の旦那と、息子と娘」
「結婚してたのか?」
「ええ。それに、息子の方は蓮さんと同じ高校で同じクラスよ」
「え!知らなかった。……それで、要件は?あの人たちに帰ってこいって伝言もらったのか?」
「そんなわけないじゃない。私もお父さんとお母さんにユリアさんを会わせたくないわよ。本心じゃないとか言ってたけどそれが本当ならそもそも口に出ないもの。」
桜子さんは微笑んだまま答えた。この人、やっぱ母さんに似てる。絶対怒らせたらダメだな。
「蓮さんたちは今日会ってすごく反省してるって思ったかもしれないけどあれは演技よ」
「「え!」」
「伊吹、あ、叶多の弟ね。伊吹が結婚して娘を授かったんだけど、奥さんの体調的にもう子供は生めないらしいの。岬は去年、同級生の子と結婚したんだけど奥さんがすでに子供がいるからもう作らないって決めてるそうなの。私は嫁入りしてるし。だから、継いでくれる男子がいないの。お父さんね、潤さんたちが部屋から出ていったあとに“叶多に似ているな。髪が黒かったら昔の叶多そっくりだ。これなら大丈夫”って言ってたの。叶多なら、私の言っている意味が分かるわよね?」
桜子さんが目を細めて微笑んだ。父さんは桜子さんが話し終えると急に顔が険しくなっていった。
「ユリアの出身について文句言っておいて潤か莉央を養子に迎えて継がせるつもりか?」
「そうね。しかも、お父さんたちなら結婚も仕事もプライベートも全て制限してくるわよ」
「ユリア、悪い。もう、あの人たちとの縁切るわ。潤と莉央にまで辛い思いはさせたくない。俺はもう、あの人たちを家族だとは思えない」
「分かったわ。私は時間が経てば変わるって信じてたけど20年経ってもそれじゃあ、もう無理ね。」
母さんが鼻に息を通すように笑った。こうして、祖父母と初対面を果たしたその日に縁を切ることになった。
桜子さんは末っ子の桃花ちゃんが小学校の高学年になるまでには縁を切るらしい。
* * *
「ねえ、翔弥。まだ半分夢みたいな感じなんだけど、仁くんに話してもいい?」
「いいよ。仁の反応見てみたいから俺も一緒に行っていいか?」
「うん!」
翔弥と一緒に仁くんの家に行ってチャイムを鳴らした。すると仁くんだけじゃなく、姉弟4人みんなが慌てた様子で出てきた。
「え、なんで皆で出てくるの?」
「蓮ちゃん!仁兄がつまらなすぎて飽きちゃったの!?」
「仁がめんどくさくなったの!?」
「兄貴がウザくなったのか!?」
「は?なんの話?というか、皆して仁くんの悪口言ってない?」
ヒナと春雪と唯はスーッと視線をずらした。彼女の前で彼氏の悪口言わないでよね。私は全く喋らない仁くんの方を見た。
「仁くん、ちょっと話したいことあるんだけどいい?」
「ああ」
仁くんが少し暗い声で返事をした。どうしてだろうと首を傾げていると、翔弥が隣で盛大な溜め息をついた。
「蓮、今いろいろと誤解生んだの分かってる?」
「誤解?なんの?」
「はぁ~。まあ、仁の想像の斜め上はいくだろうけど」
「そうだね」
とりあえず、リビングにあげてもらった。結愛さんはちょうど買い物に行っているらしく不在だった。
「仁くん、私と翔弥ね……いや、まだ信じられない!」
「俺と蓮、従兄弟なんだよ。俺の母さんと蓮のお父さんが姉弟で」
「ちょっと!私が言いたかったのに!」
「蓮が変な間を空けたからだよ。俺は誤解されないように言っただけ」
「ちょっと、待て。蓮と翔弥が従兄弟?というか、そもそも叶多さんって姉弟いたのか?」
今日聞いた話を仁くんたちに教えた。私も話しているうちに少しずつ実感が湧いてきた。
「俺は中学の頃から母さんに聞いてたから蓮のことを知ってた。受験終わってから同じ高校って知ったから入学して名前見てすぐに分かった。だから、初めは仁と一緒にいたから変な正義感で俺が守らねえとって思ってた」
「今は?」
「蓮に好き好きオーラ放ってるなって思う」
「なにそれ」
私が笑うとヒナたちは翔弥の言葉に頷いた。すると、仁くんはみるみるうちに真っ赤になって顔を逸らした。ヒナたちはそんな仁くんを見て、お腹を抱えて笑った。
「部屋戻る」
「え、もう?」
「蓮なら来てもいい。」
「ホント!?やった!じゃあアニメかドラマ見よ」
「ああ」
仁くんの部屋に行ってタブレットでアニメとドラマを観た。すると、仁くんから衝撃発言があった。
「今日、蓮が来たとき、フラれるのかと思った」
「え!なんで?」
「俺じゃなくて翔弥のこと好きになったのかと思って。話したいことあるって言うから別れ話されるのかと思った」
「誤解だよ。私、今も仁くんのこと好きだし……」
ヤバ、顔熱い。私は仁くんから顔を背けた。仁くんは少し赤くなった顔で私の顔を覗き込んだ。
「かわい」
「待って!仁くんからそんな言葉が出てくるなんて。動画に収めたいからもう一回言って!」
私がスマホを出して仁くんにカメラを向けると、仁くんはムスッとしてスマホを持っていた腕を掴んで顔を近付けた。
「な、なに?近いんだけど」
「キスしたい」
「ヒナたちいるのに?」
「今なら姉貴たちリビングだから見てな……ってなんでいるんだよ!」
仁くんは立ち上がって部屋のドアを勢いよく開けた。すると、ヒナたちが仁くんの周りを取り囲んでニヤニヤ笑っていた。
「だから、言ったじゃん。ヒナたちいるって」
「まさかここにいるなんて思わねえよ」
仁くんは溜め息をついて私にもたれ掛かるように抱きついた。急に抱きつかれたせいで、私の心臓はもうバクバクしている。
「蓮、ドキドキしてる?」
「分かってるくせに聞かないでよ」
「わり。」
仁くんはニッと歯を見せた。もう可愛すぎるんだけど!私、今、絶対顔赤い。私は一度目を逸らしてから仁くんの顔を見上げた。やっぱ可愛い!そう思っていると仁くんの顔が急に近付いて唇に柔らかいものが当たった。
「え、ちょ、え!」
驚いて仁くんの顔を見上げると耳まで真っ赤になっていた。きっと、私よりも顔が赤くなっていると思う。
「わ、悪い」
「別に、謝ることじゃないけど……」
私は仁くんから目を逸らした。すると、ヒナが私の肩に腕をまわした。
「見てるこっちが照れるわ~」
「じゃあ見んなよ」
「はぁ?じゃあ私のレンとイチャつくな」
「誰が姉貴のだ。蓮は俺の彼女だ」
「まだレンとプリクラ撮ったことないくせに!あ、仁はお風呂も一緒に入ったことないよね~」
「い、いつか、全部する」
「その前にレンに嫌われないといいね~」
ヒナは私の頭を撫でて仁くんの方を見て煽るように笑った。すると、仁くんは私の腕を引いて部屋に入ってドアを閉めた。
「あの、仁くん?」
「嫌われないように努力する」
「あ、うん。頑張って」
「ああ」
何この会話。仁くんを嫌いになるのって相当難しいと思うんだけど、なにを努力する必要があるんだろう。って言うのは恥ずかしいから言えないんだけどね。
「仁くん」
「なんだ?」
「あれ見て!」
仁くんが私の指した方向を見た。私は仁くんの前まで歩いた。仁くんは私の方を見た。
「どれ、」
仁くんが言い終える前に背伸びをして仁くんにキスをした。すると、仁くんは顔を真っ赤にして驚いたように私の顔を見下ろした。
「さっきの仕返し」
ニッと笑って見せると仁くんからも私にキスをした。2回、3回とキスを重ねた。そして、仁くんがまた顔を近付けて私は慌てて仁くんの口をふさいだ。
「ちょっ、待って。心臓ヤバい。ほら」
仁くんの手を掴んで胸に当てた。すると、仁くんは慌てて手をよけて私の両肩を掴んだ。
「蓮、男に簡単に胸触らせるな。今回はたまたま俺だったけど、他の奴に触らせたりするなよ」
「当たり前じゃん!仁くん以外は絶対嫌だし!」
「悪い……。驚いたからって言いすぎた。蓮の気が済むまで殴れ!」
仁くんは私の肩から手を離して私の前にしゃがんだ。前もこんなことあったな。
「じゃあ、椅子座って」
「ああ」
私は腕に着けていたヘアゴムで仁くんの前髪を結んだ。私もお揃いの髪型にして写真を撮った。
「仁くん可愛い。次は編み込みしていい?」
「まあ、」
仁くんの髪を編み込みにしてリビングに下りると翔弥と唯が一緒にゲームをしていた。結愛さんも買い物から帰ってきていた。結愛さんは仁くんを見てすぐに吹き出した。
「仁、何その髪型」
「私が編んだの。もう仁くん可愛すぎて幸せ!生まれてきてくれてありがとう!」
「兄貴が三つ編みしてるだけだろ?」
「編み込みね。ホントに似合う。自慢したいけどあんまり学校の皆にはバラしたくないな」
仁くんの腕に抱きついて顔を見上げた。ホントに可愛い。今はこんな可愛い見た目なのに喧嘩強いってギャップも大好き。仁くん、大好きだぞ。




