10、きっかけは1つの傘~春雪目線~
新学期に入って1週間が経った。まだ中学生なのにクリスマスで何組みかカップルができたようだ。皆好きな人とかいるんだな。私はまだ誰も好きになったことがないんだよね。
「は~、授業終わった~」
「はゆっち!早く部活行こ!」
親友の沙理がスクールバッグを持って机の前まで来た。私もスクールバッグを持って立ち上がった。
「ねえ、沙理。クリスマスに付き合ったカップル増えたよね」
「みたいだね。まあ、私は好きな人いないし関係ないけど。……え、もしかしてはゆっち好きな人できたの!?」
「ええ!違う違う!好きな人とかいないよ。いたらいいなって思っただけ」
「なんだ。でも、もし好きな人ができたら教えてね」
「うん!」
私もいつか好きな人とかできるのかな?理想は潤くんとお姉ちゃんみたいな感じなんだよね。少女漫画みたいで憧れる。まあ、まだ中学生だし無理だと思うけど。
部活で作品を時間ギリギリまで進めて帰る準備をした。皆で昇降口に向かってそれぞれ帰っていった。
「うわ~、雨降ってる~」
「ね、まあ、折り畳みあるんだけど」
「私も」
「あれ?はゆっちは帰らないの?」
「あ、ごめん。忘れ物してきた。先に帰ってて」
「りょーかい」
「バイバ~イ」
沙理達と別れて私は被服室に戻った。机の上には裁縫セットが置いてあった。危ない危ない。家で続きできなくなるところだった。
昇降口に戻ると1人の男子生徒が空を見上げて立っていた。
「陽太、確か同じ方向だよね?入れてあげようか?」
「マジで!?助かるわ~。今日、バレーの中継あるからさ早く帰りたかったんだ」
「だろうね。唯兄も言ってたし」
傘を広げて陽太を入れてあげた。
「そういえばさ、陽太って好きな人いる?」
「はぁ?なんだよ急に」
「クリスマスに付き合ったって人意外といたからさ」
「そういえばそうだな」
「でしょ?」
「春雪はいるのか?」
「いないいない。興味はめちゃくちゃあるんだけどね。うちのお姉ちゃんと幼馴染みのお兄ちゃんが付き合ってるんだけどすごいラブラブなんだ。やっぱりそういうのを見てると私でも憧れる。」
「私でもってなんだよ」
「いや私、めっちゃオタクじゃん?それにバカだし。蓮ちゃんとかお姉ちゃんみたいに美形だったらもう少し自信持てたけど」
苦笑いで答えると陽太はフッと笑いを溢した。
「俺は、春雪も可愛いと思うけど」
「お世辞ね。まあ、ありがたく受け取っておくよ」
「お世辞じゃ……」
「あ!莉央くんだ!お~い!」
私は遠くに見えた幼馴染みの莉央くんに手を振った。莉央くんも気付いてこっちに歩いてきた。
「今帰りか?ってそっちのは彼氏?」
「そんなわけないじゃん。唯兄の後輩で友達。傘忘れたんだって」
「じゃあ春雪は俺の傘入ってくか?デカイから多分2人ぐらいなら余裕だろうし」
「じゃあお言葉に甘えて。陽太、その傘家まで借りていっていいよ。私莉央くんと隣の家だから最後まで濡れないし」
「え、あ、ああ」
「バイバイ」
陽太に手を振って莉央くんの傘に入って歩きだした。莉央くんはさらっと荷物を持ってくれた。
「そういえばどこ行ってたの?」
「図書館。勉強しに行ってた。春雪は部活?」
「うん!今ね、作品を作ってるんだけどあと少しかかるんだよね。でも完成したら1番に見せるね」
「楽しみにしてる」
莉央くんはそう言って微笑んだ。するとその瞬間、莉央くんが私の肩を引き寄せた。その直後、自転車が猛スピード近くを通った。
「セーフ。濡れなかった?」
「う、うん」
ビックリしすぎてめっちゃドキドキしてる。莉央くんを見上げると優しく微笑んでいた。そして莉央くんは私の肩を抱いた。
「この傘大きいと思ってたけど意外と濡れそうだからこうして帰った方がいいと思う」
「あ、うん。そう、だね」
まだドキドキしてたのにさらにドキドキしてる。てか、もうドキドキどころかバクバクだわ。
「莉央くん、こんなの他の女の子にしたら絶対に誤解されちゃうよ」
「他の女子と相合い傘なんてしたことない。そもそも好きじゃない子とはしたくないし」
「……え、。ええ!」
「な~んてね。春雪ならいいよ。妹同然だし」
「そ、そっか」
* * *
妹同然だよな?まさか俺が春雪を好きなわけないよな?去年までまだ小学生だったんだぞ。
「莉央くん?なんでそんな頬っぺた叩いてんの?痛くない?」
「あ、いや、大丈夫」
さすがにあり得ないな。そもそも5歳も年下だし、俺が二十歳になったときはまだ中学生なんだから。
「莉央くんどこまで行くの?もう家に着いたけど」
「え、あ、ホントだ。ちょっと疲れてるみたいだ。今日は早めに寝るようにするわ」
「うん。傘入れてくれてありがとね。あと、荷物も」
春雪は笑顔で手を振って家に入っていった。
俺も家に入って自室のベッドに倒れ込んだ。ハァ、マジかよ。なにドキドキしてんだよ。相手は中学生で俺はもうすぐ大学生だぞ。俺、実は年下好きだったのか?いや、でもこれまでは意識してなかっただけで実はずっと前から好きだったりするのか?
それからいつの間にか寝てしまっていて起きたら夕方になっていた。
「いつからなんだ?マジで自分の気持ちにも気付かねえとかバカかよ」
「何言ってるんだよ、莉央」
「え!兄貴!?なんでいるんだよ!?」
「何度も入るぞって言っただろ」
気付かなかった。てか寝てたし。
「なあ、兄貴。俺、もしかしたら春雪のこと好きかもしんねえ」
「やっぱり」
「やっぱり!?なんで驚かねえんだよ!春雪だぞ!妹同然だったんだぞ」
「春雪に対して特別扱いだっただろ?ヒナに対してはマジで兄妹みたいな感じだったけど春雪は女の子扱いって感じだったし」
女の子扱い?黄雛と何が違うんだ?黄雛に抱きつかれてもなんとも思わねえけどそもそも春雪に抱きつかれねえし。別れ際の春雪を可愛いと思ったけど黄雛のことも普通に可愛いと思うし。
「春雪に女の子扱いもなにも黄雛にもしてたと思うんだけど」
「どこがだよ。春雪が荷物を持ってたらだいたい代わりに持つだろ?ヒナが持っててもスルーなのに」
「それは春雪は年下だから」
「じゃあ唯達の荷物も代わりに持つのか?」
「なんのために?別に自分で持てるだろ?」
「それだよ」
何言ってんだ?こいつ。そもそも何人もにも振られたやつに言われたこととかあんまり信用ならないんだけど。
「春雪は年下で女の子って思って行動してるだろ?」
「実際にそうだからな。」
「でも蓮にそんなこと思わねえだろ?兄として困ってたら助けてやらねえとなぐらいだろ?」
「まあな」
「てことはこの時点で妹同然ではないよな」
ホントだ。ってことはつまり、俺は春雪を妹同然と思いながら1人の女の子として接してたのか?
「俺、キモくね?」
「なんでだよ」
「俺が二十歳になって酒が飲めるようになっても春雪はまだ中学生だぞ。犯罪じゃねえの?」
「春雪も莉央を好きだったらいいんじゃね?手は出せないだろうけど」
「それは当たり前だろ!兄貴はバカか!」
「バカじゃねえよ。好きな子には手を出したくなるだろ?手繋ぎてえなとか抱きしめたいなとかキスしたいなとか押し倒したいなとか」
最後の要らねえだろ。キスで止まれよそれ以上は心の中で言えよ。てか、押し倒すとか有り得ねえよ。中学生相手にそんなことしたら一応成人してるしマジで捕まる。
「お前、顔赤くなって。……もしかしてヒナで想像したのか!?」
「してねえし!って、赤くなってねえよ!てかマジでなんのために来たんだよ」
「あ~忘れてた。春雪が熱出したらしくてさ。結愛さん、今実家に行ってるらしくて病院まで送ってくる」
「あ、ああ。分かった。」
俺が頷くと兄貴はパタンとドアを閉じて部屋を出ていった。インフルじゃないといいけど。
* * *
「冷却シート張り替えるぞ」
「うん。……って莉央くん!?なんでいるの!?」
「大声出すなよ。病人だろ」
待って待って。ホントになんでいるの?しかも看病されてるし。
「莉央くん、移ったら大変だよ」
「大丈夫だろ。インフルじゃねえし。疲労で熱が出たらしいから」
「疲労。この年齢で」
「作品作り無理してたんだろ?家にも持って帰って夜まで作業するとか。頑張りすぎもよくねえぞ」
「分かってるよ」
でもこれは、卒業する先輩へのプレゼントでもあるから早く終わらせないと渡せないんだもん。私が莉央くんを見上げると莉央くんは優しく微笑んだ。
「莉央くん、学校は?勉強しなくていいの?」
「いや、俺指定校推薦だしもう合格してるから」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「そうそう。それに今日は土曜日だから」
「そっか。そういえばお母さんはまだお祖父ちゃん家?」
「らしい。なんでも店が忙しすぎて帰る暇がないんだって。電話口でキレてたよ」
莉央くんは少し笑い混じりに言った。ちなみに私達の母方のお祖父ちゃん家は料亭を営んでいてテレビにも出るくらい有名だ。
「体調はどうだ?頭痛とかするか?」
「ううん。ちょっと体が熱いだけ」
「そうか。もう昼だけど食欲は?」
「ある。昨日の夜は何も食べてないからお腹空きすぎでヤバい」
「じゃあ仁に雑炊作ってもらうか。ちょっと行ってくるな」
莉央くんはそう言ってその場から立ち上がった。なんか熱が出ると1人になるのが寂しく感じるな。
「春雪?腕を掴まれると1階に降りられないんだけど」
「あ、ごめん」
寂しいからって莉央くんの腕を掴むとかホント何やってんの私!莉央くん、驚きすぎてかたまってるんだけど!
すると莉央くんが私の体を持ち上げた。
「ちゃんと掴まってろよ」
「え、なんで」
「そんな寂しそうな顔で引き留められたら1人で残すのは心が痛むからな。幸いインフルじゃないんだし移らねえから皆で昼飯食べるぞ」
莉央くんはそう言うとニカッと笑ってリビングのソファまで私を運んだ。すると大福が私に飛び付いてきた。
「1日ぶりの大福だ~!こんなに可愛いのに怖がるなんて莉央くん変だね」
「言っておくけど今は怖くねえからな。昔、オーストリアででっかい犬に追いかけ回された挙げ句顔がべちょべちょになるくらい舐められてトラウマだっただけだからな」
「じゃあ今は好き?」
「大好きだ」
ヤバい、訊き方間違えた。これは私が恥ずいやつだ。
私は大福を顔の前まで持ってきて顔を隠した。それを見ていた唯兄が私から大福を取り上げた。
「うお、顔真っ赤。」
「うるさい。私の大福なのに。返して」
「大福は誰のものでもねえよ。な、大福~」
唯兄が大福を抱きしめると大福はわんっと吠えた。それから12時を少し過ぎた頃、お姉ちゃんが降りてきた。
「お昼ごはんなにする~?ってめっちゃいい匂い!」
「仁兄が雑炊作ってくれてるの。皆の分」
「やった!ちょうど温かいの食べたかったの」
お姉ちゃんはそう言うとテーブルに座った。私達もテーブルに座った。そして、仁兄が雑炊を並べた。
「いただきま~す!」
私はすごくお腹が空いていたのと雑炊が美味しすぎて2回もおかわりをしてしまった。
「これだけ食欲あればもう大丈夫だな。一応後で熱計っておけよ」
「ありがとう、仁兄」
昨日の夕方に配信されたアニメを見て熱を計ると、36.7℃まで下がっていた。
「回復!」
「良かったな。じゃあ俺はそろそろ帰るな」
「あ、」
待って。この言葉を私は飲み込んで笑って見せた。
「うん。莉央くん、今日はありがとう」
「おう」
家の前まで莉央くんを見送ろうと外に出ると陽太が傘を持って立っていた。
「陽太、唯兄に用事?」
「いや、傘返しに来た。ありがとな」
「全然いいよ」
「それとお菓子も」
「ピザポテチ!マジでありがとう!これめっちゃ好きなんだよね」
私がビニール袋を受け取ると陽太は莉央くんに視線を移した。
「確か莉央さん、でしたっけ?」
「そうだけど」
「俺、春雪が好きです。だから負けません」
「はあ!?ちょっと待って陽太!それ、マジ!?」
「ああ。俺は小学校の頃から春雪のことが好きだ。」
「だからってなんで莉央くんに言ったの!?」
「一番ライバルになりそうだったから」
「えぇ、なにそれぇ。あのさ、返事はちょっと待って。ちゃんと考えたいから」
「即答されるのかと思ったけど。でも、ゆっくり考えて答えて」
そう言うと陽太はじゃあな!と言って走り去った。
「告白されちゃった」
「付き合うのか?」
「分かんない。でも、陽太といると楽しいし飽きないからなあ。この好きって気持ちが恋なら多分付き合う」
「そっか。でも、また考えすぎて熱出すんじゃねえよ」
「そんな子供じゃないし」
莉央くんはそうだなと笑うと帰っていった。私も自分の部屋に戻ってベッドに横になった。
陽太のことは大好きだしなんなら親友とも呼べると思う。男子友達の中では一番気が合うし楽しい。きっと私にとって特別な存在だと思う。人に寄ればこれを恋と呼ぶかもしれない。
「お試しで付き合ってみようかな」
これは違うな。向こうは真剣に伝えてるんだから私は思考を放置したらダメだ。好きってどんな感じなの?
「お姉ちゃん、恋の好きと友達の好きって何が違うの?」
「急にどうしたの?」
「親友だと思ってた人に告白された。大好きだし気が合うし一緒にいると楽しいんだけど、これが好きってこと?」
「人それぞれだからなぁ~」
「じゃあお姉ちゃんの好きはどんな感じ?」
私が訊くとお姉ちゃんはう~んと考え込んだ。
「言葉にするのは難しいんだけど。ジュンに対する好きとリオに対する好きは全く違うかな。ジュンへの気持ちはホントに言葉に表すのは難しいんだけどこう、ふとしたときに幸せだなって思うんだ。でも、リオは春雪に対する好きとすごい似てる。」
「兄妹みたいな?」
「そうそう。例えばジュンがもし他の女の子とキスしてたらキレるけどリオだったら『うわ~、キスしてる~。後でからかってやろ~』としか思わない」
お姉ちゃんらしい例えだな。
「ためしに春雪も告ってきた子が他の女の子とキスしてるのを想像してみたら?」
「……特になんとも思わないかも」
「じゃあ恋じゃないんじゃない?あくまでも私の考えだけどね」
「……。お姉ちゃん、ありがとう」
私はお姉ちゃんの部屋を出て自分の部屋に戻った。陽太への好きは多分、親友への好きと急に告白されてもしかしたら私もって気持ちが入り交じっていたと思う。そもそも沙理への好きと似てる気がする。やっぱり断ろう。でも、断ったらもう友達に戻れなくなるのかな?
「それは、やだな」
それから翌週の月曜日。部活帰りに陽太を引き留めた。
「告白の返事、答え出してきたからちょっといい?」
「ああ」
陽太はそう言うと振り返って笑った。
「陽太、ごめん。私にとって陽太は親友で沙理への好きと似てて。陽太のことは大好きだけど多分これは恋ではない気がする。だから陽太とは付き合えない」
「俺がお試しで付き合おうって言い出したら?」
「それはダメ!そんなの絶対いつか陽太を傷付けると思う」
「そう言うと思った。でも、ちゃんと考えてくれてありがとな、春雪。ちゃんと言って良かったわ。でも俺、諦めねえけど」
「……はあ!?なんで!?」
「いつかは好きになってくれるかもしんねえじゃん」
陽太はそう言うととびきりの笑顔で『好きだぞ、春雪』と言って走って帰っていった。
マジでなんなの!?断ったのに諦めないとか。てか、さらっと告ってくなよ!マジ意味分かんない!
それから、少し冷静さを取り戻して学校を出た。すると、学校近くで莉央くんに会った。
「陽太の告白の返事してきた」
「そっか」
「付き合ったか訊かないの?」
「付き合ったのか?」
「莉央くんは私が付き合ってもなんとも思わない?」
「妹が取られたみたいで寂しいかな」
妹、か。なんで私その単語にショック受けてんだろ。もしかして心のどこかで自分の方が姉っぽいとでも思ってたのかな?
「付き合ってないけどね。でも、諦めないって言われたしまた告白された」
「へえ。ドキドキした?」
「まあ、」
結構驚いたし。
「じゃあいつかは好きになるかもね」
「そういうものなの?てか、莉央くん初恋まだって言ってたよね?なんで分かんの?」
「初恋、しちゃったからかな」
え、莉央くん、好きな人できたんだ。なんか意外。でも、莉央くんなら告白したら絶対OKもらえるんだろうな。それで付き合ってそのまま結婚……。私、莉央くんが結婚するの嫌だな。女の子と幸せそうに笑ってるのも。
私、莉央くんのこと嫌いだったの!?莉央くんに幸せになってほしくないとか昔何かあったの!?
「私、莉央くんのこと恨んでるのかも」
「え!なんで!?」
「なんか、莉央くんが幸せそうに笑ってるのを想像したら幸せになってほしくないって思った」
「俺、なんかしたっけ?」
「さあ?でも、幸せになってほしくないとか恨んでないと思わなくない?」
そう言うと莉央くんは溜め息をついて肩を落とした。それから家に向かう途中でお姉ちゃんと潤くんと会った。2人は私と莉央くんの変な様子に気付いて莉央くんを先に帰らせて私の話をきいてくれた。
「幸せになってほしくない、か。なんで莉央に幸せになってほしくないんだ?」
「莉央くんが初恋したって言ってて莉央くんが告白して断られることなんてないだろうし、もしかしたらそのまま結婚とかも有り得そうだなって。それで、莉央くんが結婚したらって考えたら嫌だなって。他の誰かと幸せになってほしくないなって」
私がそう言って顔をあげると2人は驚いたように顔を見合った。
「なんで莉央くんに幸せになってほしくないんだろ」
「春雪はリオが他の女の子と幸せそうにしてるのが嫌なんだよね?」
「うん。なんかこうムカムカするっていうかイライラするっていうか」
「じゃあ、その相手を春雪で考えてみたら?それでも幸せそうにしてるのが嫌?」
私と莉央くんが結婚……?
『春雪、綺麗だよ』
『莉央くんもカッコいい。ガチで王子みたい』
『ありがとう。春雪、愛してる』
『莉央くん、』
ってなにこの妄想!推し以外を相手にこんな妄想するとか私めっちゃヤバいやつじゃない!?恥ずっ!私は両頬を手で冷やして顔を上げた。
「私が相手なら幸せそうでも嫌じゃない、かも」
私がそう言うとお姉ちゃんと潤くんはニヤッと笑った。
「春雪、さすがもう気付いたよね?」
「うんうん。これで気付かないほど鈍感ではないよな?」
え、なんのこと?と言いたいけど多分そんなことを言うとめんどくさいことになるだろう。
「え、うん。気付いたよ。さすがの私も」
「何に?」
「えっと、別に莉央くんを恨んでないってことに?」
「それ以外は?」
「それ以外?えっと、」
それ以外!?分かんないし!そもそもこの2人、悩んでる私を見てなんか面白がってない?
「じゃあヒント。私にとってジュンはどんな存在でしょうか」
「彼氏?」
「う~ん、そうなんだけど。じゃあジュンをどう思ってるでしょうか」
「好き?」
私が首をかしげて訊くとなぜか潤くんが頷いた。
「うんうん。じゃあ、春雪にとって莉央はどんな存在?」
「幼馴染み」
「じゃあ俺と蓮と同じような感じ?」
潤くんはお兄ちゃんみたいな感じで蓮ちゃんは姉で親友って感じ。じゃあ莉央くんは?
『ジュンがもし、他の女の子とキスしてたらキレる』
お姉ちゃんが昨日言ってたな。莉央くんがもし誰かとキスをしてたら……。
「嫌」
「え、嫌な存在ってことか?」
「違う。そうじゃなくて莉央くんがもし誰かとキスをしてたら嫌だなって」
「昨日私が言ったから想像してみたの?」
「うん。なんか嫌だし、ムカつくし、悲しい」
「そっか。」
「私、莉央くんが好きなんだと思う」
そう言うと「よく言った」と言って潤くんが頭を撫でてきた。
「5歳も年下のガキに好かれるとか莉央くん可哀想」
「そんな自分を卑下すんなよ。5歳差なんて成人すれば気になんねえよ。俺の同級生で6歳上の彼氏がいるやつもいるし」
「私は大人っぽくないもん。お姉ちゃんぐらい胸が大きかったら少しは大人っぽく見えるかもだけど。」
「いや、まだ中学生じゃん。それにメイク次第で大人っぽくなれるし」
お姉ちゃんはそう言って笑うと潤くんを押し退けた。
「なに堂々と胸見てんのよ。ジュンの変態。さ、春雪。こんな変態は放っておいて帰ろう」
「うん!」
お姉ちゃんとその場を走り出すと潤くんはふてくされたような顔を一瞬して歩いてついてきた。




