クリスマス
数日前、リョウちゃんがドイツに引っ越していった。
* * *
空港にて、皆で見送りに行った。
「リョウちゃん、手紙書くから」
「うん。あのさ、蓮ちゃん。俺のために泣かれるとちょっと期待しちゃうんだけど」
「だってまた離れるなんて」
「今はスマホもあるしビデオ通話とかもできるでしょ?」
リョウちゃんはそう言って微笑むとゆっくりと近付いた私は涙でぐしゃぐしゃの顔を手で擦って笑ってみせた。するとリョウちゃんは私を抱きしめた。
「蓮ちゃん、世界で一番大好きだよ。だから次に会ったときはいつもみたいに笑顔をみせてね」
「うん。うん!任せて!」
私がそう言って顔をあげるとリョウちゃんは私の額にキスをして手を振って行ってしまった。
「蓮、真っ赤だぞ」
「うっさい、唯」
「凌平くん、全然諦めてねえな」
唯が笑って言ったけど私はそれどころではない。額にキスと少女漫画じゃないのに。リアルで起こる?しかも私に?なにこれ夢?と、頭の中がぐるぐると回っていた。
「なんか、頬っぺたよりもおでこの方が恥ずかしい」
私がその場にしゃがみこむと春雪が私の背中にポンッと手をおいた。
「蓮ちゃん。まあ、これで寂しいより恥ずかしいが勝ってリョウちゃんを思い出す度にキスされたことも思い出しそうだけど悲しくて泣くことはないと思うよ」
「キスされたことを思い出すと恥ずかしくて泣く」
「あはは、まあいいじゃん。あんなイケメンにされるなら」
「イケメンでも告白を断ったんだよ」
リョウちゃん、意外と積極的だから心臓に悪いんだよね。そう思っているとジュン兄がウエットティッシュで私の額を拭いた。
「なにしてんの?」
「いや、ほら、インフルエンザ流行ってるし」
「額から感染しないけど」
「念のためだ。念のため」
* * *
それから2週間後、期末テストが帰ってきて三者面談も終わって明日から冬休みだ。
「レンレン!またね!」
「うん。またね」
侑希に手を振って仁くんと昇降口に行って靴を履き替えた。リオ兄とヒナとも合流して駅に向かった。
「ヒナは、今年のクリスマスはジュン兄と?」
「まあね。レンは?」
「私は特に。」
私が笑うとヒナも笑って見せた。私もクリスマス仁くんと過ごせたらいいのにな。まあ、私に誘う勇気なんてないんだけど。
電車に揺られて駅に着いた。てか、直前に誘ったとしても用事とかあるだろうし今年はアニメ三昧かな。自分から誘う勇気はないのに仁くんから誘ってほしいなんて期待してるなんてバカみたい。そもそも仁くんは私と一緒にクリスマスを過ごしたいなんて思ってないかもしれないし。
「あ、ジュン!そっちも今帰り?」
「ああ」
「一緒に帰ろ」
「そうだな。って蓮、そんな溜め息ついてどうしたんだ?」
「え!溜め息なんてついてた!?」
「ついてたよ。盛大に。レン、疲れてるの?」
「そんなことないと思うけど」
ヤバッ、態度に出てた!それで心配かけるとかバカみたいだな、私。去年までも一緒に過ごしてないんだし変わらないじゃん。いつも通りのクリスマスだと思えばいいんだよ。
「あ、そうだ。クリスマス当日さ、家でクリパするんだけどレン達もどう?」
「いいの?行きたい」
「じゃあ25日の11時半頃に来てね」
「うん」
それから二日後、25日当日。私達兄妹は蒼井家にやってきた。
「蓮ちゃん!待ってたよ!一緒にアニメ見よ!」
「うん!」
私はアニメを見るために春雪の部屋に行った。
「ねえ、あの大きい袋って何が入ってるの?」
「蓮ちゃんと仁兄へのクリスマスプレゼント。くじ引きしたでしょ?だから私とお姉ちゃんで選んだの」
「何が入ってるの?」
「それはお楽しみ」
12時を少し過ぎて仁くん達のお母さんである結愛さんが呼びに来た。リビングに降りるとたくさんの料理が並んでいた。
「さ、早く座って。グラス持った?」
「持った」
「じゃあ乾杯!」
「「乾杯!」」
それから料理をこれでもかと言うほど食べた。そして、後片付けを終えて皆、リビングで少し休憩をしていた。
「そういえば、潤と黄雛っていつから付き合ってたの?」
「え!結愛さん、気付いてたんすか?」
「まさか。こんな鈍感なあたしが気付くわけないじゃない。昨日、買い物行った帰りに2人がキスしてるところ見たからいつからなんだろうなって思っただけよ」
「ちゃんと付き合い始めたのは9月の始め頃です」
ジュン兄が恥ずかしそうに言うとヒナもおんなじような顔をした。
「そんなわざわざ照れて言わないでよ。こっちまで恥ずかしくなるんだけど」
「普通に恥ずいって。しかもキスしてた現場見られてるんだぞ」
「文化祭で何人に見られたと思ってんの?」
「知り合いだから恥ずいんだろ。知らない人なら別になんとも思わねえけど」
「文化祭のときにあの場にいた人の半数以上は私の知り合いだったけど」
「悪い悪い。牽制しておかないとなって思って」
ジュン兄がヒナの頭を撫でて膝に座らせた。ヒナは顔を真っ赤にして2階にあがっていった。
「こらこら、あんまりうちの娘をいじめるんじゃないよ」
「あんまりなんですね」
「ドSのあんたに全くって言うのは無理がありそうだからね」
結愛さんは鼻で笑って言った。ジュン兄は「俺のどこがS?」と結愛さんに訊いていたけど無視されていた。
それから、3時頃になって仁くん達の父親の大和さんが帰ってきた。結愛さんと大和さんは出掛けるらしく見送った。
「そろそろプレゼント交換しない?」
「いいよ」
「じゃあ最初は唯からね」
「俺のプレゼントを渡す相手は姉貴。プレゼントは潤で~す」
「ふざけんな」
「すみません。ネイルです。」
「へ~、めっちゃ可愛い色じゃん。ありがとう」
「選んだのは蓮なんだけど。」
そう。プレゼント交換は昨日決まったので買いに行くと唯と会って一緒に選んだのだ。
「次は潤」
「俺は唯にだった。スポーツタオルだ。吸水性に優れてるやつらしいぞ。バスケ部のやつが言ってた」
「サンキュー!」
「次は仁」
「俺は莉央に。ピアス」
「おお、かっけ。サンキュ」
「次は蓮」
「私はジュン兄に。メガネケース」
「一生大切にする」
「無理無理。5年もつって書いてたからそれ以上は無理」
「次は莉央」
「俺は春雪に。定番だけどマフラー。どう?」
「さわり心地良すぎ。ありがとう」
「どういたしまして」
「最後は私と春雪からね。レン、仁、ちょっとこっち来て」
私と仁くんはそれぞれ袋を渡されて私は春雪の部屋に仁くんは自分の部屋に入れられた。
袋を開けると真っ赤な服が入っていた。とりあえず着ればいいってことかな?
「着替えた~?」
「春雪、この服ちょっと」
「開けるね~」
春雪は私にグッドサインをして私の腕を引いてリビングに向かった。ドアから顔を出すと仁くんがブラウンのパーカーにトナカイのカチューシャを着ていた。え、可愛い。こんな睨み付けてるトナカイ、動物園でも見たことないけど。
「レン、早く入って来なよ。廊下寒いでしょ」
「まあ、それは確かに」
私が恐る恐る入って行くとヒナが抱きついてきた。すると、春雪も同じように抱きついてきた。暖かいからいいけど。
「てか、この服さ、布面積狭くない?露出度高い気がするんだけど」
「めっちゃ似合ってるよ~」
「うんうん」
「そっか。ならいいんだけど。唯と仁くんはなんでずっと目を逸らしてるの?」
「……」
やっぱり似合ってないのかな?ちなみに私はサンタコスだ。といってもスカートが短めで胸元が大きく開いているからほとんど原型はないけど。一応レギンスは履いているのでそこまで露出度が高いと言うほどでもないかもだけど。
「唯、こんなに可愛いのにレンのこと見なくていいの?」
「いや、でも」
「仁兄も見なきゃ損だよ」
「見たらヤバくなる。無理」
「でも、仁兄と蓮ちゃんは写真を撮るからどっちにしろ見ることにはなるんだけどね」
写真!?と私が心の中で叫んだ瞬間仁くんが「聞いてない!」と振り返った。そのとき、仁くんと目が合ったがすぐに逸らされてしまった。
「普段は従順なトナカイがサンタに迫る感じでよろしく」
「なんだよそれ。見本見せてもらわねえと分かんねえ」
「分かんない?じゃあジュン、手本見せてあげて」
「俺に言われても。まあ、とりあえずヒナに迫ればいいんだな?」
「は、いや、違っ、」
ジュン兄はヒナに壁ドンをしてキスをした。
「こういうことか?」
「キスはいらない」
「まあ、つまり壁ドンとか顔を近付けるとかでいいってことか?」
「うん。」
ヒナは真っ赤な顔で頷く頑張ってとジュン兄を押し退けようとしていた。
「なに腕にしがみついてんだよ。もう一回してほしいのか?」
「そんなわけないじゃん!よけようとしてたの」
「あ、そういうことか」
ジュン兄はそう言ってヒナにキスをすると壁から手を離した。ヒナはソファに飛び込んでリオ兄の胸に顔をうずめた。
「恥ずい!死ぬ!私が死んだらヒロ恋全巻私の体と燃やして」
「死ぬな死ぬな。兄貴が病む。てか、今兄貴がめっちゃ睨んでこっちに来てんだけど早くよけてくんね?俺が先に死ぬ」
リオ兄が慌ててヒナを離そうとするとジュン兄がソファに座ってヒナを足の上に座らせて抱きしめた。
「彼氏いるのに他の男に抱きつくんじゃねえよ」
「いつか弟になるかもなんだしいいじゃん」
「は?“かも”じゃねえし。絶対だし」
「そんなの分かんないし」
「分かる。ヒナは俺以外好きにならねえし俺もヒナ以外好きにならねえ」
ジュン兄がそう言うとヒナはお腹を抱えて笑った。
「そんなマジな顔と声で言わないでよ。ジュンってそんなキャラだっけ?」
「んだよ、違えのか?」
「ううん。合ってる。まあ、もしジュンよりイケメンで優しくて溺愛してくれる人が現れたら分からないけど」
「いねえから安心しろ。特に3つ目の条件は」
唯もリオ兄も春雪もそんな2人を見て呆れたように笑みをこぼした。待てよ、今のうちに着替えに行けば。
『仁くん、皆が見てないうちに着替えに行こ』
『そうだな。』
私達はゆっくりリビングのドアを開けて外に出ようとすると春雪とヒナに腕を掴まれた。ウソ!全くこっちを見てなかったのになんでバレたの!?
「私だけ醜態晒すとかマジで無理。」
「お姉ちゃん、趣旨が変わってるよ。2人ともせっかくのプレゼントの使い道を閉ざすとその服が可哀想だよ。ちなみに写真にはクリスマス限定キーホルダーが付いてきます」
「「乗った」」
ということで写真を撮ることになったんだけど……あごくいとか心臓に悪い。壁ドンも。額と額を合わせたときとか絶対に一瞬心臓止まったと思う。※止まってません
ヒナ達は写真を撮り終えて満足そうな顔をしていた。スマホの通知が鳴って画面を見るともう4時15分だった。ヤバッ!
「あ!クリスマス限定くじの締め切りの時間まで後15分!私、ちょっとコンビニ行ってくるね!」
「ちょっとレン!その格好で!?」
「着替える時間勿体無い!」
私は急いで靴を履くと肩に布が掛かった。
「俺も行く。これ来てけ」
「このパーカー仁くんのやつなのに借りてもいいの?」
「そんな格好で歩いてると変な目で見られんぞ。それに俺も、目のやり場に困るっていうか」
「ありがとう」
私はパーカーを羽織った。でも大きくてスカートが半分以上隠れた。なんか、彼シャツみたいな感じ。めっちゃいい匂い。
「早くしねえと間に合わねえぞ」
「う、うん」
なんとかクリスマス限定くじに間に合ってくじを引くことができた。私も仁くんもアクスタだったけどグッズよりも仁くんとお揃いということがすごく嬉しかった。
「仁くん、一つ前の駅の側の公園でイルミネーションやってるんだって。着替えたら皆で一緒に見に行かない」
「そうだな」
仁くんはそう言って笑った。その瞬間、冷たい風が吹いて仁くんが寒そうに少し震えた。
「仁くん、やっぱりパーカー返そうか?」
私がパーカーのチャックを下げると仁くんは慌ててチャックをあげた。仁くん、顔真っ赤だ。熱あるのかな?額に手を当てたけど特に熱いわけではなかった。
「しんどいの?熱は無さそうだけど」
「蓮、あんまり近寄るな」
「え……、そ、か。ごめんね」
「いや、ちがっ」
「いいよ!私が馴れ馴れしかったんだし。気にしないで」
それから一言も発っさずに仁くんの家に戻って着替えた。一駅先にある公園に行くので駅までは歩いて向かった。
「やっぱり人多いね」
「だな。そういえば、蓮と兄貴となんかあったのか?」
「別に。私が馴れ馴れしくしすぎたせいで怒らせただけだよ」
「そんなんで兄貴が怒るか?」
「普通馴れ馴れしくされたらウザいでしょ?」
「でも蓮だろ?別に怒らしてねえんじゃねえの?」
怒ってなかったのかな?確かに声のトーンは怒ったときとは違ったかもしれないけど。
「お、電車来たぞ。早く乗ろうぜ」
「そうだね」
車内は思っていたより混んでいて座席は全て埋まっていた。そして、入るときにバラバラになったせいで私の周りには唯しかいなかった。(ジュン兄の頭は見えるけど)
電車が出発する瞬間、唯が人に押されてバランスを崩した。でも、電車のドアに手をついたお陰でなんとか転けずにすんだ。なんか、壁ドンみたいだなぁ。ドアドン?でも、そんなことより、
「唯、顔焦りすぎて面白いんだけど」
私は笑いが堪えられなくて笑ってしまった。すると唯も焦ったと言って笑った。
「悪いんだけどさ、押されてよけられそうにないからこのままでいいか?」
「いいよ。あ、そういえば唯ってさモテそうなのになんで彼女いないの?」
「彼女よりバレーの方がいい。それに、好きなやつとかできたことねえし」
「え~、昔は『蓮、大好き』とか言ってたじゃん」
「姉みたいな感じでだろ。まあ、今は姉どころか妹みたいに思ってるけど」
「私の方が年上なのに」
でも、唯ってしっかりしてるよなあ。私的にはしっかりした弟って感じだけどまさか妹に見られてるとは。
それから電車が止まった。
「ここで降りるんだよな?」
「あ~、うん」
私が頷くと唯は私の手を引いて外まで連れ出してくれた。確かに私、妹みたい。
「あれ?なんで唯兄と蓮ちゃんが手繋いでんの?」
そう言って春雪が首をかしげた。
「蓮が人に流されそうだったから俺が連れ出してやったんだよ」
「蓮ちゃんの方が年上なのに妹みたい」
「春雪まで。私に年上の威厳ってないの?」
「ないね」
「ないな」
年下組はホントこういうときに仲がよろしいようで。でも、一応唯の手を離してお礼を言った。
「蓮ちゃん、仁兄となんかあった?」
「まあ、色々」
「ふ~ん。なんかあったらなんでも言ってね」
「うん、ありがとう」
それからイルミネーションのやっている公園に行った。クリスマスツリーの前で写真を撮ってそれぞれ別行動をした。
* * *
俺、蒼井唯は今、なぜか実の兄である蒼井仁にガンつけられてる。
「兄貴、なんだよ訊きたいことって」
「お前、蓮と付き合ってるのか?」
「……は?」
「電車で顔近付けたりしてたし、降りたときも手を繋いでただろ?」
「この鈍感野郎。そもそも蓮を好きになるわけねえじゃん。」
俺は溜め息混じりに言って兄貴を押し退けて空いたベンチに座った。
「は?なんでだよ。なるだろ普通」
「ならねえよ!兄貴に対してはどうか知らねえけど俺の前だとマジで春雪のクローンだぞ?それをどうやって好きになれと?」
「否定にディスりが入ってるとイラつくのはなんでだろうな?」
うっわ、やべえ。めんどくさいの相手に本音で話しすぎた。話題逸らさねえと。
「あ、そういやさ、蓮が兄貴に馴れ馴れしくしすぎて怒らせたって落ち込んでたぞ。早く誤解解かなくていいのかよ」
「悪い!蓮のところ行ってくる!」
兄貴はそう言うと走って行った。いいな。それだけ誰かを好きになれるとかマジで羨ましい。そんなことを考えていると同い年くらいの女子が俺を引き留めた。
「あの、さっきの銀髪のお兄さんの知り合いですか?」
「え、あ、そうですけど」
「あの人がなんかこの袋を落として行ったんですけど」
コンビニのくじでもらったって言ってたやつだ。
「兄貴のやつっぽいっすね。渡しておきます」
「良かった。あの、もしかして元男バレの蒼井?」
「え、」
俺はもう一度その女子の顔を見た。確か、女バレの中で断トツで可愛いって噂になってた気が……。
「天宮さん?2年の3学期になってから転校してきた……」
「そう!天宮愛理。なんか勝手に呼び捨てにしちゃってるけどごめんね」
「いいよ。くん付けってむず痒いし」
「そっか。蒼井は誰と来てるの?」
「幼馴染みと兄妹。そっちは?」
「私は友達とクリパの帰りに寄ってみただけ。せっかくだし一緒にまわる?」
「え、ああ」
* * *
「蓮!」
仁くんの声が聞こえる。私とリオ兄と春雪は同時に振り返った。すると仁くんがもうダッシュでこっちへ来ているのが見えた。私は仁くんが見えた瞬間その場を走り出した。
また、近寄んなとか言われたらショックで立ち直れないよ!
「待てよ!」
「無理!」
「蓮が足の速さで俺に勝てるわけないだろ!早く諦めて止まれよ!」
「やだ!仁くんが近付かないでって言うから離れてるだけなのになんで追いかけるの!?」
私が振り返ると仁くんはあっという間に目の前に来て私を抱きしめた。
「やっと捕まえた。」
「なんなの?ホント。近寄んなって言ったくせになんで仁くんから近付くの!?」
「誤解なんだ。」
「私の聞き間違いとでも言いたいの?」
「そうじゃない。俺が言い方を間違えた」
仁くんはそう言うと私から離れて私の目を見つめた。
「さっきは蓮が急に近付いてきて驚いてあんなこと言って悪かった。でも、蓮を馴れ馴れしいとかウザイとかは一切思ったことはない」
「そ、んなの私に気を遣ってるだけでしょ?」
「違う。幼馴染みなんだから言いたいことはちゃんと言ってる。」
「めっちゃ傷付いたんだけど」
「悪い」
仁くんは笑って私の頭を撫でた。
「仁くん、笑った。めっちゃ久しぶりに見た」
「んなことねえよ」
「あるよ。仁くんが笑うとかレアキャラ出たぐらい幸運だし」
私がそう言うと仁くんは私の頬を手で挟んだと思うとすぐに背を向けた。
「莉央と春雪のところ戻るぞ」
「うん!」




