8、盛り上がりすぎ注意の体育祭!
今日は体育祭当日。練習の成果を出せたらいいな。
「レンレン!次は借りもの競争だね~。じんじんと小谷くんが闘うんでしょ?噂になってるよ」
「2人ともなんでそんなにライバル意識持ってるんだろうね」
「レンレンは知らない方がいいと思うよ」
私が知らなくていいこと?え、どんなこと?実は秘密組織のスパイ同士で知り合いだったとか?もしそうならなんで侑希は知ってるんだろう?侑希もスパイ?
「分かった。なるべく気にしないようにしておくね」
3人とも、任務の邪魔はしないから安心してね。バレちゃまずいからなるべく気にしてないようにしないと。……なんちゃって。中二病引きずってるな、私。
「レンレン、次じんじんと小谷くんだよ」
「ホントだ。どっちが勝つかな?」
「さあ?借りもの競争って半分は運だからね」
よーい、パン!ピストルの音で出場選手は一斉に走り出して30m先に置いてある紙を取った。すると、すごい速さでリョウちゃんが走ってきてお姫様抱っこをされた。
「蓮ちゃん借りるね」
「は~い。レンレンいってらっしゃ~い」
「え!ちょっと!」
侑希はにししと笑って手を振った。お姫様抱っことか恥ずかしすぎるんだけど。てかそんなことより速っ!絶叫マシンの方が怖くないんだけど。
『ゴール!1位は2クラス!1年1組と1年3組!』
隣を見ると息を切らした仁くんがいた。隣にはよく見覚えのある人がいた。
『全員がゴールしたのでお題を確認していきます。まず、1位の1年1組と1年3組から。1組のお題は生徒会長、3組のお題は可愛い子』
そういうとグラウンド全体から悲鳴が聞こえてきた。
「お題、可愛い子って。他にもいるでしょ!?なんで私なの!?」
「だって、好きな子より可愛い子なんていないから」
「リョウちゃん、顔近いって!」
「相変わらず綺麗な瞳だなあって思って」
私は恥ずかしくて目を逸らすとリョウちゃんは私の頬にキスをして私を降ろした。
「なっ!んで!」
「可愛くてつい」
リョウちゃん、キャラ変わりすぎ!ホントなんなの!?
「凌平、なにうちの可愛い妹に手を出してるんだ?」
「莉央くん。怖い」
「蓮の許可なくキスしたのはどこのどいつだっけ?」
「俺デス」
「たとえどれだけ可愛くてもな、キスはダメだろ。まあ、蓮のファーストキス俺だけど」
「……え、」
「リオ兄!変な言い方しないで!間接キスはファーストキスに入らないの!」
「ごめんごめん。凌平だけにやり返すつもりだったんだけど他2人にも被害が出るとは思ってなかった」
え?2人?私と……誰?リオ兄のファン?だったら2人なんてものじゃないよね?
「まあ、そういうわけだからこれからは気を付けてね♡凌平」
「もう、莉央くんが怖すぎてできないから大丈夫っす」
「良かった」
さすがリオ兄。笑顔の鬼(蓮と春雪が名付けたあだ名)と言われるだけある。
「あのさ、リョウちゃんはなんで仁くんと勝負したの?」
「それは仁にきいて。俺からは言ったらダメだから」
「そっか」
うう、沈黙が気まずい。リョウちゃんの顔を見るのが無理だ。
「蓮ちゃん、手を繋いで一緒に退場しよう」
「なに言ってるの!?無理に決まってるじゃん!」
「あはは、だと思った」
リョウちゃんの笑い声がいつも通りでホッとした。
「明日からリョウちゃんファンに睨まれたらどうしよう」
「俺にファンなんていないから安心してよ」
「リョウちゃんの鈍感」
「蓮ちゃんにだけは言われたくないな。俺、蓮ちゃんの気持ち分かってるよ。でも、蓮ちゃんが自分から言ってくれるまでは頑張るつもりだから」
リョウちゃんはそう言って走って行ってしまった。
「あの子が幼馴染み?」
「先輩!さっきの子は一昨日話した幼馴染みとは違う幼馴染みで。5歳のときに引っ越して行っちゃって戻ってきた方で、話した幼馴染みは6歳の頃にこっちに越してきたんです」
「入れ違いなんだね。」
「はい。」
正直、幼馴染みと行ってもリョウちゃんのことに関しては知らないこともたくさんある。会ったのは11年ぶりだから記憶も少ししか残ってないし話し方や見た目など色々変わっているので私も知らないことだらけだ。
「人気が出るのって嬉しいけど大変だよね。友達として接したいのに好きって気持ちが入ると普通の友達じゃいられなくなるからね」
「先輩もそういうことあったんですか?」
「……まあ、こういうのを全て含めたのが恋で、俺も今恋をしてるんだけどね」
何その間。
「私、リョウちゃんに告白されたんです。それである期間、頑張るからその最終日に答えを出してって」
「でも、答えはもう出てる。と」
「はい。リョウちゃんは友達なんです。友達でいたいです。でも、自分勝手に断ったあとも友達でいてほしいなんて思うんです」
「そうだね。大切な友達を1人失うかもって思うと断るにも断れないよね。そうだ。蓮ちゃん、今からある人話をきいてくれる?」
「はい」
その人は小学校からの仲良しの友達がいた。その友達は中学にあがってすぐ、あることに気付いた。自分は男性も女性も好きになると。そして、その人を好きだと。その人は友達の気持ちに全く気付かないでいつも通りに接していた。
そんなある日、その人は友達に告白をされた。驚いてその場から逃げてしまった。その人は、友達の姉が好きだった。だから告白を断ろうと思った。けれど、その人は友達の告白を断ってしまうと1番の親友を失うと思いすぐに返事を出せなかった。
友達の姉は友達が男女両方を好きだと気付いていたらしく告白されたことを知ってその人にメッセージを送った。
『あなたは弟が好き?それとも友達?』その人は友達とだけ答えると友達の姉はまたメッセージを送った。
『なら、断りなさい。』それを見てその人は怒ってしまった。『親友でなくなるのが怖くて断れない』と。すると友達の姉は電話を掛けてきて呆れたようにため息を着いた。
『あなた達はそれだけ長い付き合いなのに本音を伝え合うことで壊れてしまうような友情なの?私はあなた達なら自分の気持ちを言い合うだけで壊れるような関係とは思えない』
その人はその時に初めて気付いた。友達は秘密を2つも告白してくれたのに自分はその勇気を無視して自分のことだけを考えていたんだって。
翌日、その人は友達の告白を断った。友達は勇気を出して断ってくれてありがとうと笑顔でお礼を言った。そして、中学卒業間近まで、少し気まずい雰囲気はあったが、卒業式に友達は気になっていた後輩の女の子に告白されて付き合うことになりまた友達に戻ることができた。
ちゃんと気持ちを伝えあったからこそ、その2人は今まで以上に仲良くなった。これ以上の友達はいないと言えるほどに。
「……だからね、蓮ちゃん。ちゃんと気持ちを伝え合ったらいい未来も待ってるかもしれないよ」
「はい。そうですね。それと、今の話って颯真先輩のはな」
「内緒」
颯真先輩は私の唇に人差し指を当てて笑った。この人、はぐらかすの下手だなぁ。さっきの間も肯定してるのと同じじゃん。
「じゃあね」
「はい」
体育祭が終わったらリョウちゃんに謝りに行かないと。リョウちゃんも勇気を出して伝えてくれたんだろうし。
応援席に戻るとニヤニヤと笑いながら詩音が話しかけてきた。
「さっきの見たよ。お似合いだね。お試しで付き合っちゃえば?」
「リョウちゃんは友達だよ。だから今日、ちゃんと言うの」
「そっか~。じゃあ生徒会の篠田先輩は?さっき話してたでしょ?爽やかでカッコいいよね。ザ・王子様って感じ」
「確かにカッコいいよね。皆に平等だし、妹ちゃんにも優しいし、さすがモテるだけあるな~って感じ」
「もしかして、気になってたり?」
詩音が私の頬をつついて訊いてきた。すると、後ろで水筒か何か硬いものが落ちる音がした。振り返ると仁くんが呆然と立っていた。そして、私と目が合うとすぐに目を逸らして走り去った。
「じんじんと喧嘩でもした?」
「ううん。そんなことないと思うんだけど」
「そっか。それで、さっきの話の続きだけど篠田先輩のこと好きなの?」
「尊敬はしてるよ。尊敬は。でも、なんかお兄ちゃんみたいな感じっていうか。颯真先輩の妹と友達になってそれで仲良くなったからかな?妹みたいに扱われてる気がするんだよね」
「な~んだ。篠田先輩とレンレンのファンクラブ作ろうと思ってたのに」
「ファンクラブとか漫画じゃないんだから」
笑って言うと詩音も笑った。それにしても、私、仁くんを怒らせちゃったかな?
それから午前の部が終わってお弁当を食べたけど仁くんがいなかったので侑希達と食べた。
午後の部は3種目で終わる。最初は応援合戦。2種目は部活動リレー。3種目がクラス対抗リレーだ。なのであっという間にクラスリレーの番になった。
「仁くん、何怒ってるの?私何かした?」
「別に蓮に怒ってねえよ」
「じゃあ何に怒ってるの?」
「関係ないだろ」
「そうだね」
どうしよう!リレーの前に私が変なこと言っちゃったせいで他の2人が気まずそうじゃん!何やってんの私!体力で足を引っ張らなくてもチームワークで引っ張ってるよ!
「あ、えっと。白石くんも花村さんも空気悪くしてごめんね。えっと、その。そう!私の推しが一番カッコいいって言ってるのに仁くんが分かってくれなくて。でもリレーに支障は出ないから安心して!」
「あ、うん」
ごめん!嘘だけど私がオタクってバレてるだろうしこれが一番信じれるよね?正直、喧嘩とも言えない微妙な感じは初めてだから私もどうしたらいいか分かんないけどとりあえず2人に迷惑を掛けなかったらいいよね?
それからグラウンドに入場して奇数と偶数で別れた。私は第2走者で仁くんはアンカーだ。走り終わったらなんで怒ってるのか聞かないと。
『位置についてよーい、』パン!というピストルの音で全走者一斉にスタートした。てかなんか解説みたい。ちなみに、うちのクラスは現在4位で1位は3組だ。
私は白石くんからバトンを受け取って順位をキープしたまま花村さんにバトンを繋いだ。花村さんは陸上部の子に抜かされてしまい最下位になってしまった。抜かされたらめっちゃ不安だよね。でも仁くんがアンカーだからハンデがあった方が盛り上がるはず。
……普段なら。今の仁くんが全力で走ってくれるかは。
花村さんが仁くんにバトンを繋ぐと仁くんはあっという間に2位まであがって1位のリョウちゃんと並んだ。何に怒ってるか分からないけどその怒りを全部地面にぶつけてるんだろうな。
ゴール!仁くんが一歩早くゴールして1組の勝利だ!
「仁くん!やっぱすごいね!勝っちゃったよ!」
「こんなところで抱きつくんじゃねえよ、蓮」
「あ、ごめん」
喜びのあまり仁くんに抱きついていた。
「謝るくせに離れねえのかよ」
「仁くん、逃げるつもりでしょ?私が今から訊くことに答えたら離してあげる」
「んだよ」
「何に怒ってたの?」
「俺自身」
「じゃあ、」
「ちょっと待て。質問に答えたんだから離せよ」
「1つなんて言ってないのに。まあ、いいよ」
私が離れると仁くんは安堵の溜め息をついた。
「そんなにハグが嫌だった?これからは気を付けるよ」
「いや、そういうわけじゃ」
「リョウちゃんに話があるから質問は後で答えてね」
「ちょっ、おい!蓮!」
私はクラスメートに囲まれていたリョウちゃんの元に行ってジェスチャーで呼び出した。
「蓮ちゃん、どうしたの?」
「リョウちゃん、話があるの。でも、時間的に今終わるないようじゃないから閉会式が終わったらグラウンドの階段のところで待ってて」
「……うん。分かった。待ってるね」
リョウちゃんと別れてクラスの列に並んだ。
閉会式が終わって教室に荷物を取りに帰ってそれぞれ下校や後片付けをしていた。
「リョウちゃん、お待たせ」
「俺もさっき来たところ」
「あのね、リョウちゃん。私、リョウちゃんに言わないといけないことがあるんだけどね。わたしは」
「待って!ちょっと深呼吸させて」
「うん」
リョウちゃんが落ち着くのを待って私も深呼吸をした。ハァ、断るのにこっちが緊張してどうするの?
「リョウちゃん、私、リョウちゃんとは友達でいたいです。まだはっきりと気持ちが分かったわけじゃないけど私、多分今気になってる人がいるの」
「うん。誰かは訊かないでおくね。分かってるから。」
「リョウちゃん、好きって気持ちを言葉にして伝えてくれてありがとう。珍しがって見た目で告白されたときはあんまり思わなかったけどリョウちゃんに告白されたときは戸惑ったけど嬉しかった。」
「うん」
「私のことを好きでいてくれてるってすごく伝わってきてリョウちゃんの頑張るの意味が分かった。」
「うん」
「リョウちゃん、好きになってくれてありがとう」
「うん。蓮ちゃん、最後に1つ許して」
リョウちゃんはそう言うと私を抱きしめた。
「昔、迷子になったときに蓮ちゃんがこうしてくれてすごくホッとしたのを今でも覚えてるんだ。俺、このとき蓮ちゃんを好きになった。蓮ちゃん、大好き」
「ありがとう、リョウちゃん。気持ちに答えられなくてごめん。私も1人の幼馴染みとしてリョウちゃんが大好きだよ。」
最後の方は涙声できっと聞き取れなかっただろう。でもリョウちゃんには伝わっているだろう。それは彼の笑顔が教えてくれた。
「またね、蓮ちゃん」
「うん。またね」
リョウちゃんに手を振って校門を出ようとすると腕を掴まれた。
「蓮、質問ってなんだよ」
「待っててくれたの?」
「蓮が後で答えろって言ったくせにすぐに教室から出ていったから」
「ごめん。仁くんが自分に怒ってるって言ってたのはなんでなのかなって」
「それは、」
「でも!もう、いいの。無理に答えなくていいよ。リレーのとき不機嫌な態度取っちゃってごめんね」
「あれは、俺が機嫌悪かっただけで蓮は別に悪くねえだろ」
「でも、リレーの後も抱きついて嫌な思いさせちゃったし」
「別に嫌じゃねえよ。ただ、走った後だったから汗臭えって思われねえかなって思っただけで」
え、仁くんってそんなの気にするタイプだっけ?まあ、動き終わった後に抱きついたことないから知らないけど。でも反応からしてマジなんだろうな。
「なんだ。良かった。嫌じゃなかったんだ」
「まあな」
「そっかそっか。仁くん、早く帰って今日配信されたアニメみよ」
「ああ」
それから電車に揺られて家の近くの最寄り駅に着くと一気に気が抜けて眠気が襲ってきた。
「おい、蓮。大丈夫か?」
「うん、多分」
私が頷くと仁くんはリュックを前に背負って私をおぶった。
「寝てていいぞ」
「え!ちょっと、さすがに悪いよ。仁くんも疲れてるのに」
「俺は蓮と違って体力があるから大丈夫だ。今日、これまでで一番頑張ってたからご褒美、みたいな?」
「じゃあ甘えさせてもらうかな」
「ああ」
仁くんの背中はすごく落ち着くせいで寝ないでおこうと思っていたのに寝てしまった。
「あれ?もう家?途中で降りようと思ってたのに。重くなかった?」
「ああ、大丈夫だ。これで寝ずにアニメ観れるか?」
「!うん!明日、語ろうね」
私は手を振って家に入った。
ヤバい!顔熱い!赤くなかったかな?変な寝言とか言ってなかったかな!?イビキとかかいてなかったかな?
私が気になっている人、それは幼馴染みで隣の家の蒼井仁くんだ。これまで気付かなかったのが信じられない。私ってもしかして……鈍感なのかな!?




