合コンに参加してお持ち帰りされた先は家族も同居している実家でした
高校生も含めて学生時代は多数の合コンに参加していたものの、社会人になってからはそういう機会もなかなかなかった。
地元に住んでいるので同級生の友人は多く、探せばそういう機会もあったのだろうが、社会人1年生としては、最近まで仕事に慣れるのに必死でそういう余裕がなかった。
今日の合コンは面倒見のいい事務のおばさんの娘さんが俺と同じ歳で、合コン相手を探してるからどうかと言われ、開く事になったものだ。
その際「あんたなら真面目だし娘の彼氏になってくれるなら大歓迎よ」なんて事も言われた。
合コンを開くとなると普通は男側の幹事、女側の幹事が人数、場所、日時等の擦り合わせを行うものだ。
学生時代は何度も合コンに参加していた俺も何度も幹事の役目を果たした事もある。今回もそうなるだろうと思っていたのだが、結局事務のおばさんが全てを決めてしまった。
相手の女の子は4人が来るというのでこちらも気の知れた男友達4人を集めた。
住んでる場所は結構田舎なので指定された場所は県内で一番大きな駅前にある居酒屋や飲み屋が集まる一角だ。
大学時代に住んでいた大阪とは違い、田舎は電車で移動するのが不便である。最寄り駅まで歩くのに何分もかかる上、電車の本数も少ない。
ほとんどの人達は飲みに行くときでも車で乗り合わせて行き、帰りは代行もしくはタクシーで帰るというのが一般的である。
合コンは金曜日。俺は仕事が終わってからそのまま自分の車で行き、居酒屋近くのパーキングに入れる事にした。
帰りは代行で帰ってもいいし、明日は休みなので帰るのが面倒なら朝まで車の中で寝てもいい。
学生時代の合コンでは女の子をお持ち帰りする事に必死になっていたが、今日に関しては職場のおばさんの紹介だし楽しく酒が飲めた上で可愛い女の子と友達になれたらラッキー程度のつもりであった。
週末という事もあって、駐車場を探すのに手間取った。集合場所である居酒屋から結構離れた場所に車を置き、俺が居酒屋についたのは集合時間ちょうどくらい。
テーブルには三人の女の子と三人の男。女の子が一人まだ来てないようだ。
「悪い、遅くなった」
ダウンジャケットを脱ぎ、男が座っている側で空いている一番端の席に座りながら女の子の顔を見渡す。俺が男側の幹事のような立場ではあるが今回おばさんがセッティングをしてくれた為女の子達は知らない子ばかりだ。
第一印象は普通。取り立てて可愛い子がいる訳ではなく、変な子がいるわけでもなく。
「駐車場を探してて一人遅れるかもしれないってさ」
隣に座っている聡から耳打ちをされる。スマホを確認すると今は集合時間の5分前くらいだ。人数が揃うまで女の子は女の子同士、男は男同士で話をして時間を潰す。積極的に相手に絡んでいくようなタイプがいない場合、合コンが始まるまではこんなものだ。
「ごめーん、遅れた!」
「あ、サオリー。車駐めれた?」
「うん、遠くになったけど駐めれたよ」
そんなやりとりをしている女の子達を見て、この四人の中だと遅れてきた女の子が一番可愛いかな。なんて事を思っていた。
合コンは無難に進行していく。自己紹介から始まってご飯を食べつつ雑談をしたり、席替えも行われたり。
今は特に彼女を見つけたいという気持ちもなかった為、近くの女の子や男友達と楽しくしゃべって時間を過ごす。
特にお酒が強い訳ではないし、毎晩晩酌をする事もないが、酒を飲んで盛り上がるこの雰囲気は好きだ。
最後に来た女の子、サオリは最初は目の前に座っていたものの、まだ飲み始めたばかりで場が盛り上がっていない為話をする雰囲気でもなかった。
8人が打ち解けてきてから2回程行われた席替えでは近くになることも無かったためサオリとはほとんど話をする機会がなかった。
学生時代なら一番気に入った女の子となんとしても話をして仲良くなりたい一心だったなぁなんて事を思い出す。あの無駄とも思える程の情熱はなんだったのだろうか?
開始から2時間程が経ち、会計を終えた居酒屋の店先で二次会どうする? という流れになったが、女の子のうちの一人が翌日仕事だから帰るという。もう一人の女の子も一緒にタクシーで帰るという事で女の子が二人になった時点で二次会はなくなりここで解散という事になった。
連絡先の交換を提案しようかと思ったが、他の男が上手く交換してるかもしれないし、最悪職場のおばさん経由で連絡を取る事はできるだろうと思い、俺から提案する事はなかった。
サオリは俺が車を駐めた駐車場の近くに車を駐めたと聞いたので二人並んで駐車場に向かって歩いている。
しばらく無言の時間が流れたが、流石に二人で無言のまま歩くのはどうかと思い話しかける。
「それにしても今日は寒いね、帰りは代行?」
「寒いねぇ……。いつも飲みに来るときは車で来るから代行で帰るよ!」
酒が入っているからなのか元々そうなのか、話し方は明るく人懐っこい感じだ。
「よく飲みに来るんだ?」
「たまにかな? 誠君も車で来てるんだよね? 私今から代行呼ぶからついでに呼ぼうか?」
最初は代行で帰ろうかと思っていたが、今は夜間の駐車料金の為、今出庫しても朝出庫しても駐車料金が変わらないので節約の為に車で寝ようかと思っていた。
「あー、代行代もったいないし朝まで車で寝て帰ろうかな? って思ってて」
「ふぅん、そっか」
女の子はその後、代行に電話をかけていた。
その後は特に会話もなく二人並んで歩き続ける。無言の時間が非常に気まずい。
「あ、私ここの駐車場だから」
「じゃ、気をつけて」
特に連絡先を聞くでもなく、「またね」という再会を望む言葉もかけず。女の子に手を振ると来た道を引き返す。
「ねぇ!」
「ん?」
後ろから大きな声で呼びかけられ振り返るとさっき別れた女の子がこちらに向かって歩いてくる。
「車で寝るのって寝にくくない?」
俺が乗ってるのはワゴンやミニバンタイプの車ではなく、スポーツカータイプの車だ。シートもゴツゴツしていて寝心地はいいとは言えない。何度か車の中で寝た事もある。
「確かに布団に比べると寝にくいし、身体も痛くなるね」
「じゃあさ、家に来る?」
「え?」
目の前にいる可愛い女の子からの突然の提案に思わず気の抜けたような返事をしてしまった。
まさかの女の子側から部屋に来ないかとの誘い。学生時代は遊び人と言われており、自分から女の子を誘った事は何度もあるし、家に連れ込めた事も何度もある。だが出会った日に女の子から家に来るように誘われたのはこれが初めてだった。
「家に?」
「うん、私の家。車で寝るよりは気持ちよく寝れると思うし暖かいと思うよ」
そう、今はもう12月である。夜は割と冷え込む。車には毛布を常備しているが、暖房をつけずに寝るのは寒いだろう。一晩中エンジンをかけ続けるのは環境にも財布にも悪い。代行代をケチってガソリン代がかかるというのは本末転倒である。
それになんと言っても女の子の家への誘いだ。今日はそういう気で来ていなかったとは言え男としてはやれるものならやりたい。据え膳食わぬはなんとやらだ。
改めて目の前の女の子を見ると、さっきまでは割と可愛いなと思っていたのがかなり可愛いと思えてくる。これがタイプな女の子じゃなければ断るのだろうが、かなり可愛い女の子なら断る理由がない。
「あ、でも車が」
「明日の朝にここまで送ってあげるよ」
ここまでお膳立てされて断るのは女性に興味のない男くらいじゃないだろうか。
「じゃあお邪魔しようかな」
サオリの車はSUVタイプの車だった。二人で乗り込み代行が来るのを待つ。車の中に流れるのは軽快なリズムの音楽。聞いた事のない曲だ。
「大きな車乗ってるんだね」
自分の周りの女の子は軽カーやコンパクトカーに乗ってる子が多かった。
「スノボによく行くからね。こういう車が便利なんだ」
「へぇ、スノボするんだ? 俺はスキーだけど雪山にはよく行くよ」
それにしてもこの子が自分から男を自分の家に誘うとは。そんなに遊んでる風には見えない。
やがて代行が到着し、サオリが家の住所を伝える。偶然にも俺の住んでるマンションから近かった。
隣に座るサオリを見ると笑みを浮かべながらスマホを弄っていた。これからこの子といい事ができるのかと思うと気分も上がる。さっきまでは酒のせいか頭がぼーっとしていたが今は酔いも覚めている。
車から外を眺めていろんな妄想をしていると家が近づいてきたようで、サオリは後ろの席から運転手に指示を出している。
やがて車は少し古びた一軒家の庭先に停められる。
ん……? 一軒家……??
一人暮らししてるのならマンションかアパート暮らしだと思っていた。
「着いたよ」
「え? ここ!?」
お金を支払ったサオリは玄関をスルーしてそのまま庭を歩いていくと、庭に面している部屋の窓を開けてそこから部屋の中に入る。
「どうぞ、入って。あ、靴は部屋の中に引き上げておいてね」
「ここに一人暮らししてるの?」
「家族と一緒に暮らしてるよ。両親と妹とおばあちゃん」
「家族と一緒!? 俺が勝手に家に入って家の人とか大丈夫なの!?」
先ほどまでのウキウキ気分はどこかに吹っ飛び、いきなり帰りたくなってきた。
「飲み物取ってくるからその辺で適当に寛いでて」
一人部屋に取り残される。部屋の中にはベッド、テーブル、テレビと化粧をする為のドレッサー。物はあまり多くなくシンプルだ。
女の子の部屋に入っているというのに楽しみな気分は全くなく、ただただ落ち着かない。今はまだ23時くらいだ。家の人も起きているかもしれない。部屋に来たらどうする?
テーブルの前に座り、とりあえず早く帰ってきてくれと思いながら待っているとサオリが帰ってくる。手にしているお盆にはカップが二つ乗っている。
「コーヒーでよかった?」
「う、うん……」
「どうしたの?」
「いや、家の人にバレたらと思うと落ち着けない……」
「アハハハハハ、大丈夫だって!」
俺のビビり方が余程面白かったのか、サオリは俺を見て声を出して笑っていた。
コーヒーを飲み、少し気分が落ち着いてきた俺は気になった事を聞いてみる事にする。
「よくこういう事するの?」
「……さて、どうだろうねぇ」
サオリは首を傾げた後、俺の言いたい事がわかったのか揶揄うように答えた。
「お風呂どうする?」
風呂に入りたいのはやまやまだが、部屋から外にでると家の人に出会うかも知れないようなこの状況で風呂に入るというのは非常にハードルが高い。風呂どころかトイレに行きたくなったらどうしようかと考えているくらいである。
「家の人にバッタリ会うと怖いからやめとこうかな」
風呂に入らない不潔な人だと思われるのも嫌だったため、思っている事をそのまま伝える事にした。
「気にしなくていいのに、じゃあ私お風呂入ってくるね。もし眠くなったら先に寝ててもいいよ」
「わかった。布団は?」
サオリは黙ってベッドを指差した後、部屋から出て行った。少し高さのあるシングルベッドだ。お客さんだからベッドを使ってもいいという事だろうか?
女の子が寝ているベッドに勝手に入って寝るというのは抵抗がある。オマケに風呂にも入ってないし部屋着に着替えてもない。もちろんこんな状況じゃなければ喜んでいた所ではあるのだが。
する事もないのでスマホを確認すると今日合コンに参加していたメンバーからメッセージアプリでメッセージが入っていた。誰かの連絡先をゲットしているかどうかの確認だった。
ネットニュースを見ながら時間を潰しているとサオリが風呂から上がってきたようだ。モコモコのピンクのパジャマを着ている。先程まではカジュアルなデニムのパンツスタイルだったので、今の可愛い部屋着とのギャップがある。
肩口まで伸びている髪の毛は部屋で乾かすようで濡れたままだ。スッピンになった顔は先程までの綺麗というイメージではなく、童顔で可愛いイメージだった。
ドレッサーの前に座るとドライヤーで髪を乾かし、肌の手入れをしているのを後ろからぼーっと眺める。鏡越しにこちらを伺っているようで時折目が合い、思わず逸らしてしまう。
「まだ寝ないの?」
スキンケアを終えたサオリがテーブルに戻ってきた。眠くはなってきているものの、ベッドで寝るのに抵抗がある。それを言うのも自分だけが意識しているようで恥ずかしく、無言で冷たくなったコーヒーを飲む。
「寝相はいい? 悪い?」
「多分そんなに悪いほうではないと思うけど……」
「じゃあ手前でもベッドから落ちたりしないよね。私もう寝ようと思ってるから奥で寝るね」
サオリはベッドに上がり、布団を被って奥のほうに身を寄せている。
……ん? 客の俺にベッドを譲って自分が下で寝るのかと思っていたが、どうやらベッドで一緒に寝るつもりらしい。
これは誘われてる? それとも実家で家族がいるから変な事はできないだろうと思ってる?
学生時代は遊んでいた為同年代よりは経験人数も多いと思うし別に童貞という訳でもないのだが、女の子の実家、しかも家族に無断で上がり込んでいるというのが気にかかる。
だが今更どうしようもないしベッドで寝るしかないかと思い、布団に入る事にする。
「電気とエアコンは消してね」
サオリは布団に包まり壁のほうを向いてこちらに背を向けたまま言った。
今から一緒にベッドに入る女の子からの言葉であれば明るいのは恥ずかしいんだな。と思うような言葉ではあるが、普通に話をするようなトーンで言われると色気も何にもない。
言われた通りに電気を消し、布団に入る。サオリのいる左側は少し暖かいが俺のいる右のほうはまだ冷たい。
シングルベッドに二人で入っている為、少しでも左手を動かすとサオリに触れてしまいそうで布団の中で気をつけの体勢で固まってしまう。
身体を動かす事も出来ず、隣に女の子が寝ているせいで妙なドキドキもありなかなか寝付く事ができない。
「もう寝た?」
左を向いて問いかけてみるが、返事がない。もう寝ているようだ。こっちはこんなに気を遣ってるのになんなんだいったい……。
「う、うーん……」
目が覚めて辺りを見渡すと知らない部屋だった。
…………あぁ、そうか。お泊りしたんだった。女の子の実家に。
左を見るとすでにサオリはいない。
枕元に置いていた時計を見ると朝の8時。とりあえずベッドから出ようと思い、起き上がると部屋のドアがガチャリと開いた。
ドアのほうを見ると年配の男性がこちらを見ていた。ただ見ているだけではなく睨んでいるようだ。
「お、お邪魔してます……」
男性はさらに顔を険しくし、刺すような目線でこちらを睨みつけた後、無言で扉を閉めて立ち去った。
え? え? えー?? あれってもしかしなくてもお父さんだよな。まずくない? 娘のベッドに勝手に家に上がり込んだ知らない男が寝てるとか……。
いきなり殴られても文句言えないよね……。
どうしよう!? これほんとに大丈夫か? もしかして包丁取りに行ってたりしない? 逃げたほうがいい?
ベッドから飛び出して部屋の中をウロウロと歩きながらそんな事を考えていると再びガチャリと部屋の扉が開いた。
「あ、起きてたんだ? おはよー」
再び扉が開いた瞬間心臓が止まるかと思ったが入ってきたのはサオリだった。服も着替えており、メイクも済ませているようだ。
「あ……、お、おはよ」
サオリはテーブルに持ってきたお盆を置く。
「コーヒーでよかった? パンもあるからよかったら食べて」
テーブルにコーヒーの入ったカップとパンが乗った皿が並べられる。
「あのさ、さっき男の人が部屋を覗いていったんだけど……、あれってもしかしてお父さん?」
「あー……多分パパだね」
「ベッドで寝てるところ見られたんだけど大丈夫かな?」
「だ、大丈夫だと思うよ? 多分……。何も言われなかったんでしょ?」
サオリは少し動揺しているような素振りを見せる。
サオリの用意してくれた朝食を食べた後、昨日車を置いた駐車場まで車で送ってくれた。
車の中の話題は主に昨日の合コンの話題だった。共通の話題がそれしかなかったからだ。
駐車場に着くと、サオリは用事があるからと言ってすぐに帰っていった。
あ……。そういえばサオリと連絡先を交換しようと思っていたのに交換するの忘れた……。
◇◇◇◇◇
あー!!! 連絡先交換するの忘れた!!
完全に一目惚れだった。いや、内面の優しい所に惚れたのかもしれない。
何やってんの私! バカバカバカバカ!!!
合コン中は席が離れていた為話をする事もできなかったので連絡先の交換を断念。
運よく二人の駐車場が同じ方向だったので一緒に歩くチャンスがあったのになかなか話しかける事ができずそこでも連絡先の交換を断念。
コミュ能力には自信があったはずなのに彼の前ではその能力を全く発揮できないでいた。
駐車場について別れる間際になってこのままではダメだと思い、思い切って声をかける。思わず私から出てしまった言葉は「家に来る?」
言ってしまってから自分がもう学生時代の一人暮らしではなく、今は家族と一緒に暮らしている実家暮らしだったという事を思い出す。
学生時代、大好きな彼氏を家に招いて……。みたいな妄想を毎日のようにしていたのがいけなかったのかもしれない。結局今の今まで妄想が実現する事は一度もなかったんだけど。
家に来られるのは流石にまずいと思ったがもう口に出してしまったのだからどうしようもない。
自分の部屋は一階だからコソっと部屋に上げることはできるだろうし、最悪親や妹に見つかっても大丈夫……なはず。妹はいつも彼氏を家に上げてるし両親もそれは知ってるが煩く言うことはないし、彼氏がたまに泊まっている事も知っている。
今にして思えば別に無理して家に招かなくても二人でどこかで飲み直そうとかカラオケに行こうとか普通に誘えばそれでよかった。
私の目的は連絡先を交換して友達から始められたらと思っていただけ。そりゃもちろん彼氏彼女の関係になりたいとは思ってたけど焦ってもいいことはない。
だが実家に誘ってしまったものは仕方がない。あとはなんとかして乗り切った後に連絡先を聞き出すだけだ。
最大の失敗は来客用の布団がなかった事。いつも友達が泊まりに来るときはあらかじめママに用意してもらっているが、内緒で泊まらせている為、布団を出してもらう事ができない。
私が床で寝てもよかったのだが、今の季節は被るものがないと流石に寒すぎる。
他にどうする事もできないので仕方なく狭い私のベッドで一緒に寝る事にした。
仕方なくと言っても嫌ではない、むしろ嬉しいんだけど……。
予想通りというかなんというか、昨晩は一睡もできなかった。
そりゃそうだ。あれだけ恋焦がれていた彼と同じベッド、同じ布団で寝るというシチュエーション。妄想では何度も行ってきたが、現実となると恥ずかしいのと心臓がドキドキしすぎて寝れなかった。
壁のほうを向いて顔を見られないようにしていたが、彼もなかなか寝れないようで途中で何度か声をかけてきた。もしあの声に答えていたらどうなっていたのだろう? 狭いベッドの中で密着する二人。想像しただけで自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。
彼の寝息が聞こえてきてからは彼のほうを向いてずっと顔を見てた。きっと彼の顔を何時間見てても飽きる事はないだろう。
朝私が朝食を準備している間にパパが私の部屋にいる彼と鉢合わせたというのを聞いたときには流石に少し焦った。でも何も言ってこなかったという事は妹の彼氏と勘違いしたのかもしれない。もし何か言われる事があれば妹の彼氏という事で誤魔化そう。
でもまさか彼が昨日の合コンに参加しているとは夢にも思わなかった。
連絡先は友達のおばさんにお願いするしかないかな。
◇◇◇◇◇
その翌日の日曜日、俺はスキーに来ていた。
履歴書の趣味・特技欄にはいつもスキーと書くくらいの趣味だ。
この辺りは年に1回雪が積もるかどうかという地域なのでスキーができる雪山までは割と遠く、車も必須となる為スキーやスノボを行う人はそこまで多くない。
仕事で疲れていた事もあり、今シーズン来るのは2回目。
昨日は家に帰った後ゴロゴロと過ごしていた為疲れはない。考える事は多かったのだが考えていてもどうなる事でもない。連絡先に関しては月曜日、事務のおばさんにお願いするという結論に至った。
なぜか朝早くに目が覚めたので気分転換に一人でやってきた。
雪のあまり降らない地域の小さなスキー場。最近ハマっているパークに入る。小さなキッカーにショボいジブ。
そういえば前に来たときにここにいた女の子大丈夫だったかな?
キッカーで派手に転んで動けなくなっていた女の子を助けてロッジまで運んだ事を思い出した。
2本しかないリフトのうち、上級者コースに繋がる空いているリフトを何度か往復すると珍しくパークに人がいた。スノボの女の子3人組? キッカーに挑戦するようだ。
「サオリほんとにやるの? 大丈夫? この前みたいにならない?」
ん? サオリ?
「大丈夫大丈夫! コツは掴んだし!」
この前みたいに? そういえばキッカーに向けて滑り出した女の子のウエアには見覚えがある。
ジャンプした女の子は高さは出てないものの上手くバランスを取り、綺麗に着地した。
「どうよ! 私の華麗なジャンプ! すぐに上がるからそこで待ってて!」
女の子はゴーグルを上げて上にいる友達に向かって大きな声で叫ぶと下に向かって滑り出した。
リフト乗り場で一緒になれば連絡先聞けるかなぁ……。慌てて後を追う事にした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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