師走のリユニオン
「人生に成功した人には、人生に失敗した人が、人生というものをどんなにたいへんなものであると思っているかを、知ることはできない。」
――エドガー・ワトソン・ハウ
仏頂面の男が一人でキビキビと歩いていた。
寒さも本格化してきた十二月の頭、一人の男は駅から目的地に向かい歩いていた。
彼の名は土井康隆。以前やっていた競技の名残りの少し筋肉質な体つきに、仏頂面の男。犯罪者顔とも言われる彼は今日も黒を基調としたシンプルな服装である。
彼は、二〇年来の仲である幼馴染たちとの小さな同窓会のために、予約された店に向かっていた。
幼馴染連中全員が一堂に会するのは数年ぶりのことで、彼の顔からは分からないが、非常に楽しみにしていた。一体どのような話が出るのか、皆がどのような状況なのか、気になるところだった。
康隆に限れば、大学を卒業して、それとは関係のない飲食業に就職し、ほとんど仕事だけで生きていた。彼の悲観的な思考では、自分は悲観的な話題しか出せないだろうという考えになっていた。
駅から店までの道のりはさほど無く、インターネットの地図上でも徒歩一〇分程度であったが、彼は集合時間の三〇分前に駅に降りていた。それも彼の性格で、いつも集合時間よりも大分早くに着くように出発するのである。人との約束において、待たせることは嫌いだが、自分が待つ分には良いという考えなのである。そこに合わせて知らぬ土地を散策することが好きなこともあり、早めに到着して近場をウロウロとする、というのが彼が誰かと集まる時のお約束であった。
市内で最も大きな駅から歩いたが、そもそもが田舎でめぼしいものは無かった。あるのは普通の民家とシャッターの降りた古ぼけた詳細不明の店、いくつかの居酒屋程度であった。
相変わらずだな、と康隆は感じた。
この市は彼ら幼馴染の地元なのである。彼らの実家の最寄り駅ではないものの今回降りた駅のことも良く知っていた。
だが、康隆はこの街が好きだった。生まれてから就職して実家を出るまでの二十二年間を過ごしたのだから愛着もあろう。
康隆は、今は職場の近い隣の市に住んではいるが、実家に帰る回数は少ない。そんな近場で、家賃を払って一人暮らしをする理由は、通勤時間の短縮と気楽な生活のため、そして前職で東京に住んでいた時の家財道具があったからである。
店の周辺を一〇分程散策した後、康隆は店の前に立った。
少し薄暗い雰囲気の小洒落た創作ダイニングである。予約をしたのは彼ではないため、初めての店であったが、今回の会が決まってからしっかりとリサーチをしていた。
これも彼の性格、趣味である。食べ歩きを趣味とし、飲食を仕事としている彼は、いつも行く店のリサーチは欠かさない。どのようなメニューがあるのか、何がオススメなのか、何を注文しようか、どのくらいの会計になるのか。果てには、席数はいくつなのか、スタッフ数は何人か、どのような経営戦略なのかといった職業柄的なことも気になってくるのである。
康隆はスマートフォンを取り出し、再びこの店について調べながら幼馴染たちを待つことにした。
予約の時間まであと五分。他の三人は意外と時間にルーズだ。時間通りに集まれるとは康隆は思ってはいなかったが、少しソワソワしていた。予約通りではなければ、店側に迷惑がかかる可能性がある、と飲食業の思考が発動していたのである。久しぶりに会うということで少しの緊張もあったが。
この物語は章ごとに現代と主人公の過去を行き来します。そして、「過去」の章も年代順に進んでいきます。彼の幼少期、少年期、青年期と。
なので、次の章は主人公の過去になります。