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第9話 情報

「それは良い買い物をなされましたね」


 野菜にふんだん使われたスープを口に運びながら、スーは言った。


「オストは他の種族との交流があるためか、色々と新しいものが生まれる土地柄です。からくり式の小型弓の話は王都でも聞いたことはありましたが、実物はまだ入ってきていませんでしたよ」


 流れで買っただけのものだったが、スーに褒められて悪い気はしなかった。

 私は笑みが浮かんでくるのを必死に隠しながら、スーと同じスープを口に入れた。


「そっちの方はどうだったの?」


「有益な情報はいくつか得られました」


 スーの言葉に、アインが反応した。

 手に持っていた骨付き肉を皿に置く。


「まさか、カストラートの居場所が?」


「いえ、そこまでの情報ではありません。ただ、コリーナ共和国の北、モンテ山に人族の野盗集団が住み着いているらしいという情報がありました。件の人物がいる可能性は、あるかもしれません」


 スーの説明に、私はつい顔をしかめてしまった。


「人族の野盗集団って……仮に、そのカストラートっていう男がいなかったとしても、放っておくわけにはいかないんじゃないの? 人族が他の国に迷惑かけているってことなんでしょ。騎士団が動いたりはしないの?」


「それはそうなのですが、討伐隊を編成して赴くとなると、コリーナとしては……」


 表情を曇らせるスーを見て、私は思い当たった。


「そっか……人族の兵士が自国に攻めてきているように見えるのか。難しいね」


「それ以上に、他の種族に助けられるという形が喜ばしくないのです」


 そう言って、スーが続ける。


「ミノタウロス族としては人族に借りを作ることになりますから、歓迎はしないでしょう。実際、人族の収穫がよくない年にミノタウロスから支援の手が差し伸べられたことがあったそうですが、後顧の憂いを考えて、王家は固辞したそうです。ある程度の交流はあるとはいえ、やはり種族の違う国同士ですから、難しさはあるようですね」


 アインが息を吐く。


「面倒なものだな。困ったときはお互い様、種族の別など気にせずに助け合えばいいだろうに。ましてや身内の不始末なのだから、貸し借りの勘定自体がおかしいだろう」


 本当だね、と同意しながら私は笑う。


「まあ、そういうことなら、成り行き次第では、野盗の討伐も視野に入れても良かろう」


 アインが言うと、スーが頷いた。


「同意見です。恩に着せるということではなく、単純に、人に迷惑をかける輩を放っておくのはどうかと思いますし。それに、お二方の役目がそこにある可能性もありますからね」


「失われた七種族の絆、か」


 スーとアインが頷き合うのを見ながら、私は首を傾げる。


「でも……危なくない?」


 私の一言に、スーは笑顔をつくって答えた。


「対多数の戦闘訓練も十分に積んでいますし、戦いに利用できる魔法も習得しています。組織と言えるほどの規模ではないようですから、私が後れを取るほどのことはないと思いますよ」


「加えて言わせてもらうと、お前たちの前で言うのも憚られるが、人族が三十人いたとしても、俺には敵わんだろうと思うぞ」


 心強い限りだな、と笑ってしまう。

 スーの実力のほどは分からないが、かなりの能力の持ち主なのだろう。

 それに、アインの戦う姿を思い浮かべると、人族の集団が蹴散らされる情景が同時に浮かんでくる。絵本で見たような大きな蜥蜴でようやくいい勝負になるかもしれない。


「そういえばきちんと確認していませんでしたが、トリル様は、剣は扱えるのですか?」


 スーにまっすぐ見つめられ、私はドキッとした。


「父からなんとなく教わってはいるけど、所詮、鍛冶職人の教えだからね……あんまり、戦いの役には立てないと思う、正直なところ」


「なるほど、それで不安そうな顔をしていたわけか。道中、俺が戦う術の手ほどきをしようか」


 アインの提案に、私は大きく頷いた。


「お願いしたいな。自分の身を自分で守れるくらいにはなりたいし」


「私もお付き合いしますよ。旅の中では危険なこともそれなりにあるでしょうし、最近は特に……」


 スーが言いかけて、口に手をやった。

 私とアインが目を合わせて、同時にスーを見つめ直す。


「特に?」


 揃った私達の声と視線に、スーはぐっとなり、少し間を開けて口を開いた。


「人々のいらぬ混乱を避けるために公になっていない情報なのですが、お二人には構わないですね。実は最近、オンブラが変化しているという噂があるのです。本来武装しないはずのオークが剣を持っていたり、平原にハーピーの群れが姿を表していたりなど、にわかには信じがたい情報がありました」


 スーの言葉に、私はアインに助けられたときの状況を思い出した。

 そういえば、あのときのオーク達は、粗末ながら剣や斧を持っていた。

 必死だったし、はじめてのことだったから特に不思議には思っていなかったが、あれは本来的にはおかしいということなのか。


「人族の野盗に変化するオンブラか……愉快な旅になりそうだな」


 アインが自信に満ちた笑みを浮かべるが、私は息を吐く。


「平穏な古代遺跡巡りの旅になることを望むけどね、私は」


 話しながらも食べ進めた私達の食卓の皿は、すっかり空になっていた。


「それでは、明朝出立しましょう。いよいよ人族の領土を離れますよ」


 木のコップに注がれた水を飲み干して、スーが笑って言った。


作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

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それらの数が増えたり、感想やコメントを頂けると、書く力がモリモリ湧いてきます。


それでは、また次のエピソードで。

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