第78話 作戦
翌朝、私達はティコの家に来た。
私とスーが座り、アインは扉の近くで立っている。
テーブルの向かいには、ティコ、リリコ、レガート、そしてヘルデンが座っている。
「それでは、このティコの作戦をお話ししましょう」
鼻を上げてふふんと鳴らし、ティコが口を開く。
ヘルデンは、レガートがどうしてここにいるのか、私達が遭遇してきた闇の力はどんなものかのふたつについて、既にティコ達から聞いていた。
ここまでのことを、隠さずヘルデンに話させてほしい。
それが、ティコの三つのお願いの一つ目だった。
「ヘルデンおじさんは、現在、セーメの里の長代行ですます」
ヘルデンが頷く。
「そのため、ラーモの里の長を相手に、会談を申し込むことが出来ますです」
緊張しているのか、慣れないことをしているからか、ティコの語尾があやしい。
笑みがこみあげるが、真剣な話し合いの場だということを思うと、かみ殺すしかない。
「慣例として、長の会談を行う場所は、それぞれの里を代わりばんこに使うことになってますです。次の場所は、幸運なことに、こっちですます」
「ティコ」
リリコがため息交じりに口をはさむ。
「いつものように話せ。聞きづらくてかなわない」
心の中でリリコを褒めたたえながら、私は表情には出さないでティコをじっと見る。
ティコは口を尖らせたが、諦めた表情になって言葉を次いだ。
「レジーロおじさんを、セーメの里に来させて、ラーモから離れてもらうの。その間に、リリコとトリル達が闇の錫杖っていうのを探して」
「トリル達もか? 私だけの方が身軽だと思うが」
「リリコは、闇の錫杖っていうのを見たことがないでしょ。それに、トリル達の話を聞いた感じ、杖の形じゃなくても別によさそうなんだよね」
私がスーを見ると、スーは小さく頷いた。
この話は、昨日の時点でティコが教えてくれていた。
レジーロに関わる建物を探り、闇の結晶を見つけ出してほしいというのが、ティコの三つのお願いの二つ目だった。
「たしかに、力の源は先端の水晶のようでした」
スーが言い、ティコが家の入り口に立つアインを見る。
「そうなると、闇の力を察知できるケンタウロスの存在が必要になるでしょ」
「なるほどな」
私は感心しながらこくこく頷いていた。
ティコのこの指揮能力を見ていると、やはり彼女に長としての資質を感じる。
「首尾よく錫杖、あるいは別の形の水晶を見つけたとして、その後はどうしますか?」
「会合の場に持ってきてほしいの。その場で糾弾するから」
「あれ、ちょっと待って。そもそも、レジーロが初めから会合の場に持ってくるって可能性はないの? 貴重なものではあるんだから、肌身離さず持ってるってことは?」
おぉ、とティコが驚く。
「なくはない……かな」
「では、私が残ります」
スーが進言した。
「私は闇の結晶がどういうものか分かっていますから、アイン様のような知覚は出来なくても、それらしいものを持っていれば指摘できると思います。場合によっては、ティコ様の護衛も、多い方がいいでしょうし」
胸に手を当てて言葉を紡ぐスーは、絵本で見た騎士のようだった。
「じゃあ、それでいこう。スーはティコの方に残ってもらって、リリコはアインと一緒にレジーロの身辺調査。トリルは、どうする?」
「私は……」
どっちのほうがいいだろうか。
戦力という意味では、別に私がいようがいまいが、大きな差は生まれない。
移動力を考えると、リリコとアインについていくのは足手まといになってしまうかもしれない。
それなら、私はスーと一緒にこっちに残った方が……
「トリルは俺達と行く」
アインが不意に言葉を発し、ティコが頷く。
「わかった、トリルはそっちね。ほかに確認しておくことはある?」
「首尾よく現物を見つけて持ってきたとして、だ。レジーロのやつがしらばっくれて終わりにならないか?」
ヘルデンの言葉に、ティコが首を振る。
「それは大丈夫。私がみんなの前で、看破するから」
「看破って?」
つい口をはさんでしまった。
リリコが私を見て口を開く。
「風精の魔法のひとつだ。言葉の中に含まれる嘘やごまかしに反応して、精霊に風を起こしてもらう。高度な魔法で誰にでも出来る魔法ではないが、ティコには出来る。」
「出来るっていっても、こっちによっぽどの確信がないと風精も力を貸してくれないけどね。今回は、きっと大丈夫」
「なるほど……じゃあ、その会合の場で、レジーロに闇の道具を突き付けて、これまでのことを全部白状させるっていう流れね」
「私については、どのように利用するつもりだ?」
レガートがティコに笑う。
「利用だなんて、耳が黒くなっちゃうな、レガートおじさん。それについてもちゃんと考えてるよ。会合は、なるべく長引かせる必要があるでしょ? 議題としては、これからのハーピー討伐の作戦、風に還った戦士たちの合同葬、接近戦訓練の提案をひとつひとつ詰めていくつもりなんだけど、最後のものが決まりかけたら、いきなり登場してほしいの」
「なるほど……それで、すべてひっくりかえす、ということだな」
ティコが楽しそうに笑う。
「どうしてレガートおじさんが生きているのかっていうところに始まって、それなら一から話が変わってくるじゃないかと混乱する。混乱が収まっても、また結論を出していかなくちゃならないから、相当時間がかかるでしょ?」
「まったく、とんでもない娘が残されたものだ。お前ほどの長ならば、問題なく里を治めていけるだろうものを」
レガートがさみしそうに笑うと、ティコも笑いながら、首を横に振った。
「誰かが、決断しなくちゃいけないんだよ、おじさん。私が、その誰かになるっていうだけ」
柔らかな沈黙が、家に漂った。
みな、一様に、ティコに敬愛を感じていたのだと思う。
この少女のために、力を尽くそうという気になっているのだと思う。
「では、準備をしよう」
おもむろに、リリコが立ち上がった。
「アインとトリルは、準備が終わり次第、はじめて上った木の傍に来い」
それだけ言って、リリコはさっさと家を出ていった。
私は頷いて応えた。
「トリル様」
スーが私の手に、その手を乗せた。
「アイン様が一緒なら大丈夫だとは思いますが、くれぐれもお気をつけて」
「うん。スーもね」
私は軽くスーを抱き寄せてから、立ち上がった。
「それじゃ、いってきます」
私の言葉に、ティコが大きく頷く。
家を出て、借宿に入ると、すぐにアインも入ってきた。
「アイン」
「なんだ」
私がまっすぐアインを見据えると、アインも私を見た。
青い瞳が深い。
「どうして、私を同行させることにしたの?」
「不服だったか?」
「そういうわけじゃない。でも、リリコとアインに比べて、私は走る速度で劣ってるから、足手まといになるんじゃないかと思って……」
カツカツと蹄を鳴らして、アインが私に歩み寄る。
そして、その太い腕で私を優しく抱き寄せた。
「ちょっ……」
「俺の隣が一番安全だ」
アインは私を抱きしめたまま、小さく言葉を紡ぐ。
「もう、カストラートのときのようなことはごめんだ」
胸がつぶれそうだ。
痛いくらいに。
私はアインの体に両手をそっと当てて、優しく押し戻した。
「頼りにしてるね」
「ああ」
私がアインを見上げると、アインはぐっと上体をかがめた。
作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。
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それでは、また次のエピソードで。




