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第76話 再会

「決まっている。レガートを探さなければ」


 皺の深い森人エルフが語気を強めた。

 それを見て、隣の若そうな女性が口を開く。


「危険よ。探しに行って、またあの変なオンブラに襲われたらどうするの?」


 反対側にいる若そうな男が頷く。


「別にレガートがいなくても、レジーロが里を守って戦ってくれる。ここに戻ってくるまでだって、そうだったじゃないか」


 視線が集まってレジーロは口を開く。


「話はそう簡単じゃない。そこにいるヘルデンだって、セーメの里で長を代行しているが、反発の声は多い。なぁ、ヘルデン?」


 険しい顔で、ヘルデンは頷く。


「それは否定しない。だが、セーメで問題になっているのは、あくまでも俺が守護の氏族であり、統治の役割の家柄ではないということだ。そういう意味では、レジーロとは違う。レジーロはレガートの弟、つまり統治の血族だからな」


 沈黙が流れる。


「それじゃあ、里の長を、レジーロがやるってこと?」


 誰かの呟きに、別の誰かが反応する。


「構わないだろう。彼は本来、統治の役割だ」

「だが、レジーロは役無しだ。それは、生まれたときに決められたことだった」

「その決め事自体がおかしかったのよ」

「だが、一度決められたことを覆すのはいかがなものか」


 意見の交換はやがて声の大きさを増していき、全体の議論と言うよりは隣同士の言い争いのような様相を呈してきてしまった。


「どうしよっか」


 私は横目でスーを見て言った。


「私達が口を挟むことではありませんしね……」


 スーも横目で私を見る。


「俺達は、一度セーメに戻らせてもらう」


 アインが口を開いた。

 森人エルフ達の議論が止んで、視線が集まる。


森人エルフの決め事に、部外者である俺達が関わるわけにはいかないだろう」

「それならば、俺も含めて、セーメの民は帰るとしよう」


 ヘルデンが立ち上がった。


「ラーモにはラーモの流れもあるだろう。アインの言葉ではないが、里の外の人間が、みだりに口を挟むべきことではない」


 ヘルデンに呼応して、四人の森人エルフが腰を上げた。

 来たときはもっと人数が多かったのに、半分くらいになってしまっていた。


「わかった。こっちで何か決め事があったら、セーメに顔を出すぜ」


 レジーロの言葉に頷き、ヘルデンは私達に着いてくるよう促した。

 私達は荷物を取りに一度戻り、それからヘルデンと森人エルフ達と帰途についた。

 里をつなぐ大橋を、無言で走る。

 頭の中は、レジーロのことが巡っていた。

 ティコのお父さんを手に掛けたのがレジーロだった、という可能性は高いのかも知れない。

 そして、ラーモの里の長も手に掛けて、自分が長の座に着く。

 でも、自分が長の座に着くことが目的なんだとしたら、ティコのお父さんをあやめる必要はなかったんじゃないか、という気がした。

 ティコのお父さんの死、レガートの死は、繋がっているんだろうか。

 それとも、長の死という部分が一致しているだけで、まったく違う事柄なんだろうか。

 もやもやした気持ちのまま走り続けて、気が付けばセーメの里に帰ってきていた。


「これからどうする?」


 里の入口でヘルデンに尋ねられて、私は少し考えてから口を開く。


「まず、リリコとティコに会ってきます。心配してるかも知れないし」

「それは、そうだな。リリコは、あんな感じだが、情には厚い。おそらく、気を揉んでいるだろう」

「分かる気がします」


 私が笑うと、ヘルデンも笑った。


「レジーロとレガートのことも、君達からうまく伝えておいてくれ。俺は、少しやることがある」


 そう言うと、ヘルデンは歩いて行った。

 私達がティコの家に行くと、リリコが入口に立っていた。


「トリル!」


 きれいな声が大きく響く。


「無事で良かった……」


 目を伏せるリリコの様子に、私は驚いてしまった。

 もっと淡々として、感情を出さない性格かと思ったのに。

 私が驚いていることに気付いたのか、リリコは急にはっとして顔を上げた。


「とにかく、無事で良かった。中で休んでくれ」


 扉を開けると、ティコがちょこんと座っていた。


「おかえり、トリル、スー、アイン。リリコが泣きそうな顔で心配してたよ」

「大げさな……」


 リリコが憮然としながら、ティコの隣に腰を下ろした。

 私とスーも席に着き、アインも膝をつく。


「誰に聞いたらいいかなぁ」


 ティコが私達を順番に見ていく。

 その視線が、私で止まった。


「トリルに聞こうかな」


 ティコの笑顔に、つられて笑顔になる。


「何を?」

「レガートおじさんのこと」


 えっ、と声が漏れた私に、ティコが言葉を次ぐ。


「ラーモに帰れなくなる何かが、あったんでしょ」


 顔は笑っているのに、その目の光は鋭い。

 少女らしい見た目にも合わない、私と同じ歳と言っても合わない、鋭い目だ。


「えっと……レガートさんも加わって、南東の海岸に行った。海岸でかなりの数のハーピーを倒して、帰ることになった。でも、森から新手のオンブラがわき出てきたらしくて、先頭を進んでたレガートさんとレジーロが襲われて、それからレガートさんがどうなったかは、分からない」


 頷きながら、続けてと言うティコに、私は言葉を次ぐ。


「引きながら戦って、ラーモの里に着いた頃には半分くらいの人数になってた。向こうでは、次の長をどうするみたいな話になったから、いないほうがいいかな、と思って帰って来た……ってところかな」


 うんうん、とティコが頷く。


「わかった。じゃあ、やっぱりレジーロおじさんが、全ての鍵を握っているって感じだね」


 ティコがそう言って、リリコを見た。

 リリコは眉間に皺を寄せている。


「解せない……彼は、そんなに里長の座にこだわっていたのか。自由の身を楽しんでいるようにしか見えなかった。それに、ラーモの長になりたいだけなら、ティコの父を討つ必要まではなかったはずだ」

「それは、本人に聞いて確かめるしかないだろう」


 不意に、別の声が奥の部屋から聞こえてきた。

 姿を現したのは、今まさに話題に上っていた、レガートだった。


「レガートさん……どうしてここに、というか、ご無事だったんですね」


 レガートは頷き、ティコの隣に腰掛けた。


 呆気にとられている私を、リリコが見つめた。


「レガートがこの様子でここに来たから、私は君達が心配だったんだ。巻き込まれて命を落としてはいないかと」

「レガートさんがここにいる理由を、聞いてもいい?」


 リリコは頷いた。


「レガートは、森を走っている最中、レジーロとの間に急に影が広がり、そこからオンブラが湧き出たと。あっという間に取り囲まれたが、とっさに風精ウェントゥスの力で樹上に跳び上がり、気配をくらましたそうだ。外套を落としてしまったから、死んだと思われてもおかしくないと」


 レガートは横で頷き、口を開く。


「ラーモに戻ることを考えたが、状況的に、私はレジーロの様子がおかしいと考えた。なぜなら、オンブラどもは私をあっという間に取り囲んだのに、レジーロを囲んだ様子や気配がなかったからな。どういうわけかは分からないが。それで、ラーモに戻ることは憚られ、別の所へ思ったのだが、ここしか安全を確信できる場所が思いつかなくてね。ヘルデンのところに行こうかとも思ったが、彼もまだ信用しきれない」


 横から、スーの視線を感じた。

 視線の意図を察して、私は口を開く。


「今の話の中の、オンブラが急に沸いて出るという部分に、私達は心当たりがあります」


 私は、闇の錫杖の話を打ち明けた。

 人族の野盗コレペティタがそれを用いてオンブラを操ったこと、生み出したこと、力を取り込んで異形に姿を変えたこと。そして、同じ力を使ったカストラートは水の精霊を消し、肉体を若返らせていたらしいこと。最後に、これをみだりに口外することは避けた方がいいと水人フォークの女王に助言をもらい、今まで話さなかったこと。

 リリコもティコも、そしてレガートも、神妙な面持ちで私の話を聞いていた。

 そして、リリコが苦々しい表情で口を開いた。


「彼は人族の国も訪れ、各地を旅して回っていた。話に出てきたような輩と関わりをもつ機会は十分にあったはずだ」

「その力を使って森人エルフの長の一族を抹消し、里全体を掌握しようとでも考えたか……ひょうきんそうに振る舞ってはいるが、あいつは昔から野心的だった。この愚行も、さして不思議な話ではない」


 レガートが深く息を吐く。


「おそらく、ティコの父上を手に掛けたのも、レジーロ自身か、彼に与するものだろう。長年、森人エルフの中でくすぶっていた、自由か責かの論争が、論ではなく武力によって表面化したか」

作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

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それでは、また次のエピソードで。

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