表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/150

第70話 役無し

 問われた私は、スーを見た。

 スーは頬を掻いて私を見つめる。

 彼女のことだから、魔法についてはいろいろ聞きたいことがあるだろう。

 次にアインを見ると、まだ顔が青白い。

 彼には何も言わせない方が良さそうだ。


「それじゃあ、ふたつ。ひとつは、サルヴァトーレの物語を聞かせて欲しいな。あとは、魔法について。それは、スーにとって大切なことだから」


 わかった、と言ってティコが立ち上がった。

 そしてたくさんの本らしきものが積まれている棚に行き、その中から分厚いものをひとつ取り、私に開いて見せた。


「これが、ティコ達が知っているサルヴァトーレの絵だよ」


 見開きに描かれているのは、白い鹿にまたがる耳の長い人物だった。

 片手に弓、片手に矢を持っている。


「このアルベロの森は、開拓者サルヴァトーレが切り拓いたと言われてるの。毒の植物を枯らし、毒の虫を追い払い、人が住める森にしたんだって。その割には、危険な生き物はまだたくさんいるけどね」


 ティコが笑う。


「森の中の白い生き物はとってはならない、ってリリコが言ってたのは、やっぱり……」

「うん。サルヴァトーレにあやかってのことだね」


 ふむふむと頷きながら、私はこれまでの話を思い出してみる。

 人族は白馬の王子様、ミノタウロスは白い牛の王、水人フォークは穢れを浄化する白い鱗の英雄。

 やっぱり、細かい部分は違うけれど、似たような話であることは間違いない。

 そもそも、どの種族の物語でも、名前が完全に一致しているのだ。

 私は満足感を覚えて、スーをちらっと見た。


「それでは……森人エルフ族の魔法についてお伺いしたいのですが」

「ティコ達の魔法? そうだなぁ……」


 ティコが細い腕を組む。


「一言でいうと、風が影響して可能になりそうなことは、大体できるよ。里に飛び上がること、高い所から音も無く着地すること、声を遠くまで届けること、遠くの声を聞くこと、物を押すこと、引っ張ること、くすぐること、くしゃみさせること、鳥肌を立たせること……」


 途中から子どもらしい魔法が入ってきて、私は思わず笑ってしまった。


風精ウェントゥスの力を借りて出来るのは、そんな感じかな。ティコは本来の魔法の言葉を省略しちゃうから、形は適当だけど」

「省略? 精霊に呼びかけないで、志向を伝えているということですか?」


 スーが色めき立った。


「この子は特殊なんだ。普通の森人エルフは、きちんと形づくる。風精ウェントゥスにトイ、トイ、トイと呼びかけるし、最後にイン・ボッカ・アル・ルーポと唱える」


 リリコが言う。


「ティコは、生まれたときから、なんとなく精霊の声が聞こえるの。

 だから、ティコの言葉も向こうにはなんとなく聞こえてるんだと思うよ」


 スーが驚いた顔で私を見る。

 うんうん、私も十分驚いてるよ。


「聞きましたか、トリル様。こんな話、聞いたことがありません!

 宮廷魔術師ですら叶わないことが、こんな少女に……」

「スー、少女って言っても、同い年だから」

「あ、そうでした……いや、しかしですね、こんなことは人族ではあり得ないわけで……」


 こほん、と咳払いをして、スーがあらためて口を開く。

 それから始まった二人の会話でわかったことは、やはりティコが特別らしいということだった。

 少なくとも、リリコが生まれて六十年もの間、同じようなことが出来た人はいなかったのだという。


森人エルフの魔法、というよりも、ティコが特別って感じなんだね」


 私が言うと、ティコはえへへと笑って頭を掻いた。

 その姿を見ると、どうしても十歳の女の子だ。

 そこまで話したあたりで、扉をノックする音が聞こえた。


「よぉ、俺だ。レジーロだ」


 中に入ってきたその声に、リリコが反応して顔を上げた。

 心なしか、目つきが鋭くなったような気がした。

 がちゃり、と扉を開けて入ってきたのは、男性の森人エルフだった。

 髪と瞳の色は、リリコやティコと同じような色をしていた。

 数多には金色の刺繍をした緑色の飾り頭巾をかぶっており、纏った衣は私やスーが来ている服のように堅そうな素材に見えた。

 腰には剣を帯びており、手には合板の弓を持っている。

 間違いなく、戦士だろう。

 ただ、弓がリリコのもののような一枝のものではないということは、守護の役割を担っているわけではないということだろうか。


「よぅ、ティコ。それに、リリコと……見慣れぬお客人方」


 口元を歪ませるように、彼は笑った。


「よければ、紹介してもらっても?」


 男に求められて、ティコは私達の名前と、辿ってきた足跡を簡単に紹介した。


「俺はレジーロ。ラーモの里の長の家に生まれながら、長である兄レガートの弟という不幸な境遇のために、哀れ、役無しという人生を歩んでいる悲劇の男さ。憐れみを込めてレジーロと呼んでくれ」


 大げさに頭を抱えるレジーロに、リリコが言葉を次いだ。


「加えて言えば、自由を謳歌して旅をし、磨き上げた戦う力で自主的に守護の役割を担っている戦士だ。弓は凄腕、人族の街で手に入れた剣も使いこなす。魔法も、ティコほどではないが扱える」


 お褒めにあずかりどうも、とレジーロがまた大げさに頭を下げる。

 リリコが言葉を次ぐ。


「ラーモに帰ったのではなかったのか」

「とんぼ帰りさ。親父さんの死は俺の責任もでかいし……ティコちゃんが心配でね」

「レジーロおじさんのせいじゃないよ。お父さんも、覚悟の上でハーピー討伐に参加してたんだし」

「そう、あなたの責任ではない」

「まぁ、俺は所詮、責任を背負わない役無しだからな」


 そう言って、レジーロが私達をざっと見た。


「それにしても、まさかケンタウロスにお目にかかるとはね。

 数年旅をしていて、噂を聞くことはあっても、実際に会うのは初めてだぜ」


 アインが、ピクッと反応したように見えた。


「噂とは、どのような噂ですか?」


 スーがアインの代わりに尋ねた。


「東の果ての海岸でケンタウロスらしき姿を見たとか、大陸の西側に生き残りがいるらしいとかな。

 本当かどうかはわからねえよ?」


 そうですか、と言って、スーは頷いた。

 アインの他にも、ケンタウロスは生き残っているんだろうか。

 もしも一人でも二人でも生き残りがいるのなら、アインは嬉しいかもしれない。

 しかし、アインの表情は蒼白なままで、感情は読み取れなかった。


「さて、こうしてもいられねぇや。ティコちゃんの元気な顔も見られたし、行くとするわ」

「何かあるのか?」


 レジーロは頷く。


「こないだ、こっち側の海岸でハーピー掃討をしただろ?

 その影響なのか分からんが、今度はラーモ側が騒がしいのさ」

「それで、戦力を募りに来た、ということか?」


 そういうこと、とレジーロは笑った。


「ヘルデン里長代行殿にもご足労願えればありがたいね。

 彼の武力はかなりのもんだから」

「ヘルデンは、今、中央広場にいるはずだ。おそらく、例の議論を延々と続けていると思うが」

「長をティコちゃんに任せるか、ヘルデンに任せるかって話か?

 まったく、森人エルフの氏族役割の制度ってのは功罪あるよなぁ」


 レジーロはそう言って、頭を掻いた。

 リリコが何事か考えていたかと思うと、意を決したように口を開いた。


「トリル、スー、アイン。無理を承知で頼みたい。ハーピーの討伐に、力を貸してくれないか。私達森人エルフは、弓で射かけるのは得意だが、近づかれて戦うのは苦手だ。君達が力を貸してくれると、ありがたいのだが」

作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

ブックマーク登録や、下の☆☆☆☆☆欄での評価をしていただけると幸いです。


それでは、また次のエピソードで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ