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第53話 雨

 降り続く雨の中、私達は歩みを進めていた。

 モナルキーアを出てから、雨に打たれるのは久しぶりだ。

 前に雨が降ったのは、ちょうどヌヴォラで一日矢傷を癒していたときだったから、野で雨ざらしになるというのは初めてのことだ。

 心から、シラブルが同行してくれていてよかったと思う。

 私の外套もブーツも、本来なら雨でぐっしょり濡れ、体力も体の熱もどんどん奪われていっているのだろう。

 それを、シラブルが水精アクアの力を借りて、水を弾く魔法を付与させてくれたおかげで、私達の身に付けているものはすべて雨の影響を受けずにいた。

 雨除けになる木も見えず、荒れた草地が広がっているだけなので、なおさらありがたい。


「すごい魔法だね、シラブル」


 私が横に並んで声をかけると、シラブルはふふん、と鼻を鳴らした。


「誇りある水人フォークの魔法は、まだまだこんなものではないぞ。だが、人族にも僕らの魔法の素晴らしさが伝わるのは嬉しいことだ」


 シラブルを挟んで向こう側を歩くスーが息を吐く。


「その、誇りある、という前口上は必ずつけなければならないんですか? 水人フォークの魔法の素晴らしさは理解しますが、そこはちょっと……」

「そこはちょっと、なんだ」

「なんでもありません。あ、私、アイン様にお話することがあったんでした」


 そう言ってスーは歩調を緩め、アインと横に並んだ。


「まったく、何が問題あるというんだ」

「スーとしては、もうちょっと気軽にお話したいんじゃないの?」


 私が笑うと、シラブルはなるほど、と呟いた。


「シラブルだって、スーともう少し話していたかったでしょ?」

「何を馬鹿な……」


 そう言いながら、シラブルは頬を赤くしている。


「そうだ、ちょうどいい。魔法の礼を求めるわけではないが、ひとつ教えてもらいたいことがある」


 シラブルの言葉に、私はどうぞという意味で首を動かした。


「人族の瞳というのは、みな色が違うのか?」


 言われて、私は知っている顔を一通り思い浮かべてみる。

 両親は黒、スーは緑、私は紫。

 近所には青の人もいれば、土色の人もいた。

 噂では、王族は髪も瞳も金色だと聞いたことがあるけれど、実際はどうなのだろう。

 今度、スーに聞いてみよう。


「どうなのだ? その、スーブレットのような美しい瞳の色は、珍しいのか?」


 答えないでいる内に、シラブルが言葉を次いでしまった。

 でも、そのおかげで、彼の質問の意図は分かったようだ。


「スーの目、ね。緑色の目をしてる人は他にもいるけど、スーの目は、一際きれいかな」

「そうなのか……」


 シラブルはそれだけ呟いた。


「誇りある水人フォークにとって、緑色は何か意味がある色なの?」

「いや、特にそういうわけではないが……そうだな、水人フォークはみな、髪も目も青いから、少し珍しくてな」


 そんな言葉を聞いてしまうと、つい、揚げ足をとってからかいたくなるというものだ。

 なにせ、私は予言に出てくるくらい珍しい瞳の色をしているのだから、この紫色を差し置いてスーに目がいくなんて言語道断でしょ?


「ちなみに、私の目も青じゃないんだけど、どう?」

「ん? ……ああ、そういえば、紫色だな。だが、まあ青みたいなものだろう」


 あはは、と私は笑ってしまった。

 青みたいなもの、という括り方が出来るなら、実際のところ、私が予言の乙女かどうかも曖昧になってしまう。

 でもまぁ、私のこの旅や目的が、予言に謳われたものでなかったとしても、もう構わないような気がする。

 アインやスーと一緒に旅が出来ていること、それ自体が、私にとって大きな出来事なのだから。


「私もひとつ、聞いていい?」

「構わんぞ」

「さっき、シラブルが唱えていた『力在る言葉』って、今の言葉に訳すとどうなるの?」

「詠唱部分か。そうだな、今の言葉に訳すと……水精アクアよ、降る水を滑らせ、衣を濡らさないでいてくれる貴方達を私は愛し、感謝し、尊敬の念を捧げます、といったところだ」


 面白い言い回しだな、と思った。

 人族の魔法よりも精霊が近い感じがする。


「人族の魔法には、どういうものがある?」

「それに答えるのは、私よりスーの方が適役だから、彼女に聞いて」


 私の言葉に、シラブルがちらっと後ろを見る。

 後ろではアインとスーが何か談笑していた。

 スーが私達の視線に気づいて首を傾げる。


「どうかしましたか?」

「シラブルが、スーに魔法のことを聞きたいんだって」

「あとにしろ」


 アインが短く言った。

 足を止めたアインに合わせて、私達三人もぴたりと立ち止まる。


オンブラだ」


 言われて周囲を見回す。

 しかし、あたりには何もいない。

 死角はないはずだ。


「構えろ」


 アインが大剣を抜いた。

 私達は自然と四方に対応できるようにそれぞれが背中を守る陣形になった。

 少し迷いながら、私は小型弩は構えず、木目の剣を抜いた。

 息を長く吐く。

 すると、ただの水たまりに見えていたところから、サハギンが盛り上がるように姿を現した。

 二匹、三匹と増え始め、あちこちの水たまりから現れたサハギンはすぐに二十を超える数になってしまった。

 ぞろぞろと私達の周囲を囲む。


「サハギンというのは、こんなふうに水たまりから顕現するものなのですか?」

「そうらしいな」

「らしい、って、水人フォークも知らないの?」

「フォンテにいきなり沸くことはないからな。気が付けば上の湖を泳いでいる」

「来るぞっ!!」


 一斉にとびかかってくるサハギンの、もっとも先を飛んでいる一匹に、小さく縦に剣を振る。

 顔面部を斬り、倒す。

 次、右前方の一匹。

 胸元に薙ぐ。

 次、その奥。

 ふりかぶっている、まず避ける。

 軸を横にずらしてやりすごす。

 その一匹に目をやると、横からシラブルの槍が側頭部に突き刺さった。


「出過ぎるな!」

「っと……」


 確かに私は最初の位置からかなり前に出ていた。

 シラブルの言葉にあわてて下がる。


「ありがと」

「ああ」


 構えなおす。

 私の前には、残り二匹。

 一斉にかかってこようとしている気配がする。

 どっちから斬る?

 いや、まず回避?


「シラブルは左、私は右を!」


 横でスーが言うや否や、右の一匹に向かって踏み込んだ。

 シラブルがそれに合わせて左の一匹に踏み込む。

 スーは一歩では間に合わず、二歩目と同時に腹部に切り払いを滑り込ませる。

 ズバッ、という音が響く。

 すぐさま、二人が背中を合わせて死角を消す。

 息ぴったりだ。

 でも、それだと私の背中が……と思ってあたりをみると、どうやら今の二匹が最後だったらしい。

 他のサハギンたちがバラバラになってあちこちに散らばっているのを見ると、アインの大剣で斬り飛ばされたのだろう。

 私はアインが大剣をぬぐったのを確認して、鞘の先の石に剣を滑らせ、それから鞘に納める。


「雨のせいか、そこら辺の水たまりが奴らの居住なのか、わからんな」

「後者でしょうね。雨でサハギンが生まれるというのなら、モナルキーアでも相当数が確認されているはずですから」

「それじゃ、先を急いだほうがいいね」


 みなが一様に頷き、また歩を進め始める。

 シラブルとアインが先導し、私とスーが後ろに並ぶ形になった。

 何も言わなかったが、アインが前を行って警戒してくれるということだ。


「息ぴったりだったね」


 私が言うと、スーがきょとんとする。


「何がですか?」

「最後の攻撃。スーとシラブルで同時だったじゃん」


 そうでしたっけ、とスーが笑う。


「誇りある水人フォーク殿に後れを取らないように必死でしたよ」


 スーが額の汗を拭うふりをして言い、私はつい声に出して笑ってしまった。

作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

ブックマーク登録や、下の☆☆☆☆☆欄での評価をしていただけると幸いです。


それでは、また次のエピソードで。

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