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第47話 手合わせ

「お言葉ですが女王陛下。この者等を派遣するのなら、禁を破って我ら守備隊から人員を選んで調査に赴かせた方がよいかと存じます」


 ディクションがシラブルをにらみつけた。


「控えろ、シラブル。女王陛下がお決めになったことだ」

「いいえ、隊長。言わせて頂きますが、戦士の一族として水人フォークにも伝わっているケンタウロス族はまだしも、人族の、しかも小さい者達に、穢れの調査が可能であると、本当にお思いですか?

 何度教えても呪文を間違えるご友人の言葉を貝の丸呑みにしてしまうのは、いささかお気持ちが早すぎるかと存じます」


 カチン、という何かが冷えて割れたような音が聞こえた気がした。

 小馬鹿にされたレッチ……はケラケラ笑っている。

 隣の女王も、クスクス笑っている。

 はて……と思って見渡すと、明らかに、隣に座るスーの雰囲気が変わっていた。


「失礼ですが、今、なんと?」

「ち、小さい者達、と言ったのだ」


 横目に見ると、スーは笑っている。

 ただ、いつものような朗らかさは微塵もなく、羊皮紙に笑顔を書いて貼り付けただけのような、固まった笑顔だ。


「分かりました。それでは、実力の程を証明するというのはいかがでしょうか。私と、そちらのシラブルさんとで模擬戦を行い、それでこの人族のチビが勝てば、異論はないでしょう?」


 急な展開に、私は思わずアインを見る。

 アインも困惑したような表情で、ただ首を小さく振るだけだった。


「だ、誰もチビとは言っていないだろう!」

「いいえ、私にはそう聞こえました」


 にっこり笑うスーだが、目の奥は決して笑っていない。

 小さいと言われたことがそんなに癪に障ったのだろうか。

 実際の所、私とスーの身長に、大して差はない。アインからすれば私もスーも同じようなものに見えているに違いない。そんな私はといえば、小さい者と言われても気にならなかったのだが……

 ふーっ、と息を吐いて、シェーナ女王が口を開く。


「一度エラから漏れ出た息は、元に戻せはしませんわ。挑発したのはシラブル、あなたの方ですもの。堂々とお引き受けなさいな」

「……分かりました。ついてこい、人族」


 シラブルについて、スーがつかつか歩いて行く。

 私とアイン、ディクション隊長も含めて全員が後に続く。

 宮殿を出てたどり着いたのは、戦闘の訓練に使っているらしい広場だった。


「僕はこれを使う」


 シラブルは整って掛けられていた木の槍を一本手に取った。


「誇りある水人フォークは、常に槍を使うからな」

「そうですか」


 スーは木の剣を二本持った。


「勝敗は?」

「相手の武器を使用不能にするか、動きを完全に制するか、どちらかだ」


 言葉少なに二人は距離をとり、間合いを広げた。

 シラブルが重心を落とし、槍を下向きに構える。

 スーはいつもと同じ構えだ。

 一刀を前に突き出し、一刀を横に構える。

 緊張感ある沈黙が広がる。

 しかし、心なしかシラブルの表情に曇りがあるような気がする。

 スーの方は、怒りがあるかと心配だったが、風のない水面のように落ち着いた顔だ。


「スーだな」


 アインが呟く。


「そうだな」


 ディクション隊長も言った。

 私は固唾を呑んでふたりを、どちらかというとスーを見守る。

 仕掛けたのはスーだった。

 槍の先をはじくように剣を当てる。

 シラブルはそれをいなし、槍の持ち方を変えて石突を振る。

 スーがそれをかいくぐると、その後は一方的だった。

 間合いを詰められたシラブルは体術を駆使して引きはがそうとしたり、攻撃を加えようとするが、スーは舞うようにシラブルにつかず離れずを保ち、有効打を許さない。

 流れが変わったのは、スーがシラブルに背中を預けるような動きをしたときだった。

 シラブルの槍も体も硬直したように止まったかと思うと、スーが勢いよく旋回し、勢いをつけた二刀で槍の腹をはじき飛ばした。

 予測した以上の力強さだったのだろう、シラブルの手からは槍が勢いよく離れ、彼は丸腰になってしまった。

 スーがくるりと体を翻して、一刀をシラブルに突きつける。


「決まりです」


 シラブルが目を閉じて口を開く。


「強い……人族なのに……」

「それ、関係ありますか?」


 スーが鋭く言った。


「例えば尊敬できる人格の人がいたとして、その人が自分と違う種族だったら、その気持ちは失われるんですか? 私はケンタウロスのアイン様に敬意を覚えています。レッチ様を初め、お会いしてきたミノタウロスの皆さんにも、好意を抱きました。きっと、それはあなた方水人フォークのみなさんに対しても同じになると思います」


 スーが剣を引いて、表情を和らげた。


「……なんて、お説教できるほどの人間でもありませんでした、私。

 生意気な口をたたいてしまったことをお詫びします。

 良い鍛錬になりました。お手合わせ、ありがとうございました」


 ぺこっとスーが頭を下げると、見ていた周囲の人々から喝采が送られた。

 ディクション隊長がシラブルに近づいて肩に手をかけ、何事か言っていた。

 そしてシラブルが、スーに向かって握手を求め、スーはそれに笑顔で応じた。


「なんか、いいね」


 私が言うと、アインは頷いた。


「そうだな。種族が違っても、通じ合うことは出来る。それは、俺達がもう知っていることだからな」

「許してやってくれ」


 私達の側に戻りながら、ディクション隊長が言った。


「シラブルの両親は、くだんの穢れた水の研究をしている中、体調を崩してしまったのだ。今は命の危険こそないが、一時は危なかった。それで、自分が真相を明らかにしたいという思い、水人フォークの伝統を人族に破らせていいのかという思い、それらが混在してしまって、あのような愚挙に出たのだと思う」

「許すも何も、あいつの言っていることは別に間違ってはいなかっただろう。何か、焦りのようなものはあったようだったが」


 二人の話を聞きながら、私は頷きつつも別のことを考えていた。

 たぶん、シラブルは、スーの身を案じて、っていうのもあったんじゃないかなぁ。

 両親が苦しんだというのなら、なおさら心配になってしまったんだろうという気がする。


「それにしても、スーがあそこまで怒りを表すとは意外だったな。それほど、お前の身長を揶揄されたことが頭に来たのか」

「えっ、私? スー自身の身長が、じゃなくて?」


 私は思わずスーを見る。

 スーはと言えば、さっきまで真剣に戦っていたシラブルを相手に談笑し、シラブルは頬を赤らめながらそれに応じている。


「でも、さっきスー、「この人族のチビが」って言ってたから、自分のこととして怒ってたと思うんだけどなぁ」

「トリル様!」


 急に声をかけられて、私はスーに向き直った。


「今、何かおっしゃいました?」

「う、ううん。何も言ってないよ、お疲れ様!」


 私が焦って手を振ると、スーは笑って、シラブルとの談笑に戻った。

 私は静かにアインを見る。

 アインも、私を見ていた。


「アイン」

「うむ。スーの前では、この話題は出さぬようにしよう」

作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

ブックマーク登録や、下の☆☆☆☆☆欄での評価をしていただけると幸いです。


それでは、また次のエピソードで。

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