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第39話 仲直り

 広間に戻ると、すぐの所にアインが立っていた。

 私は何も言わず、通路の口を挟んでアインの反対側に立った。

 まるで二人で門番をしているようだ。

 動く影は見えないが、私は念のため、腰に帯びた小型弩を持ち、取っ手を回して矢をつがえ、そのまま右手に持った。

 何の音もしなかった。

 沈黙が耳に痛い。


「さっきは」


 アインの声だ。

 私の方を向いているのかどうか、分からない。

 私も、アインの方を見なかった。


「すまなかった。悪ふざけがすぎた」


 私は、うん、とだけ答えた。


「スーに言われるまで、トリルが戦士ではないことを忘れていた」


 私は、何も言わなかった。

 戦士ではないかもしれないけれど、ここまで来て町娘というのもおかしい気もする。

 鍛冶屋の娘ではあるが、鍛冶屋でもない。

 適当な言葉も浮かばず、私は何も言わなかった。


「許して欲しい」


 ちら、とアインを見る。

 アインはこちらを見ていた。

 今まで見たことのない、真剣な表情だった。

 何も言わない訳にいかなさそうで、私は言葉を探す。


「アインは……」


 まとまらないまま、私は口を開いた。

 何を言ったらいいんだろう。


「予言を、どう思ってる?」


 自分でも驚くような言葉が口から出ていった。

 引っ込めることも出来ず、私はアインを見て、返答を待つ。

 また、沈黙が戻ってきた。

 少しして、アインが口を開いた。


「七種族の絆を紡ぐというのは、おそらくよいことなのだろうと思っている」


 そう、と私は言った。


「自分が、白い馬の王子だって、思う?」


 私が次ぐと、アインはまた黙った。


「確信はない」


 アインはそう言って、続けた。


「だが、そうだとしても、そうでなかったとしても、トリルと旅が出来ていることは、俺にとっては喜びだ」


 私は、クスッと笑ってしまった。


「また、冗談?」

「いや、本気だ」


 てっきりおどけるかと思ったが、そうではなかった。

 また、真剣なまなざしで、私をじっと見ている。


「……じゃあ、もうちょっと、優しくしてね」


 スーの言うとおりだ。

 これからも旅は続く。

 ちょっとしたすれ違いや諍いで、苦しくて重い雰囲気のまま一緒に旅をするのは、すごく嫌だ。


「努力を約束する」


 分かった、と私は言った。


「この流れで言っても信じてもらえないのは、繕わない毛のしらみだが、今日の戦いは、スーが言っていたようにトリルの力で勝てた戦いだった。素晴らしかったぞ」


 身から出た錆、と同じ言い回しだろうか。そんな気がする。


「そう言えば、精霊に嫌われてないかな……トイ、トイ、トイ」


 戦いの中で魔法を使った。

 一応、確認しておこう。

 目を閉じて、指を組む。


陽精ソル。光で、周囲を、照らして。イン・ボッカ・アル・ルーポ』


 私が唱え終えて、目を開けると、ふわっと柔らかい光が私の手から広がって、その明るさはそのまま残った。

 ほっとした。


「よかった。やっぱり、あのコレペティタは、精霊にとっても守るべき命じゃなかったってことだ」


 スーのことだから、きっとあの姿についてもしっかり記録に残して、王都に戻ってから報告はするのだろう。

 でも、旅の中でまた同じような相手に出くわすかも知れない。

 カストラートの影も見えた。

 前途は、色々と不安な要素があるように思えた。


「もっと強くならなくっちゃなぁ……」


 アインにというわけではなく、私は独りごちた。


「なぜそう思う?」


 怪訝そうな顔で、アインが私を見下ろす。


「これからのことを考えたら、結構困難な旅になりそうだな、って。前にアインが言っていたような、臨機応変に武器を使い分ける技術も、身につけなくちゃいけないのかな」


 青い瞳が私を見る。


「今回なんて、敵が使った武器をわざわざ保管して置いて、やり返したわけでしょ。あれは、ケンタウロスの流儀なの?」


 私が聞くと、アインは急に上を向いて、頬を掻いた。

 おかしなことを聞いただろうか。

 でも、何かまずいことを言ってしまっていたとしても、さっきのことがあるからおあいこだろう。

 答えを待っていると、少し経って、ようやく私に言葉を紡いだ。


「お前がやられた分を、やり返そうと思っていただけだ」

「そ、そっか……」


 言ってすぐ目を逸らすアインから、私も視線を逸らした。

 この流れで、そういうこと、言うか?


「なんていうか、その……ありがと」


 下を向いたまま言ったせいで、アインに聞こえたのかどうか、分からない。

 仲間だから、なんだろうか。

 それとも、違う理由だろうか。

 違うとしたら、それって?

 そっとアインの顔を見上げても、表情はよく見えなかった。


「そういえば」

「そういえば」


 同時に言葉を発してしまい、お互いに目が合って、声が止まってしまった。

 怪我はなかったかと聞きたかったのだが、詰まった。

 沈黙のまま、また視線を外してしまう。


「お待たせしました」


 スーの声がして、私もアインも勢いよく通路を見た。

 広間に着いたスーが、目を大きくする。


「えっと……驚かせるつもりはなかったのですが」


 スーが大きくなった目のまま、私を見て、それからアインを見た。


「ちゃんと、伝えたんですか?」

「む……」


 二人が私を見る。

 私は苦笑して頷いた。


「うん、もう大丈夫。ありがとうね、スー」


 スーは安心したような表情で、こくりと頷いた。


「壁画は描き写せたの?」


 私が問うと、スーはふふ、と笑って手帳を開いて差し出した。

 そこには、この短時間で描いたとは思えないほど、かなり忠実な、ちいさな壁画があった。

 色こそないが、さっき部屋で見たものとそっくりだ。


「すごいね、スー……出来ないこと、ないの?」

「実は、絵についてはちょっと自信がありまして。宮廷画家に直接教わったことがあるんです」


 手帳を受け取りながら、スーがはにかむ。


「さあ、仲直りも済んだようですし、新たにオンブラが出てくる前にルーラードさんの所に帰りましょう」

作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

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それでは、また次のエピソードで。

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