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第30話 不安

 試されている、のだろうか。

 でも、正直に話してみるより他にない。


「正直に言うと、国を出るまでは、見当もつきませんでした。でも、今、私が個人的に考えているのは、昔話についてです」

「昔話?」

「はい。私達人族には、白い馬の王子様というお話が伝わっています。それは、古い時代にいた英雄サルヴァトーレが、悪い王様をやっつけたという話でした。ここに来るまでに、ミノタウロスの中にも同じ名前、同じ色の英雄の物語が伝わっていることを知りました。そこには何か意味があって、古い時代を辿ることで分かることがあるのではないか、と考えています」


 ふむ、と言ってパッサージョさんは頷いた。


「それは面白いね。確かに白い牛の英雄サルヴァトーレの話は誰もが知っている。では、君は?」


 促されて、今度はスーが口を開く。


「私は、モナルキーアの魔術師です。各地を回り、遺跡を巡り、新たな知識や魔法を得られたらと考えています」


 なるほど、とパッサージョさんは言う。


「そして君は聞くまでもないね」


 アインを見て、彼は続ける。


「ケンタウロスは旅をするものだが、君は違う。復讐のためだ。そして古代遺跡に潜伏している可能性もある以上、探索もする必要がある」


 なぜそれを、とアインが驚くと、パッサージョさんは優しく笑った。


「実はね、ルーラードから聞いていたんだよ。君が旅立ってから、私のところに来た。そしてきっと、今言ったようなことを始めるだろうとね」


 同行者がいるとは予想していなかったようだが、と笑って続けた。


「ルーラードさん、アインのことを気にかけてくれてたんだね」


 私がアインを見ると、まんざらでもない表情で笑っていた。


「なるほどなるほど、それでは、君達に遺跡のことを伝えると、何か面白いことがわかる可能性もあるのだな。アインくんのためにも、教えて然るべきだろう」


 パッサージョさんが笑う。


「ただ、アインくんの仇敵がそこにいる可能性は低いと思うよ。なにせ、とても人が生活していられるような場所ではないからね」


「危険な場所なのですか?」


 スーが問うと、パッサージョさんは大きく頷いた。


「簡単に言ってしまうと、オンブラの巣窟だ。チェーロの三人が、君たちの実力をたいへん高く評価してほめそやしていたけれど、長居することはおすすめしないでおくよ」


 私とスーの目が合う。

 弱気になったから、ではない。

 自分たちなら大丈夫、という確認だ。


「それで、その場所はどこなのだ?」

「モンテ山を越えた向こう側だ。アインくんがルーラードと過ごした小屋は山の真ん中くらいだったろう。そこから頂上を越えて、さらに向こう側にあると伝え聞いている。私も実際には訪れたことがないので、詳しい場所は分からないのだけれどね」


 アインが口元に手を当てて、思案している様子になった。

 きっと、思い当たる道を想起しているのだろう。

 その間に、私は別の話も確認してみることにした


「人族の野盗が潜んでいる場所に、心当たりはありませんか?」

「人族の野盗、か。そういえば、被害が出ているという話だったし、君たちも襲われたということだったな。潜伏できる場所か、そうだなぁ……」


 黒毛の首長は耳を掻いて、ふーむと唸る。


「モンテ山は広い山だが、人が踏み入れる道や開けた場所というのはそれほどないんだ。せいぜいがルーラードの小屋のあたりと、それこそ遺跡の周辺くらいのものだ」


 その言葉を聞いて、私は、あ、と声が出た。


「コレペティタがいるのは、遺跡だ」

「だが、パッサージョ殿が、遺跡はオンブラの巣窟だと言っていただろう」


 アインが口を挟む。


「彼女はオンブラを従えてた。何か、オンブラに言うことを聞かせる魔法か何かがあって、それを使って遺跡に住んでるってことは考えられない?」


 私の言葉に、スーが首をひねる。


「そんな魔法は聞いたことがありませんし、例えあったとしても、一般の市井であったはずの彼女にそれが扱えるとは思えませんが……しかし、彼女がオンブラのような者達を操っていたのも事実ですし、闇雲に山中を歩くよりはいいかもしれません」


 しゃべりながら、スーはこくこくと頷きを増やし、最後には私を見て大きく頷いてくれた。


「途中ルーラードの所に寄ることにもなるし、それでいくとしよう。だが、どう思い返してみても、山の向こう側に古い人工物を見た記憶はないのだが……」


 アインが言うと、パッサージョさんがにやりと笑った。


「それはそうだろうね。何せ、その存在自体を知っている者が少ないのだから、そうそう見つけられる場所にはないのだろう。見つけるまでに時間もかかるかもしれないから、街でしっかり準備をしておくといい。街の者には、君たちによくするよう伝えてあるから」


「ありがとうございます」


 私が感謝を告げると、彼はまた豪快に笑った。


「いやいや、むしろお礼を言いたいのはこっちのほうだよ。被害を増やしている厄介者を捕まえてくれることになるかもしれないのだし、そうでなくても、私も気になっていた古代遺跡のことを調べてくれるというんだから。必ず無事に戻って、話を聞かせておくれよ」


 私達はそれを約束し、館を出た。


「さて、では一日休みを挟んで、まずはルーラードさんの所に行くとしましょう。トリル様は一日安静にして、旅支度は私とアイン様がします」


 え、でも……と反論しようとすると、スーが待ってましたと明るい表情になって言葉を次ぐ。


「あ、そうですよね! 一人で宿にいるのは寂しいものです。買い出しは私がしてきますから、トリル様はアイン様とお二人で、宿でお休み下さい」


 目をらんらんと輝かせるスーに、私はため息をひとつ出して、口を開いた。


「スー、そういうのはいいから。慣れない街で女の子が一人歩き回るのはまずいでしょ。アインは何度か来たことがある街なんだし、ふたりで行ってきて。私は先に宿に戻って安静にしてるから」


 スーとアインが目を合わせる。


「トリル」


 アインの青い瞳で見つめられ、私はどきっとしてしまう。


「な、なに?」


 アインが口を開く。


「帰り道、分かるか?」

「分かるってば!」


 まったくもう、と鼻息を荒くして、私はさっさと宿へ歩き始めた。

 どうにも、あのふたりは私をからかっていい相手だと認識しているようだ。

 まあ、私は私でふたりをからかうときもあるから、お互い様か。

 それ見たことかと言ってやりたいくらい何事もなく宿に戻ってきた私は、部屋に戻ってベッドに座った。

 これからのことに、思いを巡らせる。

 ルーラードさんに会うのは、楽しみだ。

 今まで聞いたことがない話が聞けるかも知れない。

 きちんと聞き取れれば、だけど。


 コレペティタに会うのは、緊張する。

 たいした怪我ではなかったとはいえ、勝ち負けで言えば負けた戦いだった。

 実際に毒が塗られていたら、と思うと背中に冷たいものを感じる。

 母に持たされた薬の中に、解毒薬はない。

 スーやアインは持っているかも知れないが、毒には種類があると聞いたことがあるから、薬が必ず合うとも限らないのかも知れない。

 手投げ矢を警戒しながら、一度も手傷を負わないように戦う。

 そんなことが、私に出来るだろうか。

 スーなら、どう戦うんだろう。

 アインなら、どう戦うんだろう。

 でも、私は二刀流なんて出来ないし、色々な武器を状況によって使い分けることも出来ない。

 携行弩で不意の一発……は効果があるだろうから、それでひるませてあとは接近戦、かなぁ。

 他に自分に出来る戦い方は、何があるだろう。


「魔法……」


 独りごちて、私は鞄の中をまさぐって手帳を取り出した。

 命を傷つける魔法は精霊に嫌われるという話だったが、戦いの中で使うこと自体がすべて駄目なのだろうか。

 例えば強い光で目くらましをして、それから攻撃する、とか。

 いやいや、それは精霊からすると「私の光を悪用した」なんてことになるのかも。

 じゃあ、コレペティタの手投げ矢を見やすくするために、色を元に戻してもらう、とか。

 う~ん、色が黒じゃなくても避けられないような気もする。

 それに当たったら、精霊から見ると「この人、自分で魔法をかけたのに、その矢で自分の命を傷つけてるぞ」なんていうことになるのかな。


「難しいな、魔法……」


 無傷で、出来れば相手を拘束して終われるように無力化する。

 とても、私の力量では出来そうにない。

 ルーラードさんの小屋までどれくらいの旅程なのか分からないけれど、二人と相談しながら進むのがよさそうだ。

作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

ブックマーク登録や、下の☆☆☆☆☆欄での評価をしていただけると幸いです。


それでは、また次のエピソードで。

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