表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/150

第20話 川の人影

「それにしても、お三方とも実にお強いですな」


 開けた草原で昼食の用意をしながら、葦毛のミノタウロスが言う。

 チェーロを発ってから、五日が経った。

 道中で二度、私達を襲ってきたのはオンブラで、その内の一回は一つ目の巨人だった。

 サイクロプスと呼ばれる怪物との初めての遭遇に、私は全身のこわばりを感じたが、アインとスーは違った。

 こちらに気付いていないサイクロプスに向かってアインが駆けだし、スーも続いた。

 巨人、と言ってもアインと並ぶとそれほどでもないが、私が縦に二人積まれたほどの大きさの敵は、平原を歩いていて、何か獲物を探している様子だった。

 その背後から、疾走する勢いのまま両手に握った大剣を薙ぎ払い、アインはその片足を切断した。

 サイクロプスは直前に気付いて身構えたにも関わらず、アインの動きは俊敏に対応し、なんなくその戦力を削いだのだった。

 駆け抜ける白いケンタウロスに向かって叫びながら、巨人は膝をついて腕を伸ばした。

 その伸びた腕に飛びかかり、二本の剣で切り落としたのはスーだった。

 こうして四肢の内の半分を失ったサイクロプスは、なすすべもなく二人の追撃で影になった。

 確かにあの勇猛で迅速な戦いぶりを思い出せば、何度でも同じ話をしたくなるのも仕方ない。

 ただ、私としては自分が活躍していない話を、都合十回も繰り返されると、肩身の狭い思いがするというものだけれど。


「トリル様も、オークとの戦いでは商隊を見事にお守りしましたしね」


 スーのこの助け舟も何度目かになるし、この後のアインのからかいも同じだ。


「そうだな、あれだけ剣を振って一度も当てないというのはたいしたものだ」


 それでも必ずぐっとなってしまう自分が少し情けない。

 オークとの戦いでは、数が6で、アインが4体に囲まれ、スーが1体と対峙した。

 残りの一体が商隊の荷物を狙って背後から迫ってきたのだ。

 私は後方警戒を担っていたから対応は出来たが、守る戦いという感覚がよく分からず、とにかく牽制のために剣を振るい、敵を寄せ付けないようにした。

 そうしている内にスーが敵を下して駆けつけてくれ、舞うような動きで二刀を操り、オークの黒い体を裂き、戦いは終わった。


「べ、別に斬りたくないとか、命を奪いたくないとか、そういうわけじゃないんだからね。ちゃんとそういう心構えは出来ているつもりだから、もう」


「まぁ、あのオーク達は金属製の棒を持っていましたし、多少は手練れでしたから」


 スーが笑って言う。


「実際、アイン様も、これまでよりも時間がかかっていたではないですか」


 これまでにはなかったスーの反論に、アインがむっと口を尖らせた。


「俺は足を止めた状態で四方を囲まれたのだ。ケンタウロス本来の戦い方が出来ていれば、あんな連中は大剣のふた振りで終わっている。現にサイクロプスはそうだっただろう」


 憮然とした表情になったアインが私を見る。


「とにかく、守る戦いにおいて逡巡は法度だぞ」


 私は頷いた。

 覚えておこう、と思う。

 栗毛の兄弟が、みんなに杯を配り、大きな革の水筒から果実水を注いでいった。


「トリルさんも含めて、みなさんのおかげで順調に進んでいますよ。それにしても、以前よりも怪物達が活発なような気がして、どうにも気になりますな」


「野盗絡み以外でも、被害が増えたりはしているんですか?」


 私が言うと、葦毛さんが頷いた。


「我々ミノタウロスは、力も強いし、角もある。みなで戦えば、オークやサイクロプスに負けることはまずありません。しかし、ここ数年で、奴らが武器のようなものを持っていたり、数が増えていたりなどして、小さな村の作物が奪われたりすることは増えたと感じています」


 それを聞いて、私はアインと出会った経緯を思い出した。


「私も、人族の国の中で移動している最中にオーク達に襲われました。街道沿いでオンブラに襲われることなんて滅多になかったんですが、どこの国でも起きていることなのかも……」


 私の言葉が終わると、沈黙が流れた。

 なんとなく不安な、不穏な空気を全員が感じたのかも知れない。


「なんにせよ」


 沈黙を破ったのはスーだった。


「行程も半分を過ぎました。残り半分、気を抜かずに行けば無事にたどり着けるでしょう」


「そうですね。ただ、ここからが注意が必要です」


 そう言って、栗毛の兄が進む方向を指さした。


「ここから北に向かって二日ほどで、ネーヴェ川という大きな川を渡ります。そこから先が森になっているのですが、死角も多く、そこで襲撃を受けた者も多いのです」


「急いで進んだ方がいいってことか」


 私が呟くと、全員が頷いた。

 簡単な昼食を済ませ、片付けをしてまた私達は歩みを再開した。

 商隊の三人が荷物をほとんど持ってくれるのは忍びないが、戦闘のために私達は身軽である必要があるので、甘んじている。

 それから二日、なだらかな丘や平原を進み、ネーヴェ川とやらに私達はたどり着いた。

 幅の広い川で底は浅く、水は澄んでいて、子どもが水遊びをするには最高に見える川だった。


「ここの水は、モンテ山のある山脈の雪解け水が流れてくる支流なので、一年中冷たくて、飲むと最高にうまいんですよ」


 葦毛さんが笑う。


「それじゃあ、水筒の中身をいれかえたほうがいいかな」

「それはいいですね。私もトリル様に倣って……」

「待て」


 私とスーが肩鞄を下ろす前に、アインが鋭く言った。


「敵がいるぞ」


 緊張して、目を凝らす。

 しかし、見晴らしのいい川辺が広がっているだけで、怪物や野盗の姿はどこにも見当たらない。


「……どこ?」


 私が声を殺して言う。

 言いながら、商隊を囲む陣形を三人で組む。

 組みながら、私は肩鞄を地面に置く。


「分からん。だが、たてがみが逆立った。影の気配だ」


 アインが腰の両手剣をとり、構える。

 スーは双剣を、私は木目の剣を構える。

 でも、どこにも姿がない。

 アインが間違うはずはないし、冗談を言うはずはない。

 命に関わることを冗句にすることはない、と前に話していた。


「あ……」


 橋の方に構えていた私の目に入ったのは、橋を渡った向こう側の人影だった。

 目深にフードをかぶっているが、この距離からでもミノタウロスではないことは見て取れた。もちろん、ケンタウロスでもない。

 人族か、森人エルフか、水人フォークか……

 人族だとしたら、噂の野盗である可能性が高い。

 いや、カデンツァさんは「おかしな連中」という言い方をしていたから、人族でなくても危ないのか。


「助けて下さい!!」


 橋の向こうの人影が叫んだ。

 スーとアインが囲む陣形を解いて、私の横に並ぶ。

 私は隣のスーを見た。

 スーは緊張した面持ちで、小さく首を傾げる。

 私が一歩前に出ようとすると、アインが手で制す。


「待て。何か、あれから気配を感じるような気がする」

「あれって……あそこの人? でも、しゃべってるよ?」


 オンブラは言葉を持たない。

 分かりきっていることだ。


「そんなことは分かっている。だが……何か、おかしい」


 私達は橋の手前で武器を持ったまま止まっていた。

 すると、人影が、大きく息を吐いたように肩を動かした。

 そしてそのまま、両脇の木立に姿を消した。

 沈黙が流れる。


「……どうする?」


 私が小さく言葉を紡ぐと、アインが応える。


「進むしかあるまい。もとより、この道しかないのだろう?」


 アインが言うと、三人のミノタウロスは頷いた。


作者の成井です。今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。


「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

ブックマーク登録や、下の☆☆☆☆☆欄での評価をしていただけると幸いです。

それらの数が増えたり、感想やコメントを頂けると、書く力が湧いてきます。


それでは、また次のエピソードで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ