第一話
「モナリザ買ってよ」彼女が言った。
「ルーブルに展示されてるからあれは買えないよ」
「じゃあ複製品でいい」
また“転生預金”で俺に積立をさせようというのか。つい前世までかかったカートコバーンのギターが大体6億円、5回転生を繰り返してやっとだった。
モナリザの複製品なんてそもそもいくらするんだ。検索サイトで調べた。
およそ4億。うまくいけば2回か3回、しくじれば6回は転生すれば払えると言ったところだろうか。
この“転生預金”というシステム、これはシンプルに言えば、いやまずは死後の世界の説明からした方がわかりやすいだろう。
まず人は死ぬ。誰でも死ぬ。死だけは平等だ。そして死んだ後どこへ行くか。天国?地獄?輪廻転生?否、また自分だ。同じ自分を何度も繰り返す。
ニーチェの永劫回帰、とでも言えばわかりやすいか。まあちょっと違うんだけど。とにかく死んだらまた一から自分の人生リスタート。救いがないって?じゃあ何度も繰り返す人生なんだし何度でも繰り返したいって思える生き方しなよ。ごめん、話が逸れた。
話を戻してこの“転生預金”とは、その繰り返す俺の人生で、毎回死ぬ瞬間に持っていた金額が、預金されていくシステムだ。え?どこに預金されてるのかって?それは俺の人生の実権を握ってる彼女だ。彼女は彼女とは言いつつもそもそも人じゃない。神みたいな、人智を超えた存在だ。だけど神様の修行をサボってこうして俺の元で現世で怠け惚けてる。怠け者なもんで自分では働かずこうして駒になる俺を捕まえて、何回も何回も繰り返す人生で俺の貯めたお金を搾取して、自分の好きなように生きてるってわけだ。
とにかく、前世でやっと終わったと思っていた転生預金が、今世から次何世代かに渡ってまた始まった。
え?これじゃ奴隷じゃないかって?ちょっと疑問が多いな、まあ仕方ない理解できないだろうし俺だって何も知らなかったらそう思うだろう。まず俺は彼女と契約をした。人智を超えた存在である彼女と一生涯を共にすることができる。彼女だって人間ではないがまだ修行中の身だから、完璧じゃない。俺と彼女は二人三脚でこの世界を生きて、成長していくパートナーなわけ。そう言った関係で、俺は彼女のほしい物リストを買うためのATM兼生涯のパートナーとして、現世を彷徨うだけのほかの人間とは違った使命を背負っているわけだ。
そんなわけで、俺は今世でもある程度貯金を持ったまま死んで転生預金になるべく多く預けて死ぬって言う目標ができたわけだ。