『第3回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』シリーズ
恋の謎解き!探偵は助手の想いに気付かない?
天沢探偵の助手を務め、もう3年が経つ。
今では彼が考えていることは、手に取るように分かる。
完璧な推理を除いて。
助手に任命されたのは高1の夏。
殺人現場に居合わせ、偶然、彼のひらめきのカギとなる発言をしたことから始まった。
それ以来、彼はどの現場にもわたしを同行させる。
しかし、わたしは何の推理力も持ち合わせていない。
彼にとってわたしは、謎解きのゲン担ぎ、もしくはひらめきの種。そんなところだろうか。
探偵は皆、偏屈で堅物だと思っていた。
しかし、彼は人間味があり、いつもわたしのことを気にかけてくれている。
スーツにネクタイ。行動は無駄がなくスマート。
そして何より、顔が良すぎる。
「天沢探偵、本日の依頼です」
「扉は内側から鍵がかけられていた。窓も閉まっており、外部から誰かが侵入した形跡はない。誰かと争った形跡もない。この書斎は完全な密室だ」
「不可解なのは、本ですね」
本棚からはバラバラに5冊の本が飛び出し、床に散乱していた。
彼は腰掛けると、散らばっていた本に目を通す。
組まれた細くて長い足。
推理をする際、顎に添えられる手。
現場の痕跡を見つめる眼差し。
ああ、良き!
ずっと拝んでいたい。
わたしったら、不謹慎よ! こんな場所で!
彼は事件にしか興味がない。
どんな謎でも解けるのに、わたしの想いにはちっとも気付きやしない。
「謎が解けた」
彼は、落ち着いた低音ボイスでそう呟いた。
そして、ため息を一つ。
「この書斎で、殺人は起きていない」
「自殺ですか?」
「いや、それも違う」
彼は突然、わたしに近寄り耳元で囁いた。
「まったく君は、僕に何を試しているんだい?」
そう。この書斎で殺人など起きていない。
それっぽい雰囲気に、しょうもないトリックを並べただけだ。
いや、トリックとも呼べないだろう。
これは、わたしがつくった密室。
これまで、必死に想いを飲み込んできた。
見破られてはいけない。
けど、見破ってほしい気もする。
「君は僕に解けない謎があるとでも思っていたのかい?」
彼は、曇った窓ガラスに『アイシテル』と文字を書き、わたしの前に5冊の本を並べた。
タイトルの頭文字を並べると答えは出る。
「実に幼稚だ。何年僕の助手をやってる?」
「それは……」
「僕が事件以外に興味がないとでも思ったかい? ったく、こっちの気も知らないで。大人になるまで我慢してやってたのに」
「え!?」
「ここは密室だ。君も謎解きしてみるかい?」
彼はそう言うとネクタイを緩めた。