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母と父と?

「ああ、カマセ。無事だったのね」


 やってきたのは20代くらいの女だった。きらびやかな服の一目見て位の高い女だと分かった。

 カマセの母親にしては若いか? いやこの世界は結婚するの早そうだしこんなもんか?

 そんなことを考えてたらぎゅっと抱きしめられた。


「奥方様、カマセ様は頭をうっておられるかもしれません。そんな風に抱きしめては」


 女と一緒にやってきた騎士が注意する。やはりカマセの母親であるらしい。

 あんまり育児をするような恰好には見えないが、貴族は育児なんかしないとかそういうことだろうか?

 そんなことを考えて何気なく騎士の顔を見てふいた。


「ぶっ!? 」


 その顔はカマセそっくりだったからだ。ゲームの10数年後主人公の村を焼く大人になったカマセの顔に。カミュは兄弟を従者というか奴隷にしていたしこの騎士も母親の兄弟なのかもしれない。ていうかそうであってほしい。

 そうでなかった場合こんなに似ているのだ、こいつはカマセの本当の父親ということになる。つまり俺はトンスコンの本当の子供ではないことになる。そんな不貞がばれたらトンスコンに殺されるのでは?

 正史では普通に生き残ってあと取り息子を自称していたが、だからといって無事を過信するわけにはいかない。いきなりメイドの頸をはねるようなトンスコンのことだ。殺されても不思議ではない。


 母親はそんな俺の様子には全く気付いた風はなく続ける。


「可愛そうなカマセ。貴方をこんな目に合わせた悪いメイドは全員処刑するから安心して」


 やけに物騒なことを言い出す。いやいや安心できない。できればむしろ助けてあげてほしいのだが。


 隣の騎士を見るが涼しい顔をしている。メイドの命ぐらい何とも思っていないようだ。


 こいつら涼しい顔してるけどもしカマセがこいつらの子供だったら殺されるのはこいつらの方ではないだろうか。

 因果応報ってあるんだよ? 角くん殺そうとしたら車にはねられた俺が言うんだから間違いないよ?

 ていうかカマセって絶対お前らの子供だよな。

 今はまだ分からないかもしれないが大人になったら絶対ばれる。これだけ似てたら今の段階でも相当面影有るはずだ。なんでばれてないのかのほうが不思議でならない。


 いろいろ突っ込みたいことはあったが今はメイドの命を心配してやるべきだろう。ただでさえ俺が原因で殺されるかもしれないのに、母親が妙な告げ口をしたら本当に俺のせいで殺されることになりかねない。


「お母様、僕は大丈夫です。それより父上がメイドの頸をはねたものですからびっくりしてしまったのです。メイドたちは自分のために尽くしてくれました。なんとか助けてやれないでしょうか? 」


 できるだけ丁寧に提案してみる。

 考えてみれば異世界に来て初めて喋る長文だ。ちゃんと喋れているだろうか?


「…」


 ところが母親はきょとんと俺の顔を見るばかりだった。


 あれ? 何かまずいことを言っただろうか?

 無難なことしか言ってないはずだ。だとしたら言葉のチョイスを間違えたのか?


 というか今更ながら俺はいったい今何語を話しているのだろう。

 今まで言葉を聞き取れていたから当然喋れるものと思っていたが、聞き取れるからと言って喋れるとも限らないのではないだろうか? なんだか不安になってくる。でもさっきはカミュ達ともちゃんと話できてたし大丈夫だよな?


「可愛そうなカマセ。人が死ぬのを見て動揺しているのね。でも安心して。メイド達はあなたを傷つけた悪いものたちなの。切り捨てた父様は悪くはないわ」


 しかし心配は杞憂だったらしい。一応言葉は伝わっている。ただ言葉の意味が伝わっているとはいいがたいみたいだが。


「あなたはこの国の世継ぎなのよ。メイドなんて取るに足らないものの命を気にするべきではないわ。彼女たちは私たち貴族に奉仕するために生まれてきた存在だもの。ミスをしたら殺されるのが当たり前だわ。そんなことより、父様の前でそんなことを言って機嫌を損ねさせては駄目よ」


 言葉自体は伝わっているのだが、なんというか世界観のギャップを感じる。この国の倫理観は現代のそれではないのはわかっていたがそう来ましたか。本当に悪の帝国って感じじゃないか? 


「で、でも同じ人間ですよ?」


 言ってしまってしまったと思う。母の顔がみるみる赤くなっていく。


「私たち貴族と平民が同じですって!? 一体あなたは何を言っているの? ええそうね分かるわ。あのメイド達があなたに吹き込んだのね。なんということなの。なんとしてでも処刑してもらわないと! 」


 ヒートアップしていく。不味い。非常にまずい。


「申し訳ありません。母上。そうですね。少し動揺していました。たかがメイドが一人しんだくらいで。メイド達も貴族としての自覚を持つようにしかっていましたよ、あはははは」


「メイドが貴方を叱ったですって?平民ごときが次の領主である貴方を。やはり殺さなくてはなんとしてでも殺さなくては! 」


 なんとか落ち着かせようとするが火に油を注ぐ結果になっていしまう。

 また激高し始める母。ああもうめんどくさい。


「母上僕はとても優しいのです。優しいっからこんなこと言っているのです。本気ではありません。本気ではありませんから」


 自分で自分を優しいとか、言っていて恥ずかしい。優しいのは人から言われるものであって自分から言うものではない。一体何を弁明しているのだ俺は…


 メイドというか平民に対する扱いが余りにも酷すぎる。腑に落ちないものを感じるがこの世界の価値観がそうであるのなら無理にはむかわないほうがいいかもしれない。一旦引くことにする。

 俺は古い価値観の頭の固い厳格な父によって育てられた。こういう聞き分けのない相手との会話には慣れている。


 一旦引いたからと言ってメイドを救うのを諦めたわけではない。それならそうとして相手の納得する理由を提示したうえで意見を通さなくてはならない。

 なんだかいつの間にかメイド達を助ける気になっている。まぁ俺が元に戻るためには10年くらいかかりそうだし、その間にちょっと人助けするくらい問題ないだろう。もう主人公の母親は殺されてしまったわけだし、正史に干渉することにはならないだろう。

 主人公の母親、メイドの遺体と目があった時の事を思い出す。なんだかとても後ろめたい。メイド達を助けることで少しだけでもこの罪の意識が解消されるのなら、いや違うな。俺のせいで殺されるかもしれないのだ。助けるのは当然じゃないか?


 メイドは処刑にすると息巻いている母を横目になんだかとっても手遅れのような気もするがここはポジティブに考えよう。

 この程度で済んでよかったと。きっと挽回できる。できるはず。できるよね?


「くれぐれもお父様を怒らせては駄目よ」


 ようやく母親が落ち着いてきた。


「わかりましたところで」


 母親を説得してメイドを助けるには情報がいる。下手に主張してさっきのように逆に怒らせてしまっては元も子もない。せっかくなので情報を収集することにした。


「頭を打ったせいなのかちょっと記憶があやふやなことがあるのです。僕は何か変なことを言ってはいませんか? 例えば口調とか?」


 俺は人の顔を見るのが苦手だが、感情の変化を見過ごすまいとなんとか母親の顔を見るように努力する。

 人の命がかかっているのだ。ミスは許されない。

 俺は自分の家ではちゃんと目を見て話すことができる。ここは俺の家だと思え。俺がカマセと同化しているならカマセの家であるここは俺の家も同然ではないか? 頑張れがんばるのだ俺。


「そうね。話し方が少しおかしいわ。でもその方が丁寧で貴族らしいと思うわ」


 小首をかしげる母。

 本当のカマセはもっと子供っぽい喋り方みたいだ。まぁ当然か。


「お母様は血がつながった本当のお母様ですか?」


「当たり前でしょう」


「でも他の兄弟は別のお母様なのでしょう? 」


「それは…いったい誰に聞いたの? 」


 怪訝な顔をする母。やっぱりメイドのせいとか言い出しそうなので先回りして答える。


「メイドたちが言っておりました。他の子供たちは本当のお母様の子供ではない。だから跡取りとしてふさわしいのは僕ただ一人だとね」


「そう、それは当然ね」


 ちょっと機嫌がよくなる母。ちょろいな。この調子でカマセがいかに時期領主にふさわしくほかの兄弟たちはふさわしくないかをメイドたちが言っていたことにしてメイドたちの好感度アップを謀る。

 母親が他の兄弟達についても認めている可能性もあったが、そんなことは全くなかった。むしろカマセ以外の兄弟は死んでしまえばいいというレベルで嫌っていた。


 う~ん…これってやっぱり他の兄弟殺してるのが母親達って可能性があるのでは?

 母親は兄弟に対して全く敬意を払っていない。邪魔ものとしか思っていないようだ。なんだか少し心配になってくる。

 可能性としてはそれが一番高い。だってゲームでは最終的に生き残って時期領主の座についているのは(たぶん)カマセだからだ。カマセサイドの後見人が首謀者である可能性が一番高い。


 今回はカマセが狙われた…とほかの兄弟は思っているみたいだが、たぶん勘違いで勝手にこけただけだしな。


 兎も角俺の舌先三寸でちょろい母親のメイドの評価は鰻登りになった。

 コミュ障の俺の舌先三寸で踊らされる母親はやばいんじゃないかという気もするが、気難しい親に対する対応はお手の物だ。同年代と付き合うのは苦手だが先生への受けがいいのもここらへんからきているのかもしれない。まぁざっとこんなもんよ。


「領主は長男がひき継ぐのではないですか? 僕は本当に次の領主になれるのでしょうか? 」


「あなたまでそんなことを言うの? なにか吹き込まれたの・・・そうだわ。あのメイド達ね。あなたに変なことを吹き込んで、階段から落としたのもわざとなんじゃ」


 いい気になってちょっと油断してしまった。

 やばい。また始まったよ。いい加減にしてくれ。


「違います母上」


「いいえきっとそうだわ。何も知らないカマセをたぶらかして。絶対に処刑してもらわなくては」


「逆です逆です母上。メイドはカミュのできの悪さを教えてくれていたのです。知ってますか? カミュって腹違いの兄弟を奴隷にしているのです」


 カミュとユーリには悪いがここは犠牲になってもらおう。


「しかも奴隷は性奴隷なのだとか。兄弟を奴隷にして関係を強いる下衆が次の領主にふさわしいわけがありません」


 でも言ってしまってから少し疑問に思う。確かに俺の世界ではそれはとんでもない犯罪行為だが、この世界では違うかもしれない。特にトンスコンなんて実の子供に手を出していた可能性もある。

 この世界ではそこまで禁忌ではないのかもしれない。ならばそんなに下衆ではないということになってしまうかもしれない。


「それは本当なの…あの二人まさかそんな関係だったなんて。なんて汚らわしい」


 けれど問題なかったようだ。

 この世界でも近親でそういうことは基本的には禁忌であるらしい。おかしいのはトンスコン達の方だった。よかったそこはまともで。

 でも子供の俺が性奴隷とか口走ってもノーリアクションなのはどうかと思いますよ?


 カミュは病弱であることを除けば時期領主として領主にふさわしい人物として認知されているらしく、そんなカミュに欠点があると分かり母親は上機嫌となった。それからしばらく俺は適当に相づちをうって引き続き情報を聞き出した。


 せっかく心配してきてくれたのにすまないカミュ。

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