背徳の子供達
「居ました。カミュ様。」
布団をとっぱらったのは騎士の方だった。凛々しい顔立ちで短な髪…のように見えたが後ろでくくっている。体のラインがしっかり見える、いわゆるおっぱいアーマーを着ていた。見事な胸に、思わず見とれてしまった。明らかに戦うのに不向きだが、ゲームにそんな野暮なことは突っ込んではいけない。なにか魔法的なもので防御力が上がっているのだ。たぶん。
この鎧には見覚えがある。確かヴァルキリーアーマーとかいう安易なネーミングの魔道具だったはずだ。
魔道具ヴァルキリーアーマー。レアリティは☆3。
全てのキャラは最大2回まで昇級できる。☆1のキャラは☆3まで昇級できる。通常これで打ち止めだが、☆3の魔道具と契約することによってさらに昇級することが可能となる。魔道具の昇級の上限は1~3でまちまちだが通常は1段階。ヴァルキリーアーマーも1段階だけ。つまりヴァルキリーアーマーと契約すれば☆3よりさらに1段階上野☆4まで昇級できるということだった。
☆4まで昇級できれば☆4のガチャキャラ、300年前の戦士を転生させることが可能となる。そのときの鎧はヴァルキリーアーマー固定になってしまうが☆4のキャラは魔道具を2つまで装備できるので魔道具はもう一つ所有できる。
各レアリティで装備できる魔道具は☆3で1つ星4で2つ☆5で3つと1つずつ増えていく。でもこれは実際に魔道具を装備できる数とは限らず、魔道具を装備できるコスト数となる。魔道具の中には複数のコストを使わないと装備できない魔道具もある。☆4はコスト1の魔道具なら2つ装備できるがコスト2の魔道具は1つしか装備できないといった具合である。
これを使えば☆1のキャラを☆8に昇級できる、けど基本的にできない。紛らわしい言い回しで悪いが魔道具次第では出来るのだがそういう間道具がほぼないのでできない。
☆3のキャラに魔道具と契約させて☆4にしたとする。☆4になると魔道具の装備数が増えるので星4の魔道具と契約させれば☆5まで昇級できる。これを繰り返せば☆8まで簡単に昇級できるはずなのだが、高レアリティの魔道具はコスト数が多いので1つの空コストでは装備できないのだ。一応例外も存在してはいるが…主人公は☆1から☆8まで昇級する関係上主人公の専用装備では低コストで上位レアの魔道具も存在している。これと同じように一部の主要キャラには特殊な専用魔道具があるようではあったが、普通のモブキャラではそのようなことは不可能だった。
「いくらなんでも乱暴すぎますよ? ユーリ」
たしなめる美女…ではない。男だ。いくら女に見えても骨格は男のものだし、この声は明らかな男だった。女騎士とは対照的に髪を腰まで垂らしているから紛らわしい。現実ではお目にかからないがアニメやゲームだとよくいる美形キャラの髪型だ。
「申し訳ありません。余り長居はしたくなかったものですから」
かしずく女騎士。カミュという男女のほうが主人で、彼に使えているのがユーリと言う力関係みたいだ。
エデンプロジェクトは最初の方だけプレイしたし攻略サイトも見たがこんなキャラには見覚えがない。最もガチャキャラは300年前の戦士だから現代のキャラはあんまり興味なかったけど。
「貴方たちは? 」
一応俺はトンスコン男爵のあと取り息子。ここでは2番目に偉いはず。
そんな俺から布団をひっぺがえすと言う不敬を払うなんてこいつらは何者なのか? 少し警戒する。
「カマセが階段から落ちて怪我をしたと聞きまして。心配になってやってきたので…ごふぅ」
カミュは盛大に血を吐いた。
「ゲホゲホ…大丈夫ですか? 」
いや、あんたが大丈夫か?
ユーリは大した反応もせずにせっせとカミュの血を拭いている。カミュが血を吐くのはそう珍しいことではないのかもしれない。
リアルにこんな反応されたらドン引きするところだがここはゲームの世界だ。そういうキャラ付けなんだろうと冷静に考える。
「実は階段から落ちたときに記憶を失ってしまいまして」
こいつらは俺を知ってるみたいだが俺は知らない。ベタだがそういうことにしといた方が都合が良いだろう。
「記憶を…なんて痛ましゲホゲホゲホ」
感極まって興奮したらしい、また盛大に血を吐くカミュ。
お前の方が痛ましいよ。血を吐いていることよりその血を吐くというキャラ付けがな。
この分だと語尾にニャとかついたり、変な関西弁をしゃべるキャラもそのうち出てきそうだ。イライラせずに会話できるか自信がない。
ユーリはどこからかモップを取り出して血を拭いている。突っ込みまちか? 突っ込まないぞ。
「なので僕は貴方がたが誰かもよくわからないのです」
「そうなんですね。だったらまず自己紹介からの方が良いでしょう。私はカミュ。カマセの兄にあたります」
「は? 」
意表を突かれた。カマセが次の世継ぎのはずでは? お兄さんだとこいつの方が世継ぎになる可能性が高いんじゃないか?
でもよく考えたらカミュは病弱みたいだ。カマセが成人する前に亡くなるということなのかもしれない。なんか頭が悪そうだったカマセのことだから第一王子じゃないのに第一王子って思いこんでた可能性もなくはないが。
軽く混乱したがすぐに思考を立て直す。しかし
「そしてこちらはユーリ。カマセの姉に当たります」
ええ…、姉? 騎士の格好なんかしてるからてっきり主従関係かと思ったらまさかの兄弟なのか?
「カミュ様。お戯れを。私はただのカミュ様の奴隷です? 」
「でも兄弟であることは間違いありません」
???
兄妹を奴隷にしている? カミュも否定しない。
せっかく混乱から立ち直ったのにまた混乱させるようなことを言ってくる。
「カマセ様が混乱しておられるようです」
「ああ、ユーリと私は、いやカマセもだが、みんな腹違いの兄弟なのです。僕達には腹違いの兄弟が100人以上い…ごふぅ」
思い出したように血を吐くカミュ。もういいよめんどくさいよそのキャラ付け。
「私の方から説明しましょう」
さすがに3度の吐血は体に響いたのか青ざめてぐったりしてるカミュ。変わってユーリが説明し始める。
いいのかカミュほっといて。
「トンスコンは性欲の権化なのです。正妻側室問わずメイドから町娘まで女と見たらとっかえひっかえに犯すものですから多い時には兄弟の数は100を超えていました。私もそんな中の1人です。ですがカミュ様は最初の妻の第一子。カマセ様は現在の妻イセリア様の一人息子です。私とは立場が違います」
なるほど。同じトンスコンの子供でも序列があるということか。カマセが現在の妻の子供と言うならカマセが1番世継ぎに近いのかもしれない。
でも兄弟で奴隷なのは何故なのか?
なんか説明を終えた感を出してカミュの世話を始めたユーリだが、それが一番気になる。異母兄弟が多いのは分かったけれどそれと彼女が奴隷なのとは何の関係もないはずだ。この世界だと兄弟を奴隷にしないといけないという決まりでもあるのか? 少なくとも俺が知っている限りではそんな話はなかったはずだけど?
なんとなく2人の様子を眺めているとユーリは何かの薬を口に含むとカミュに飲ませる。
口移しで。
?
お前ら兄弟なんだよな? それはありなのか? むしろ兄弟だからありなのか? やましい感情をわかないから?
「ふぅ」
でもユーリはなんか色っぽい声を出している。やましい感情は…ないよな?
「トンスコンは女と見たらとっかえひっかえと言いましたね? 」
俺の事なんか忘れて二人の世界に入ったのかと思いきや、ちゃんと覚えていたらしい。ふいに説明を再開するユーリ。
「それは兄弟であっても、母親であっても、我が子であっても変わりません」
近親婚か。現実の世界でも昔はあったらしいが、仮想の中世世界らしくこの世界にもそういうものがある設定なのだろう。じゃあやっぱりさっきの口移しもあれか? ユーリは腹違いとはいえ兄妹によからぬ思いを抱いているということか。なかなか攻めた設定かもしれない。
…て、ちょっと待てよ。トンスコンは性欲の権化で女と見たらとっかえひっかえで、肉親であってもお構いなし? この流れはもしかして
なんだかとっても嫌な予感がする。
「私がトンスコンの情婦となっていたのでカミュ様は私を自身の奴隷とされたのです。奴隷ならカミュ様の所有物となりますから容易には手は出せませんから」
ああやっぱりか。
しかも未遂じゃなくて本当の本当に? 父子で? それってやばいんじゃ? 虐待なんじゃ?
この国で一番偉いのはトンスコンだから誰も逆らえないってことだろか? ちょっと攻め過ぎだと思うぞこのゲーム。
「私がこんな露出の多い鎧を着ているのも復讐なのです。あえてトンスコンを挑発させて、でも今はカミュ様の所有物。もう2度と私を抱くことはできない」
お、重い…なにそのダークな事情は。この世界は明るく楽しいスマホゲームではないのか。そんな設定暗すぎてドラマでも小説でもNGくらうわ。
「嘘ですが」
て、嘘なんかい。
「これはカミュ様の趣味です」
「ちっ、違います。ユーリはカマセに一体何を吹き込んでるんですか?」
いつの間にか目を覚ましたユーリが必死で弁明する。
いったいどこまで本気だったのだろう?
ユーリは目を覚ましたカミュとシュールな漫才みたいなやり取りをしている。
なんだかんだで今は前向きに生きているようだ。背景が余りにも重いので良かったのかどうか分からないが、どういう事情があったとしてもこれからもユーリの人生は続いていく。辛い過去を克服できているならそれに越したことはない。
俺としてはトンスコンに虐待を受けたあたりからまるっと全部冗談だとありがたいのだが、怖くて聞けなかった。
やばいな異世界。倫理観がやばい。人殺そうとしてた俺が言えた義理じゃないかもしれないが。
「それでは私達はこれで失礼させて頂きます。くれぐれも体を大切にしてください…ゲフゲフッ」
お前がな。
いろいろと衝撃的な二人だったがもう帰るらしい。いったい何をしに来たのか。
まぁ階段から落ちた弟を心配しての事なんだろうけどね。すぐ来ると言って全くくる気配のない母親よりはよほどカマセの事を思っているのかもしれない。
ユーリの方は何考えているのか分からなかったが、カミュの方は見るからに人が好さそうだった。
そういえばなんでユーリがおっぱいアーマーをつけているのかは明かされなかった。どうでもいいといえばどうでもいいけど一応魔道具だし気になるは気になる。しかもこれは俺がリセマラのときついでにゲットしたものだ。もしかするとあの時のリセマラしたものがこの世界でゲットできるかもしれない。それなら今後の参考に手に入れた経緯などを知っておきたかった。
まぁゲットできたとしてもそれは主人公であって俺ではない気もするけれども。
ユーリはモブキャラだろうか? カミュは10年後に死んでいそうだが、ユーリは生きている可能性がある。もしかしたら攻略を進めるとでてくるネームドキャラなのかもしれない。ただ言っちゃ悪いけどバルキリーアーマー程度の魔道具を装備しているようではその可能性は低いかなとも思う。
基本的にネームドキャラは☆2か☆3のレアリティを持っている。ということは最大☆4か☆5まで昇級可能だ。わざわざヴァルキリーアーマーと契約する必要もない。それよりも俺のリセマラしたアイテムだからバルキリーアーマーを所持している可能性の方が高いのではないかと思う。この世界が俺のやっていたエデンプロジェクトのシナリオの世界であるなら俺が引き当てたリセマラの内訳もこの世界に影響を及ぼしているの可能性がある。そうなると引き当てた他のキャラと魔道具の所在が気になるところだ。キャラは300年前の戦士なので直接かかわってくることはないかもしれないが魔道具の方は是非とも確保しておきたい。リセマラの内訳は☆3キャラ3人。☆5キャラ1人。☆6キャラ2人。☆3武器2つ。星4武器1つ☆6武器1つ。最高レアリティの☆6の魔道具もあるし。
勿論リセマラとは関係なくただの偶然と言う可能性もあるが。
「ところで、階段から落ちたとき、誰かに突きとばされたということはありませんでしたか? 」
帰り際、ふいにカミュが真顔になって聞く。
「? それはないんじゃ」
ないか。といいかけてそういえばそれは分からないということに気が付いた。俺の意識が宿ったのは階段から転げ落ちてる時だし。でもカマセのことだから勝手に転げ落ちてそうだ。雑魚キャラだしな。
「そうですか。ないなら良いのです。今の僕達はユーリを含めてもたった5人の兄弟ですから。くれぐれも体には気を付けて下さい」
そう言い残すとカミュはカマセの部屋を後にした。
なかなか有意義な時間だったと思う。いろんな情報を聞くことができた。
ゲームでのカマセに兄弟はいないように見えたが10数年前の現在には100人以上の兄弟が、うん? 5人? 5人しかいない。正当な後継者は5人という意味か? いや違う。ユーリも含むと言っていた。ユーリは女でしかも奴隷だ。後継者の権利なんてあるとは思えない。なら今なぜ5人しかいない?
「カミュ様はご兄弟の事を悪く言うようなことはありませんが、くれぐれもお気を付けください。カマセ様」
最後にユーリが意味ありげにつぶやいて部屋を出ていった。
100人いたトンスコンの子供たちが今は5人しかいない。
カミュ達はカマセが誰かに階段から突き飛ばされなかったか聞いていた。ということは他の子供たちは殺されたということだろうか? 100人も子供たちが殺されたら大問題じゃないのか? だからトンスコンは主人公の母親のメイドを即座に始末したのだろうか?
ゲームではチュートリアルですぐ終わるこの国になにやら妙な陰謀が隠されてる可能性を感じる。
俺自身ゲームは最初しかやってないから実は後半で重要なイベントが起きるはずだったのかもしれないけど。
仮に俺の知らない陰謀が隠されているとなるとあまり目立つのは良く無いかもしれない。
カマセは10数年後に主人公に殺されるが逆に言えばそれまでは死なないということでもある。目立たなければ生き残るのは確定的だ。俺の目的は生き残ることじゃなくて元の世界に戻ることだから必要とあれば目立った行動をしなくてはならないけれど。
どうしたものかと悩んでいるとドタドタと慌ただしい足音が聞こえてくる。
また別の来訪者のようだ。
今度こそカマセの母親だろうか? でもカマセの母親とかトンスコンの妻とかゲームでは全く言及されていなかった。ゲーム開始では生きてるのかすら謎だ。会ったとしてもわからないだろう。