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楽園計画

 エデンプロジェクト。それがそのスマホRPGの名前だった。


 スマホRPGは通常のゲーム機のRPGようにキャラクターを操作してダンジョンや町の中を操作するわけではない。会話して情報を集めたり宝箱を開けてアイテムを入手するわけでもではない。偏見を持って言ってしまえばガチャでキャラを集めるのがメインであり、RPGとは名ばかりのノベルゲームのようなものだ。中にはそれが好きという人もいるので悪しざまに言う気もないけど。


 俺だってそれはそれで否定するわけではない。ガチャでキャラを獲得していくとどうしてもキャラクターが増えすぎてしまい使いきれないし、それら全て…とまではいかないけれど、できるだけ多くのキャラを使えるようにするための最適な姿と言えるのではないだろうか。ただ俺としては普通にガチャで回して得たキャラで普通のRPG的行為をしてみたいという気持ちもあった。そういうユーザーは俺だけではなかったらしく、それを実現したのがエデンプロジェクトだった。


 エデンプロジェクトはガチャでゲットしたキャラで実際にマップ上を冒険することができるのがうりのゲームだった。ガチャでゲットしたキャラを実際にファミコンで操作できるような感じだ。スイッチでもプレステでもなくwiiでもスーファミですらなくファミコンで。


 まぁつまり自由度の弊害としていろいろとお粗末だったのだが、それはそれで味があるということで一部のファンには人気になっていた。


 俺はグラフィックみた瞬間やる気が失せたけどね。事前登録やキャラクターの顔枠のグラフィックは普通だったからそんなゲームだと思わなかったのもある。期待していた分だけ落胆も大きくゲームのアプリをダウンロードする気にもなれなかった。 


 ただネットの評判はそこそこ好評だった。懸案のガチャで回して得た過剰なキャラも使い道があるらしい。グラフィックもRPGパートは粗雑なのは相変わらずだったが会話シーンは普通によくできたアニメーションが使われていた。そんなわけで昨日、かねてから気になっていたそれをダウンロードしてみたらはまってしまったというわけだ。そのおかげ徹夜して注意力が散漫になって車にひかれたわけだが。


・・・


 兵士たちによって連れていかれたカマセの自室はなかなか良い部屋だった。

 時代が時代ならば、だけど。

 現代人との視点では家賃5万のアパートの方がよっぽど生活しやすい場所だと思う。さすがに大きさは比べるべくもないが、地面が石というのがいただけない。一応絨毯が敷き詰められてはいるが転んだら絶対怪我をする。せめて床だけでも木を使った使った方が良いと思う。

 

 すぐに母親ががやってくるとのことだが今のところ来る気配はない。

 一人でいると否が応でも首をはねられたメイドのことを思い出す。

 人を殺そうと行動していたのに、いざ殺されたのを見たらショックを受けるとは情けない話だ。 

 人が死ぬのを見るのは初めてだった。

 自らの手で角くんを殺そうと行動していたけれど、実際に死というものを想像できていたわけではなかった。殺す手段も直接自分の手を汚す方法ではなかった。それが、よりにもよって首をはねられるところを見せつけられるとは…

 他のメイド達はどうなってしまうのだろう? 首をはねられたメイド同様殺されるのだろうか? 


 ゲームとはいえ、エデンプロジェクトでは基本的に蘇生術は存在しない。死んだキャラはロストする。


 ガチャキャラがロストするのは課金ゲームにとって死活問題であるはずだが訓練されたファンはそのことを受け入れていた。

 ファンが言うにはガチャを回していらないキャラを引いても有効活用できる素敵な仕様とのことである。本命キャラは安全に運用して、いらないキャラで冒険を進める。ロストしても大丈夫ないらないキャラをいかにうまく運用するかがゲームの鍵となる。いやそれやってて楽しいのか? と突っ込みたくなるがそれはそれで癖になるらしい。正気だろうか?


 基本的にはということで課金すれば一回はロストしない身代わりのアイテムを手に入れるられたり、転生システムを使ってれば転生体が死ぬだけでガチャキャラはロストしなかったり、いろいろ抜け道もあるらしい。


 だが、少なくとも今回首をはねられたメイドは助からないだろう。おそらく彼女が主人公の母親なので彼女の死がシナリオ上重要な意味を持つ。正史通りに話は進んでいると思われる。もっとも俺は主人公の村を焼くなんて行動をとるつもりはないが。

 その場合主人公はどういう道を歩むのだろう? トンスコンが母を殺したことを知らずに何事も起こらないのか、結局正史通りに収束するのか。ナビ子がいろいろ暗躍してたから正史通りに進みそうではあるが。


 ああいかんいかん、いらんことを考えている。


 俺はベッドで布団に包まって視界を塞ぐ。目を開けてるとこの世界のものが目に入り雑念がわいて考えに集中できない。

 ベッドは元いた世界とそん色はなかった。平民が使うものなら別だが上流階級のベッドなら現代でも通用する質の良いものが使われているということだろうか。

 確かにショッキングな出来事だったが、俺にはやらなくてはならないことがある。

 勿論元の世界に戻ることだ。それ以外にない。

 メイド達は心配だったが所詮ゲームの登場人物だ。そんなことより現実が大切だ。現実の俺の家族に迷惑がかからないように、元の世界に戻る方法を考えなくてはならない。


 この世界がスマホゲームエデンプロジェクトの中か、もしくはそれに即した異世界であるということはほぼ疑いようもないだろう。

 不条理だが、現実に起こっているのだから認めないわけにはいかない。

 俺は何故かそこでカマセの意識を乗っ取っている。転生もしくは精神が寄生した状態で。

 俺の意識が宿る前はカマセの意識が体を動かしていたはずなので、元からそうであったというより後からカマセから精神を乗っ取ったということなのだろう。あるいは階段から落ちたショックで元のカマセの意識は死んで代わりに俺の意識が宿ったか。これは俺が元の世界に戻るにあたって最悪とはいかないまでもかなり都合が悪い状況だと思われる。

 もし俺の肉体のまま存在していたなら元の世界に帰れる可能性はかなり高かったと思う。俗に言う召喚されたっていう状況だ。その場合俺は別世界からの来訪者であり、存在自体がこの世界にとっての異物。物事はあるべき姿に戻るべきであり、異物は排除されるものだ。小説とか漫画でも半分くらいは元の世界に帰れるはずだ。

 でもここに肉体はない。精神だけだ。精神だけがこの場にあるということは召喚されたわけではなく転生した可能性の方が高い。転生したならこちらが生まれ変わった今の俺の本物の人生だ。戻れる可能性は限りなく低いといっていいだろう。ただ最悪ではないのは元のカマセの精神は存在していたという点だ。俺が精神を乗っ取るまでの間カマセの精神がこの肉体を動かしていたはずだ。それなら元のカマセの精神が正規の精神であり俺の精神は異物だ。異物なら取り除く方法もあるはずだ。


 実を言えばこの世界から現実に戻る手段については心当たりがあった。

 エデンプロジェクトには転生というシステムがあった。

 エデンプロジェクトがガチャで手に入れられる仲間は300年前の戦士であり、本来300年前の戦争で亡くなったはずの戦士達だ。本来の肉体は消滅しているがナビ子の力で無理やり現代に顕現している。戦闘で死ぬと顕現した肉体は消滅してロストするが、また召喚できれば顕現できる。そういう本当に生きているわけではない存在だから一部参加できないシナリオなんかも存在している。そういうシナリオには現代の仲間で参加することになる。

 現代の仲間は街中の一般人や城の兵士、売られている奴隷などをスカウトして仲間にすることができる。ただ現代の人間は300年前より弱くなった設定なので基本的に戦力にならない。レアリティは☆1~☆3。最大の2段階昇級させても☆3~☆5にしかならない。ここで現代のキャラのレアリティをさらに上げる方法として転生というものが存在する。同レアリティの☆3~☆5の300年前の戦士を彼らに転生させるのだ。これで晴れてガチャキャラは現代の戦士として扱われることになる。ちなみに現代のキャラを昇級させる方法としては他にも魔道具との契約や神魔妖精モンスター等との契約といったものがあるが、魔道具と契約すると他の武器が装備できなくなったり、神魔妖精モンスター等と契約すると転生できなくなったりといろいろ制約があったりする。それでも☆6キャラを転生させるためには☆5よりさらに昇級させないといけないのでリスク承知で何らかの方法をとらないといけないのだが、それはまた別の話だ。


 そうやって転生したキャラが死亡した場合死亡したのは依り代になった現代人ということになり300年前の戦士はロストしない。ガチャをもう一回引き直す必要はなくなる。

 これが転生システムの大まかな流れだ。これと俺が元の世界に帰る方法とはあまり関係がないように思えるが大いに関係する事例が存在する。チュートリルガチャ5人衆だ。シナリオ上必ず途中離脱して帰ってこない理由に大いに関係している。

 彼らが離脱する際必ず300年前、彼らが死ぬ前後に戻ることになる。ナビ子による時戻りの秘術によって。主人公の時代では失われた300年前の秘宝を現代に残すためだ。

 悲惨な末路になるということがわかっていながら過去に戻ることが主人公の成長につながる。そして彼らが300年前に戻って残したアイテムが主人公の強化アイテムとなるという流れだ。彼らは現代に戻った先で何らかの制約を受けて再加入はできなくなるのだが、ここで重要なのは彼らが一旦300年前に戻って甦ると事である。このイベントを俺自身に適応できれば俺は元の世界に戻れて上手くいけば生き返ることも可能かもしれない。

 ただ不安点もある。それが可能なのはこの世界の300年前だからなのかもしれないということだ。異世界から来た俺でも可能なのかは分からない。でも可能性があるとしたらこれしかない。ここにかけるしかないだろう。


 そのためにはナビ子に会ってなんとか協力にこぎつけなければならない。時戻りの秘術には彼女の力が必要だった。

 ナビ子に会うのは10年以上後となる。主人公と一緒に。

 カマセが主人公一向に殺される原因となる母親殺しはもう既に起きてしまったため敵対するのは避けられそうにないが、それでも直接手を下したのは俺ではない。もしかしたら協力し合える点はあるかもしれない。最悪敵対するにしても準備が必要だ。

 俺は大分平静を取り戻しつつあった。不測の事態に対する対応はあまり得意ではないが、予め事態が予想できるなら話は別だ。今まで俺はそうやって上手く生きてきた。だったらこの世界でもそうやって生き抜くことができるはずだ。


 物事は結果から逆算していくことが大切だ。結果として俺はナビ子に頼んで時戻りの秘術を使ってもらう。そこから逆算して必要なことを考えなくてはならない。

 まず、俺がナビ子に出会うのは10数年後、主人公の村を襲う時だ。10年以上この世界で過ごさなくてはならない。俺が今まで生きてきた年月と同じくらいの時をこの世界で。考えただけで気がめいるが、逆に言えばナビ子に出会うまでにそれだけの猶予があるということでもある。

 考えてみれば俺はカマセなのだ。主人公の村を襲い主人公に仇をなして倒される敵。ナビ子にとっても敵だ。時戻りの術を使って元の世界に戻してほしいと頼んでもはいそうですかとやってもらえるとは思えない。俺は彼女に自分の有用性を示さなくてはならない。彼女の目的の手助けをしてその見返りとして時戻りの秘術を使ってもらわなくてはならないだろう。

 ナビ子は主人公を守るために現れるから、もしかしたら今からでも俺が村を襲おうとすれば10年以上も待つこともなくナビ子に出会うことができるかもしれない。もしそれが可能なら10数年も待つのは無駄になる。ただそうすると嫌がおうにも敵対しなくてはいけなくなるし正史と変わったことによる不測の事態が起きる可能性も出てくるので注意が必要だろう。もし試すとするなら検証が必要となる。時間はたくさんあるのでそこはおいおい考えればいいだろう。


 …ばさぁ


 ふいに視界に光が差し込む。何事かと思ったがなんのことはないかぶっている布団を奪われたようだ。でも誰に?

 振り向くとそこにいたのは男女2人。騎士と絶世の美女だった。

 と思ったがちょっと違っていた。騎士の方が女で絶世の美女の方が男だった。

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