マッチポンプは彼女の得意技
「失礼するよ」
やってきたのはリアル。護衛と思しき男を3人連れている。
「俺のメイドになる3人は?」
「彼らだよ」
「え?」
メイドが3人っやってくると思っていたら屈強な男が3人やってきた。
「メイドが来るんじゃなかったの?」
「メイドと言うか給仕だね。俺付きのメイドはいないから、かわりに給仕の3人をつれてきたんだ。このためだけにメイドを雇うことも考えたのだが、カマセを馬鹿にすることになるかなと思ってね」
「はぁ」
俺的には別にメイドを3人雇ってくれて全然問題なかったんだけど。屈強な男3人よりもよっぽどね。
「紹介しよう。右からケルンダ、グアスラ、ザヤンだ」
「よろしくお願いします」
「ケルンダは腕が立つ。正規の兵士と比べても見劣りしないんじゃないかな」
じゃレアリティ☆2くらいか。大したことないな。
「グラアスは読み書きができる」
読み書き出来るって、確かに昔はそれが凄いことだったのかもしれないけれども。メイドで代用可能なのでは?
「ザンヤはまぁ、面白い奴だ」
そして3人目は特技すらないらしい。
「3人とも俺と同じ村の出身で。幼馴染みというやつさ」
「へえ…て、村?」
「聞いていなかったのかな私の出自を。僕は最初平民として暮らしていた。世継ぎがいないから引き取られたんだよ。10歳のころだったかな。」
そういえばそんな話もあったかな。
「これで私の用は済んだ。彼らのことを宜しく頼むよ」
「僕の方からはエスラとコレアです」
「あの助けて下さってありがとうございます」
「よかった。君が捕まったと聞いていてもたってもいられなくなってね。嫌なことをされなかったかな。」
目を潤ませるエスラ。2人だけの世界に行いっている。
「どうぞよろしくお願いします」
対照的にこわばっているコレア。
「そんなに緊張することはないよ。こうなったのは成り行きだ。何も取って食おうというわけじゃない。まぁ僕の周りの給仕は男だらけだからね。女の子が来てくれて嬉しいよ。華やかになる」
「そんな、私ごときが」
リアルはちらりとナナリーとアルテを見る。
「君たちも大丈夫だったかな」
「ええご尽力いただいたみたいでありがとうございました」
「その節は申し訳ありませんでした」
こうしてメイドの交換はつつがなく行われた。リアルのメイドはメイドじゃなかったけれど。
「ところで、どうしてメイドの交換に応じてくれたんですか? 」
「どういう意味かな? 」
「最初は嫌がっていたじゃないですか」
「そうだったかな」
リアルは誤魔化すように言った。
「お前の言ったことが…いや、ところでナナリーのことはどうするつもりだ?」
リアルは何事か言おうとしてやめる。
「母上次第ですかね」
「ナナリーのご両親は既に殺されているかもな」
「そんなまさか…」
「あれだけの事をしたんだ。ただでは済まないだろう。何かしらの罪をかぶらされる罰せられることになる。偶然にね」
ナナシを見る。
「今のところそんな命令は出ていません。イセリナ様も本当に小狡い人間というわけではありませんから。でもいい人間でもないのでいずれ思いつくかもしれませんね。」
ナナシは他人ごとのように答えた。
「ナナリーを引き取ってもらう訳にはいきませんか」
「そんなことをしたら彼女の告発は私が仕込んだことにされてしまうよ」
一体どうすれば…
「どうしてそこまでメイドに肩入れするんだい?」
だって可哀想じゃないですか。とは素直には言えない。それはこの世界では異端なことだから。
「可哀そうだからでしょう」
代わりにナナシが答える。
「カマセ様もまだ5歳のお子様ですからね。下劣な貴族のルールに染まってはいないのです。下劣なルールは領主様特有のもののような気もしますが」
「へぇ、君面白いね」
「私はイセリナ様付きの次女ですから。手を出すのはお勧めできませんよ」
「ふぅん、で、結局のところどうしてカマセはメイドを気にかけるんだ? まさか本当に可哀そうだからというつもりか? 」
「理解できないからですかね。メイド達なんて僕もどうでもいいです。どうでもいいならどちらにとっても最善の方法を選んだからいいんじゃないかと。あえて不幸になる方法をとらなくてもいいんじゃないかと思うんですよ」
「小賢しいガキだな。お前は」
呆れたようにいう。
「ナナリーを守りたいなら、イセリアの手の届かない相手のところに置いておくしかないな。この城でイセリアの手の届かないところにいる相手と言ったら、トンスコンとシャマンと俺とカミュとナマくらいか」
「カミュ兄様が好ましいですね。僕たちと同じようにメイドをトレードする形にするか」
「カミュはユーリしか給仕はいない」
「そうなんですか? 」
「ユーリを奴隷にするのにかなりもめたらしいからな。なにしろユーリはトンスコンのお気に入りだったから」
ああ…またそっち系のエロゲー的な話か。
聞きたくない聞きたくない…
「父上は駄目でしょうね。ナマは論外だし、シャマンは?」
「たぶん今回奴隷にしたメイドをもてあそぼうとしてたのがそのシャマンじゃないか? あの助平爺は狡い上に下衆だからな」
シャマン下衆だったのか。ちょっとしか出てこないから知らなかった。がっかりだよ。
「駄目じゃないですか」
「駄目だな。精精目をかけて守ってやってくれ。何が理由かは分からないが守る気があるのなら、なにしろあれは俺の幼馴染だから」
「なるほどそれは心配です…え? 」
幼馴染?
でもリアルはナナリーを切り捨てようとしていたんじゃ?
「小賢しいお前の事だ、ここまで言えばわかるだろう」
リアルはそう言い残すと去っていった。
・・・
去り際のリアルの言葉を思い出す。
ナナリーはリアルの幼馴染だったらしい。つまり、ナナリーの告発は仕込みということか?
イセリナをはめるため? 本当にエスラは俺を階段から突き落として?
いや、それは可笑しい。
ならなぜ今それをわざわざ俺に話す?
ナナリーを苦しめてくれと言わんばかりだ。
そもそも俺がカミュが助け舟を出さなかったらナナリーは嘘を付いた罪で酷い目にあっていたはずだ。なぜそこまでナナリーにつらく当たる?
いや、まて…俺は一体何を考えている?
ナナリーの家族が殺されるとリアルに聞かされたからナナリーと一緒に守るようにと考えている。そのように誘導されている? でも俺がお人好しなことを考えなければ逆効果になる。つまり俺はリアルに試されているのか?
「イセリナ様に先ほどの事をご報告しますか? 」
ナナシが問う。
「言わなかったらばれないかな」
リアルのことは一旦思考を止める。
「おそらく、あの場にいたのは皆リアルの息のかかった者でしたから」
確かにリアルの連れてきた男たちは元より、メイド達もみんなリアルに気があるみたいだった。
そう考えると、リアルが本当にカマセの命を狙っていた場合カマセはとても危険な状況ではないだろうか?
だが…
「このことをイセリナに言うのはやめておく」
イセリナは短絡的で直情的だ。彼女に教えるのはやめておいたほうがいいだろう。
そんなことをしたらナナリーを家族もろとも皆殺しにしかねない。
「ナナシが知ってるってことは「先生」が知ってるって事だろう? 」
「先生ですか…?ああ」
ナナシは少し小首をかしげたがすぐに思い当たったようだ。
「ということは、先生には教えてもいいということですか?」
「ごめん、先生って誰? 」
「知らなくて言っていたんですか? 」
「申し訳ない」
ナナシはくすくすと笑う。
知らなくても大体想像はついている。ナビ子とかナビ子とかナビ子とか。
「先生は私の師です。かつて齢14歳にして円卓13使途の1人となり帝国の礎となった偉大なお方なのです」
そこまでいったらバレバレなんじゃ?
といっても俺はナビ子にそんな過去があるとは知らない。むしろ帝国と言うとゲームでいうところの敵サイドの勢力だからナビ子じゃないのかもしれない。
でもナナシの師匠ということは…
「先生もエルフなの? 」
「そうです」
ならやはりナビ子なのだろうか?
「額には第三の目が鬼火のように輝いています」
やっぱりナビ子で間違いない。
ゲームでは裏でコソコソ動いていると思ってたが帝国の人間でもあるわけか。ナビゲーションキャラが敵に回るとは考えにくいので2重スパイみたいな感じなんだろうけど。
ナナリーのことはナビ子になら教えてもいいのはないかと思う。ナビ子は主人公側のキャラだしそこまで悪いことはしないんじゃ…ない…かな? ちょっと自信ないけど。
ナビ子にとって本命は主人公だし、カマセのことはそこまで重要視していないはずだ。わざわざメイドを家族ごと皆殺しにはしないだろう。
けれど少なくともゲームのチュートリアルまでカマセを生かせようとはしてくれるはず。身の安全は確保できる。
・・・
「もどれナイ…モドれない…」
肉塊がぐにょぐにょと蠢いている。
「まぁまぁ待っててよ。すぐに治してあげるからさ」
アスモはそういうと肉塊をなだめる。
肉塊、ナマは人間にしては珍しい☆を3つもつ存在だった。
最も300年前は☆を3つ者など珍しくもなかったが、この300年の間に人間はずいぶん弱くなってしまった。
ナマは近親にとって生まれた個体らしく、普通の人間としてみると足りない部分があったがその分魔力に関しては秀でていた。
近親婚によって血を濃くするのは魔術師にはよくあることだった。失敗も多々あるが。図らずもナマは成功個体として生まれてきたらしい。しかし普通の人間としてみれば知能が足りていなかったのでずっと幽閉されていた。
それに目を付けたのがアスモだった。☆3の個体ならノーレアを転生させることができるかもしれない。真の主人であるノーレアを。
そのままではさすがに不安だから☆を増やすことにした。☆を増やすためにはレベルの上限をあげなくてはいけない。同じ個体を重ねることによって上限突破するのだ。同じ個体を重ねるとは即ち食わせるのだ。モンスターなら同じ個体の識別は容易だが、人間はそうはいかない。なるべく似通った個体でなくてはならない。だからトンスコンの子供たちを食わせて上限突破していったのだが、固体によって増やせる星の量は2つまでと決まっていた。☆3のナマでも増やせるのは☆5までだ。☆を6つもつノーレアを完全に転生させることはかなわなった。しかも、☆4のユーリにまで簡単に負けるとは。
「いやぁ、失敗。失敗。」
しかしその顔は明るい。
ユーリは元々☆1だった。星を増やせるにしても☆3までだ。しかしアスモが彼女の☆を見ることはできなかった。つまり☆を4つ以上持っている。何故か? 魔道具を使ったのだろう。
魔道具を使って星を増やすことができる。それはアスモもそれは聞いたことがあった。
これを使えばナマの☆を6つにできる。
問題はアスモは☆を3つまでしか見れないから☆を5つもつ魔道具を識別できないことだが…
「何を失敗したのですか? 」
「!? 」
そこにあるはずのない声に一瞬怯むアスモ。
「なんだ貴方か…」
しかし声の主を見ると胸をなでおろす。そこには両目を隠したエルフがいた。
隠された瞳の代わりに第3の瞳が怪しく輝いている。
いけ好かない奴だが、目的のためには利害が一致している。
「気味のもとる転生術だけど、完成はもう少しだよ。まだ未完成でおかげでこのざまだけど、完成はもうすぐさ」
「そうですか…ところで」
エルフは肉塊のナマを指さす。
「それの星がいくつあるか貴方は分かりますか? 」
「? 5つじゃないのかい? 」
星事態は見えないが、あれだけ同じ血族を重ね、食わせたのだからそれは間違いないはずだ。
「残念ですが、星は4つのままですよ」
「え…? 」
「当然でしょう、星が増えれば必要になる昇級素材が変わるのは」
エルフは馬鹿にしたように笑う。
「そんなことカミュすら気が付いていましたよ。だからユーリは星を4つに増やすことができたのです。」
「な…お前まさかカミュ達にも!? 」
「もちろん手伝ってもらっています。彼らの目的も同じですから。ああひ弱では、もしくは血が繋がっていては共に添い遂げることはできませんから」
アスモはナマがユーリに負けたのは転生がうまく馴染んでいないからだと思っていた。
でもそうではかった。ナマは☆4のまま☆5にランクアップしておらず☆は同じ4つだった。同じ☆4同士ならレベルが高い方が勝つ。
「貴方のお陰で転生の方法を知ることができました。感謝しています」
エルフはそういうと丁寧にお辞儀する。
「でももうあなたから学ぶことはないようです」
「まっ…」
エルフの事はよく知らないが本能が軽傷を鳴らしていた。こいつはやばい。なんとかして、なんとか気を引く話題を振ってエルフを止めなければ、そうしなければ自分たちは…
「さようなら」
エルフはそういうとにっこりと笑った。




