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レアリティは心の中に輝く

 ピシャ!


 頬を叩かれ、ビアンカが弾かれる。


「一体何のつもりなの。助けてやろうとした恩を忘れて」


 イセリアは怒り狂っている。

 トンスコンとの対談の後、とりあえずイセリナの部屋に戻った。部屋には入れないのでカルマとはもう別れている。


 イセリナは部屋に戻るまでずっと無言だったが、内心はビアンカに怒り狂っていたらしい。自分を裏切ったわけだしそりゃそうか。部屋に戻るまで乱暴しなかっただけよく我慢したのかもしれない。


 ハイヒールのかかとでけり倒す。


「お待ちくださいお母様。えっと・・・そんな下賤なものに怒りをぶつけるなど無駄なことです。路上の石に躓いたからと言って石を蹴飛ばしたりしないでしょう」


 下手にフォローするとよくないと学んだので遠回りにかばう。それなりに殴られてイセリナが疲れた後に。そうすればやめ易くなるから。おかげで赤いメイドはぐったりしているけれど。


「それもそうね。手が穢れるは」


 手じゃなく蹴ってましたけどね。

 少し迷ったが乱暴をやめるイセリナ。


「それにしてもカマセ。貴方は何て賢い子なのかしら。リアルから一本取るなんてすばらしいわ。さすが私の可愛いカマセね」


 一本取ってたのかなぁ? アスモの乱入で有耶無耶になった挙句、最後はカミュにいいところ全部持っていかれてた気がするけど。

 でもまぁイセリアの中ではそういうことになっているらしい。一瞬で機嫌がよくなった。


「ところで母上リアルから送られるメイドはどういたしましょうか? 」


「もちろんそんな連中にカマセを近づけるわけにはいかないわ。即くびにしましょう」


 何言ってるんだ。うすうす感づいていたけどイセリナはかなり頭が悪いらしい。


「母上、せっかくリアルとメイドの交換をしたのです。これを利用しない手はありません。」


「だから、そのメイドを袖にすればお前のことなどなんとも思っていないという確かなメッセージになるわ」


「なんで俺はお前の敵だぜという確かなメッセージを送らないといけないんですか?そんなことをしたら敵を作ることになりますよ」


「どうしててって、敵じゃないの? カマセの方が格上で対等な相手ではないということを思い知らせなくてはいけないわ」


「でも仲良くできるかもしれないじゃないですか?」


「仲良くなんてできるわけがないわ。あなたの次期領主を阻む相手なんですもの」


「その相手が僕を押してくれるようになったら、心強い味方になりませんか?」


「寝首を書かれるだけよ」


 話が平行線だ。イセリアはあくまでリアルを政敵としか見れないらしい。


「では、彼らを人質として考えてみては」


「メイドが人質になるわけがないじゃない」


「でもお兄様はメイドのために父様に直談判にいったほどです」


「それは自分の欲のためでしょう? 」


 イセリナは有無を言わせない。どうしようかなと考えていると侍女と目があった。あのエルフの侍女だ。ニッコリと微笑みかけられる。


「奥方様。ベッドのご用意ができました」


「今は取り込んでいるの。後にしてくれないかしら?」


「そういえば彼女はエルフですよね。名前はなんというのですか? 」


 彼女本人からは名前を明かされるのを拒絶されたが、当然イセリナは知っているだろう。

 本人から拒否されているのに、他人に聞くのはどうかとも思ったがいないところで聞くよりはましかなと思いなんとなく聞いてみる。


「ナナシでしょう? 貴方も知っているはずよ。よく懐いていたじゃない」 


 名無しだからナナシか。うわっ、明らかに偽名だった。

 そしてまさかのカマセの知り合いだった。そりゃあ初めて会うみたいな対応したら俺がカマセではないのに気づくわな。


「なるほどナナシなら・・・そうね、いいわ。カマセがそこまで言うならリアルのつれてくるメイドが誰かによって決めましょう。人質として価値がある者を差し出してくるか、どうでもいい者をつれてくるか。」


 イセリナはしばらく考えるとナナシに命じる。


「ナナシ。お前しばらくカマセについていてあげなさい」


 …


ナナシはナナリーを背負いながら歩く。女の子にこんなことさせるのはどうかと思うが彼女はいたって平気みたいだ。まぁ今の俺は5歳児だし仕方ない。


「勝手に名前を教えてもらって悪かったね」


「いいえ、偽名ですから」


ですよね。


「すごい御活躍だったみたいですね」


「それほどでもないよ。結局カミュ兄様が上手いこと収めてくれたんだ」


「それはそうでしょう。5歳児が全てやってしまったらすごい活躍どころではありませんよ」


なるほど


「ところで君が俺が転生者だってわかったのはカマセの知り合いだったからなの? 」


「それもありますが…それだけではありません」


立ち止まり外を見る。いつの間にか暗くなっており夜空には星が瞬いていた。


「星が見えます。 」


「そうだね」


俺の世界ではこんなにたくさん星は見えなかった。都会よりは全然見えるはずだったが、それでもこれほどではなかった。


「いえ、そうではなく…皆の心の中にです」


俺の心を読んだようにナナシが言う。

ああ、レアリティのことか。アスモはレアリティが見えるらしい。それと同じように彼女にも星が見えるのだろう。

☆3のあるモは☆3までしか見れなかった。いくつまで見れるか聞けば彼女のレアリティを知ることもできるかも知れない。さすがにそれは彼女も気が付いているだろうから俺が☆を探っているのがばれてしまうのであまり良く無いかもしれない。


「生きとし生ける者には天命があります。星が多いほど役割も大きく。責任も大きくなります。」


レアリティの星をそのように理解しているらしい。


「星を多く持つ者は力があり、それゆえにその力を皆のために使う義務もあります。よりこの世界を正しく導かねばなりません。貴方もそうです」


「俺も? 俺はそんな大した人間ではないよ」


ナナシが言うには異世界に来た時点で強い力を与えられる例もあるらしい。

ということは異世界に転生した時点で強い力が付与されたのかもしれないけど。


「5歳児でそれを言う貴方がですか? 」


でも本当は高校生だ。中身が高校生なら5歳児でも天才だろう。


「貴方が本当な何者なのかは関係ありません。貴方には天命があり、そして力があります。私はそれが見える。それ以上でも以下でもありません」


「僕にはいくつの星があるの? 」


「それは言えません。自分が何者であるのか知るのは自分自身でなくてはなりません。でもそうですえ。もし1つだったら何もしなくてもいいというわけではありません。星は行いにより増えるものです。努力次第で」


やはりレアリティのことなのだろう。レアアリティ昇級はそのように理解しているようだ。

自分のレアリティがあるなら知っておきたいところだが、少なかったらそれはそれでショックかもしれない。カマセは☆1うだからそれ以上はあるんだろうけどね。


「かつて私には友がいました。彼には類まれなる力とそれを支える正しい心がありました。私は彼がこの世界を正しく導くものと信じていました。私はそれを彼に伝え、そして彼もそれに答え、正しく力をつけていきました。でも彼が認められ選ばれることはなかった。私がそれを教えたことで野心と警戒心を奪ってしまったから。私はそれを彼に教えるべきではなかったのです。貴方には自分に定められた宿命を自分の手でつかみ取って欲しい、そう思っています」


そう言って手を握られる。


「どうして僕にそんなことを?」


「必要だと思ったからです。例えそれがこの世界のためではなく、貴方の世界のためでも」


「僕の世界? 」


「戻るのでしょう? 自分の世界に」


確かに


「手伝ってくれるの? 」


「最初からそう言っています」


ナナシはそう言って微笑んだ。



「このたびは助けて頂きありがとうございます」


 そう言って深々と頭を下げたのは青色のメイドである。

 名前はコレアという。それにならって他のメイドも頭を下げる。ナナリーも意識を取り戻してそれにならっている。


 ナナリーはポーションによりイセリナからの怪我はいえているがバツが悪そうにしている。エスラはおちつきなくそわそわしている。そして最後の緑髪のメイド…名はアルテというらしい、は憔悴しきっている。


 ナナリーの処遇については頭の痛いところだ。何しろ1度イセリナを裏切っている。お咎めなしですむだろうか?


「僕の方こそ、僕のせいでこんなことに巻き込んでしまってすま・・・」


 ごほん


 ナナシがニッコリと微笑みつつ俺にプレッシャーを放ってくる。メイドごときに軽々しく頭を下げるなということか。ナナシはイセリナの言いつけは守る気らしい。


「えーとエスラ、今後の事は聴いているか?」


「え? あはい?」


 分かってなさそう。


「君はリアル兄様のメイドとトレードされることになった」


「ええっ!?」


 やはり分かってなかったみたいだ。


 でもまんざらでもないみたいだ。情婦らしいしな。


「それからもう一人お兄様のところに行ってもらうことになる。希望する者はいるか?」


「・・・あのどうしてそういう話になったのか聞いても良いでしょうか?」


 コレアがおずおずと聞いてくる。

 俺は今までのことをかいつまんで話した。


「つまり選ばれた人間はこうなるわけです」


 ナナシが左手で人差し指と親指でわっかを作り、右手の人差し指でわっかの中に入れ刺しする。

 顔尾を真っ赤にするメイド達。

 いったい何の真似かなそれは? 5歳児の僕にはさっぱりわからないよ。


「だったら・・・」


 コレアがナナリーに目を向ける。

 意味深だ。やはりナナリーもリアルと親密な関係にあったのではるのではないか?

 しかしナナリーは首を振った。


「私にはその資格はありません」


「そうですか・・・なら仕方ありませんね」


 コレアはアルテをちらりとみたが何の話をしているのか理解できていないで頭に?マークを浮かべている。


「私が行きましょう」


 コレアがため息をついた。


 でも口調とは裏腹にも顔はまんざらではなさそうだった。


「待ってください。私はアルテを押します」


 ナナリーはそういうとアルテの背を押す。


「私ですか?」


「貴方もリアル様のことをお慕いしているのでしょう?」


「ちょっと待ってください。確かにリアル様はお優しい方ですがどうしてそんな話に」


 顔が真っ赤だ図星らしい。リアルさん人のメイドに手を出しまくってるじゃないか。全員ほれてるらしい。どうなってんだ?


「リアル様の所に行くと肉体関係を強要されるかもしれませんよ? 貴方はそれでもよいのですか?」


 アルテはいまいち隠語を理解できていないせいか、ナナシはより具体的に聞いた


「肉体関係ですか? それはちょっと」


 そこまでの仲ではないらしい。

 結局リアルのもとに行くのはコレアに決まった。


「城に入る時点で覚悟はしておりました。こう言っては何ですが相手がリアル様なのはまだましですね」


 ドアをノックする音がする。リアルが交換のメイドを連れてきたのだろう。

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